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13.village girl-ⅰ
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老剣士が崩れ去った後に残ったのは、彼と部屋の中心で浮遊する黒い輝きを返す球体。
真白な部屋の中で一滴の染みのような、ぽっかりと空いた空洞のような印象を与える。
彼は白い光を剣に纏わせながら近づく。
球体は微かに水面に波紋を立たせるが如く、表面の光が揺らめいている。
彼は躊躇する事なく斬ろうと振り上げると、揺らめく表面が激しく波立ち、彼に向かって槍のような棘を数本伸ばした。
一瞬の不意打ちではあったものの彼は反応し、剣で払いながら退がる。
その間にも球体は変化を続け、大量の血が滴るように床へと粘液を落としていく。彼は警戒しながらも白刃の一閃を繰り出す。
しかし溶解していく球体の周囲の床が剥がれ、複数の黒の人型へと姿を変えて身を挺して斬撃を防ごうとする。
五体程の壁ではやはり防ぎきれずに変容する球体の元へと斬撃が到達するが、ぬるりと潰れるように形を変えて回避し、再び収縮していく。
これまでのように床や壁から発光石が浮き上がり次々と黒い人型と生成されていく。彼は警戒するように後退した。人型達は槍を、剣を、弓矢を、魔法の光を、次々と繰り出し彼へと襲い掛かる。
暫く下階で潜り抜けてきた乱闘の様相を見せるが、あるタイミングでピタリと人型の動きが止まり、何の抵抗も無く彼に斬られていく。
それから波が引くように人型は退がっていき、円形に囲うように離れていく。
その円の中心に、黒いワンピースタイプのドレスのような衣服を纏った少女が現れていた。明るい茶色の少しクセのある髪が特徴的だ。
これまで出会った二人の女と比べると、この少女の顔立ちは目立つものではなく平凡なもの。年齢は十四か十五ぐらいだろうか、あどけなさと純粋さが滲み出ている。
「久しぶり。カッコよくなったね」
少女は本当に嬉しそうな、花が咲くような笑顔を彼へ向ける。
「大人になったんだね。髪が真っ白だから驚いちゃった。おじいさんみたい。……たくさん、戦ってきたんだね。色々と流れてきたよ。すごく、つらかったね」
一変して瞳を潤ませ、今にも泣き出しそうな表情に。
彼は瞑目し、顔を俯かせている。よく見れば剣を握っていない左手が微かに震えている。
「ねえ、お話しよう? 君の話が聞きたい。あの丘がいいな。星空が綺麗なあの丘に。村に帰りたいよ」
大粒の涙をぽろぽろと零し、彼へと手を差し出す少女。
「連れて行って。わたしは……また皆に会いたい。お父さんは、お母さんは……皆はどうしてるの?」
涙を手で拭いながら少女は彼へと近づいていく。
彼は俯いたまま動かない。
「なんで何も言ってくれないの? わたしの事……忘れちゃったの?」
目の前に迫り、もう一度手を差し出す少女。
「君の声を聞かせて。お願いだから……」
彼は少女を見据える。と同時に反応し、剣を振るう。
少女の差し出した手に先程の槍のような棘が生み出されており、それが伸びていた。
今まで彼の動きからすれば難なく躱し、返しの剣で斬り伏せる。その程度はやってのけそうなものだったが、彼の動きが精彩を欠いていた。一瞬遅れて剣を振るい何とか逸らすものの、左の脇を貫かれる。
「ふふ、やっと揺らいだ」
少女は妖しい笑みを浮かべ、そして嬌声を上げながら飛び退っていく。
「君の記憶の一番深い場所に居たのよ、わたし。こんな何の取り柄もない身体なんて使い途が無いかと思ってたのだけど……でも、このわたしが使うなら、この姿でも良いよね?」
ステップを踏むように軽やかに舞う少女。
「ねえ、そうやって感情を押し殺しているのは何かの契約か縛りなのかしら? わたしはね、ちゃんとわたしなの。今まで戦ってきた皆は紛れもなく皆そのもの。魂はここにある」
胸に手を当て邪悪な笑みを浮かべる。
「だから……お願い。今すぐここを降りて。わたしはわたしじゃない……どうしてわたしは生きてるの? なんで……」
一変、悲壮な表情を浮かべ泣きじゃくる少女。目まぐるしく表情が変わりその異常さが際立つ。
何よりも異様なのは、どれも本心からの動き、所作に見える事だ。
「ねえ……お願いだから……ねえ……死んでよ」
少女の背から漆黒の翼が生え、更にそこから先程の無数の槍が伸びる。
彼は静かに剣を握り直し、鈍色と黒のオーラを纏う。同時に青の光も空間に生じさせていた。
決意をしたような、微かに強い光を宿した瞳で睨み、彼は駆け出す。
幾本かの槍を跳ね除けた時、遠巻きに眺めていた黒の人型達も動き出した。
真白な部屋の中で一滴の染みのような、ぽっかりと空いた空洞のような印象を与える。
彼は白い光を剣に纏わせながら近づく。
球体は微かに水面に波紋を立たせるが如く、表面の光が揺らめいている。
彼は躊躇する事なく斬ろうと振り上げると、揺らめく表面が激しく波立ち、彼に向かって槍のような棘を数本伸ばした。
一瞬の不意打ちではあったものの彼は反応し、剣で払いながら退がる。
その間にも球体は変化を続け、大量の血が滴るように床へと粘液を落としていく。彼は警戒しながらも白刃の一閃を繰り出す。
しかし溶解していく球体の周囲の床が剥がれ、複数の黒の人型へと姿を変えて身を挺して斬撃を防ごうとする。
五体程の壁ではやはり防ぎきれずに変容する球体の元へと斬撃が到達するが、ぬるりと潰れるように形を変えて回避し、再び収縮していく。
これまでのように床や壁から発光石が浮き上がり次々と黒い人型と生成されていく。彼は警戒するように後退した。人型達は槍を、剣を、弓矢を、魔法の光を、次々と繰り出し彼へと襲い掛かる。
暫く下階で潜り抜けてきた乱闘の様相を見せるが、あるタイミングでピタリと人型の動きが止まり、何の抵抗も無く彼に斬られていく。
それから波が引くように人型は退がっていき、円形に囲うように離れていく。
その円の中心に、黒いワンピースタイプのドレスのような衣服を纏った少女が現れていた。明るい茶色の少しクセのある髪が特徴的だ。
これまで出会った二人の女と比べると、この少女の顔立ちは目立つものではなく平凡なもの。年齢は十四か十五ぐらいだろうか、あどけなさと純粋さが滲み出ている。
「久しぶり。カッコよくなったね」
少女は本当に嬉しそうな、花が咲くような笑顔を彼へ向ける。
「大人になったんだね。髪が真っ白だから驚いちゃった。おじいさんみたい。……たくさん、戦ってきたんだね。色々と流れてきたよ。すごく、つらかったね」
一変して瞳を潤ませ、今にも泣き出しそうな表情に。
彼は瞑目し、顔を俯かせている。よく見れば剣を握っていない左手が微かに震えている。
「ねえ、お話しよう? 君の話が聞きたい。あの丘がいいな。星空が綺麗なあの丘に。村に帰りたいよ」
大粒の涙をぽろぽろと零し、彼へと手を差し出す少女。
「連れて行って。わたしは……また皆に会いたい。お父さんは、お母さんは……皆はどうしてるの?」
涙を手で拭いながら少女は彼へと近づいていく。
彼は俯いたまま動かない。
「なんで何も言ってくれないの? わたしの事……忘れちゃったの?」
目の前に迫り、もう一度手を差し出す少女。
「君の声を聞かせて。お願いだから……」
彼は少女を見据える。と同時に反応し、剣を振るう。
少女の差し出した手に先程の槍のような棘が生み出されており、それが伸びていた。
今まで彼の動きからすれば難なく躱し、返しの剣で斬り伏せる。その程度はやってのけそうなものだったが、彼の動きが精彩を欠いていた。一瞬遅れて剣を振るい何とか逸らすものの、左の脇を貫かれる。
「ふふ、やっと揺らいだ」
少女は妖しい笑みを浮かべ、そして嬌声を上げながら飛び退っていく。
「君の記憶の一番深い場所に居たのよ、わたし。こんな何の取り柄もない身体なんて使い途が無いかと思ってたのだけど……でも、このわたしが使うなら、この姿でも良いよね?」
ステップを踏むように軽やかに舞う少女。
「ねえ、そうやって感情を押し殺しているのは何かの契約か縛りなのかしら? わたしはね、ちゃんとわたしなの。今まで戦ってきた皆は紛れもなく皆そのもの。魂はここにある」
胸に手を当て邪悪な笑みを浮かべる。
「だから……お願い。今すぐここを降りて。わたしはわたしじゃない……どうしてわたしは生きてるの? なんで……」
一変、悲壮な表情を浮かべ泣きじゃくる少女。目まぐるしく表情が変わりその異常さが際立つ。
何よりも異様なのは、どれも本心からの動き、所作に見える事だ。
「ねえ……お願いだから……ねえ……死んでよ」
少女の背から漆黒の翼が生え、更にそこから先程の無数の槍が伸びる。
彼は静かに剣を握り直し、鈍色と黒のオーラを纏う。同時に青の光も空間に生じさせていた。
決意をしたような、微かに強い光を宿した瞳で睨み、彼は駆け出す。
幾本かの槍を跳ね除けた時、遠巻きに眺めていた黒の人型達も動き出した。
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