【第一部 完結】俺は俺の力を俺の為に使い、最強の「俺」となる ~便利だが不遇な「才能開花」のスキルでどう強くなればいい~

古道 庵

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第十二話 最後の教導 前編

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「イクヤさん、もう少し延長してはいかがですか~?」
「馬鹿言え、やっと解放されると思うと清々するよ。……って、ありがとう」
 ギルド会館の待合スペースで人を待っていると、アンナさんがお茶を置いてくれる。
「落ち着いたのか?」
「ええ、朝の業務は。新しい子も入りましたし押し付けてきちゃいました」
 自分のカップも持ってきており、俺の隣に座る。
「悪い先輩だ」
「これも育成ですよ」
 小さく「あちっ」と言いながらもお茶を啜るアンナさん。それに倣い俺もいただく。

「わざわざ一週間も待たないで、別で合同クエストでも組めば良かったんじゃないですか?」
「それじゃ意味が無いんだよ。対等な立場じゃ、な」
「ふうん、面倒くさい考え方してますよね~。とっくに名目上みたいな形になってたじゃないですか」
「それでもだ。俺にとっては形だけでも大切なんだよ」
 コトリとカップを置き、長く息を吐く。

「これからどうするんですか?」
「これから?」
「教導が終わった後の話です。私としてはそのままニアパーティーに入るべきだと思うんですけど」
「……そういう話か」
「心情が随分と変わったんじゃないですか? 今のイクヤさん、眉間に皺が寄らなくなりましたし」
 と、自分の眉の間をなぞるアンナ。
「そんなだったか?」
 と聞くと「そんなでした」と思いっきり眉を顰める。

「……あいつらに愛着が無いって言ったら嘘になる。過ごした時間は短かったかもしれないけど、もう仲間だと思ってるよ」
「じゃあ」
「でもそれじゃダメだと思うんだ。あいつらにとっても、俺にとっても」
「まーたそういう……」
「聞けって。俺の中で決めてる事があるんだ。丁度良かった、アンナさんに頼みたい事がある。一筆書いてくれないか?」
「一筆?」
「そう、紹介状を」
「いいですけど……イクヤさん?」
「それとこれ、ちょっと預かっててくれ。クエストが終わったら取りに来る」
 アンナの言葉を遮るように、ずっしりとした重みのある革袋を手渡す。
「この袋……」
「今日一日預かっていて欲しいんだ。紹介状の宛名なんだけど……おっと、悪い。客が来たみたいだ。また後で話す」

 入り口に立って見回しているアンダに向かって手を振ると、気が付いたようでこちらに近づいてくる。
 アンナは口を何度か開きかけていたが、カウンターに立っている冒険者に呼ばれて渋々戻っていった。


「イクヤ様、お持ちしましたぞ」
「わざわざありがとう。ガヌも」
「うッス」
 アンダの後ろに、長布で巻かれた荷物を抱える青年が頭を下げる。アンダの付き人をしている”ガヌ”だ。

「思ってたよりも早く仕上がったな」
「ええ、とりあえず試作品です。ソフィー様の分はあともう一つがまだですが」
「充分だよ。出発までには渡せるんだろ?」
「ええ、それはもう」
 アンダとは何度か会っており、歳の差はあるものの少し砕けた間柄になれた。ビジネスライクな時は商人の顔だが、個人的に合うと豪快な男だった。
 ガヌは元鍛治職人だが計算ができたり、職人仕事に深く理解がある事を気に入られ、アンダに付き従っている。無口だが生真面目な青年だ。

「見せてくれるか」
「ガヌ」
「はい」
 ガヌがテーブルに布を置き、解いていく。
 そこには槍のような長柄の片刃刀と、奇妙な形をした金色のロッドが包まれていた。

「うん、いい出来だ。さすがだなアンダさん」
「私が作った訳ではないですがね。ロッドは実際に使い物になるかの方が心配ですが」
「魔法はさすがに俺も分からないからな。上手くいくようなら量産してみてくれ」
「ええ。やはり新型の開発というのは胸が躍りますな」
 酒の席だったらきっと「こんなおもしれえ事やらないなんて大損だ!」とか言っている所だろうなと思い浮かび、小さく笑ってしまう。

「出発の日程は決まったのか?」
「ええ、十二日後を予定しています」
「そっか。じゃあ依頼の方も出しといてくれ」
「今日その手続きの予定ですな。ガヌ」
「はい」
 と、懐から一枚の板を取り出して置く。
「さすが」
「段取りと根回しは商いの常なもので」
 開いた布を元に戻しながら、板に書かれた文字を見る。確かに、今日から十二日後の日付だ。

「では、我々はこれで。ガヌ、ギルドの方は頼んだぞ」
「分かりました」
「わざわざ届けてくれてありがとう。もう一本の方もよろしく」
「お任せを」
 挨拶もほどほどに二人は離れていく。忙しいのだろう。



 アンダ達が去ってから少し待っていると、いつもの三人の姿が見えた。

「イクヤさん」
「おう、来たか。早速だけど出来上がったぞ」
 ソフィーとエミリーにそれぞれ手渡すと、二人とも興味深そうに布を広げる。

「なんや、槍の穂先を剣にしたんか」
「薙刀って言ってな。俺の住んでた国に昔あった長柄武器。多分ソフィーなら使いこなせるんじゃないかと思って」
「片刃なんはちょっと使い辛そうやなあ……」
「そうか? ソフィーは動体視力もかなりいいし並列的に戦場を見れてるから、こういう色々な事が出来る武器の方が良いと思うんだ。ハルバ―トは合わなかったみたいだけど、こっちは軽いから」
「今日試してみるわ、あんがとなイクヤさん」
 刃の具合を確かめるように叩くソフィーがにこやかに礼を言う。

「うっげえ。ちょっと、こんなの持って歩くの? 恥ずかしいんだけど」
 と文句を垂れるのはエミリーだ。出てきた新型ロッドを見て引いた表情を浮かべている。
「まあまあ。構え方はこんな感じ」
 とジェスチャ―をすると、ぶつくさ言いながらも渋々従って構えてくれた。
 形状としては狩猟用の大型ライフルを小さくした形で、銃身を模した棒の先端下部に宝玉が埋め込まれている。

「狙いを付けると分かるけど、その突起の部分を照準にするんだ。魔法の軌道は俺には分からないから、いつもその照準器を見てどの位置に届くかを覚えるといい」
「ふうん……」
「あとまあ、念のため引き鉄を付けてもらった。装飾だけどな。銃を撃つ時はその引き鉄を引く動作をするんだ。自分が魔法を撃つタイミングに引くよう習慣づけるといいと思って。才能の効果が掛かるかもしれないし」
「あんたも細かい事考えるのねー……使えるかはともかく、礼は言っとくわ」

「イクヤさん、わたしは?」
「ニアにはこの前新しい剣が来ただろ。別のがあるから今日のクエストを済ませたら渡すよ」
「分かりましたっ!」
「んじゃ、行くか」
 昨日の内に取っておいたクエストがある。それが教導として最後の同行だ。
 三人は堅い面持ちでギルド会館を出る。

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