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「申請関係は俺も調べとくよ。任せっきりじゃちょっと心配だ」
「そうしてくれるとありがたい。一緒に作るわけだから、一緒に覚えていこう」
「ん。まあ俺は本業の片手間でやる気だけどな」
「むぐ……」
まあそうだろう、そうだろうよ。こいつは今や立派に独り立ちして稼いでいるのだ。本業のプログラマーとしての仕事が大切なのはよく分かる。

「そう言えばもう一人の仲間、康平君とはいつ会えるんだ? 日取りとか決めたか?」
「いや、まだだけど……でもそうだ、匠が今日来る事は知ってるから近々……ん?」
ズボンのポケットから軽快なメロディと振動が発せられている事に気付き、車を路肩に寄せて停車する。

「噂をすれば何とやらって奴だ」
スマホに表示された名前を見て、匠にも見えるように画面を向ける。

「もしもし、どうした康平」
「あ、どもッス。リョースケ君。今暇してます?」
電話に出ると、開口一番失礼な質問を投げてきやがる。
まあ俺はニートですけど、確かに毎日仕事はしてませんけど。

「匠の送迎中だから暇じゃない」
「今迎えに行ってるんスね。じゃあ丁度良かった。今夜飲みに行きません? 匠さんも一緒に」
「……って言ってるけどどうスか、匠さん」
スマホから顔を離し、隣の匠へ顔を向ける。

「俺は別にいいけど」
「匠は大丈夫だってさ」
ぼそりと呟く匠の言を受け再び電話に話しかける。

「お、じゃあ行きましょ行きましょ」
「行くのはいいけどさ、飲める場所って東に来ないと無いよな。誰か飲まずに運転か?」

知っての通り俺達の住む西地区は寂れているので居酒屋らしい居酒屋が無いのだ。昔は一軒あったが、通りがかりに見た時看板は下ろされており、かつて居酒屋があったであろう残り香が微かに見て取れる程度だった。
店主夫婦が高齢になり、客が減った事もあって閉めてしまったらしい。

「それがねえ、最近出来たんスよ。一年ちょっと前、村境の橋の道をちょっと入った所に」
「居酒屋が出来たのか?」
「いや居酒屋じゃなくて。これ結構ビックリなんですけど、なんとバーになってるんスよ。凄くないスか。ほら、芳江ちゃん家あるでしょ。あそこを改築してバーになったんス。結構洒落てる店でマスターも良い人なんで」

こんなクソ田舎にバーだと? 何の需要を狙って出店してきたのだろうか。東地区に出すならまだしも、辺境も辺境のこんな場所で商売が成り立つとは到底思えない。

ちなみに「芳江ちゃん」とは俺がここに居た頃は七十過ぎだったお婆ちゃんで、子供達が好きで近所を駆け回る俺達の面倒をよく見てくれていた。
しかし何年か前に別の県で家を建てた息子夫婦に呼ばれて同居する事になり、引き払ってしまったのだと言う。
その空き物件を購入して、件のバーのマスターが出店してきたとの事だ。

「マスターが自分でリフォームしてたんですけど、材料とかで困った所があった時ウチに相談に来て。それから顔馴染みなんス」
「ふうん……」
芳江ちゃん家と言えば、家から歩いて十五分程度の所だ。康平の家からも歩いて来れる距離なので丁度良いと言えば丁度良いかもしれない。

「良ければ連絡しときますけど」
「せっかくだし頼む。でも日曜だけどやってるのか?」
「週末は開けてるんで大丈夫です。そんじゃ今夜十九時位に集合で。飯は適当に食ってきてくださいね」
「了解。よろしくな」
「ういス」
通話が切れた事を確認し、スマホを仕舞って車を発進させる。

「結構軽いノリなんだな」
正面を見る匠がぼそりと呟く。

「ヤンチャっぽい印象はガキの頃から変わらないかな。でも話しやすいとは思う」
「聞いただけでもある程度伝わるよ。仲良くしていきたいね」
「きっと馴染めるよ」
急に降って湧いた顔合わせの話だが、早いに越した事は無いし良い機会だ。

荷ほどきが進まないと文句を垂れるかと思ったがそうでも無かったので、匠も早めに済ませたいと考えているのだろう。

まだ約束の時間まで空いているので、このまま天狗ちゃん達の所に行って挨拶しに行こうかと思い付き、再び車を発進させたのだった。
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