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第十七話 ストーンドラゴン 後編
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「エミリー! 巻き込まれるからもっと退がれ!」
俺の指示に頷くエミリーはロッドを撃つ仕草をした後、こちらに背を向け駆け始める。
腕の中のソフィーに光が灯り、小さな呻き声を上げる。
岩陰の後ろに回ったエミリーに続き、ソフィーを降ろす。
「エミリー、出来る限りの治癒を頼む」
既に次の治癒魔法の詠唱に入っていたエミリーは頷き、今度は直接腹部に手を当てる。血に塗れた腹の傷はまだ塞がっていない。失血もそうだが臓器の損傷が心配だった。
幸い、それ程太い棘に刺されたわけではない。しかし貫通しているのを見ている。まだ損傷した臓器の組織が体内に残っているならば、治癒魔法である程度の回復は見込める。あとはエミリーの腕に頼るしかない。
「うち……が行かん、と」
「喋るなバカ!!」
弱々しい声を出しながら腕を伸ばすソフィーにエミリーが一喝する。
「まずは傷を治せ、全力で。そっから来い。……ったく、気絶してるのに得物を離さないもんだから運ぶのに邪魔だったぞ」
「……ごめん、イクヤさん。薙刀折れてもうた」
と、言われて初めて気が付いた。ソフィーの右手に固く握られている薙刀の、半ばから先が喪失している。
「攻撃が届いてたのか」
「防がれ……たけどね」
「替えはあるのか?」
「戟もハルバ―トの先も持ってきとる」
「そうか、薙刀の刃はまたアンダさんに注文しとくよ」
「……おおきに」
これだけの大怪我を負っているにも関わらず、ソフィーは悲鳴一つ上げない。凄まじい精神力だ。そして今も闘争心を失っていない。
「ニアと俺で倒しちまう前に戻って来いよ。エミリー、頼んだ」
尚も治癒を続けるエミリーに託し、斧を引き抜いて岩陰から出る。
戦場に再び戻ると、そこには今まで見た事のないような動きを見せるニアの姿があった。ストーンドラゴンに肉薄し、魔法攻撃を躱し、盾で受け流しながらも長剣で斬りつける。
剣が当たる度に火花が散り、心なしかストーンドラゴンも鬱陶しそうな様子を見せている。最早剣で斬る事は諦めているのだろう。頭部に向かって叩きつけるように集中攻撃していた。
黄金の光を纏い戦うニア。
勇者の血族の才能を持つ者がその力の糸口を知覚することで至れる”覚醒”。アレクも切り札としていたこの力は、自身の能力に大幅な強化を及ぼす。
ニアはBランクに上がりたて程度のステータスだったろうが、今だけを切り取るならAランクに匹敵する程のステータスに変貌しているだろう。間違いなく、ここに居る四人の中で最強だ。
しかし強過ぎる力には必ずデメリットがある。アレクの場合持続時間は大体三十分から一時間程。しかも一度使うとそこから強烈なデバフが掛かりフィジカルが半減以下となってしまう。更に万全で休んでも再使用できるようになるには丸二日掛かる、というものだった。
なので本当にここぞという時にしか使えないし、深くダンジョンに潜る時は絶対に使えないと言っていた。
ニアの場合は習得したばかり。恐らくまだ使いこなせていないだろう。持続時間は更に短いかもしれない。
しかしあの魔法攻撃の中を掻い潜り攻撃を続けているニアは凄い。
俺ではまず近づけない。あれだけの波状攻撃を避けきる自信は無い。俺に出来る事なんてあるのだろうか。
……あの地属性の魔法、もしフィオーラが使うものと同質だとしたら……?
ふと頭にその可能性が過った時、壁面や天井から魔法の発光が起き始める。
「ニア! 壁と上からも来るぞ!」
壁や天井から岩石の砲弾が四方八方から襲い掛かる。
俺の声に反応したニアは回避し盾で防ぎきる。しかし、すかさずストーンドラゴンが蹴り潰そうと距離を詰めてきたのでさすがにニアも退避せざるを得なくなった。
胸を撫で下ろすも今度は上下左右からの攻め立てが止まらず、ニアは回避一辺倒となっていく。距離を詰められない。
……これ、もしかしたら天井を崩落させられる可能性もあるか?
フィオーラは『洞窟を潰していいならそっちの方が殲滅するのは簡単。天井と壁面に中位程度の魔法を内部に打ち込めば崩れる』と言っていた。寧ろ崩さないように調整する方が大変だと。
これだけの魔法を連続で使う事ができるストーンドラゴンであれば、そちらの選択肢を取る方が簡単なのではないだろうか。
嫌な汗が噴き出し、心臓が締め付けられるように苦しくなる。
まずい、ニアの制限時間もあるがそちらの方が問題だ。
もう自分の攻撃が通らないとか、あれだけの魔法の雨を避ける自信が無いとかの話ではない。
「ニア! 俺が気を引くから攻撃に移れ!」
「お願いします!」
「閃光石を使う! 盾の影に!」
懐から閃光石を取り出し、叫んだ時には投げつけていた。ニアの頭上を越え天井から飛来する石弾にぶつかって割れ、炸裂する。
凄まじい光量が空洞内に広がり束の間真っ白な世界となる。
ストーンドラゴンが身じろぎ、鳴くような音が聞こえる。ニアが動く足音も。
光が収まったタイミングで走り出し、既にストーンドラゴンの近くに陣取ったニアに続く。魔法攻撃が止んでいる今がチャンスだ。
「”裂断”!」
ソフィーも使っていた技だ。渾身の力を込めた振り下ろしの一撃。覚醒によりステータスが上昇した今なら更に威力が上がっている。
頭部を叩いた一撃はストーンドラゴンを怯ませ、視界を奪われた事で動揺を見せている。
しかし相手も馬鹿ではない。再び魔力の伝達が始まり地面が隆起し、岩石の槍が伸びる。そして鬱陶しく纏わりつくニアを引き剥がすべく旋回し始めた。
「逃がすな!」
「はい!」
ランダムに出現する岩の槍を避けながら俺とニアはストーンドラゴンを追う。視力を奪えている時間はどれほどだろうか。まだ狙いを定められていない今がチャンスだ。
一か八か。
死を覚悟しながらも駆け、尾を躱し、そしてストーンドラゴンの下腹部へと転がるようにして飛び込む。
屈んで起き上がりながら斧を振るって腹に一撃。しかしやはり刃は通らない。比較的柔らかいかもしれないと思っていたのだがさすがにドラゴンの鱗。俺程度の攻撃力ではまるで足りていない。
押し潰される恐怖に焦りながらも駆け抜け、頭部側へと飛び出る。そして旋回を止めるべく頭部に向かって双つの斧を叩きつけた。
ニアの攻撃を覚えてか多少怯むストーンドラゴン。動きが束の間止まる。反対側から追いかけてきていたニアも到着し、直ぐ様剣を突き出す。
そこからは凄まじい連続攻撃。もう既に刃はボロボロになっており、鋼の棒と化している長剣だが、却って都合が良いのかもしれない。
ストーンドラゴンは目を瞑りながら怯み、後退している。
そこでニアは長剣を捨て、腰に差したままにしている剣を引き抜いた。
————————
「ニア、ストーンドラゴンに対してはどうするつもりなんだ?」
「ふふー、しっかりと準備はありますよ」
黄銅窟までの道中、街道を歩きながら打ち合わせをしており、最も気になる箇所について訊ねると自信満々な返答が返ってきた。
「この剣です」
と指差すのは腰に穿いている剣。そう言えば朝見た時に妙に思った部分でもあった。
予備の剣にしては柄の意匠がやたらと豪華なのだ。しかしニアにはアンダさんから貰った長剣があるし、それを背負っている。少しばかりチグハグな印象を受けていたのだ。
「実はこれ……”竜殺し(ドラゴンスレイヤー)”の一振りなんです」
「はあ? お前騙されたんだろ」
「ひどいっ! 普通そこは驚くところでしょう!?」
「いやだって……”竜殺し”ってドラゴンを斬った時の剣だろ? んなもんどっかの金持ち貴族のコレクション品だ」
「イクヤさん知らないんだー!」
「ああ?」
口を押えて小馬鹿にするような表情を浮かべるニアに少しイラッとする。
「一か月前ぐらいですかね。ドラゴンに手を焼いているギルドへ向けてこの剣が配布されたんですよっ」
「話が見えん。その剣が何なのかって話だよ」
「えーとですね……」
「あんたみたいな召喚人が作った剣なのよそれ。ドラゴンに対する毒になるとか何とか」
「ユニークスキルか……」
そうなればまあ、あり得なくはないかという気分になってくる。俺達召喚人の持つスキルはよく分からない上に何でもアリだし。
「要は試作品を配ってくれたって事か」
「上手く効くようなら量産する計画らしいってアンナが言ってたわ。まあ、マナスパーティーが持ってたのを強引に借りたのが実際の所だけど」
「あー! エミリー全部言わないでよっ」
「お前らマナスさんとも渡り付けたのか……」
マナスパーティーは現アリエスギルドのトップパーティーだ。アレク達が追い抜く前までもそうであり、実力・経験共に文句なしの高さを誇る。結構気難しい人たちが多く、あの頃はライバル視されていると感じていたので絡んだ事が無かった。
「そんな試作品をアテにして大丈夫なのか?」
「効果は実証済みらしいです。ただ、使い手がドラゴンの防御力を突破しなくちゃいけないのと耐久を犠牲にしてるのが難点らしいですけど」
「……大丈夫か? それ」
————————
ニアが”竜殺し”を抜いた。
ここで畳みかけるつもりだろう。今のニアなら眼球や喉に叩き込むか、あるいは”裂断”であれば。
効果は眉唾ものだが業物である事は俺も見ている。鈍らでいつまでも殴るよりはずっと効果があるかもしれない。
「はあああああ!」
これでトドメと言わんばかりの一撃。堅く閉じられた左目を狙う。
入れ……!
祈るようにニアの突きの行方を見守る。
だが、眼前まで迫った時ストーンドラゴンの金色の瞳が開く。それと同時にストーンドラゴンの全身が揺らめいた。
嫌な予感。
「守れ!」
咄嗟に出た声。ニアは体を捻り盾に身を隠す。
次の瞬間、ストーンドラゴンが爆ぜた。
俺の指示に頷くエミリーはロッドを撃つ仕草をした後、こちらに背を向け駆け始める。
腕の中のソフィーに光が灯り、小さな呻き声を上げる。
岩陰の後ろに回ったエミリーに続き、ソフィーを降ろす。
「エミリー、出来る限りの治癒を頼む」
既に次の治癒魔法の詠唱に入っていたエミリーは頷き、今度は直接腹部に手を当てる。血に塗れた腹の傷はまだ塞がっていない。失血もそうだが臓器の損傷が心配だった。
幸い、それ程太い棘に刺されたわけではない。しかし貫通しているのを見ている。まだ損傷した臓器の組織が体内に残っているならば、治癒魔法である程度の回復は見込める。あとはエミリーの腕に頼るしかない。
「うち……が行かん、と」
「喋るなバカ!!」
弱々しい声を出しながら腕を伸ばすソフィーにエミリーが一喝する。
「まずは傷を治せ、全力で。そっから来い。……ったく、気絶してるのに得物を離さないもんだから運ぶのに邪魔だったぞ」
「……ごめん、イクヤさん。薙刀折れてもうた」
と、言われて初めて気が付いた。ソフィーの右手に固く握られている薙刀の、半ばから先が喪失している。
「攻撃が届いてたのか」
「防がれ……たけどね」
「替えはあるのか?」
「戟もハルバ―トの先も持ってきとる」
「そうか、薙刀の刃はまたアンダさんに注文しとくよ」
「……おおきに」
これだけの大怪我を負っているにも関わらず、ソフィーは悲鳴一つ上げない。凄まじい精神力だ。そして今も闘争心を失っていない。
「ニアと俺で倒しちまう前に戻って来いよ。エミリー、頼んだ」
尚も治癒を続けるエミリーに託し、斧を引き抜いて岩陰から出る。
戦場に再び戻ると、そこには今まで見た事のないような動きを見せるニアの姿があった。ストーンドラゴンに肉薄し、魔法攻撃を躱し、盾で受け流しながらも長剣で斬りつける。
剣が当たる度に火花が散り、心なしかストーンドラゴンも鬱陶しそうな様子を見せている。最早剣で斬る事は諦めているのだろう。頭部に向かって叩きつけるように集中攻撃していた。
黄金の光を纏い戦うニア。
勇者の血族の才能を持つ者がその力の糸口を知覚することで至れる”覚醒”。アレクも切り札としていたこの力は、自身の能力に大幅な強化を及ぼす。
ニアはBランクに上がりたて程度のステータスだったろうが、今だけを切り取るならAランクに匹敵する程のステータスに変貌しているだろう。間違いなく、ここに居る四人の中で最強だ。
しかし強過ぎる力には必ずデメリットがある。アレクの場合持続時間は大体三十分から一時間程。しかも一度使うとそこから強烈なデバフが掛かりフィジカルが半減以下となってしまう。更に万全で休んでも再使用できるようになるには丸二日掛かる、というものだった。
なので本当にここぞという時にしか使えないし、深くダンジョンに潜る時は絶対に使えないと言っていた。
ニアの場合は習得したばかり。恐らくまだ使いこなせていないだろう。持続時間は更に短いかもしれない。
しかしあの魔法攻撃の中を掻い潜り攻撃を続けているニアは凄い。
俺ではまず近づけない。あれだけの波状攻撃を避けきる自信は無い。俺に出来る事なんてあるのだろうか。
……あの地属性の魔法、もしフィオーラが使うものと同質だとしたら……?
ふと頭にその可能性が過った時、壁面や天井から魔法の発光が起き始める。
「ニア! 壁と上からも来るぞ!」
壁や天井から岩石の砲弾が四方八方から襲い掛かる。
俺の声に反応したニアは回避し盾で防ぎきる。しかし、すかさずストーンドラゴンが蹴り潰そうと距離を詰めてきたのでさすがにニアも退避せざるを得なくなった。
胸を撫で下ろすも今度は上下左右からの攻め立てが止まらず、ニアは回避一辺倒となっていく。距離を詰められない。
……これ、もしかしたら天井を崩落させられる可能性もあるか?
フィオーラは『洞窟を潰していいならそっちの方が殲滅するのは簡単。天井と壁面に中位程度の魔法を内部に打ち込めば崩れる』と言っていた。寧ろ崩さないように調整する方が大変だと。
これだけの魔法を連続で使う事ができるストーンドラゴンであれば、そちらの選択肢を取る方が簡単なのではないだろうか。
嫌な汗が噴き出し、心臓が締め付けられるように苦しくなる。
まずい、ニアの制限時間もあるがそちらの方が問題だ。
もう自分の攻撃が通らないとか、あれだけの魔法の雨を避ける自信が無いとかの話ではない。
「ニア! 俺が気を引くから攻撃に移れ!」
「お願いします!」
「閃光石を使う! 盾の影に!」
懐から閃光石を取り出し、叫んだ時には投げつけていた。ニアの頭上を越え天井から飛来する石弾にぶつかって割れ、炸裂する。
凄まじい光量が空洞内に広がり束の間真っ白な世界となる。
ストーンドラゴンが身じろぎ、鳴くような音が聞こえる。ニアが動く足音も。
光が収まったタイミングで走り出し、既にストーンドラゴンの近くに陣取ったニアに続く。魔法攻撃が止んでいる今がチャンスだ。
「”裂断”!」
ソフィーも使っていた技だ。渾身の力を込めた振り下ろしの一撃。覚醒によりステータスが上昇した今なら更に威力が上がっている。
頭部を叩いた一撃はストーンドラゴンを怯ませ、視界を奪われた事で動揺を見せている。
しかし相手も馬鹿ではない。再び魔力の伝達が始まり地面が隆起し、岩石の槍が伸びる。そして鬱陶しく纏わりつくニアを引き剥がすべく旋回し始めた。
「逃がすな!」
「はい!」
ランダムに出現する岩の槍を避けながら俺とニアはストーンドラゴンを追う。視力を奪えている時間はどれほどだろうか。まだ狙いを定められていない今がチャンスだ。
一か八か。
死を覚悟しながらも駆け、尾を躱し、そしてストーンドラゴンの下腹部へと転がるようにして飛び込む。
屈んで起き上がりながら斧を振るって腹に一撃。しかしやはり刃は通らない。比較的柔らかいかもしれないと思っていたのだがさすがにドラゴンの鱗。俺程度の攻撃力ではまるで足りていない。
押し潰される恐怖に焦りながらも駆け抜け、頭部側へと飛び出る。そして旋回を止めるべく頭部に向かって双つの斧を叩きつけた。
ニアの攻撃を覚えてか多少怯むストーンドラゴン。動きが束の間止まる。反対側から追いかけてきていたニアも到着し、直ぐ様剣を突き出す。
そこからは凄まじい連続攻撃。もう既に刃はボロボロになっており、鋼の棒と化している長剣だが、却って都合が良いのかもしれない。
ストーンドラゴンは目を瞑りながら怯み、後退している。
そこでニアは長剣を捨て、腰に差したままにしている剣を引き抜いた。
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「ニア、ストーンドラゴンに対してはどうするつもりなんだ?」
「ふふー、しっかりと準備はありますよ」
黄銅窟までの道中、街道を歩きながら打ち合わせをしており、最も気になる箇所について訊ねると自信満々な返答が返ってきた。
「この剣です」
と指差すのは腰に穿いている剣。そう言えば朝見た時に妙に思った部分でもあった。
予備の剣にしては柄の意匠がやたらと豪華なのだ。しかしニアにはアンダさんから貰った長剣があるし、それを背負っている。少しばかりチグハグな印象を受けていたのだ。
「実はこれ……”竜殺し(ドラゴンスレイヤー)”の一振りなんです」
「はあ? お前騙されたんだろ」
「ひどいっ! 普通そこは驚くところでしょう!?」
「いやだって……”竜殺し”ってドラゴンを斬った時の剣だろ? んなもんどっかの金持ち貴族のコレクション品だ」
「イクヤさん知らないんだー!」
「ああ?」
口を押えて小馬鹿にするような表情を浮かべるニアに少しイラッとする。
「一か月前ぐらいですかね。ドラゴンに手を焼いているギルドへ向けてこの剣が配布されたんですよっ」
「話が見えん。その剣が何なのかって話だよ」
「えーとですね……」
「あんたみたいな召喚人が作った剣なのよそれ。ドラゴンに対する毒になるとか何とか」
「ユニークスキルか……」
そうなればまあ、あり得なくはないかという気分になってくる。俺達召喚人の持つスキルはよく分からない上に何でもアリだし。
「要は試作品を配ってくれたって事か」
「上手く効くようなら量産する計画らしいってアンナが言ってたわ。まあ、マナスパーティーが持ってたのを強引に借りたのが実際の所だけど」
「あー! エミリー全部言わないでよっ」
「お前らマナスさんとも渡り付けたのか……」
マナスパーティーは現アリエスギルドのトップパーティーだ。アレク達が追い抜く前までもそうであり、実力・経験共に文句なしの高さを誇る。結構気難しい人たちが多く、あの頃はライバル視されていると感じていたので絡んだ事が無かった。
「そんな試作品をアテにして大丈夫なのか?」
「効果は実証済みらしいです。ただ、使い手がドラゴンの防御力を突破しなくちゃいけないのと耐久を犠牲にしてるのが難点らしいですけど」
「……大丈夫か? それ」
————————
ニアが”竜殺し”を抜いた。
ここで畳みかけるつもりだろう。今のニアなら眼球や喉に叩き込むか、あるいは”裂断”であれば。
効果は眉唾ものだが業物である事は俺も見ている。鈍らでいつまでも殴るよりはずっと効果があるかもしれない。
「はあああああ!」
これでトドメと言わんばかりの一撃。堅く閉じられた左目を狙う。
入れ……!
祈るようにニアの突きの行方を見守る。
だが、眼前まで迫った時ストーンドラゴンの金色の瞳が開く。それと同時にストーンドラゴンの全身が揺らめいた。
嫌な予感。
「守れ!」
咄嗟に出た声。ニアは体を捻り盾に身を隠す。
次の瞬間、ストーンドラゴンが爆ぜた。
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