【第一部 完結】俺は俺の力を俺の為に使い、最強の「俺」となる ~便利だが不遇な「才能開花」のスキルでどう強くなればいい~

古道 庵

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第十九話 死闘・再戦

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 ストーンドラゴンの骸の前で座り込む俺達。

 全員が満身創痍の状態になっていた。
 ニアは最後の一撃で全ての力を使い果たし、そして”覚醒”の反動によりまともに動けない状態に。
 ソフィーはあの巨大杭を喰らったものの、戟が砕けて弾かれた事で直撃を避けていた。しかし、あの勢いに巻き込まれて重傷の状態だった。
 エミリーはそんなソフィーを治すべく残り僅かな魔力を注いでいた。これ以上はエミリーの命にも関わる。

 俺は……って、この中じゃ俺が一番平気か。無傷に近い。
 受けたダメージはガードを貫通されたものやストーンドラゴンやニア達が巻き起こす瓦礫の破片によるものだった。そう考えると情けなくて泣きたくなる。

 思考の高速化は収まっていた。
 脳がオーバーヒートしそうな程に熱くなっていたと思う。あまり多用できるものじゃない事だけは分かった。


 ニアの持つ武器は長剣あの激しい戦闘で折れており、”竜殺し”は言わずもがな。
 そしてソフィーの薙刀と戟も砕けてしまったので戦力がほぼ残っていない状態だった。


 ニアがトドメを差したストーンドラゴンを見上げる。
 胴体の真ん中に大きな風穴が空いており、即死なのは一目瞭然だった。

「マジで倒したな」
「はい……でも、本当にギリギリでした。本当に最後の最後で届いた……そんな感じがします」
 ぐったりと横たえているニアが答える。

「てかさ、”竜殺し”は意味あったのか?」
「うーん……どうでしょう。確かによく斬れる業物なのは確かですけど……わたしはそんなに手傷与えられなかったですし」
「返品だ返品。バッタもん掴ませやがって」
「もう壊れてますよ……」
 俺の冗談に力なく笑うニア。体力が限界を超えているだろうに、俺の会話に付き合ってくれてるのは律儀が過ぎる。

「イクヤさん、やったなあ……」
「ソフィー! おい、まだ喋んなよ」
「でもなあ、うち嬉しくてなあ。ドラゴン倒したんよ? うちらで……」
 そう言いながら身を起こすソフィー。腕の力が入らず体勢を崩しかけたので支えてやる。

「うち、これでまた強くなったかなあ……」
「ソフィーの強さはもうあいつらと並んでるよ。お前に技を教えてくれた連中と」
「そうかなあ……そうやったらええなあ」
「少し寝とけ。お前が一番手酷くやられたんだ。前線を支えてくれてありがとな」
「ええんよ、うちの役目やし。それより荷物とうちの柄ある?」
「ああ、そこにあるよ」

 エミリーが治癒に専念している間、俺は全員分の荷物や装備を集めていた。包帯などを探していたのもある。ニアの左腕が折れていたから。

「なら、穂先を変えてくれん……? また魔物が来たら戦わな」
「無理すんなって。まあ、やっとく。ソフィーが居ないと上に戻れないしな」

 現状、最も危惧している事態だった。
 メインの攻撃手であるニアはしばらく大幅に弱体化する。エミリーも魔力が回復するには時間が掛かる。そんな中俺一人で上まで戻れる自信が無かった。
 どうやっても戦闘が避けられない地形である以上、戦力は少しでも多い方が良い。

「それにしてもよく見るとストーンドラゴンって傷だらけですね……」
 ニアが見上げながら言うので俺も注視してみると、確かに背の部分に多くの傷が見えた。
「これ……俺達がつけた傷じゃないな」
「はい。まだ新しいですけど、でもソフィーがつけた傷には見えないですね。それもたくさん……もしかしてこれを庇ってたんですかね?」
 ニアの指摘に、違和感を覚えていた行動の幾つかに説明が付く。序盤は攻め気を全く感じられなかったからだ。
「俺達を舐めてたわけじゃなく……追い払おうとしてただけ、だったのか?」

 咆哮で怯えれば良し、向かってくるなら巨体で圧倒して体格差で逃げ出してくれれば良し、それでも抵抗してきたから攻撃を……?
 そう考えると先程の戦闘の流れが、違った視点で見えてくる。

「これだけの傷を、あのストーンドラゴンに与えた相手って誰ですかね。それも最近」
 ニアの言葉を背景に、亡骸の傷に触れる。
 塞がろうとし始めている血液が凝固した傷口。それらが無数にあり、よくよく見れば歯型のように見える傷があった。
 どう考えても魔物だろう。


 ドラゴンに挑んだ魔物が居る。

 その事実に胸がざわめく。



「ねえ、何か聞こえる」
 フラフラになりながらもエミリーが立ち上がり、その方向を見つめる。
 俺達が入ってきた入り口の反対側。元々ストーンドラゴンが居た坑道だ。

「ニア、俺の手斧を使え。丸腰だろ」
「はい」
「ソフィー、悪いが穂先の交換は自分でやってくれ」
「はいな」
「エミリー、残りの魔力は?」
「もうすっからかんよ。低位の魔法ぐらいしか使えない」

 聞こえてきたのは足音。
 恐らく四足歩行の生き物のもの。だが、何かおかしい。
 まず二つの連続した足音。そして次に一つだけの足音。次いで体を引き摺る音。


 胸に起きたざわめきが大きくなる。


 ……ここに入ってから一つ、ずっと気がかりな事があった。「あいつ」と遭遇していない。俺の挫折の入り口となったあいつに。

 隻腕隻眼が大きなハンデとなり、他の魔物に食われたというのが誰もが出す見解だろう。傷を負った魔物は他の魔物に襲われたら勝ち目など無い。

 だが何故か、そんな結末は想像できなかった。あいつにとって相応しい最期だとは思えなかった。初めて戦った時から既に”歴戦個体”である風格を感じていた「あいつ」に。


 足音は次第に大きくなり、登ってきているのが分かる。そう、この先にあるのは恐らく深層。本来のストーンドラゴンの居場所。
 そんな不可侵の領域から姿を現す相手は……



「……はは」
 思わず笑ってしまう。
 疑念が確信となり、自分の予感が当たっていた事に複雑な気持ちとなってしまう。

「あれが、ドラコアですか?」
「そうだ……いや、違う」
 ニアの問いかけを肯定し、即座に否定する。

 エミリーの魔力灯に照らされたその姿は、俺の知るドラコアとは大きくかけ離れていた。
 無論、原型はある。
 しかし最後に見た時よりも一回り以上大きくなっていた。

 欠損した右の前肢はそのままだが、他の脚が巨大化しており、鱗から筋肉がはち切れんばかりに浮き出している。
 フィオーラの魔法の大岩でへこんでいた背中には、無数の歪な棘が生えており硬質化した鰐の鱗のような形状に変化していた。
 尾は三又に分かれ、それぞれが大蛇のようにしなやかに動いている。
 太く短かった首は長く伸び、ドラゴンにより近づいたフォルムになっていた。ファルコに射潰された右目は完全に塞がっており、額の中心に新たな瞳が開いていて妖しい光を放つ。
 そして体中に残る生々しい傷の数々。まだ体液が滴っている新しい傷があり、どれだけの激戦を潜り抜けてきたのか窺い知れる痕を残している。


 悠然と歩くその姿。
 そこには確かな「貫禄」と「余裕」を滲ませる。

 一目見て全てを悟った。


「あいつだ。あいつが全ての元凶だ」
「元凶……?」
 ニアが首を傾げる。
「この下層に魔物が居ないのも、ストーンドラゴンの傷も全て」
「……っ!」
 俺の言葉に信じられないという表情を浮かべるニア。
 だが、俺には分かる。分かるんだ。

 あいつはこの魔窟の中で強くなる為にひたすら殺し合いを続けた。
 恐らく最初は力を蓄える為に上層や浅層の魔物を平らげていたのだろう。二度目の接触の時に浅層で遭遇した理由はそうだと思う。
 ある程度力が戻ってからは中層か……もしくはすぐに下層まで降りたのかもしれない。
 この限られた空間の中で蠱毒よろしく、殺し合いを続けたのだろう。そして勝ち抜き、生き残った。
 今の異形はその戦いの証。

 力を増し、更なる戦いを渇望するあいつは挑んだ……どんな魔物ですら恐れるドラゴンに。

 あの姿を見て思う言葉は一つ。”歴戦の猛者”だ。



「あのドラコア? がストーンドラゴンに傷を負わせたんですかね」
「状況的にそうだと思う」
「なんや随分と……師匠っぽい感じがする魔物やな。ギラギラしとるわ」
「ねえ、って事はもっと強いって事? ……無理。もう休みたいんだけど」
「残念だけど向こうは待ってくれないみたいだ……来るぞ!」

 ドラコアが吼える。
 それを合図に全員が散開していく。

 武器はニアに俺の投擲用の斧を二本、ソフィーはハルバ―ト、俺は切れ味が良い斧と投擲斧をそれぞれ一本。

 ニアは覚醒の反動で大幅に弱体化している。
 ソフィーも傷が治りきっていないし、ストーンドラゴン戦で体力を使い果たしている。
 エミリーの援護は回復だけ。恐らく二回から三回のみ。

 こんな状態で戦うのは無理だ。普通のドラコア相手でも避けたい。
 なのに相対しているのは”歴戦個体”であり、更にはあのストーンドラゴンと引き分けたか退ける程の実力を持っている……そう推測できる強敵だ。


 どうする。戦力が足りていない。全員が消耗している。

 ……思考だ。
 思考するんだ。ストーンドラゴン戦で掴んだキッカケを手放すな。まぐれの一回で満足するな。自在に使いこなせてこその力だろうが!


 ドラコアの一歩が更に大きくなっている。そしてあの筋肉量。瞬発力が巨体のそれではない。
 ソフィーがギリギリで跳躍して回避する。真下を通過するドラコアはそのまま岩壁に激突する…かと思ったのだが。

「嘘やん」
 ソフィーの呟き。

 あの勢いであの巨体を走らせたというのに、岩を砕きながら爪を食い込ませて急停止し、尾を振りかざす。
 ソフィーがハルバートで防ぐも、呆気なく弾き飛ばされて壁面に叩きつけられる。

「せいっ!」
 ニアが俺を真似て斧を投擲する。
 斧はそのまま隆起する後ろ足に突き刺さる。

 それに対し、ギロリと目を向けるドラコア。
 ニアの動きが止まる。

 ドラコアが口を開き咆哮する。
 だが、ただの咆哮ではない。直線上に向けて指向性を持たせた、言わば音による衝撃波だ。

 ニアは両腕で顔を庇うようにするが、耐え切れず吹き飛ばされ地面に転がる。

 俺のミスだ。
 最大戦力である二人が一瞬で無力化された。ソフィーとニアには治癒魔法がかけられたが、二人とも立ち上がる力も残っていないようだ。何度か腕を立てたり、得物を杖に起き上がろうとするも倒れてしまう。

 俺が開戦時に全体へのバフを掛けられていれば。少なくとも二人は直撃を免れたのかもしれないのに。


 エミリーも二人への治癒で魔力切れだろう。ここからは魔力欠乏の症状が襲う……それを分かっていても、二人に治癒魔法をかけなければいけない状況だった。
 ソフィーもニアも限界を迎えている。

 ……今更になって実感した。俺だけが、ストーンドラゴン戦で体力を失っていない。役割を果たしたつもりになっていたが、俺自身の体で戦ってはいなかった。

「はは」
 笑うしかない。
 残る俺へと狙いを定めたドラコアは、俺からは何も感じないのだろう。警戒も焦る様子も無く、ただ悠然と歩み寄ってきている。
 あいつからしたらただの雑魚だ。手負いのソフィーや弱体化したニアの方が余程脅威に映っただろう。
 俺なんて、それこそ飽きる程に食らった浅層の有象無象の魔物と大差ない。

 こんなの勝てるわけが無い。
 四人で全力を出して、更にその先にまで踏み込んでようやく勝ったストーンドラゴン……それと同等の敵。
 俺一人でどうにかなるわけないだろう。Cランクの底辺だぞ。
 もう無理だ。ここで俺は食われて死ぬ。

 ニアも、ソフィーも、エミリーもきっと逃げられない。
 新人冒険者が無謀な攻略を挑んで、制覇したと思った矢先に魔物に襲われて死ぬ。

 馬鹿馬鹿しい愚か者の物語だ。
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