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「おうおう、涼介が友達連れてきたのか。妖怪以外の友達も居て良かったな」
背後から野太い男の声が降ってきたので振り向くと、予想通りボロボロの作務衣のようなものに、毛皮のベストのような服を着込んだ大男が立っていた。
「”大五郎”のおっさん、匠にやったろ」
「こんなでもこちとら妖怪よ。人間驚かせてナンボの商売だからな」
ドスを利かせたつもりで睨むもおっさんはどこ吹く風。何が面白いのか「がはは」と豪快に笑い、俺の倍はありそうな巨大な手を伸ばし匠の肩をがっしりと掴む。
「どうだ? 坊主。ビビったか?」
眼前に顔を近づけ匠の顔を覗き込む髭面のおっさん。
匠は少し困ったような視線を俺に投げてくる。
「このおっさん、”古杣(ふるそま)”っていう木こりの妖怪なんだよ。山の中を通る人間に、木を倒す音とか声とかでビビらせるのが趣味っていう、マジで人間性を疑う大人げないおっさん」
「そりゃ妖怪だからよ。大人げも子供げもねーわな」
再び愉快そうに笑いだし、「で?」と再度匠に視線を送る。
「あー……かなりビビりました。涼介には何も聞こえてなさそうだったし、俺頭おかしくなったのかと」
「だよな、だよなあ! いやー、いいビビりっぷりに気に入ったぜ。涼介共々面倒見てやるから、困った事があれば何でも言ってくんな。恨みある奴いたらこの山連れて来い。崖なり川なりに落としてやるからよ」
匠の返答に上機嫌になった大五郎のおっさんは、匠の肩をバシバシと叩きながらやたらと物騒な事を言いやがる。
まあ妖怪なのだ。大概が人間に対して悪さを働くもので、人間を困らせたり命を奪ったりと碌なモノでは無い事は確か。
古杣に限らず、人間に害を為す妖怪が多いのは言い伝えからしても分かる事だった。
「藤沢 匠って言います、よろしくお願いします。大五郎さん」
「大五郎でいい、匠。涼介の奴は俺の事『おっさん』としか呼ばないがな。まあ好きに呼びな」
匠の差し出した手にがっしりとした握手で応対し、のしのしと巨体を揺らしながらそこらの倒木に腰掛けた。
自然と俺達人間二人が並び立ち、妖怪側の面々と正対する形になった。
「これで全員? 狸とか爺さんとかも聞いてたけど」
「まだ居るよ。まあ、今顔を見せないんじゃ別の所に居ると思う」
「伝えてはいたのですけど何分気まぐれなもので。来たらご紹介しますね」
ひそひそと小声で耳打ちしてきた匠との会話だったが、天狗ちゃんから即座に返答。匠は少し驚いた様子だ。
「さっきお前も見たから分かるだろうけど、天狗ちゃんは天然だけどマジで天狗だから。色んな神通力が使えるんだよ」
「天然とは、天性のものって意味ですかね? でしたらその通り、私は天然の天狗です!」
えへんと胸を張る天狗ちゃん。うん、自分で言うのだから紛う事無き天然ですね。
「まだまだ師匠と比べると未熟ですけど、一応この一帯の山の主なので。この山で起きる事であればどんな音でも聞こえちゃうんです。内緒話はツ・ウ・ヨ・ウ、しませんからね~?」
身体を折って人差し指を立て得意げに説明してくるが、若干古いんだよなぁ、動きが。
「さて……そんじゃ本題に入るか」
顔合わせも一先ずは済んだという事で、いよいよ今の状況を作った理由へと話の流れを変える。
今日の主目的は別にキャンプをするためでも、妖怪達を紹介するためでも無い。
これから俺の親友に対して、俺の……いや、俺達の計画を伝え、協力を取り付ける為なのだ。
「とりあえず匠、そこらの木に座って聞いてくれ」
「おう、分かった」
素直に応じてくれて、手ごろな倒木へと腰掛ける。そんな匠に釣られて数体の魍魎も隣にちょこんと腰掛け、目の前に立っている俺と天狗ちゃんが何をするのか興味津々な様子で見ている。
まずは第一関門、妖怪の存在を信じてもらう。はクリアした。
目の前で姿を見せて、それぞれの能力を披露すれば済むとは思っていたので、ここはそこまでハードルが高かったわけではない。そもそも信じてもらえないような人間なら連れてくる事は無いからだ。
だが次からは現実的な部分に入ってくる。何なら匠の人生にも関わる話なので、ちゃんと説明できなければ友達を辞めるなんて事にもなりかねないだろう。
並び立つ天狗ちゃんを見ると、不安なのか表情が強張って見える。そもそもこの計画の発端はこの子からなのだ。
責任も感じているのだと思う。これまで人間と接してこなかった彼女からすれば、立て続けに人間の目の前に姿を現すのはそれなりにキツいはずだ。
囁きよりも小さな声で「心配すんな」と言うと、顔を上げて唇を引き結ぶ様子が伺えた。流石地獄耳、こういう時は便利だな。
「匠には前から言っていた通り、この村で事業を起こしたいと思っているんだ。そのための出資者になって欲しい」
まずは用意していた台詞で話を切り出す。さあ、これからプレゼンの始まりだ。
背後から野太い男の声が降ってきたので振り向くと、予想通りボロボロの作務衣のようなものに、毛皮のベストのような服を着込んだ大男が立っていた。
「”大五郎”のおっさん、匠にやったろ」
「こんなでもこちとら妖怪よ。人間驚かせてナンボの商売だからな」
ドスを利かせたつもりで睨むもおっさんはどこ吹く風。何が面白いのか「がはは」と豪快に笑い、俺の倍はありそうな巨大な手を伸ばし匠の肩をがっしりと掴む。
「どうだ? 坊主。ビビったか?」
眼前に顔を近づけ匠の顔を覗き込む髭面のおっさん。
匠は少し困ったような視線を俺に投げてくる。
「このおっさん、”古杣(ふるそま)”っていう木こりの妖怪なんだよ。山の中を通る人間に、木を倒す音とか声とかでビビらせるのが趣味っていう、マジで人間性を疑う大人げないおっさん」
「そりゃ妖怪だからよ。大人げも子供げもねーわな」
再び愉快そうに笑いだし、「で?」と再度匠に視線を送る。
「あー……かなりビビりました。涼介には何も聞こえてなさそうだったし、俺頭おかしくなったのかと」
「だよな、だよなあ! いやー、いいビビりっぷりに気に入ったぜ。涼介共々面倒見てやるから、困った事があれば何でも言ってくんな。恨みある奴いたらこの山連れて来い。崖なり川なりに落としてやるからよ」
匠の返答に上機嫌になった大五郎のおっさんは、匠の肩をバシバシと叩きながらやたらと物騒な事を言いやがる。
まあ妖怪なのだ。大概が人間に対して悪さを働くもので、人間を困らせたり命を奪ったりと碌なモノでは無い事は確か。
古杣に限らず、人間に害を為す妖怪が多いのは言い伝えからしても分かる事だった。
「藤沢 匠って言います、よろしくお願いします。大五郎さん」
「大五郎でいい、匠。涼介の奴は俺の事『おっさん』としか呼ばないがな。まあ好きに呼びな」
匠の差し出した手にがっしりとした握手で応対し、のしのしと巨体を揺らしながらそこらの倒木に腰掛けた。
自然と俺達人間二人が並び立ち、妖怪側の面々と正対する形になった。
「これで全員? 狸とか爺さんとかも聞いてたけど」
「まだ居るよ。まあ、今顔を見せないんじゃ別の所に居ると思う」
「伝えてはいたのですけど何分気まぐれなもので。来たらご紹介しますね」
ひそひそと小声で耳打ちしてきた匠との会話だったが、天狗ちゃんから即座に返答。匠は少し驚いた様子だ。
「さっきお前も見たから分かるだろうけど、天狗ちゃんは天然だけどマジで天狗だから。色んな神通力が使えるんだよ」
「天然とは、天性のものって意味ですかね? でしたらその通り、私は天然の天狗です!」
えへんと胸を張る天狗ちゃん。うん、自分で言うのだから紛う事無き天然ですね。
「まだまだ師匠と比べると未熟ですけど、一応この一帯の山の主なので。この山で起きる事であればどんな音でも聞こえちゃうんです。内緒話はツ・ウ・ヨ・ウ、しませんからね~?」
身体を折って人差し指を立て得意げに説明してくるが、若干古いんだよなぁ、動きが。
「さて……そんじゃ本題に入るか」
顔合わせも一先ずは済んだという事で、いよいよ今の状況を作った理由へと話の流れを変える。
今日の主目的は別にキャンプをするためでも、妖怪達を紹介するためでも無い。
これから俺の親友に対して、俺の……いや、俺達の計画を伝え、協力を取り付ける為なのだ。
「とりあえず匠、そこらの木に座って聞いてくれ」
「おう、分かった」
素直に応じてくれて、手ごろな倒木へと腰掛ける。そんな匠に釣られて数体の魍魎も隣にちょこんと腰掛け、目の前に立っている俺と天狗ちゃんが何をするのか興味津々な様子で見ている。
まずは第一関門、妖怪の存在を信じてもらう。はクリアした。
目の前で姿を見せて、それぞれの能力を披露すれば済むとは思っていたので、ここはそこまでハードルが高かったわけではない。そもそも信じてもらえないような人間なら連れてくる事は無いからだ。
だが次からは現実的な部分に入ってくる。何なら匠の人生にも関わる話なので、ちゃんと説明できなければ友達を辞めるなんて事にもなりかねないだろう。
並び立つ天狗ちゃんを見ると、不安なのか表情が強張って見える。そもそもこの計画の発端はこの子からなのだ。
責任も感じているのだと思う。これまで人間と接してこなかった彼女からすれば、立て続けに人間の目の前に姿を現すのはそれなりにキツいはずだ。
囁きよりも小さな声で「心配すんな」と言うと、顔を上げて唇を引き結ぶ様子が伺えた。流石地獄耳、こういう時は便利だな。
「匠には前から言っていた通り、この村で事業を起こしたいと思っているんだ。そのための出資者になって欲しい」
まずは用意していた台詞で話を切り出す。さあ、これからプレゼンの始まりだ。
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