-ヨモツナルカミ-

古道 庵

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第一章 学生編

補習授業:甲種と乙種兵装について

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軽くドアをノックして
「三年一組、須我 結人です。亀井事務官へ補習のお願いに参りました」
と言うと直ぐにどうぞ、と男性の声が聞こえてきたのでスチール製のドアを開く。

「失礼致します」
と入ってからの一礼。ここまでが入室の決まりになっていた。

中学の頃の教室と比べるとずっと広いこの学校の教室ではあるが、この教官室は更に三倍程の広さがある。
それぞれに事務スペースが確保された教官室内では、三十名程の教官や事務官が仕事をしていた。

いつものように最も奥の席に居る亀井先生の元へと向かっていく。
「今日もお疲れ様、何か変わった事はある?」
作業を行っていた手を止め、こちらを向き尋ねてくる。
「いえ、特に変わった事は。それより、本日は”兵装”についての復習をお願いしたいと思っております」
少し前までは歯が浮くような気分になってしまい苦手であった敬語にも、ようやく慣れつつある。

「兵装についてですね、分かりました。では学習室へ」
「よろしくお願い致します」
亀井先生が立ち上がり、俺も連れ立ち教官室を出る。向かうは二階にある学習室だ。

「亀井先生、さすがに俺もう限界。結構しつこいよ」
共に学習室へ向かう道中、階段を登りながら愚痴る。
「まあそう言わずに。あと十カ月ぐらいなんだから頑張りなさいよ」
「もう尋問みたいになってるんスよ?」
教官室から出たのでお互い口調が崩れ、少し前までの関係性に戻っていた。やはり亀井先生と話していると落ち着く。

放課後の毎日二時間程、補修として俺の勉強に付き合ってくれている。
基本的には亀井先生の方で内容は決めているが、授業の中で詳しく知りたい事や疑問に思ったことがあればこうしてお願いすると、それについての授業をしてくれる。
分からない事だらけの俺にとっては、とてもありがたかった。

「兵装についてだけど、どの辺りから?」
「できれば頭から教えて欲しいス」
「えー……今更?」
「すんません」
学習室のドアを開いて照明を点けながらやり取りする。申し訳ない気持ちでいっぱいではあるが、本当に疎らにしか覚えておらず今日の授業は最悪だった。

「まあいいけど。でも今日教える事は絶対に暗記しておいてね。野木さんが泣いちゃうから」
「返す言葉も無い……」
すっか小さくなって席に座る。

「始めます」
「よろしくお願い致します」
これが二人の授業開始の合図で、緩んだ空気を引き締める。

「まず兵装の概要だけど、対暗鬼討伐用兵器として作られているのは分かるよね。材料としては電力用黒結晶ではなく、兵装用として”瘴気”を取り出す事ができる黒結晶、電子部品や金属や樹脂、それと暗鬼の外皮や骨、臓器繊維などを利用して組み立てられる。これらは猟特隊内の研究部門と開発部門で製造している。ここまでは大丈夫ね」

「はい。加工前の黒結晶も見ているので分かります」
今年の頭、”神仕の儀”で本宮を訪れた時に黒結晶の加工工程を見た。
かなり悍ましく、”天雲道”がどれだけ異常な宗教団体かを見せつけられたものだ。宗教に傾倒するマッドサイエンティスト……今の俺の中での天雲道のイメージはそう固まっている。

「それで、兵装を使用する事になった経緯だけどそこは大丈夫?」
「はい、瘴気によって通常兵器の効果が見られず苦戦していた所、瘴気を中和できる兵装が登場し主力になった。と」

「概ね大丈夫そうね。それじゃ兵装の種別の話に移ると、まず大きく分けて”甲種”、”乙種”、”丙種”の三つに分類される。定義としては”甲種”と”乙種”が陽流気を使用して起動し、”丙種”は陰流気を使用する。甲乙と丙の違いはこれね」
ホワイトボードに大きく三つの文字が描かれ、甲と乙の文字が一つの丸に括られた。

「そして甲種と乙種の違いだけど、単純に出力で分類されている。一般隊員の陽流気では甲種の運用はまず不可能。必要とされる流気の値が桁外れに大きい。そして、それだけの威力と出力を持っていると思って」
言い終えると今度は数字が加えられていく。

「更に細かく分類すると。甲種は1類と2類が存在している。甲種1類は全兵装内で最大の出力を誇り、個人ではなく複数人での運用を前提に作成された大型兵装。二級は勿論一級に対しても高い効果が期待されている兵装ね。基本は一つの班……六名で運用する。次に甲種2類だけど、1類より出力は落ちるものの個人に貸与されている高出力兵装。個人での陽流気が突出している隊員が使用していて、これを持っている隊員はこちらの最大戦力として特記されています」

「俺も入隊したら甲種もらえる可能性あるんですかね?」
「校内でそういう事言わないの」
一言で制され迂闊だったと気付き口を閉じる。

「次に乙種だけど、ここからは目的や役割で分類されていて、甲種のような出力での分類ではなくなっている。1~5類まであって、乙種1類は近接斬撃兵装群、刀や槍、ナイフなんかの斬りつける兵装ね。乙種2類は近接打撃兵装群、主に槌や籠手、鞭なんかも該当する。乙種3類は中距離刺突兵装群、弓矢や投擲系の兵装を指す。乙種4類銃火器兵装群、これはその名の通り。最後に乙種5類防護兵装群、”纏衣(まとい)”を始めとした盾や鎧の兵装が該当する」

ホワイトボードに書き連ねられた文字を写し記していく。甲種と乙種は覚えやすいので記憶にある。

甲種1類は、複数人で使用するとんでも威力の兵器。野木先生から聞いた”大雷(おおいかづち)”がそう。
甲種2類は、1類より落ちるがそれでもすげえ威力の兵器。出来ればこれが欲しい。

乙種1類は、斬りつけるタイプの兵装。刃桜(はざくら)がそうだ。
乙種2類は、殴るタイプの武器。
乙種3類は、弓矢だとかの中距離。
乙種4類は、狐火(きつねび)みたいな銃火器。
乙種5類が纏衣とか盾だとかの防御タイプ。

こんな形で覚えられている。
問題は丙種の方だった。

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