ピュルゴス 〜英霊の塔〜

古道 庵

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「……何で死なないの」
少女の呟き。声が揺らいでおり、本当に理解ができない、といった響きが見て取れる。

彼を飲み込んだ魔法の触手達は何故か動きを止め、先端から粒子となって消え始めていた。

「これ、即死の魔法じゃないの? 恐慌の魔人と相討ちしたのよね? 命と引き換えに」
魔女の方を振り向くが、やはり答えない。黒い彫像のようなその顔が動く事は無いのだろう。
少女は明らかに顔を歪ませている。自らの思い通りにならない事を不満に思う、駄々を捏ねる直前の子供のような表情だ。

消えゆく触手の隙間から真相が明らかになる。
そこには複数の青い光が浮いていた。これまで幾度か見た、彼が剣やその身に纏わせる青の光。
しかし数が多い。それらの青い光が彼の盾になるように浮遊している。

「ここに来てまだ隠していた? 馬鹿じゃないの」
苛立ちを吐き捨てる少女の眉間には青筋が浮かび、純真で天真爛漫さも、他者を侮り蔑む余裕も失われており、怒りを隠さずただただ醜く歪んでいる。

青の光は、印象や形はこれまで見たものに似ていた。しかし薄く淡いものではなく、それぞれがはっきりとした色彩で力強い輝きを放っている。
脅威が去った事を悟ったのかそれらは散らばり、彼の前に間を開けて整列して浮く。その数は二十や三十はあるだろう。

「行け!!」
少女が吼えるように命令すると、人型の軍勢が一斉に動き出した。
最も速いのは双剣士と槍使い。同時に魔法が起こり、疾風の矢と投擲槍や暗器が放たれる。

だが彼に到達せず遠距離の攻撃は弾かれる。
そして迅雷の如き速度の一撃を与えようとした槍使いと、旋風のような双剣士の動きも止まる。

青い光の列が輝きを増しており、その光の鱗片が幻影を生み出す。
揺らぐ淡い光の影は、人間の形をしていた。

槍使いを防いだのは巨大な盾を構える男の影、双剣士を防いだのは小さな盾を両手に装備した少年の影。

守られている彼は、ここに来て大きく表情を変えていた。
朧気ながらも形を為した光達を、呆気にとられた様子で見ている。

青の幻影達は振り向いたり顔だけを向けたりと、明らかに彼に対して意識を傾けている。

彼はゆっくりと見回し、口を一度開けかけ、そして再びきつく閉じる。

言葉は掛けない。
ただ、小さく頷いて見せる。

すると光の幻影達はそれぞれに応えるような動作をしたり、しなかったりと疎らではあるものの、各々の得物を構え一斉に動き出す。

まず神官らしき影と、他にも男性の神職らしき男が祈るような動作をする。
すると彼に淡い光が灯り、傷口から溢れていた粒子の流出が弱まっていく。

攻撃を受け止めていた重騎士が槍使いを弾くと、彼は瞬時に槍使いに肉薄する。黒の槍使いは特に抵抗はしないまま斬り伏せられた。
そして少年剣士の影に止められていた双剣士が彼に襲い掛かろうとするが、そこに鎖付きの鉄球が飛来し絡め取る。黒の双剣士は地に落ちる前に青の少年剣士に斬り裂かれた。

前方に目を向けると、既に乱戦の様相を呈している。

遠距離武器や魔法での攻撃は互いに同様のものを展開し、相殺し合っている。
各所で斬りつけ、突き、防ぎ、様々な戦いが繰り広げられている。

数で勝る青い光の軍勢の方が優勢のようだ。明らかに押し込んでいる。
最奥に居る黒衣の少女は歯を剥き出し、憎悪の形相を向けている。

次々と斃される黒の軍勢。
青の軍勢も劣勢になる部分があるが彼が駆けつけて加勢し、打ち倒す。

そうして手の空いた者は再び光に変わり、彼の剣に集っていく。

「ああもう……!」
少女が苛立ちと共に腕を振り上げ、腕が一度液体のようになり二丁の銃を形成していく。

「この死に損ない!!」
闇色の閃光が彼を正確に狙う。
しかし青の幻影が身を挺して防ぐ。

少女は舌打ち混じりに、それでいて邪悪な笑みを浮かべる。
今度は鍔迫り合いや膠着に陥っている青の影を狙撃する。光線に穿たれた幻影は霧散し、それから光の残滓が彼の剣へと向かっていく。

だが少女の正確無比な連射により形成が押し戻された。
彼も協力し合いながら倒していくが、少女の銃の方が速い。

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