【第一部 完結】俺は俺の力を俺の為に使い、最強の「俺」となる ~便利だが不遇な「才能開花」のスキルでどう強くなればいい~

古道 庵

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第六話 特訓 前編

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「予想以上だ」
「と言うと?」
「予想以上に、あいつらは動けない。と言うか試験も講習もちゃんとやったのか俺疑ってるんだけど」

 場所はいつものギルド会館。定位置のカウンター席に座るアンナに、今日の顛末を報告していた。

「やりましたよー。ただ、試験は形だけなのはイクヤさんもご存じでしょう?」
「それにしても酷いって。問い詰めたら魔物の討伐経験なんか無かったぞ。経歴詐称だろ」
「冒険者の門戸は広いんですよー」
「そんなんだから新人が死ぬんだっての……」

 冒険者登録の条件として成人している事、運動能力に欠陥が無い事、そして魔物を倒した経験を持つ事が挙げられる。
 逆に言えばそれ以外の条件は無く、十四歳を超えていれば誰でも構わないし、文字の読み書きが出来なくても構わない。運動能力が低くても問題なし。と非常に緩いものだった。
 なのでせめて三つの条件ぐらいはクリアしていて欲しいものだが、今回はそれすら守られていなかった。

「なんで俺なのか分かったよ。上手い人に教えてもらってもあれじゃあな」
 精々五回やそこら同行してもらった所で強くなる事は難しいだろう。あの三人だけで魔物と連戦でもしたら数分も保たずに肉片になって腹の中だ。
「そう考えるとニアの親の感覚は正しいかもな……」
 大金をギルドに積んで愛娘の育成を依頼しているのだ。かなり適正な判断と言えるだろう。
「私からは何も言いませんけど、イクヤさんの推測の否定はしません」
 つまりはその通り、という事だ。

「請けたからにはやるけど、パワーレベリングは実力を伴わなくなるから死ぬの早めるぞ?」
「でも、アレクセイさん達は誰も欠けなかったじゃないですか」
「何回もやばい時はあったよ」
 個人等級が上がり過ぎて調子に乗って、格上の魔物に挑んで死にかけた、なんて事は枚挙に暇がない。
「じゃあ、そのコントロールもイクヤさんならバッチリですね! 経験者に頼むのが一番です!」
「はあ……」

 総合するとそうなる。才能呼び起こし経験値アップアイテムである俺が、過去の自分達の失敗を経てその匙加減を学んでいる。
 女子三人というだけでヤバいのに、Fランクの魔物すら倒した経験の無いド底辺ステータスパーティー。その育成資金は準備済み、俺は多額の借金を背負わされているし逃げられない状況。
 どう考えても噛み合い過ぎだし、ここまで断れないように固められているのは目の前の腹黒女の采配だろう。笑顔が怖い。

「さっさと一人前にして、自分の事に早く戻れるようにするよ」
「ええ、あの子達をよろしくお願いします。私も、せっかく入ってくれた冒険者さん達が居なくなるのは辛いですから」
 最後の一言には確かな感情が込められており、伏せた目が寂しげだった。
「報酬分の働きはするさ。所で、ちゃんとステータスの説明とかはしてるよな?」
「そりゃしてますよー。確認テストは酷かったですけど」
「点数は?」
「十五点と二十八点、あとはゼロ点です」
「はあ!?」
 驚きと同時に頭痛がしてきた。
 帰りからここまでの間に考えてきたプランが全て崩壊してしまった。


――――――――


「この世界って言っちまうと違和感があると思うけど、とにかくこの世界にはシステム的な仕組みがある。ギルドでの説明は聞いてるよな」
「自信は無いですが……聞きました」
「ちょっとでも前知識があればいい。俺なりの解釈も含めて説明するから」
「はいっ!」
 不安そうな表情を浮かべたニアの顔が明るくなる。




 俺を後衛に加えて四人で対する。相手はカルタロス。一言で言えば超巨大なカメムシだ。これだけ巨大な甲虫型の魔物が、外骨格の体構造で存在できているのにはこの世界特有の理由がある。

 ニアとソフィーがそれぞれ剣と槍を構える。最初に比べれば少しマシな構えになった。




「まず、HP、攻撃力と防御力、魔力に俊敏性……まあそんな感じで数値化されたステータスが存在する。で、色々と計算式があるんだけど大前提として、攻撃力が相手の防御力を越えていないとダメージが通らない」
「それはよく分かります……」
 ソフィーが消え入りそうな声で答えた。




 カルタロスがカチカチと顎を鳴らし始めたのを見て、ソフィーが踏み込み刺突を繰り出す。槍は当たったものの、その部位は後ろ羽根を覆う硬い外殻であり、弾き返される。




「繰り出す攻撃の属性、後は力の込め具合や技、それに乱数も多少絡んでるっぽいけど、とにかく斬撃系に関しては相手の防御力を上回らないと刃が通らない。そういう時は」




「えいっ!」
 ニアが跳躍し、ソフィーに噛みつこうとするカルタロスを剣で斬りつける。……と言うよりはぶっ叩いた。上手く頭部に直撃した剣は、その勢いのままに地に押し付ける。
 その隙を突いて槍の握り方を変えたソフィーが同じように胴を叩く。




「攻撃の属性を変えるんだ。打撃属性の方が相手が硬くても通りやすい。だから俺はこいつを使ってる」
 腰に差している、唐草模様のような細かな装飾の施された斧を取り出して机に置く。
 ほおおー、と感心するニアと違いソフィーの表情は曇ったままだ。
「そしたらあの、私も斧の方が……?」
「いや、そのままで構わない、こいつはこいつで扱いに慣れが要るから。ソフィーさんの槍なら柄でぶっ叩いてやればいい。しっかりと鉄で巻かれてる槍だから曲がりはしないだろうし。ニアの剣も斬撃と打撃のダメージは通るけど、前にも言った通り刃こぼれするし比率も斬撃寄りだから、あんま無理すんなよ」
「分かりましたっ!」




「ラストアタック、お前も行ってこい」
「えー、ダルいんですけど」
「どこのギャルだよ。おら、二人と差がつけられちまうぞ」
「はいはい」
 かなり不服そうだが白ローブのチビもボコボコと殴りつけている輪に加わる。これで戦闘経験によるステータスの加算が起きるだろう。そして俺が近くに居る事によりその上昇幅が大きくなる。




「俺のスキルについては聞いてるか?」
「はいっ! すごいスキルだと聞いてます!」
 具体的にどう、と聞いているのだが。目を輝かせて見つめるニアに気圧されて言えなかった。

「ま、まあスキルのランク的にはS……つまり”召喚人”特有のスキルなのは確かだけど。俺のスキルは”才能開花”で、自分の周囲の人間の才能や能力を引き出すスキルだ。だから俺と一緒に居るとステータスの上昇も早い。これは副次的な効果なんだろうけど」
「あの、一つ疑問なんですけど”スキル”と”才能”って違うんですか?」
 おずおずと挙手するソフィーに、一つ頷いて講釈を垂れる。

「”スキル”は後天的に取得が可能なもので、例えば槍を使い続けていくと”槍の遣い手”とか”槍の達人”ってスキルを得られる事がある。これが付くと槍を使った攻撃に倍率補正が掛かったり、刃の切れ味が落ちにくくなったりって効果がある。ただ、誰でも槍を極めればそのスキルが付くってわけでもないみたいだけど」
「じゃあ才能は?」
 ニアがふむふむと頷きながら質問してくる。
「”才能”はその人が元々備えているものだ。つまり後天的に付かないし持っていないものは取得できない。それと、基本的に才能は全て解放されてるわけじゃなくて、ある程度の条件を満たすと発現するらしい」

 目の前に座るニアとソフィーを尻目に、一人離れた席で砂糖と果実を混ぜたジュースを飲むエミリー。だが耳だけはこっちを向いているだろうから構わず続ける。
「一番分かりやすいのは”魔力の才能”だ。三人の中じゃ唯一エミリーだけが持ってるな。魔力を眼で見えるようになるこの才能が無けりゃ、魔法士になれない」
 治癒魔法士はその中でも更に特殊な部類なわけで、そういった意味ではエミリーはかなり貴重な存在と言える。
 まあ、今はある程度治癒魔法紛いの魔法も開発されてきているので、治癒魔法士の独占分野ではなくなっているらしいが。

「ニア様や私は魔法は絶対使えないんですね……」
「んな事は無いさ。どんな才能が眠っているかは人によって違うし、発現の条件だって個人差があるらしい。三十代になって魔力の才能に目覚めた人だって居るらしいし。俺と一緒に居ればそれも分かるさ」
「つまりは、それがイクヤ様のスキルの効果……?」
「そういう事。俺の”才能開花”は眠っている才能を引き出すスキル。条件を満たさなくても”引き摺り出す”ものらしい。だから俺の……元仲間達は短期間で一気に強くなった」
「あんたが自分を『都合の良いアイテム』とか言ってるのはそういう事ね」
 嘲笑うような響きで小さく呟いたのはエミリー。こっちに来ればいいのに面倒な奴だ。
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