風切山キャンプ場は本日も開拓中 〜妖怪達と作るキャンプ場開業奮闘記〜

古道 庵

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匠と一度顔を見合わせ、どちらが説明するか目配らせする。
すると匠は顎でしゃくり、俺にやれと無言の圧力を掛けてきた。
どう説明したものかと思いながらも渋々口を開く。

「えーっと、まあこの程度の細さなら大五郎のおっさんが言う通り、何分割かしちゃえば運べるには運べると思う」
結構大変だろうけど、と一言付け加えて。

「ただ、問題なのはこれよりも太い木がわんさかあるって事。そうなるとこのチェーンソーの刃渡りじゃ切れない物もあるし、そもそもこの細さでこんだけ重いって事は……」
「太い木になれば当然重くなる。かなり細かく切らないと持ち運べないだろう」
俺の言葉を継ぎ匠が続ける。
「重機の力を使えばいいかとも思ったけど俺らじゃ扱えないし……やっぱり内田建設さんに頼むか?」
「できればあまり金を……でも、そうも言ってらんないかな」

正直かなり悩ましい。一度見積もりだけでも頼んでみた方が良いだろうか。

「ふーん……でも、運ぶのはそんなに問題ですか?」
俺達の説明を受け頷く天狗ちゃんだが、何故か腑に落ちていない様子。

「いや、だからさっきも言った通り……」
「木を運びたいならこの子達が居るじゃないですか」
キョトン、とした表情ながらも指差す。

その方向に居る者は……

「魍魎?」

俺と匠の声が綺麗にハモった。



俺達の持ってきた昼飯を一人で平らげてしまった大五郎のおっさんが、相変わらず楽しそうにバッサバッサと切り進める中、広場には次々と切り出した木々が運ばれ積み上がっていく。

その木々はまるで一人でに動いているようで、列を為して進む様は怪奇現象としか言いようがない。
しかし、よくよく見ると木は数センチ程浮いており、その下には小鳥のような小さな足が生えていてチョコチョコと動いている。

「まさか魍魎にこんな能力があったなんて」
唖然としながらその光景を眺める。

「知らなかったんですか? この子達のする悪戯だって、自分達の持ってる力を活用しての事ですよ」

天狗ちゃんの説明に寄れば、魍魎達は各属性のルーツとなる物質から生まれるようだ。つまり、石の属性は岩石から、土の属性は土から、木の属性は木々から、草の属性は草花から。
そして彼ら魍魎の持つ特性として、生まれを同じとする物質と同化できるらしい。そうなれば自分の身体を好きな場所から出せるのだそうだ。


なので現在、切り倒した木材に木の魍魎が同化し、自身の足を生やして移動しているのだった。
あんな一瞬で潰れそうな小さな足でどうやってあの重量を持ち上げているのかと呟いたら、「自分の身体だから大丈夫なんですよ」とよく分からない答えが返ってきた。

まあ、妖怪なんて物理法則ガン無視上等な存在達なわけで。
真面目に考えるだけ損かもしれない。

しかしもう一点、特殊な事柄がある。それは「言語による意思疎通ができない」魍魎達にどうやって運搬を頼んだか、だ。

その答えは、天狗ちゃんの脇にある切り株で胡坐を掻いている一匹の魍魎によるものだ。

「ありがとな”根裂(ねさく)”本当に助かった」
目線を合わせるように屈んで礼を言うと、腕組みをしてプイと顔を背けられてしまった。
他の魍魎と比べると一回り体が大きく、面の上に蔦か根を鉢巻のように巻きつけているのが特徴的な”根裂”。

彼が木の魍魎達の頭領、という立ち位置らしい。

言葉自体は話せないがこちらの言う事は分かるらしく、指示を伝えてくれる役目を負ってくれている。
俺に対してはあまり良い感情は抱いていないようで、話しかけても顔を逸らされたり無視されたりが多い。

「根裂からすると、この伐採が面白くないんだと思います。自分達の根源を傷つけたり死なせたりしてるので」
困ったような笑いを浮かべながら天狗ちゃんはフォローを入れてくれる。
そう聞けばそうだろう。自分の親や親類に対してそんな事をする奴が居たら許せないとは思う。

それでもこうして協力してくれているので、感謝するべきだ。
いずれしっかりとお礼をしよう。


因みに木は”根裂”、岩石は”磐裂(いわさく)”、土は”埴安(はにやす)”、草花は”木花(このはな)”という頭領がそれぞれ居る。何か魍魎にお願い事があれば、彼らに話を通すのが良いようだ。



相変わらずおっさんの上機嫌な鼻歌とチェーンソーの唸る音がハーモニーを奏でながら、次々と状況が進んで行く。
夢見心地のような気分で、自分ひとりが取り残されているように感じるが、この状況を作ったのは自分なのだと思い直す。

……しっかりしないと。


「涼介、俺らも再開しよう。おっさんだけに任せるのも悪いし」
匠が手を振り呼んでいるので、天狗ちゃんと根裂から離れ伐採作業に加わる事にする。

俺の稚拙な計画が急激に進み始めている事に居心地の悪さを覚えつつも、今は目の前の作業に没頭しようと、半ば現実逃避気味にチェーンソーを握った。
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