【第一部 完結】俺は俺の力を俺の為に使い、最強の「俺」となる ~便利だが不遇な「才能開花」のスキルでどう強くなればいい~

古道 庵

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第十一話 思わぬ収穫 前編

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 リカールの群れとの交戦だった。
 森林個体で暗い緑色の体毛を生やしている。

 リカールの群れが付近で家畜を襲っている、とメサルティムの村から緊急でクエストが発注され、三パーティー合同での討伐に乗り出していた。
 群れの数は二十体を越えている。一パーティーでの対処では危険なレベルだった。

 俺としてはリカールがタイマンの勝率三割の相手なのは変わらない。だが、ニアパーティーと一緒に動いているならば話は別だ。
「影踏み来るよ!」
「了解!」

 赤い目をしている一体が大きく身構えるのを見て、エミリーが注意を飛ばし、ニアが答える。
 するとニアの背後に出現し爪で掻き殺そうとするが、ニアは振り向かずに長剣を自分の脇の隙間から突き出し、見事に喉元を貫いた。

 ……あんな曲芸、いつできるようになったのやら。
 苦笑いしつつ、目の前に迫る口元目掛けて斧を投げつける。

 無論、防がれてしまうが織り込み済みだ。
 自分の間合いだと勝ち誇ったような笑みを浮かべるリカールの脳天から顎に向かって鋼の棒が通過する。ソフィーの槍だった。

 引き抜かれ未だに自分が生きていると錯覚しているのか爪を振るうが、俺の斧の一撃で難なくトドメとなる。

 群れの中を飛び回る青い影。
 使い慣れた愛槍を振り回し、鈍色の旋風を巻き起こすソフィー。
 突き、薙ぎ、回転、跳躍、防御、回避。全ての動作を槍を起点に行い捌き、とんでも無い速度で次々と仕留めに掛かる。
 ソフィーの周りには警戒してリカールも近づかない。しかし、青髪の旋風から肉薄され目に見えない速度の刺突と殴打で呆気なく倒されていく。

 ……一人で半分は引き受けられるレベルだな、冗談抜きで。

 ソフィー無双と化している戦場、他の二パーティーはそれぞれが二体ずつを引き受けている。

「イクヤ! あっち見て!」
 エミリーに名前を呼ばれて指差された方向には、三人の商人らしき荷物を背負った男達が突っ立っていた。
「なんで戦闘音に気づかないんだ!」
 舌打ちしながら駆け出す。一体のリカールが向かったからだ。

 ニアもソフィーも目の前の敵に応戦している。俺しか動けない。

 近づいてくるリカールを相手に、長い槍を構えて威嚇する商人達。しかし戦い馴れていないのが目に見えて分かる。腰が引けている。
 だが、リカールの足を止めたのは良い判断だった。

 ギリギリで俺が間に割って入る時間が作れた。商人達を背に二本の斧を構えて庇う。

 真正面からのタイマン、足手まとい三人、格上、シチュエーションとして言えばかなりマズい。

 冷汗が背筋に流れるのを感じる。

 リカールが飛びかかりのモーションに入る。避けたいが、避ければ後ろの三人が。
 チラと後ろを見て歯を食いしばる。リカールがこちらに跳躍してきた。

 結局リカールの攻撃をモロに受けてしまった。牙は両手の斧で防いだものの、爪が右肩と背の左側それぞれに食い込み切り裂かれる。革鎧程度では易々と引き裂かれてしまった。
 熱い。激痛に顔を顰めるが、両腕に力を込め牙を数本折ながら押し返し、弾き飛ばす。
 悠々と後方に着地して再度構えるリカール。
 まずい、筋肉を切られたか? 背中の方の感覚がおかしい。

「エミリー! 治癒頼む!」
「任せなさい!」
 叫ぶと自信満々な返事が来たので、痛みながらも期待で口角が上がる。

「地獄の特訓の成果見せてみろ!」
「もうあんたにノーコンなんて言わせないんだから!」
 詠唱を終えたエミリーがロッドを振るう。以前よりも詠唱が速く、そして正確になった。
 苦手としていた遠隔の治癒、これさえ克服できていれば一線で戦える治癒魔法士だ。

 柔らかな緑色の光が現れる。
 傷口がみるみる塞がり、皮膚にその跡すら残さない程の回復力を見せた。

 ……リカールが。

「エミリいいいいいい!!」
「ごめんってーーー!!」

 体力全快となったリカールが軽やかに宙を舞う。
 狙いは満身創痍の俺。仕留めるのは容易いとの判断だろう。

 マジかよこれ。死ぬの?
 ここで?

 半笑いで迫る爪牙を眺める。
 逆フレンドリーファイアだろこんなの。
 ふざけんな。

「このノーコンがーーーーー!!」

 遺言がこんなのなんて、嫌だ。


――――――――


「いやあ、助かりましたよお兄さんのお陰で。これぞ英雄、冒険者ってな!」
「俺結局何もできてないし……礼ならそこのソフィーに」
「青髪のお姉さんは激強だよねえ。専属の傭兵やってくんない? 夜の方も相手してくれるなら二日で金貨一枚出してもいいけど」
「お断りやボケ!!」

 リカールの群れの殲滅が終わり、後始末は他の二パーティーが行ってくれていた。
 ほぼ損害も無いし仕事量として足りないと判断しての事だ。二十四体のリカールを討伐したものの、他にもうろついている可能性がある。その索敵と追撃役を買って出てくれたのだった。

 今は助けた商人達と話しつつ、怪我の治療を行っている。体を張って盾になったのはいいが、結局ノーコン治癒魔法士のせいで死にかけた。
 ソフィーが駆けつけてくれて事なきを得たが、間に合わなければ男四人の惨殺死体が増えていただろう。

「んで、エミリーさんよう……どういう事?」
「まあ、いつも当てられるとは限らないじゃない? あんたも斧投げ外してるでしょ」
「俺のは攻撃だし、全力で動く相手に予測で当ててんだよ。お前のは待ってる相手に当てるだけでいいのに何で外すんだよ」
「うっさいわねー、ネチネチしつこいっての地味男」
「特訓して命中率上がったんだろ?」
「そりゃ当たり前でしょ」
「何回中何回だ?」
「ふん……そんなの百発百中に」
「四回に一回、だっけ?」
「ニア!」
 剣の手入れをしながら答えるニアに、エミリーが口を塞ぎに掛かる。

「お前、終わった時は十回中八回って言ってなかったか?」
「そ、それは言葉の受け取り方の違いっていうか……」
「ふう。次は一か月ベックの所に放り込むか」
「!! それだけは無理!!!」
「なんや、エミリーちゃん楽しそうやなあ」
「可愛い美少女達に囲まれて、お兄さんも幸せな男ですなあ」
「「どこが?」」
 のほほんとするソフィーと糸目が印象的な商人の男に、二人でツッコミを入れる。
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