-ヨモツナルカミ-

古道 庵

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第一章 学生編

処遇

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「正隊員ではないとは言え、命令違反に加え独断での危険な行動。これらは充分厳罰を処すのに足りる」

現在八帖程の狭い部屋の中、三人の教官を前に直立して中央の男の叱りを受けている真っ最中だ。

目の前に立つのは右に実地訓練や演習を担当する青竹教官、左に一組の担当である佐々木教官。
そして中央の法規と隊規と生徒指導役の平松教官が腕を組みこちらを睨みつけている。

三人の偉丈夫を前にただただ萎縮する他なかった。

「正隊員となる資格なし、という事で退学の措置も視野に入れるべきとの声も上がっている。私は最初からお前のような特例は許すべきではないと思っていたのだがな」
平松教官の言では俺の編入自体に反対していたという事だろうか。

「しかしまあ、被災した早水 竜胆(はやみ りんどう)の証言ではツキノワグマに襲われる寸前であり、お前の到着が遅れていたら命は無かったと記載されている。その所、青竹教官はどう思う」
水を向けられた青竹教官が銅像のような無表情のまま口を開く。

「私が現着した時には既に熊の姿は無く、重傷の早水を須我が介抱しようとしている所でした。しかし、大型動物の足跡らしきものが散見できました。早水の言う時間に熊が居たかの真偽はともかく、周辺に熊が訪れた痕跡があった事は確かです」
青竹教官の発言を聞いて低く鼻を鳴らす平松教官。

「証拠として不十分ではあるが、考慮の余地はありそうだな。仮にそれが事実だとしたら青竹教官、命拾いしたのは貴官も同じだな」
「はい、重く受け止めております」
横目で青竹教官を見るその目は獲物を狙う蛇のようで、どこか嫌悪感を感じさせるものだった。
青竹教官がそれ以上の反応を示さないのを見届けると、再び俺へと視線を戻す。

「まあお前は浅間司令補よりお預かりしている身だ。こちらの判断のみで退学させる事も難しい。よって、放課後に隊規の授業の補習と、一カ月間の演習禁止の処分で決定した。無論、反省文も提出するように」

尋問じみた雰囲気だったので何をされるのかとやきもきしていたが、最初から俺の処遇は決まっていたようだ。
とりあえず、内心で安堵する。

「失礼を承知で、発言をしてもよろしいでしょうか」
右手を上げて真っすぐ平松教官を見る。
そうでなければ気圧され、逃げ出したい気持ちに負けそうだったからである。

平松教官は癖なのか再び嘲るように鼻を鳴らし、よろしい、と一言。

「早水さんの処遇はどうなりますか」
「早水 竜胆については特に咎める事はない。全治二か月、四週間の絶対安静と言うのが彼女にとっては充分に罰となるだろう」
それを聞いてようやく胸の痞えが解消された。
彼女に何か重い処分が下されてしまわないか、それだけが心配だったのだ。

「これから放課後の三時間、青竹教官より欠かさず補習を受ける事。反省文もすぐに提出しろ。半端なものなら受け取らないからな。担任の佐々木教官もよろしいか?」

「はい、私も異存はありません。須我と早水、及びD班・E班の指導も今後行っていきます」
佐々木教官の返答に頷くと「それでは須我 結人の処遇については以上とする」と締め括った。

それに対し室内の三人が答え、退出する。



「……ってことなんで亀井先生、これから二週間は青竹教官の補習受ける事になったから、先生からの補習は休みでお願いします」
場所は変わり青空が広がる校舎の屋上。
日差しがきついこの時期は、日陰の少ない屋上は不人気であり生徒達の姿も疎らだ。

数少ない日避けできる場所。そこにある備え付けのベンチに腰を下ろし、亀井先生と二人でパンや握り飯を挟んで横並びに座っている。

「私は別に構わないよ。寧ろこれから二週間は早帰りできてラッキーこの上ないし」
涼やかに答える先生の横顔を見つつ「俺との補習そんな嫌だった?」と聞くと「望まぬ残業そのもの」と返され、思わず項垂れてしまう。

そりゃあ平日二時間の居残り授業に付き合ってもらっているから負担なのは分かっているが、もう少し言い方を考えて欲しい。

俺だって申し訳なく思っているのだから。
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