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第一章 学生編
模擬戦の一幕
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「四時の方向、八坂、二人頼めるか?」
ややくぐもった男の声が耳元で響く。それに対し通話のボタンを押しながら「了」と答え手を離す。
ようやく班員の連中も俺の使い方が分かってきたようだ。下手に連携に組み込むよりも、単騎で動かした方が効率が良い。
俺の動きに合わせきれるのはこの学校内でも二人か三人しか居ないのだから。軽く鼻を鳴らし、背丈を超える高さのあるススキの平原の中をひた駆ける。
今回の訓練の目標は「敵班長の撃破」であり、こちらの班長である二宮の索敵によると敵は二手に分かれて行動しているらしかった。
先兵か陽動か、若しくは裏を突く別動隊なのかは読めないが、散開しての警戒隊形を取っていた際に俺と近かったのでこちらを任される形になった。
このまま直進すれば恐らくぶつかるのだろうが、背の高いススキに囲まれているので視界が悪く動きにくい。
加えてレーザー銃である”狐火”のレプリカでは射線が遮られてしまうので効果が無いだろう。なので手には長身で両刃の西洋剣型の”斬馬”を手にしている。
再度、受信を知らせると共に「間もなく接敵する。距離五○。八坂頼んだ」
「班長、敵の姿が見えたよ、十時方向、三」
「了、皆勝つぞ」
二宮以外の班員からの通信も入り、班全体が戦闘状態に入った事を悟る。とりあえず目の前の二人を倒して援護に向かえば良いだろう。
草木を揺らす音が聞こえてきたので動きを止めて構える。敵からも捕捉されている可能性があり、単独であるという事が知られていれば良い鴨と思われているかもしれないからだ。
しかし、そうは楽観的でないだろう、何せ俺が居るのだ。過大評価でも誇張でもなく、俺を警戒しない者は誰一人として居ない。それだけの実力と実績は積み上げている。
既に一度目の班構成での訓練は終えており、今は二度目の班、それの二週目に入っている。なので訓練時の俺の動きは皆に知られる事になった。
こういった模擬戦では一度も負けがなく、俺一人で全滅に追い込んだ事も暫しある。なので最大限に警戒されているし、単独で行動している事が多い事も割れている。
だからこそ今回、二宮は班全体をばらけさせての隊形を選んだ。”鷹の目”による索敵で特定されるのを避ける為だ。しかし単独で居る所に集団で襲われれば間違いなく倒されてしまうので、誰がどこへ急行するか手順の確認は綿密に行われていた。
とは言え、そんな小細工をせずとも俺が居れば問題ないのだが。
足を止めて息を潜める。
先程まで草木を揺らしていた音が止んだ。相手も会敵を警戒しているのだろう。ここからは睨み合いになる。
しかし相手は二人、時間を与えれば準備され不利になるのはこちらだ。
意図的に纏衣に流す流量を多くする。俄かに駆動音が強まり、排気口から漏れ出る風の勢いも増す。時間の経過は包囲や作戦を立てる余裕を与え、単独で居るこちらの不利が増すばかり。時間を与えて利する事はない。
蓄積された力を解放し、ススキの原を全力で駆ける。自身の立てる音が大きく耳に届くが、そんな中でも微かに、ほんの微かに聞こえる音。纏衣の駆動音、排気される風の音、そこか。
走っている勢いを利用し低く跳躍。黄金色の穂の海を泳ぐように進み、腰に構えた斬馬を思い切り横薙ぐ。
「くそ!」
悪態を吐く声が聞こえると金属の打ち合う甲高い音が響き渡る。相手も手にしている兵装で防いだようで衝撃が走り腕が震えた。
刃の進行を阻まれた斬馬は束の間膠着するが直ぐにそれは解け、こちらの勢いに負けた相手が吹っ飛んでいく。
屈んだ姿勢で剣を受けた所でこちらの勢いを防げるはずもない。
「須我ぁ!」
飛ばされ尻もちを突いた相手は名前を叫ぶ。声からしてこいつは同じクラスの世良だろうか。そしてこいつの呼んだ名前。
背後のススキが大きく揺れ、不意に影が落ちる。
高可動時特有の甲高い駆動音、空気を巻き上げる音。
確認よりも先に反射で体が動き出す。両手で振り切っていた斬馬の勢いを利用し、左足を軸に回転。背後に迫る者と向かい合う形になった。
目の高さ程に跳躍したそいつは日本刀型の”刃桜”を構えており、空中で大きく上段に構え向かってきている。
斬馬の切り返しは間に合わないか。そう判断し、斬馬を地面に突き立て左手を離し、右手で柄頭を握り体重を全て預けて地面を蹴る。
相手が刃を振り下ろすよりも先に、こちらの伸ばした右足が腹に突き刺さり蹴り飛ばした。相手はそのまま吹っ飛んでいき、こちらは突き立てた斬馬を軸に旋回して着地。
地面から引き抜き最初に打ち合った相手……世良の攻撃に備え斬馬の腹を向ける。
予想通り世良は立ち上がっており背丈程ある長さの短槍”羽突(はづき)”での刺突を繰り出している。こちらのガードの体勢を見て微かに軌道をズラすも、それに対応し斬馬で受け止め、刀身を逸らして流す。
突撃の勢いを殺せない世良はそのまますれ違う形になり、立ち上がった須我に受け止められようやく止まった。
「やっぱ八坂か。奇襲はダメになったな」
「今ので仕留められないんだから奇襲も無理だろ。須我、本気でやるぞ」
「おう」
こちらと対峙する二人がそんな事を呟き、それぞれが構える。
さっきは本気じゃなかったのかよ、と世良の言葉に鼻白むも斬馬を正面に構え対する。
ややくぐもった男の声が耳元で響く。それに対し通話のボタンを押しながら「了」と答え手を離す。
ようやく班員の連中も俺の使い方が分かってきたようだ。下手に連携に組み込むよりも、単騎で動かした方が効率が良い。
俺の動きに合わせきれるのはこの学校内でも二人か三人しか居ないのだから。軽く鼻を鳴らし、背丈を超える高さのあるススキの平原の中をひた駆ける。
今回の訓練の目標は「敵班長の撃破」であり、こちらの班長である二宮の索敵によると敵は二手に分かれて行動しているらしかった。
先兵か陽動か、若しくは裏を突く別動隊なのかは読めないが、散開しての警戒隊形を取っていた際に俺と近かったのでこちらを任される形になった。
このまま直進すれば恐らくぶつかるのだろうが、背の高いススキに囲まれているので視界が悪く動きにくい。
加えてレーザー銃である”狐火”のレプリカでは射線が遮られてしまうので効果が無いだろう。なので手には長身で両刃の西洋剣型の”斬馬”を手にしている。
再度、受信を知らせると共に「間もなく接敵する。距離五○。八坂頼んだ」
「班長、敵の姿が見えたよ、十時方向、三」
「了、皆勝つぞ」
二宮以外の班員からの通信も入り、班全体が戦闘状態に入った事を悟る。とりあえず目の前の二人を倒して援護に向かえば良いだろう。
草木を揺らす音が聞こえてきたので動きを止めて構える。敵からも捕捉されている可能性があり、単独であるという事が知られていれば良い鴨と思われているかもしれないからだ。
しかし、そうは楽観的でないだろう、何せ俺が居るのだ。過大評価でも誇張でもなく、俺を警戒しない者は誰一人として居ない。それだけの実力と実績は積み上げている。
既に一度目の班構成での訓練は終えており、今は二度目の班、それの二週目に入っている。なので訓練時の俺の動きは皆に知られる事になった。
こういった模擬戦では一度も負けがなく、俺一人で全滅に追い込んだ事も暫しある。なので最大限に警戒されているし、単独で行動している事が多い事も割れている。
だからこそ今回、二宮は班全体をばらけさせての隊形を選んだ。”鷹の目”による索敵で特定されるのを避ける為だ。しかし単独で居る所に集団で襲われれば間違いなく倒されてしまうので、誰がどこへ急行するか手順の確認は綿密に行われていた。
とは言え、そんな小細工をせずとも俺が居れば問題ないのだが。
足を止めて息を潜める。
先程まで草木を揺らしていた音が止んだ。相手も会敵を警戒しているのだろう。ここからは睨み合いになる。
しかし相手は二人、時間を与えれば準備され不利になるのはこちらだ。
意図的に纏衣に流す流量を多くする。俄かに駆動音が強まり、排気口から漏れ出る風の勢いも増す。時間の経過は包囲や作戦を立てる余裕を与え、単独で居るこちらの不利が増すばかり。時間を与えて利する事はない。
蓄積された力を解放し、ススキの原を全力で駆ける。自身の立てる音が大きく耳に届くが、そんな中でも微かに、ほんの微かに聞こえる音。纏衣の駆動音、排気される風の音、そこか。
走っている勢いを利用し低く跳躍。黄金色の穂の海を泳ぐように進み、腰に構えた斬馬を思い切り横薙ぐ。
「くそ!」
悪態を吐く声が聞こえると金属の打ち合う甲高い音が響き渡る。相手も手にしている兵装で防いだようで衝撃が走り腕が震えた。
刃の進行を阻まれた斬馬は束の間膠着するが直ぐにそれは解け、こちらの勢いに負けた相手が吹っ飛んでいく。
屈んだ姿勢で剣を受けた所でこちらの勢いを防げるはずもない。
「須我ぁ!」
飛ばされ尻もちを突いた相手は名前を叫ぶ。声からしてこいつは同じクラスの世良だろうか。そしてこいつの呼んだ名前。
背後のススキが大きく揺れ、不意に影が落ちる。
高可動時特有の甲高い駆動音、空気を巻き上げる音。
確認よりも先に反射で体が動き出す。両手で振り切っていた斬馬の勢いを利用し、左足を軸に回転。背後に迫る者と向かい合う形になった。
目の高さ程に跳躍したそいつは日本刀型の”刃桜”を構えており、空中で大きく上段に構え向かってきている。
斬馬の切り返しは間に合わないか。そう判断し、斬馬を地面に突き立て左手を離し、右手で柄頭を握り体重を全て預けて地面を蹴る。
相手が刃を振り下ろすよりも先に、こちらの伸ばした右足が腹に突き刺さり蹴り飛ばした。相手はそのまま吹っ飛んでいき、こちらは突き立てた斬馬を軸に旋回して着地。
地面から引き抜き最初に打ち合った相手……世良の攻撃に備え斬馬の腹を向ける。
予想通り世良は立ち上がっており背丈程ある長さの短槍”羽突(はづき)”での刺突を繰り出している。こちらのガードの体勢を見て微かに軌道をズラすも、それに対応し斬馬で受け止め、刀身を逸らして流す。
突撃の勢いを殺せない世良はそのまますれ違う形になり、立ち上がった須我に受け止められようやく止まった。
「やっぱ八坂か。奇襲はダメになったな」
「今ので仕留められないんだから奇襲も無理だろ。須我、本気でやるぞ」
「おう」
こちらと対峙する二人がそんな事を呟き、それぞれが構える。
さっきは本気じゃなかったのかよ、と世良の言葉に鼻白むも斬馬を正面に構え対する。
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