-ヨモツナルカミ-

古道 庵

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第一章 学生編

補習授業:丙種兵装について

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「それじゃ、丙種については詳しくどんな物か教えてもらってもいいですか?」

「了解。じゃあどんな物か詳細も話すね。丙種も1~5類あって、まず丙種1類の電子兵装群。これは”燕”を始めとした通信機や、”秤”のように瘴度を測定したり、”鷹の眼”のようなレーダーの役割を持つ物など電子機械と兵装技術が組み合わさった兵装ね。これの利点は、瘴気領域内でも電子機械を運用できる事や、電波に瘴気による阻害技術を施して傍受を防ぐ効果がある事。瘴気内部と外部との通信の要でもあるし、比較的必要とされる陰流気も少ないから、使用できるように授業で覚えておきなさい」

「はい」
亀井先生の言に答えはするも、でも俺ゼロなんだよなと内心苦笑する。
元々自分には使えないという話だったので、丙種についてはちゃんと覚える気になれなかったのだ。


「次に丙種2類、結界兵装群。これは最近だとあまり使われていないかもね。瘴気と電気で障壁を作り、暗鬼の行動を阻害する目的で作られているんだけど、瘴度の低い五級は嫌がるようで効果があるけど四級以上には無視されてしまうのが現状なのよね。初期の頃は結構効果が大きかったらしいのだけど。高出力型も作ってはいるんだけど、何せ陰流気は元々の数値が小さいから負担が大き過ぎて扱える人居なくて、今は倉庫で束になって眠ってる。もうちょっと実用的になれば利用価値があるんだけどね」

確かに、暗鬼の移動範囲を制限したり、自分たちを囲むように設置すれば即席の陣地を確保できたりと、パッと思いつくだけでも色々と浮かんだ。
今は使われてないらしいが技術が進めばもう一度復権する時が来るのだろうか。

「丙種3類、救護兵装群。救護活動や治療行為を行う兵装。これは医療の知識を持っている救護班だけが所持する少し特殊な分類になる。主な機能は”命根(みょうこん)”のような再生治療具や、”環血(かんけつ)”のように輸血を行う設備の展開など、直接治療したり設備を展開できる。”前線衛生班”については分かる?」

「はい、暗鬼との戦地で治療を行う班や部隊ですよね。俺も助けられました」

俺の答えに頷き話を続ける。
「そう。彼らの役割は前線で戦闘不能になった者を救護するというものなんだけど、傷を塞いだり壊死を食い止めたり、簡易的な義足を付けたりして最低限動けるようにして撤退させるのが仕事。彼らの特殊性について言うと、猟特隊員ながら医療知識を持っていて、尚且つ高い陰流気を持っている事が条件なわけで、兎に角人材が少なくて小規模な編成に留まっているのが実状。でも死地に赴く私達の、唯一の命綱になる部隊であると認識しておいて」

「後からは陰流気は上昇する事は無いから……ですよね」
「その通り、陽流気は変動していて後天的に伸びるけど、陰流気に関しては生まれ持ったもののまま変わらないというのが常識になっている」
言い終わると少し手を止めてこちらに向き直る。

「まあでも君は色々とイレギュラーだから、もしかしたら伸びるかもしれないけどね。陰流気がゼロなんて事例はまだ四名しか見つかっていないレアケースだし」
「じゃないと俺丙種使えないですもんね。因みに今の俺の陽流気は幾つなんですか?」

問うと人差し指を口元に当て「それは秘密。まあ入隊の時の楽しみにでも取っておきなさい」と、亀井先生は優しく微笑んでこちらを見ている。
笑うと尚更美人なんだよな、と束の間ぼんやりと眺めていた。


「それじゃ次。丙種4類、携帯兵装群。ちょっと名前では分かりにくいけど、野営に必要な物資や電化製品を収納していたり、弾薬なんかを大量に収納出来たり、暗鬼の遺骸を回収するのに使用したりと様々な用途がある。これから数日間の演習をすると使うけど、本当に便利で何でも揃うのよね。災害派遣の時にも大活躍するし。とは言え展開している人物にコードが繋がって流気を供給し続けないといけないから、原則連続十二時間までにされているけど」

「いつも不思議に思ってるんですけど、何であの筒に明らかに入らない大きさの物が収納できるんですか?」

それを聞くとあから様に嫌そうな顔をしながらも亀井先生は答えてくれた。

「詳しい仕組みについては実は分かってない。ただ、暗鬼って猫ぐらいの大きさでも体重は五十キロ以上あったり色々と物理法則を無視しているから。研究部門の隊員曰く『暗鬼の外皮には物質を圧縮し封じ込めながら機能を再現できる能力があるんじゃないか』というのが推論として出ている。でも実際の所はよくは分からないけど使ってみたら利用できた。だから最大限利用する。こんな感じで過去に使い始まってるんだよね」

「なんかおっかないですね」
素直な感想を述べる。
「まあ仕方がない部分もあるんだけど。それなんて言ったら黒結晶が最たる物だし」
お互いに微妙な笑みを浮かべつつの会話となる。

よく仕組みも原理も分からないが、何となく使っていてその恩恵を享受している。これらに限らず他にも色々とそういった物が世の中には溢れていて、いつか予想外の形で牙を剥くんじゃないかと漠然とした不安に駆られてしまう。


「それじゃ最後。丙種5類、化学兵装群。これもなかなか使われにくい物なんだけど、要は暗鬼に対して化学的なアプローチを試みる兵装と言うのが正しい説明になるかな。暗鬼の外皮ってかなりの硬度があるから、それを溶かす薬品を散布したり、感覚機能を阻害したりだとかそういった方向性で開発が進んでいる。兵装としては最後に加わった新しい分類の物で、殆ど一人で開発してるちょっと色モノな兵装ね。これも有効性が今一つな所があるけど、使いやすく改良ができれば作戦級の兵装に化ける可能性はある、というのが開発者本人の言。これで一通りだけど大丈夫?」

「はい、粗方は分かりました。やっぱり丙種に関してはかなりうろ覚えでしたね」

「しっかり記憶してね。他に気になる所はある?」
問われて束の間考える。どこが気になるかと言えば本当に基礎の基礎から分からない事だらけだ。

「えーと、まずは瘴気の中和機構の辺りから……」
「長くなりそうだなあ、じゃあ兵装基礎理論からか」
「すんません……」
呆れ気味の亀井先生ではあるがきっちりと教えてくれる。面倒見の良い姉のようで、本当にありがたい。

そう言えば野木先生とは少しは進展があっただろうか。明らかに野木先生は惚れてる様子だったが、亀井先生はと言えば既婚者なのできっちり線引きされていたのを覚えている。

「おーい、なんか別の事考えてない?」
「いえ! 全く!」
「ならいいけど」
相変わらず勘も鋭い。


その後も授業は続き、こちらの質問にも根気よく答え続けてくれるお陰で少しずつ覚える事ができていった。
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