【第一部 完結】俺は俺の力を俺の為に使い、最強の「俺」となる ~便利だが不遇な「才能開花」のスキルでどう強くなればいい~

古道 庵

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第一話 追放宣告 後編

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「ドラコアは確かに強敵だ。舐めてかかれる相手じゃない。それでも、僕達なら問題なく倒せていた」
 アレクの言葉は微かに震えている。

「……俺のせい、だからか。でも、昔はこういうミスお前らだっていくらでもしてきたし、その度に皆で」
「皆死にかけたんだぞ!」
 アレクがテーブルに拳を打ち付けると木製のテーブルが粉々に砕け散った。
「あんな所で、皆死にかけたんだぞ。気絶した君を背負いながら何を想っていたと思う!」
 俯いた姿勢のまま拳を固めている。後ろに立つ他の連中も無表情にこちらを見つめている。

「……なら、捨ててけば良かったじゃねーかよ! 邪魔者なんだろ!?」
「イクヤ、歯を食いしばれ」
 不意にライアンの声が降ってきたかと思うと、横っ面に衝撃が走りそのまま吹き飛ばされる。
 視界が二転三転して漸く勢いがなくなる。打たれた左の頬が熱い。

「良かったなイクヤ。ライアンが張り飛ばしてなかったら俺が殴り殺してたぞ」
 ファルコの冷淡な声が聞こえる。
「お前のそういう行動は何も今回だけじゃない。お前も分かってると思うが……ここ数カ月、何度も危うい場面があった。全体を見ている俺だからよく見える」
「仲間のカバーをするのが指揮役の仕事なんじゃねーのかよ、ファルコ」
「ああ、そうだ。だからお前が馬鹿な事をするのを織り込み済みでいつも作戦と指示を出してたんだよ。でも今回でハッキリしたろ。俺達とお前とじゃもう釣り合わないんだ」

 分かっては、いた。俺のスキルでどんどん強くなっていくこいつらに対して、俺の成長速度は遅い。加えて、もうここ一年は大きな能力の向上が起きてなかった。
 だからこそ自分よりも格上の相手を倒す事で、何かが変わると考えていた。ドラコアを仕留めに掛かったのは、千載一遇のチャンスだと思ったからだ。

「……悪かったよ、皆。頼むからまだ俺も入れてくれよ。お前達の事を嫌いになりたくないんだよ」
「ちっ」
 ファルコがバツが悪そうに頭を掻き後ろを向く。
「頼む」
 俺の心の底からの本音だった。誠意を見せる為に正座し、頭を床に付ける。

「本当にみっともない……」
 フィオーラの侮蔑の響きのある呟きが聞こえる。
 何とでも言えばいい。土下座でも何でもやってやる。

「イクヤ。君と過ごした日々は楽しかった。でも、もうこのパーティーに君の居場所は無い。皆で話し合ったんだけど、アディスを加入させる事になった」
「はあ!? あの女たらしをか!? アイツを入れるなんて馬鹿か!?」
「彼は気の良い友達だよ。君も知っての通り何度も入りたがってたわけだし」
「そりゃデイジーとフィオーラが狙いに決まってんだろ! あんな性欲塗れの野郎と一緒にやってくなんて無理だ!」
「別にあんたがよろしくやってく必要なんてないでしょ。あんたの代わりなんだから」
 フィオーラが冷たく言い放つ。

「フィオーラ、あいつに何度も口説かれて迷惑してたんじゃなかったのかよ」
「そりゃね。でもうちの男衆相手に下手はできないでしょ。いざとなったら股間を吹っ飛ばせばいいし」
 確かにフィオーラならやりかねないし、並み以上の男だとしても問題ないかもしれない。でも、デイジーは。

「奴は面倒な性格だが腕は確かだ。それこそ、お前のポジションをこなした上で援護もできる」
「俺とは飲み仲間だしな」
 ファルコとライアンがそれぞれに賛同の声を上げる。

「イクヤ。君には悪いけど、もう終わりなんだ。僕達と君が一緒に居られる時間は」
「……結局、俺は余所の世界の人間で、便利な力を持ってたから一緒に居ただけって事かよ。搾るだけ搾り取って、その後は用済みってわけかよ」
 情けない程に声が震える。怒りなのか、悲しいのか、悔しいのか、もう何も分からない。


「……ああ」
「仲間だと……友達だと思ってたのは俺だけだったって事かよ!」
「……そうだ」
「この……!」
 右手を振り上げ力任せにアレクの顔をぶん殴る。

 しかし、アレクは微動だにしない。逆に殴り掛かった俺が後退りさせられ、拳が痛む。
 そして踏んだ木片に気づき、床に散らばる元テーブルだった残骸を見下ろす。
 俺が本気で殴ってもびくともしなかったのに、アレクが殴れば粉々に砕け散る。

 どうしようもない壁を、境界を感じ、ただ苛立ちばかりが加速する。

「君なら、きっと上手くやっていける。君のスキルは誰からも求められるものだ。それに君はこの三年で強くなった」
「……はっ、皮肉かよ」
 目の前で示される力の差に、そして自分のスキルを利用する為に近づいてくる連中の顔が思い浮かび、叫び出したい衝動に駆られる。

 そうじゃない、そうじゃないんだ。俺は、俺は……

「もう、僕達の背中は預けられないんだ。だから君とはここでお別れだ」

 アレクの一言が静かに突き刺さる。同時に、頭に渦巻いていた様々な想いが引いていくのを感じた。


 そうか。もう、俺は一緒に並んで立っちゃいけないのか……


 まるで死刑宣告を受けたかのような気分だった。アレクの言葉が何度も頭を回り始める。

「は」

 俺の中にあった様々な想いや気持ちが、その渦を掻き回していく。

「はは」

 渦は大きくうねり、どす黒く濁り俺を壊していく。

「あははははははははははははははははははははははは!!」
 笑いが止まらない。ああ、嗤わずにいられない。ふざけんな。クソが。お前ら。ああ。俺が。

 笑いながらも、四人の様子が何故か冷静に見えた。
 ファルコは溜息を吐いている。ライアンは困ったようにこちらを見つめている。フィオーラは俺から顔を背けている。アレクは……俯いていて前髪で目が隠れ表情が見えない。

「はははははははは……はあ……」
 どす黒い渦が徐々に鎮まる。真っ白なキャンパスに、一滴の黒い雫が垂らされたような感覚。
 その雫は染み始め、そして俺に根を下ろす。ゆっくりと、少しずつ、決して消えぬように。

「分かった、抜けるよ。もう邪魔なんだもんな。才能も開花しきったし、ステータスの上昇も最近は少なくなってきてるもんな。俺の事は利用し尽くしたし、便利な道具ぐらいにしか思っちゃいないんだもんな」

 ずっと黙って見てやがる。何か一言でも気の利いたセリフを吐いてみろ。クズ共が。

「お前らの望み通り消えてやるよ。もう仲間でも友達でも何でもない」

 この気持ちは忘れない。絶対に。誓ってやる。

「見てろよ。必ず強くなってやる。てめえら如きじゃ足元にも及ばない程にな。てめえらを抜いて”俺が最強になってやる”」

 アレク達を指差し、啖呵を切る。
 もう終わりだ。この街に居ればこいつらと顔を合わせるかもしれないが、言葉を交わすのはこれで最後だ。

 これだけ言ってやったのに、誰一人反応しない。
 だがそれでいい。
 もう、交わす言葉はお互いに無いのだから。

 踵を返し足音を鳴らしながら外へと向かう。

「……楽しみにしている」

 小さく、そんな声が聞こえた気がしたが、空耳だろう。
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