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第一章 学生編
昼食デート?
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「でも抜け出すのに高出力可動を使ったのは感心できないわね。飛んだの見られた子達にはバレたんじゃないの?」
「あー……勘繰ってるとは思うけど、瞬間での高出力可動でやったって事で通してる」
俺の異常な陽流気は秘匿するように強く言われているので、本来ならばあんな動きをしてはいけなかった。
一般的な跳躍力で言えば二~三メートル前後だし、そもそもあんな高さから落ちたら無事では済まない。
「瞬間の……って、それ熟練の隊員でもできない芸当なんだけど。迂闊過ぎ」
子供を叱る母親のように口を尖らせ注意される。
だが俺にも思い当たる事があり「でも亀井先生なら再現できるでしょ?」と尋ねれば「まあ少しなら。でも五分も保たない」と返答。
それだけでも充分化け物と言えた。
一瞬だけ大量の陽流気を流し込む事で超人的な動きができる、とは野木先生から聞いた知識で、それ程持っている陽流気が多くない者でも、四級などの化け物クラスと対するのに扱う技術との事だった。
因みにあの事件の時に野木先生が見せた大跳躍もその技術を使ったもので、かなりの訓練と陽流気の流量をコントロールする技術が無ければできないものらしい。
野木先生曰く一戦闘で一回、それも一瞬限りが限界だと。
それを五分近く持続できるなどと事も無げに言ってしまう亀井先生は、ちょっとヤバい位の人らしい。
一曹で止まるような人材ではなく、小隊や中隊の中でもエースとして戦線に立てる人だと。
彼女のその才能を潰してしまうのが本当は惜しいと思っていた人も多いようだった。
しかし結局は前線から退き、こうして事務官として務めを続けている。
「まあ気を付けなさいね。それはそうと減衰器の調子はどう?」
「こっちはバッチリ。一個も兵装壊してないし」
そう言って識別輪と腕の間に挟んでいる一回り小さな腕輪を引き出す。
これのお陰で無意識なまま過剰に流してしまう流気の量を調整し、兵装が破損しない程度にまで出力を抑えてもらっている。
「これがあって尚、纏衣でそんな動きが出来るんだから恐ろしい話よね……」
当然纏衣に対してもこの機能は有効であり、同じく流れる陽流気は減衰している。
但し今回に限っては意図的に出力を上げたため出来た芸当であり、普段の出力であれば他の皆と大差のない動きしかできない。
暫し無言の時間が流れ、亀井先生は封を開いたサンドウィッチを口に運んでいる。
この状況を作るのも非常に勇気が必要だった。今は昼食の時間で、朝の処分が言い渡された後職員室へ赴き昼食に誘った。
教官を食事に誘う生徒など前代未聞との事で、職員室内が俄かにざわめいて居心地が悪かったのを強く覚えている。
だが誘われた当人は短く「いいわよ、私は奢られてないし」と言って承諾を受け、屋上で食べる事を告げて退出した。
色々と話したい事が多く、このような会話は教官や生徒の多い場所では憚られる。
なので特定の時期に利用者の少ない屋上を選択した次第だ。
それにしても、俺が野木先生のお疲れ様会を兼ねてラーメンを奢った事を知られていたようだ。
話したな、あのオッサン。
そんなこんなで購買でパンやらおにぎりやらを買い込んでここで待っていたのが十分前程。
何だかデートに誘うような心境で、亀井先生が現れるまで落ち着かず挙動不審になっていたかもしれない。
「それにしても久しぶりかもね。一緒にご飯なんて」
「あの頃以来っスもんね。なんか懐かしいや」
二人して空を見上げ、野木先生と三人で昼食を取っていた時に想いを馳せる。
朝に食べたい物を告げておき、亀井先生が出前を注文。
仮校舎とは別にあるダミーの事務所に届けてもらい、それを三人の内の誰かが取りに行って事務室で食べる。
色々と話をしたし、たまにお高い物も取ってくれたりして楽しみな時間だった。
経費だから別にいいのよ、と亀井先生は容赦なく万単位の額の、特上うな重を頼んでいた時にはドン引きしたものだ。
「私からしたらつい先日にも感じちゃうけど。これが歳の差って所かな」
ふう、と溜め息を吐いて自分の手の甲を見つめている。
「先生美人だし見た目も若いから噂になってるよ? 美人事務官が今年から配属されてるって」
世良や花垣が鼻息を荒くして俺に詰め寄ってきた事を思い出した。
俺が親密そうにしているから訝しんでいたようで、他の男子たちの中でも話題になっていたのだ。
「あらそう? 私もまだまだ捨てたもんじゃないって事ね」
「既婚者だって言ったら膝から崩れ落ちてた」
その時の様子を思い出して笑ってしまう。
それはもうお笑い芸人のような動きだったので、示し合わせていたんじゃないかと思う程。
「そう言えば恋愛とか須我君はどう?」
「どうって……」
「ほら、結構綺麗な子も多いし秀才だらけじゃない? 気になる子とか居ないの? それに君みたいなのはここだと一定の需要ありそうだけど」
そう言って覗き込んでくる。
「いや俺はそんなの全然……か、亀井先生こそ上手くいってんの?」
一つ頭に浮かんだ事があり、話題を逸らそうと話を振る。
「私はバッチリ。昨日は盛り上がって三回戦までいったし、なんなら今日から二週間は毎日できるからもう頭がいっぱいよ」
「うわあ、そういうの生々しいからやめてよ。俺童貞なんだから」
その言葉に分かりやすく「ハッ」と吐き捨て嘲りの表情を浮かべてきやがる。
「先生そういうの全然隠さず言うよな」
「隠す話でもないし、予防線にもなるからね」
なるほど、言い寄ってくる男を避ける為にか。
確かに堂々とこんな話をされると男の方は幻滅するかもしれない。
「それよりも露骨に話逸らした所見ると、何かあったでしょ?」
そう言うと上半身をこちらに近づけ間近で見つめられる。
薄いメイクながらも、長い睫毛を持つ大きな目で覗きこまれ思わずたじろいでしまう。
「……例えば助けた早水さん、とか」
「うっ」
思い当たる節ど真ん中の名前を突かれ、思わずリアクションをしてしまった。
「私に隠し事はできないよ? 君分かりやすいし」
より顔が近づいてくるので思わず顔を逸らし俯く。
「薄情なさい」
トン、と肩に手をかけられ畳みかけるように顔を近づけてくる。
何も言わずに俯いていると距離はどんどん近くなり、目前にまで近づかれる。
組手などの授業以外でこんな間近に異性が近づいた経験など無い俺は、とうとう堪えきれなくなり「分かった! 分かったから離れて」と手をバタバタと振り何とか引き剥がしに掛かる。
「話してくれるまで折れないわよ? で、どうしたの。好きになった? 好かれた?」
尚もしつこく聞いてくる亀井先生の表情は嬉々としており、ああ、この人冷やかしたいだけだなと確信する。
とは言え誤魔化せるような空気でもないので観念し、口を開く。
「実はさ、告られたんだ。早水さんに」
ぽつりと呟くと「は?」と理解が追い付かない様子で口を大きく開けている。
「あー……勘繰ってるとは思うけど、瞬間での高出力可動でやったって事で通してる」
俺の異常な陽流気は秘匿するように強く言われているので、本来ならばあんな動きをしてはいけなかった。
一般的な跳躍力で言えば二~三メートル前後だし、そもそもあんな高さから落ちたら無事では済まない。
「瞬間の……って、それ熟練の隊員でもできない芸当なんだけど。迂闊過ぎ」
子供を叱る母親のように口を尖らせ注意される。
だが俺にも思い当たる事があり「でも亀井先生なら再現できるでしょ?」と尋ねれば「まあ少しなら。でも五分も保たない」と返答。
それだけでも充分化け物と言えた。
一瞬だけ大量の陽流気を流し込む事で超人的な動きができる、とは野木先生から聞いた知識で、それ程持っている陽流気が多くない者でも、四級などの化け物クラスと対するのに扱う技術との事だった。
因みにあの事件の時に野木先生が見せた大跳躍もその技術を使ったもので、かなりの訓練と陽流気の流量をコントロールする技術が無ければできないものらしい。
野木先生曰く一戦闘で一回、それも一瞬限りが限界だと。
それを五分近く持続できるなどと事も無げに言ってしまう亀井先生は、ちょっとヤバい位の人らしい。
一曹で止まるような人材ではなく、小隊や中隊の中でもエースとして戦線に立てる人だと。
彼女のその才能を潰してしまうのが本当は惜しいと思っていた人も多いようだった。
しかし結局は前線から退き、こうして事務官として務めを続けている。
「まあ気を付けなさいね。それはそうと減衰器の調子はどう?」
「こっちはバッチリ。一個も兵装壊してないし」
そう言って識別輪と腕の間に挟んでいる一回り小さな腕輪を引き出す。
これのお陰で無意識なまま過剰に流してしまう流気の量を調整し、兵装が破損しない程度にまで出力を抑えてもらっている。
「これがあって尚、纏衣でそんな動きが出来るんだから恐ろしい話よね……」
当然纏衣に対してもこの機能は有効であり、同じく流れる陽流気は減衰している。
但し今回に限っては意図的に出力を上げたため出来た芸当であり、普段の出力であれば他の皆と大差のない動きしかできない。
暫し無言の時間が流れ、亀井先生は封を開いたサンドウィッチを口に運んでいる。
この状況を作るのも非常に勇気が必要だった。今は昼食の時間で、朝の処分が言い渡された後職員室へ赴き昼食に誘った。
教官を食事に誘う生徒など前代未聞との事で、職員室内が俄かにざわめいて居心地が悪かったのを強く覚えている。
だが誘われた当人は短く「いいわよ、私は奢られてないし」と言って承諾を受け、屋上で食べる事を告げて退出した。
色々と話したい事が多く、このような会話は教官や生徒の多い場所では憚られる。
なので特定の時期に利用者の少ない屋上を選択した次第だ。
それにしても、俺が野木先生のお疲れ様会を兼ねてラーメンを奢った事を知られていたようだ。
話したな、あのオッサン。
そんなこんなで購買でパンやらおにぎりやらを買い込んでここで待っていたのが十分前程。
何だかデートに誘うような心境で、亀井先生が現れるまで落ち着かず挙動不審になっていたかもしれない。
「それにしても久しぶりかもね。一緒にご飯なんて」
「あの頃以来っスもんね。なんか懐かしいや」
二人して空を見上げ、野木先生と三人で昼食を取っていた時に想いを馳せる。
朝に食べたい物を告げておき、亀井先生が出前を注文。
仮校舎とは別にあるダミーの事務所に届けてもらい、それを三人の内の誰かが取りに行って事務室で食べる。
色々と話をしたし、たまにお高い物も取ってくれたりして楽しみな時間だった。
経費だから別にいいのよ、と亀井先生は容赦なく万単位の額の、特上うな重を頼んでいた時にはドン引きしたものだ。
「私からしたらつい先日にも感じちゃうけど。これが歳の差って所かな」
ふう、と溜め息を吐いて自分の手の甲を見つめている。
「先生美人だし見た目も若いから噂になってるよ? 美人事務官が今年から配属されてるって」
世良や花垣が鼻息を荒くして俺に詰め寄ってきた事を思い出した。
俺が親密そうにしているから訝しんでいたようで、他の男子たちの中でも話題になっていたのだ。
「あらそう? 私もまだまだ捨てたもんじゃないって事ね」
「既婚者だって言ったら膝から崩れ落ちてた」
その時の様子を思い出して笑ってしまう。
それはもうお笑い芸人のような動きだったので、示し合わせていたんじゃないかと思う程。
「そう言えば恋愛とか須我君はどう?」
「どうって……」
「ほら、結構綺麗な子も多いし秀才だらけじゃない? 気になる子とか居ないの? それに君みたいなのはここだと一定の需要ありそうだけど」
そう言って覗き込んでくる。
「いや俺はそんなの全然……か、亀井先生こそ上手くいってんの?」
一つ頭に浮かんだ事があり、話題を逸らそうと話を振る。
「私はバッチリ。昨日は盛り上がって三回戦までいったし、なんなら今日から二週間は毎日できるからもう頭がいっぱいよ」
「うわあ、そういうの生々しいからやめてよ。俺童貞なんだから」
その言葉に分かりやすく「ハッ」と吐き捨て嘲りの表情を浮かべてきやがる。
「先生そういうの全然隠さず言うよな」
「隠す話でもないし、予防線にもなるからね」
なるほど、言い寄ってくる男を避ける為にか。
確かに堂々とこんな話をされると男の方は幻滅するかもしれない。
「それよりも露骨に話逸らした所見ると、何かあったでしょ?」
そう言うと上半身をこちらに近づけ間近で見つめられる。
薄いメイクながらも、長い睫毛を持つ大きな目で覗きこまれ思わずたじろいでしまう。
「……例えば助けた早水さん、とか」
「うっ」
思い当たる節ど真ん中の名前を突かれ、思わずリアクションをしてしまった。
「私に隠し事はできないよ? 君分かりやすいし」
より顔が近づいてくるので思わず顔を逸らし俯く。
「薄情なさい」
トン、と肩に手をかけられ畳みかけるように顔を近づけてくる。
何も言わずに俯いていると距離はどんどん近くなり、目前にまで近づかれる。
組手などの授業以外でこんな間近に異性が近づいた経験など無い俺は、とうとう堪えきれなくなり「分かった! 分かったから離れて」と手をバタバタと振り何とか引き剥がしに掛かる。
「話してくれるまで折れないわよ? で、どうしたの。好きになった? 好かれた?」
尚もしつこく聞いてくる亀井先生の表情は嬉々としており、ああ、この人冷やかしたいだけだなと確信する。
とは言え誤魔化せるような空気でもないので観念し、口を開く。
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