風切山キャンプ場は本日も開拓中 〜妖怪達と作るキャンプ場開業奮闘記〜

古道 庵

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6-1 夢を現実にできても、手にした現実はゴールではなく続いていく。

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塗装して間もないピカピカの木製のドアを引くと、小さなドアベルが鳴りながら開く。

「こんばんはー」
「涼介君いらっしゃい」
間延びした挨拶をすると、柔らかな男性の声が俺の名前を呼び出迎えてくれる。
Bar・MATSUKAZEのマスター、壬生さんの声だ。

「お疲れさん」
「おう、匠もお疲れ。来るの早くない?」
「腹減っちゃってさ」
カウンター席で既に焼きそばを啜っている匠も俺を労うも、腹が減ったからって先に行ってしまうとは。

「今日は二人一緒じゃ無かったんだね。いつも一緒に来るイメージだったけど」
カウンターの奥に居る壬生さんが手を動かしつつ聞いてくる。

「俺は山行ってて、匠は本業やってたんですよ」
「匠君プログラマーなんだっけ」
「そうっす。ちょっと急ぎのが入っちゃったんで今週は開拓の方は休みもらってて。涼介、あと三日で仕上げるから。悪い」
「いいよ。元々は俺一人でやるつもりだったんだから。本業の方集中しとけって」

焼きそばを食いつつ謝る匠の隣に座り、肩を軽く叩く。
それにしても良い匂いだ。今日も伐採作業をやってエネルギーを使い切っているので、胃袋が刺激される。

「涼介君も焼きそばいる? 市販のやつ少しアレンジしただけなんだけど」
「もらいます! もう腹減って腹減って」
「了解、ちょっと待っててね」
そう言うと奥のキッチンスペースへと引っ込んでいく壬生さん。

初めて康平に連れてこられてから既に一か月が経過し、五月も半ば。
あれから週に一~三回ぐらいのペースでここに来ていた。

当初はテーブル席で匠と二人か康平を加えて三人で話しながら飲み食いをしていたが、最近はカウンターに横並びになり壬生さんと話しながら飲むのが当たり前のスタイルになっていた。

人当たりが良く物腰が柔らかで、話していて面白い壬生さんとは自然と仲良くなり、俺達の開拓作業の話もよく聞いてくれている。

「作業の進みは?」
「俺が四本、おっさんが十五本ぐらいだったか。もうほとんど切る範囲はいくんじゃないかな」
壬生さんがフライパンに火を点ける音が聞こえてきたので、正直な話を始める。
俺たちの作業の話を聞いてくれるが、さすがに妖怪について話すわけにはいかない。
壬生さんの前では、ある程度ボヤかして伝えているのだ。

伐採についてはこの一か月程で手際は随分良くなったのだが、俺一人で切ると四本が限度だった。
それに対しおっさんは安定して十本以上切り倒してくれており、太い木に関しては全てお任せしている状態だった。

ずっと伐採に没頭して分かったが、勘やコツというものが大事なのだと思う。
どの程度切れば良いか、どうすれば思った方向に倒れるか。
また、切る前の下草刈りに関しても倒す木について想定をしながら行わなければならない。その辺りのスキルはおっさんには遠く及ばなかった。


しかし当初決めた一ヘクタール程度の範囲がもうすぐ終わる。
伐採し撤去した木々や草葉は入口や広場では置ききれなくなり、切り拓いた所に山になって積まれていた。
既に木を倒す事よりも、こちらの撤去材の処理が問題になっている。

それと重大な問題がもう一つある。その解決策の話が、先日康平よりあったのだが……



チリンチリン、とドアベルが少し慌てるように鳴り、振り返ってみると康平が入ってきた所だった。

「こんばんはッス。……ふう」
「どした? 康平。溜め息なんて吐いちゃって」
匠が気遣うように聞くと、仕事で色々あって、と珍しく意気消沈した様子で匠の隣に座る。

「お客さんが急に材料の変更言うもんだから……まあ、この話はいいッス。何とかすればいいだけなんで」
「分かるぞ康平……突然の仕様変更。理不尽だよな」
「マジで、マジで。こっちの苦労なんて知る気無いスからね。マスター、俺ビールね」
「はいはいっと。まずは涼介君に焼きそばとハイボールね。康平君いらっしゃい。何か食べる?」
「どもッス、飯は帰りがけにラーメン食ってきたんで大丈夫ス」
「そっか。すぐビール持ってくるから」

俺の目の前に焼きそばとハイボールを置くと、直ぐに裏へ。
このハイボール、何も言わずともレモンを多めに絞ってくれており、すっかりハマってしまったのだった。

ビールも幾つかの種類があるのだが、俺達は満場一致で初日に飲んだあのクラフトビールを推していた。
少し高いが、鼻に抜けるジンに似た爽やかな香りと程よい麦の味とホップの苦味、何より喉の通りが良く、キンキンに冷えている事も手伝って幾らでも飲めてしまう気がするのだ。
あれを知ってからは他のビールが少し物足りなく思えてしまう程だった。

「お待ちどう」
「あざっス。それじゃあ皆さん……お疲れ様っス!」
「お疲れー」
「お疲れさん」
手元に届くや否や乾杯し、康平はビールを勢いよく呷る。

「くうう……うめえ!」
「康平の見てると俺もビール欲しくなるなあ……」
「匠やめとけ。それレモンサワーだろ」
「残念、グレフルちゃんでしたー」
「あっそ」
小馬鹿にするようにおどける匠をスルーしつつ、焼きそばを啜る。

……おっ、確かに麺は市販のやつっぽいがソースが違う。フルーティーでピリッとした胡椒の辛味が利いており食欲を刺激される。

口に広がるソースの旨さに驚きつつ、空きっ腹にかき込んでいく。
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