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青く澄みきった空にもくもくと噴煙のように湧き立つ雲が点在し、痛い程に強い日差しを放つ太陽が大空に座している。
空にも大地にもはっきりとした陰影を描くこの景色は、まさに夏真っ盛りの様相を呈している。

整地と測量を終え、目立った凹凸の消えた開拓地。そこかしこに雑草が生え始め、その生命力の高さに感心してしまう。

しかし禿げた大地に見えなくも無い現状、どうにか形だけでも整えていきたいものだ。
今日は俺と匠、それに康平も来てくれている。

「……なるほど、管理事務所を建てるんスね」
「そうそう、建築確認とかやっぱいるよな?」
「それは当然。ウチでもその辺りはやりますよ。でも、問題は電気水道って所ッスかね」
「だよなー……」

こればかりは皆目見当もつかない。何せ電気も水道も通っていない山奥なのだ。
調べてみたものの具体的な解決策は見つからないままだった。

「まあ電気屋さんに聞いた感じだと、そっちは何とかなりそうッス。電力会社って電気を送電する義務みたいなのがあるらしくて。ここまで電気引くんじゃかなり大掛かりでしょうけど、時間さえ見てくれれば何とかできそうッス。配電線の方自体は多分費用は請求されないだろうって言ってたんで、あくまで敷地内に設置する部分だけだと思うッス」

「そうなのか……正直それはかなり助かる」
「問題は水道っスねえ……。下水は浄化槽入れて汲み取りか、あんま良くないッスけど垂れ流すかで解決はしまスけど」
「へえ……問題なのは上水がって事?」

「ええ。こっちは公共物のように見えて、実際自己負担なんスよ。自治会とか部落とか共同で費用を出し合って入れてるケースが多いかな。こんな山奥まで水道引っ張るとなったらそりゃもう大変な事ッスよ、下水も本管入れるようなら同じッス」
こうして聞くと知らない事ばかりだ。

来て当たり前、使えて当たり前と思っていたのでここまで大事になるとは想像も出来ていなかったのが正直な所だ。

「手があるとすれば井戸を掘るのが良いとは思うッスけど。水脈に当たる深さがどれ位かとか、そもそも電気が無いと電動のポンプも動かせないんで電気と同じく使えるまでは時間掛かるッスかねえ。場所に寄るんスけど百万近くまで見ておく必要はあるッスよ」
「百万……かあ……」
想定から桁が一つ変わり思わず眩暈がする。

「敷地内に川とか当たってれば良かったんだけどな」
「まあ川や湧き水から使うのはあるッスよね。それだったら水路作るだけで済むんで一番安上がりかも。飲むなら水質改善が必須でしょうけどね」
どちらにせよ、水に関してはかなり費用が掛かりそうだ。
匠と康平の言う通り、敷地内に沢でも流れていれば助かったのだが。


「そう言う事でしたら、水神様にお願いしてみてはどうでしょう?」
背後から鈴のような少女の声が聞こえてきたので振り向くと、天狗ちゃんと山彦の響の姿があった。

「神様とかこの山に居るの?」
「いんや、ここには居ないぜ。でも二つ隣の山になら居る」
天狗ちゃんに代わり響が答える。

響が指差す方角を見ると、その山は壬生さんの店の脇を流れる川に流れ込む支流の源泉だった気がする。
そこそこ大きな山で、この山を越えるとスマートインターに辿り着ける。

「因みにアタイの生まれ故郷さ。だから隅々まで知ってるぜ」
女性ながら荒っぽい笑顔を浮かべ、豊かな胸をトンと叩く。

「でも、その水神様にお願いすれば何とかなるのか? よく分からないが」
匠の問い掛けに妖怪の二人は頷く。

「水神様はこの辺り一帯の水を統べる御方です。この山にも且つて湧き水と雨水の溜まり水から始まった沢が流れていました……今は枯れてしまいましたけど。でも、また人の手が戻りましたし、手入れをするのであれば水を呼び戻してくれるかもしれません」
「神様ってそんなすげー事出来るんスね……」
「そりゃもう、神格たる御方だからな。行きたきゃアタイが案内するよ」

「ありがたいけど、そんな軽くお願いして大丈夫なもんなのか?」
神様を相手にお願いするというのは、字面からみるとかなり大それた事に見える。

「昔はそれこそ、川の氾濫でも日照りでも人間はお願いに行ったもんさ。人柱を望む水神もそりゃ居るけどよ、ここの水神様はそんな事は無い。枯れた水脈に湧き水を通す事ぐらい大した労じゃないよ」

「そんなもんなのか……それなら、水に関する問題が解決するし、お願いに伺うべきかな」
難しい話という訳ではないのなら、頼みに行く方が良いかもしれないと思えた。
何せ康平から聞いた話だと既に俺の持ち金では限界を越えてしまう規模の工事になる。

匠と共同とは言え、今後建物を建てるのにも費用が掛かる。
自分達の手で出来る事はなるべくやり、費用を抑えていかなければアッと言う間に破産だ。

「そうと決まれば行くかい? 車じゃ入れない場所になるから、山歩きの恰好の一つでもしときな」
「皆どうする?」
「今日はほぼ廃材の処分ぐらいだったし、善は急げで行くべきかもな」
「俺も神様ってのに会ってみたいッス!」
二人とも乗り気な様子だ。

「この時間から準備して山行きってのは不安はあるけど……」
「ってもそんな手間は無いだろ。響、途中まで車で行けるんだよな?」
「おう、沢の途中からだとアタイの足で三十分ぐらい……まあ、あんたらの足なら三倍か四倍見とけばいいだろ」
「片道二時間程度か……それならまあ、十一時ぐらいに入っても問題ないか」

現在の時刻は九時を回った所。近場なので移動や着替え含めて一時間と少しあれば準備はできるだろう。

「待ち合わせはどうする? ここか?」
「時間の無駄になっちまうだろ。アタイは雛菊と一緒に飛んで行くから、適当に向こうの山を登り始めておくれよ」
「じゃあその黒い車を目印にしてくれッス。タクミ君、リョースケ君、迎えに行くんで」
「悪いな康平。頼むよ」

決まれば段取りの話は早い。
そうして急遽、水神様の所へお願いに向かう事になった。

俺も匠も山登りの経験はあるので、道具や服装なども持っている。
聞けば康平も多少の心得はあるらしく、しばらく使ってなかったが登山に使える道具は持っているらしい。
思えばここに来てから康平と会った時、かなりのハイペースで登っても平然としていたし山歩きには慣れていそうだ。

ただ、俺達は登山道ではない場所を登る経験はあまりないので、心強い道案内が居るとは言えそこは不安要素だった。

帰りついでにニッコリマートで飯類を買い込み、登っている最中に食べる事にする。
水神様に何を渡せばいいのか分からないので、とりあえず一升瓶の酒を買っておく。
天狗ちゃん用と響用にも何か準備しておいた方がいいだろう。
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