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12.sword master-ⅱ

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真白な床が割れる。老剣士の姿が無い。
彼は何とか反応し青の光に触れる。澄んだ金属音。弾かれている、踏み込まれている。残る十にも満たない光が彼の元へと集まる。だが、遅い。

一合、二合と打ち合う度に体勢が崩されていく。その次に打ち合った音は、酷く不細工な鈍い音だった。
完全に腕が開いてしまった彼の胸に、右肩から左わき腹にかけて一閃が入る。

更に追撃の喉元狙いの突きだが、全ての青の光を纏い終えた彼の斬撃によって阻まれる。
互いに弾き合い、部屋の真中に降り立つ老剣士と壁にもたれかかる彼。

斬り裂かれた傷から大量の粒子が噴き出し、何とか壁に片手を突いて立ち続けるも満身創痍なのが隠せない。
それに対し老剣士は剣の具合を確かめるように刃筋を見つめている。

「この剣が欠けるか。苦し紛れながら凄まじい一撃だな」
呟き、構え直す。
「これで終わろう」
悲しげな響きを纏った言葉を残し、駆ける。

彼は傷口を押さえながら荒く息を吐く。
瞳の色が霞んでいる。口元からも銀の粒子が漏れ出ていた。
そんな状態でも、決意をしたように一度大きく息を吐き、老剣士を見据える。

瞳が黒に染まる。全身を青から灰、そして白へとオーラの色が変わっていく……だが、フッとそれらが消失する。
彼は見据える。自身に向かう神速の斬撃を。

澄んだ音が響き渡った。

老剣士が微かに笑っているように見える。互いに剣を打ち合い弾いていた。
返す剣が彼の腕を狙う。しかし彼も反応している。

鈴のような澄んだ音が連続する。

凄まじい速度での斬撃の応酬。互いに立ち位置は変えず、目まぐるしく互いに必殺となる剣を放ち、防ぐ。

二人の動きは次第に似か寄り、まるで同じ人物同士の立ち合いの様相を見せている。
剣が触れ合う度に互いの速度が速まっていく。
奏でる斬撃の音は最早美しさすら感じさせる程に。

互いの動きを知り尽くしているからこその読み合いだろうか。先の先を取り続け、もしくは返しを狙い隙を作り誘う。乗るも乗らぬもまた読み合い。それでも動き続ける。剣を打ち合わせ続ける。果ての無い打ち合いが続く。


永遠とも思える程の均衡も、不意に終わりが訪れた。
老剣士の斬撃を弾き、その隙に打ち込む彼。だが当然の如く読んでおり対応して捌く。
大きな隙が生まれた彼だが、老剣士は誘いと読んで受けの体勢に。彼は再び打ち込む。それを受ける老剣士。

「ほう」
老剣士が一言発した瞬間に、彼の剣が老剣士に吸い込まれていた。

驚きながらも老剣士は剣を逆手に持ち替えて突き立てようとする。しかしその剣が消えた。老剣士は笑う。彼の一刀が剣を弾き飛ばしていた。

一閃、二閃、防御も回避もできなくなった老剣士に斬撃が入っていく。
最後、腹を横一文字に裂かれ老剣士は膝を折った。
右手が無い。

「全く、全力を出せと言ったのにお前という奴は……しかしまあ、その選択は正しい。お前は次を見据えているのだからな」
老剣士は切り落とされた右腕を見ながら微笑む。

「本当に強くなったな。生きている時に叶わなかった、遂に私を負かす日が来るとは。望まぬ生だが悪くない気分だ」
彼を見据え、柔らかな表情を浮かべる。

「お前は私の、自慢の弟子だ」
その言葉を最期に老剣士は黒化し、崩れていった。
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