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「そう言やリョースケ君、今週の日曜俺行きますよ」
「マジで? それじゃあ……」
「ええ、約束のブツが手に入りやした」
ぐへへへと気色悪い笑いをしながら下手な小芝居を打っている。
「手に入るってか、元々持ってんだろ」
「まあそっスけど。オヤジの許可出たんで、持っていきますね」
「マジで助かる……どれ位借りててもいいの?」
「好きなだけ使えとのお達しですわ旦那」
「本当ありがとう……」
「何の話してるんだい?」
と俺と康平の会話が気になったのか、壬生さんが尋ねてくる。
「実は康平の所の会社からショベルカー借りる事になって」
「ウチ一昨年に新しく一台買ってて、昔っからのボロクソユンボが資材置き場でずーっと寝てるんスよ。たまに動かしてるんでエンジンは生きてますけど。それ使えないかなってオヤジに聞いてみてたんス」
「へえー……ショベルカーをねえ」
直面していた問題。それは伐採した木の根元、切り株の処理だった。
切り出した本数だけ当然出てくるわけで、整地するには邪魔な存在なので撤去したいのだが、これが厄介極まりない。
まず丸太の運搬で大活躍した魍魎達にお願いできないかと頼んでみたが、根を張っているので持ち上げられないとの事。
逆に土から浮かせられれば運べるようで、手掘りで細い木の切り株を、試しに匠と二人で掘ってみたのだ。
しかし予想以上に根が広く深く張り込んでおり、更に隣接する木々の根と複雑に絡み合っていて掘り出す事が叶わなかったのだった。
さすがにこれは妖怪達の力でもどうにもならず、康平に相談したみた所一台使っていないショベルカーがあると言ってくれて、貸してもらえないか頼んでみたのだ。
「ウチじゃ使わないから、置きっぱでいいッスよ。オヤジの了解も得てます」
「本当に助かる。一日毎のレンタル料と回送費で見積もりもらってもいいか?」
「あ、金は入らねえっス。レンタルで出すような機械じゃないんで」
「そうは言ってもさすがに……」
「オヤジにそんな事言ったらぶっ飛ばされますよ? ……俺が!」
と言って康平がくしゃりとした笑みを浮かべる。
「リョースケ君の話したら結構興味持ってて、相談したらそりゃ良いって喜んじゃって。だから、もし礼がしたいってんなら一回オヤジに顔だけ見せに来てくださいよ。そんだけで十分なはずっス」
「そうか……俺、親父さんとそんなに面識無かった筈だけど」
「いやあ、風間さんにはかなり世話になってたから、孫のリョースケ君の事もよく知ってるんスよ。だから一度ウチ来てください」
「涼介、お前の爺さん婆さんに感謝しとかないとな」
匠の言う通り、爺ちゃんと婆ちゃんが生きていた時にやってきた事が、回り回って俺を助けてくれている。
本当に、ただありがたい。
「康平、後で都合のいい日教えてくれ」
「うっス。オヤジが事務所居る日知らせますね。それと日曜はユンボ持ってくんで乗り方教えます」
「でも、それって免許とか必要なんじゃないのか?」
「車と一緒っスよ。私有地内なら無免許でも乗れるっしょ? ああいう重機も、仕事として使わず私有地内なら資格持ってなくても動かせますよ。全部自己責任なんで」
まあ俺が動かす場合は免許無いと駄目っスけどね。と一言付け加えて。
「油だけは自分でお願いしまッスね。大里さんトコ頼めば配達してくれるハズなんで」
「そうか、自分で入れに行けないもんな」
車のように走ってスタンドに行くという事ができないのだ。なので現地に配達してもらう必要があるわけだ。
ちなみに"大里さん"とは大里油店の事で、この西地区唯一の老舗ガソリンスタンドを指している。
「これで根っこ問題は解決か」
「まあ一ヘクタールぐらいならウチのボロでも何とかなると思うス。難しいトコは残しといてください。俺来れる時やりますんで」
「康平、本っっっ当ーーーにありがとな! マジで救世主だ!」
「へへ、役に立てたなら良かったッスよ」
康平は照れ臭いのか、笑いながら頬を掻く。
「なんか、いいねえ。君達本当に楽しそうだ」
声の主は壬生さんで、カウンターに頬杖を突いてこちらを見ている。
「まあ、楽しいのは確かっすね」
と若干康平のような口調で答える匠。
「俺も涼介もキャンプ好きで、腐れ縁だけど互いの夢を実現しようとしてるトコなんで」
「何だよ、それだと迷惑してるみたいに聞こえるぞ」
「人から金毟ろうとしてた奴が何言ってんだ」
「この野郎……その話はとっくに終わってんだろうが」
今更蒸し返すとはこの性悪め。
「まあまあ二人とも。俺もちょくちょく手伝い行ってますけど、ぶっちゃけ面白いッスよ。キャンプも体験させてもらいましたし」
「へえー、ちょっと僕もちょっと興味あるね。キャンプ」
「おっ、マスターも今度来てみまスか? 俺らのキャンプ場」
「いいの? 僕道具とか持ってないけど」
「ちょっ!……ま、まだ荒れ放題で広場も廃材だらけになってますし、片付いてからなら……」
「そう、残念。綺麗になったら僕も誘って欲しいね」
「そりゃ勿論! 是非来てください!」
康平の奴め、調子の良い事言いやがって。
妖怪が見えないのに連れて行ったら、それこそ怪奇現象のオンパレードで怖がられるだろうが。
口の摩擦係数が限りなくゼロに近いお調子者を見ると、匠に頭をホールドされてバタバタとタップしている。
「なんか、僕だけ仲間外れみたいで寂しいなあ」
「でも、壬生さんお店で忙しいですし」
「それ皮肉?」
と店内を見回す仕草をされ、俺達以外は誰も居ないと口に出さずに言っているようだった。
「そんなつもりは……すんません」
「はは、冗談だよ冗談。いっつも暇が多いのは確かだけどね」
片目をパチリと瞑り、軽やかに笑う壬生さん。
「マジで? それじゃあ……」
「ええ、約束のブツが手に入りやした」
ぐへへへと気色悪い笑いをしながら下手な小芝居を打っている。
「手に入るってか、元々持ってんだろ」
「まあそっスけど。オヤジの許可出たんで、持っていきますね」
「マジで助かる……どれ位借りててもいいの?」
「好きなだけ使えとのお達しですわ旦那」
「本当ありがとう……」
「何の話してるんだい?」
と俺と康平の会話が気になったのか、壬生さんが尋ねてくる。
「実は康平の所の会社からショベルカー借りる事になって」
「ウチ一昨年に新しく一台買ってて、昔っからのボロクソユンボが資材置き場でずーっと寝てるんスよ。たまに動かしてるんでエンジンは生きてますけど。それ使えないかなってオヤジに聞いてみてたんス」
「へえー……ショベルカーをねえ」
直面していた問題。それは伐採した木の根元、切り株の処理だった。
切り出した本数だけ当然出てくるわけで、整地するには邪魔な存在なので撤去したいのだが、これが厄介極まりない。
まず丸太の運搬で大活躍した魍魎達にお願いできないかと頼んでみたが、根を張っているので持ち上げられないとの事。
逆に土から浮かせられれば運べるようで、手掘りで細い木の切り株を、試しに匠と二人で掘ってみたのだ。
しかし予想以上に根が広く深く張り込んでおり、更に隣接する木々の根と複雑に絡み合っていて掘り出す事が叶わなかったのだった。
さすがにこれは妖怪達の力でもどうにもならず、康平に相談したみた所一台使っていないショベルカーがあると言ってくれて、貸してもらえないか頼んでみたのだ。
「ウチじゃ使わないから、置きっぱでいいッスよ。オヤジの了解も得てます」
「本当に助かる。一日毎のレンタル料と回送費で見積もりもらってもいいか?」
「あ、金は入らねえっス。レンタルで出すような機械じゃないんで」
「そうは言ってもさすがに……」
「オヤジにそんな事言ったらぶっ飛ばされますよ? ……俺が!」
と言って康平がくしゃりとした笑みを浮かべる。
「リョースケ君の話したら結構興味持ってて、相談したらそりゃ良いって喜んじゃって。だから、もし礼がしたいってんなら一回オヤジに顔だけ見せに来てくださいよ。そんだけで十分なはずっス」
「そうか……俺、親父さんとそんなに面識無かった筈だけど」
「いやあ、風間さんにはかなり世話になってたから、孫のリョースケ君の事もよく知ってるんスよ。だから一度ウチ来てください」
「涼介、お前の爺さん婆さんに感謝しとかないとな」
匠の言う通り、爺ちゃんと婆ちゃんが生きていた時にやってきた事が、回り回って俺を助けてくれている。
本当に、ただありがたい。
「康平、後で都合のいい日教えてくれ」
「うっス。オヤジが事務所居る日知らせますね。それと日曜はユンボ持ってくんで乗り方教えます」
「でも、それって免許とか必要なんじゃないのか?」
「車と一緒っスよ。私有地内なら無免許でも乗れるっしょ? ああいう重機も、仕事として使わず私有地内なら資格持ってなくても動かせますよ。全部自己責任なんで」
まあ俺が動かす場合は免許無いと駄目っスけどね。と一言付け加えて。
「油だけは自分でお願いしまッスね。大里さんトコ頼めば配達してくれるハズなんで」
「そうか、自分で入れに行けないもんな」
車のように走ってスタンドに行くという事ができないのだ。なので現地に配達してもらう必要があるわけだ。
ちなみに"大里さん"とは大里油店の事で、この西地区唯一の老舗ガソリンスタンドを指している。
「これで根っこ問題は解決か」
「まあ一ヘクタールぐらいならウチのボロでも何とかなると思うス。難しいトコは残しといてください。俺来れる時やりますんで」
「康平、本っっっ当ーーーにありがとな! マジで救世主だ!」
「へへ、役に立てたなら良かったッスよ」
康平は照れ臭いのか、笑いながら頬を掻く。
「なんか、いいねえ。君達本当に楽しそうだ」
声の主は壬生さんで、カウンターに頬杖を突いてこちらを見ている。
「まあ、楽しいのは確かっすね」
と若干康平のような口調で答える匠。
「俺も涼介もキャンプ好きで、腐れ縁だけど互いの夢を実現しようとしてるトコなんで」
「何だよ、それだと迷惑してるみたいに聞こえるぞ」
「人から金毟ろうとしてた奴が何言ってんだ」
「この野郎……その話はとっくに終わってんだろうが」
今更蒸し返すとはこの性悪め。
「まあまあ二人とも。俺もちょくちょく手伝い行ってますけど、ぶっちゃけ面白いッスよ。キャンプも体験させてもらいましたし」
「へえー、ちょっと僕もちょっと興味あるね。キャンプ」
「おっ、マスターも今度来てみまスか? 俺らのキャンプ場」
「いいの? 僕道具とか持ってないけど」
「ちょっ!……ま、まだ荒れ放題で広場も廃材だらけになってますし、片付いてからなら……」
「そう、残念。綺麗になったら僕も誘って欲しいね」
「そりゃ勿論! 是非来てください!」
康平の奴め、調子の良い事言いやがって。
妖怪が見えないのに連れて行ったら、それこそ怪奇現象のオンパレードで怖がられるだろうが。
口の摩擦係数が限りなくゼロに近いお調子者を見ると、匠に頭をホールドされてバタバタとタップしている。
「なんか、僕だけ仲間外れみたいで寂しいなあ」
「でも、壬生さんお店で忙しいですし」
「それ皮肉?」
と店内を見回す仕草をされ、俺達以外は誰も居ないと口に出さずに言っているようだった。
「そんなつもりは……すんません」
「はは、冗談だよ冗談。いっつも暇が多いのは確かだけどね」
片目をパチリと瞑り、軽やかに笑う壬生さん。
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