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プロローグ
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祝福の花嫁。
それはアルムウェルテン王国が奉る幸いの女神の祝福を受けた者。国で一番清らかで誠実な心を持つ純潔の乙女。
彼女が幸せであれば国は富み、大地に恵みが溢れ、人々の病は癒えると言う。神話に登場する癒やしの力を持つ聖女とはまた違う、国に愛と恩恵をもたらす存在。
そんな存在が誕生すると女神より神託がおりた。
大神官は神殿の女神像の前に平伏し、これから与えられる恵みに感謝を述べた。国王の号令の下、純潔を守っている高貴なる血を持つ乙女達は王都の大神殿に集められることとなった。花嫁が貴族であった場合には国に仇なす者共の手に落ちぬよう、ただちに保護するためだ。
また、騎士団が国内の各所に送られた。平民であっても祝福の花嫁の身はやはり守られねばならない。速やかに見つけて保護するためだ。
祝福の花嫁は王都の大神殿にある幸いの女神像が発する光により選ばれ、その身には花嫁に選ばれし証が現れる。古代より伝えられているその証を下に騎士達は花嫁探しをする。
今現在アルムウェルテン王国に住まう誰にとってもこれは初めての出来事だった。以前この神託が下されたのは、王家の歴史書に寄れば二百年以上も前のことだからだ。
何故幸いの女神はこのような形で特別な恵みをもたらすのか。それは彼女が、愛によりもたらされる幸福を司る女神だからであると言われている。ただ、いつ、どのようなきっかけでこの恵みがもたらされるのか、それは明らかになっていない。
国が特に疲弊したときの救いであるとか、幸いの女神が感嘆するほどの献身を示した者への褒美であるとか、様々な憶測が歴史書に記されている。
大神官は幸いの女神からの神託の詳細を王家に告げた。一週間後、王都の神殿にある女神像から放たれる光によって誰が祝福の花嫁であるかが分かるらしい。
そしてもしその選ばれた花嫁が誰にも恋をしていなければ花嫁の花婿には王家の直系の者が選ばれる。花婿は花嫁を必ず幸せにしなければならない。これは王族としての重要な責務なのだ。
「……ふ~ん」
目の前で熱弁する男の話にクリストフはどうでも良さそうに返した。
「面倒だね、その花嫁って」
素直に心中を表した言葉に頭上から叱責が飛ぶ。しかしクリストフは気にしなかった。
当たり前だ。見も知らぬ女を幸せにする義理などない。大体、幸せにしなかったらいいことが起こらないなんて。そんな面倒な存在なら逆にいない方がいいだろう。
「よろしいですか、殿下。これは建国の折、力を貸して下さった女神様のことを邪竜の悪しき炎よりその身を挺してお守りした大将軍の娘が亡くなった際、その献身と大将軍の嘆きに心を打たれた女神様が大将軍の娘の命を蘇らせ、さらに彼女の清らかな身と心を通じて、女神様が地上から去った後もこの国にあまねく祝福が行き渡るよう」
この長ったらしい説教はもはや聞くに値はしない。
穏やかな陽光が差し込む白花の館の午後、クリストフの心はすでにこの後のまどろみの時間へとさまよい始める。
講釈を垂れる目の前の男と自分がこれからどうなるのか、今はまだ知らぬが幸いであった。
それはアルムウェルテン王国が奉る幸いの女神の祝福を受けた者。国で一番清らかで誠実な心を持つ純潔の乙女。
彼女が幸せであれば国は富み、大地に恵みが溢れ、人々の病は癒えると言う。神話に登場する癒やしの力を持つ聖女とはまた違う、国に愛と恩恵をもたらす存在。
そんな存在が誕生すると女神より神託がおりた。
大神官は神殿の女神像の前に平伏し、これから与えられる恵みに感謝を述べた。国王の号令の下、純潔を守っている高貴なる血を持つ乙女達は王都の大神殿に集められることとなった。花嫁が貴族であった場合には国に仇なす者共の手に落ちぬよう、ただちに保護するためだ。
また、騎士団が国内の各所に送られた。平民であっても祝福の花嫁の身はやはり守られねばならない。速やかに見つけて保護するためだ。
祝福の花嫁は王都の大神殿にある幸いの女神像が発する光により選ばれ、その身には花嫁に選ばれし証が現れる。古代より伝えられているその証を下に騎士達は花嫁探しをする。
今現在アルムウェルテン王国に住まう誰にとってもこれは初めての出来事だった。以前この神託が下されたのは、王家の歴史書に寄れば二百年以上も前のことだからだ。
何故幸いの女神はこのような形で特別な恵みをもたらすのか。それは彼女が、愛によりもたらされる幸福を司る女神だからであると言われている。ただ、いつ、どのようなきっかけでこの恵みがもたらされるのか、それは明らかになっていない。
国が特に疲弊したときの救いであるとか、幸いの女神が感嘆するほどの献身を示した者への褒美であるとか、様々な憶測が歴史書に記されている。
大神官は幸いの女神からの神託の詳細を王家に告げた。一週間後、王都の神殿にある女神像から放たれる光によって誰が祝福の花嫁であるかが分かるらしい。
そしてもしその選ばれた花嫁が誰にも恋をしていなければ花嫁の花婿には王家の直系の者が選ばれる。花婿は花嫁を必ず幸せにしなければならない。これは王族としての重要な責務なのだ。
「……ふ~ん」
目の前で熱弁する男の話にクリストフはどうでも良さそうに返した。
「面倒だね、その花嫁って」
素直に心中を表した言葉に頭上から叱責が飛ぶ。しかしクリストフは気にしなかった。
当たり前だ。見も知らぬ女を幸せにする義理などない。大体、幸せにしなかったらいいことが起こらないなんて。そんな面倒な存在なら逆にいない方がいいだろう。
「よろしいですか、殿下。これは建国の折、力を貸して下さった女神様のことを邪竜の悪しき炎よりその身を挺してお守りした大将軍の娘が亡くなった際、その献身と大将軍の嘆きに心を打たれた女神様が大将軍の娘の命を蘇らせ、さらに彼女の清らかな身と心を通じて、女神様が地上から去った後もこの国にあまねく祝福が行き渡るよう」
この長ったらしい説教はもはや聞くに値はしない。
穏やかな陽光が差し込む白花の館の午後、クリストフの心はすでにこの後のまどろみの時間へとさまよい始める。
講釈を垂れる目の前の男と自分がこれからどうなるのか、今はまだ知らぬが幸いであった。
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