【第一部 完結】俺は俺の力を俺の為に使い、最強の「俺」となる ~便利だが不遇な「才能開花」のスキルでどう強くなればいい~

古道 庵

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第十三話 宴 中編

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 突然始まった馬鹿騒ぎにギルド会館の周囲の民家や商店から人々が顔を覗かせる。

 酒樽を転がしながら現れる若い冒険者達。
 大皿の料理を掲げて駆けてくる酒場の小間使い。
 既に会館の外にも会場が広がり始めており、気の早い者達はジョッキを打ち鳴らし酒を呷っている。

 ニアはギースとガイツの飲み比べを眺めており、自身にも酒を勧められ慌てた様子で顔を横に振っている。
 エミリーは呆れた様子で椅子に座っていたが、次第に人の輪ができ始め何か話している様子だ。
 ソフィーは何故か配膳を手伝っている。そう言えば最近の凄まじい強さで忘れていたが、元メイドなんだよな……って、転んでる。

 アンナさんらギルドのスタッフ達は呆れた表情ながらも、宴会の場所づくりを手伝ってくれていた。

 冒険者達の数も少しずつ増えてきている。クエストから戻ってきた連中だろう。戸惑いながらも、武器や装備を置いて手伝い始めた。
 皆結構バカなのですぐに順応するのだ。
 その中にはベック達の姿もあった。復帰できたようで良かった。

「おう、イクヤ。お前は飲まねえのかよ」
「未成年だっての。まだ十八だぞ俺」
 酒瓶を片手に近づいてきたのは、銀髪のベテラン冒険者シンバだった。既に四十歳と、この稼業をやっている者の中では高い年齢になる。
「お前そればっかだな。こっちじゃ水代わりにエールを飲むガキが普通だってのに」
「俺はまだいいよ。飲みたくなったら飲むから」
「まあ無理強いはしねえよ」
 そう言って肩を叩いてくる。シンバは寛容なタイプなので話しやすい。

「それにしても上手く手を打ったな、感心したよ」
「なにが?」
「しらばっくれなくてもいいだろ。あの子らの為だろ?」
「……正解」
 さすが年の功といったところか。俺の魂胆が丸見えだったらしい。
「あいつらがやってくには、他の冒険者との繋がりも必要だと思ったから。俺がそうだったように」
「なんだなんだあ? 随分大人しいじゃねーか生意気小僧」
「うっせえ、頭撫でんな」
 ガシガシと頭を撫でてくるので掃い除ける。シンバの身長は百九十センチに近い。並んで話すと見上げるようだ。

「お前さんも一端の冒険者に育ったってこったな。安心したよ」
「ジジ臭えよシンバさん。台詞にも加齢臭漂ってる」
「このクソ生意気小僧が。今度娼館に連れてってやろうか?」
「遠慮します。ってか、そんなだからその年まで独り身なんだよ」
「馬鹿野郎、こんな仕事してて嫁なんかもらえるかってんだ。いつ死ぬか分かんねーんだからよ」
「ごもっとも」
 昨日会った奴が今日は帰ってこない。という事はしばしばあった。新人でもベテランでも等しく。
 実力不足や不注意で殺される事も、道迷いになり野垂れ死ぬ事も、ダンジョンの罠に掛かり命を落とす事もある。俺だって何度も死にかけた。今生きているのは、単純に運が良かったから。その運にもいつ見放されるか分からない。
 このアリエスギルドの中で長くそんな光景を見てきたシンバだからこそ、人一倍強く感じているのだろう。

「酒は飲める時に飲んどけ。女も抱ける時に抱いておけ。俺から言えるのはそんぐらいだ。死ぬ間際になって後悔するのなんざ、俺は御免だからよ」
「こんな時に説教かよ」
「うるせえな……ったく。そんじゃお前さんの謀に乗って嬢ちゃんらと飲んでくるか。じゃーな”頬無し”」
「ああ”老槍”」
「おい、そのあだ名広めたのお前じゃないよな」
「俺はギースから聞いたよ」
「……んのガキ、とっちめてやる」

 ある程度名前の売れた冒険者にはあだ名や通り名が付けられる。俺もこの顔のせいであだ名が付いたし。
 シンバについては最近誰かが付けたらしい。どこか小馬鹿にされている辺りあの人の人柄だろう。実力的に言うと個人等級でBランクに至れなかった人だ。普通ならあだ名は付かない。

 階段を下りていくシンバを見送りながら会館のホールを見下ろす。すっかりニア達の周りには人だかりが出来ている。
 本当は皆話したかったのかもしれない。
 年端もいかない女三人だけのパーティーを見て、心配にならない奴は居ないのだから。

「やっぱ俺が邪魔しちまってたのかもな」
 欠落した左頬を掻きながら呟く。
 男避けとしての役割もあると言われてたから、その通りに振る舞っていた部分もあった。しかし二か月半前のただの雛鳥だった頃と今とでは全く違う。
 既にあの三人には自分で羽ばたける翼がある。だから俺は……

「せーんぱいっ」
「その言い方許されるのはゆるフワ系後輩女子だけなんだよなあ」
「?」
 話し掛けてきたのはベックだった。パーティーの女性陣達も引き連れている。

「その子が新人?」
「ええ、そうです。挨拶しなさい」
「はい……新しく加入しましたミミです。よろしくお願いしますセンパイ!」
「あー、俺はイクヤって名前。今はソロ。よろしくミミさん」
「てっきりお名前がセンパイかと! 失礼しました!!」
 長いお下げ髪を振り回しながら慌てて頭を下げるミミ。先端がソニアの顔面に一瞬当たって見えた。

「あんたいい加減にしなさいよね! その長くて邪魔な髪切れ!」
「そ、それは無理ですう! この髪はベック様が褒めてくれたものなので……」
「……燃やしてやる!!」
「いやああああ!!」
 鬼の形相で追いかけるソニアから逃げ出すミミ。回り廊下での追いかけっこが始まった。

「相変わらずだな、お前の所は」
「ふふ、可愛いでしょう。ミミは従順だし、ソニアは普段は強気ですけどベッドだとしおらしくて、これがまたいじめ甲斐がありましてね」
「……お前、女を語る時はマジで悪い顔してるぞ」
 モテないシンバと違ってベックはモテる。見た目は白髪の病弱そうな優男なのだが、実際は魔法を使える戦士として名前が売れている。前に風呂に行ったときに体を見たが、歴戦の傷だらけの鍛え上げられた肉体だった。そういったギャップも受けの良い理由なのかもしれない。
 そして男は一切入れないハーレムパーティーを形成している。あいつが家を買ったのも、宿住まいの時の女の出入りが激しさを咎められたからだったと聞く。

「それよりも先輩、報酬の件忘れてないですよね」
「ああ。本当に世話になった。明日か明後日辺りにでも行くか?」
「是非是非。ミミを鍛えたいと思っていたので渡りに船ですよ」
「そういう事か」
「ええ、死なせたくないですからね。僕の腕の中に居る限りは皆」
「ベックさま……!」
 ベックのクサい台詞に、後ろに控えていた三人が祈るようなポーズで感嘆の声を上げる。
 こいつらと一日一緒かー……と考えると気が滅入りそうだ。

「エミリーについては礼を言うよ。鍛えてくれてありがとな」
「いえいえ、正直あの撃ち下手が直せなかったので申し訳ないです。あれを矯正するにはひと月ふた月は掛かりそうですね」
「倍当てられるようになったから充分だよ。それに今は改善できたしな」
「えっ!? あの絶望的なセンスの無さを?」
 やっぱりベックの目から見ても相当に酷かったんだろうなと笑ってしまう。
「別の方向からアプローチしてみたんだ。きっとお前らも驚くぞ」
「へー、それは楽しみだ。あの子もなかなか調教のし甲斐がありそうですからね」
「お前狙ってる?」
「使い物になるのであれば欲しいですね。彼女自身の強みもある」
 ベックの目が束の間狩人のような鋭さを見せる。こいつマジか。

「今のパーティーで満足しとけって。そう言や”雷光(ライトニング)”を教えたのはお前か?」
「いえ、それはソニアが」
「よくあのノーコンに攻撃魔法なんか仕込める気になったよなあ……」
「うちの娘たち皆エミリーちゃんを気に入ってますけど、特にソニアが気に入ったみたいで。ソニア曰く『頭は悪いし物覚えも悪いけど、飲み込みは早いし詠唱の速読もできる、当てられるようにさえなれば化ける』と評してました。だからとりあえず詠唱部分と魔力の構築方法を体で覚えさせたみたいですね」
「あいつ頭悪いからな。そっか、ソニアのやり方が一番合ってるかもしれないな」
「もう少し学ぶ姿勢が欲しいですけどね。心のどこかで線引きして踏み込ませないようにしてるんで、イマイチ真剣さが足りない」
「お前らに預けて正解だったみたいだな。手間が掛かるだろうけど、これからも気にかけてやってくれ」
「先輩の教え子ですからね。熟れて食べ頃になるまで水やりはしますよ。あの感じなら十六歳にでもなればいい女になると思うんですよね」
 もうなってるけどな、とは言わないでおくことにした。頑張れエミリー。

「あ、ベックさま!」
 と後ろのリリアンが指差すとミミとソニアが冒険者達に羽交い絞めにされていた。
 いつの間に降りてた?
 状況から見るに下でも走り回っていたのを止められたのかもしれない。料理や酒があるのだから当然だ。

「……僕の女に触れるなゲス共があ!!!!」
 優男には似つかわしくない雄叫びを上げて飛び降りるベック。慌てて三人も駆け下りていった。
 そして始まる乱闘騒ぎ。酒が入っている事もあり、外野が異様に盛り上がる。

 飲み比べをしていた二人は既に蚊帳の外。ギースもガイツも限界に来たようで床に寝ている状況だが、ニア以外は誰も気にかけてくれない。
 一人ニアだけが二人をゆすったり頬を軽く叩いたりしている。

「カオスだなあ」
 巻き込まれるのは嫌なので外に出ようか。あいつらの乱闘となると俺の防御力なんて素手で突破してくるだろうし。触らぬ神に祟りなし、だ。
 こそこそと階段を下り、入口に溜まっている野次馬の間をすり抜けて外へ。
 外も外で賑やかだが、中の乱闘騒ぎに比べればずっとマシだ。
 誰かが灯した魔力光がふわりふわりと漂っており、どこか幻想的な趣を感じられる。

 それからは色々な冒険者達に話しかけられて、軽く言葉を交わす事の繰り返しだった。
 ほとんどがこの騒ぎの発端や理由を訊ねるもので、正直「またかよ」と思いながらも説明してやる。
 あとはまあ、俺に同行を依頼する者も多かった。タイミング的に合えばやっても良いのだが、如何せん俺に残されている時間は少ない。なので適当に相槌を打ってやる事しかできなかった。
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