囚われの踊り手は闇に舞う

徒然

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49 新たな関係 2

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 レイは何度か瞬きを繰り返す。神崎の言葉がまだ、上手く飲み込めなかった。それでも、触れている手は温かく、伝わる鼓動は強くて速い。目には穏やかな色と、包むような柔らかさと、隠しきれない欲が見えた。
「こんなこと言ったら、怒られそうだし、傷付けるかもしれないけど」
 それでも信じきれないレイは、神崎の目をじっと見つめる。
 首を傾げる仕草で先を促されたレイは、まっすぐに神崎を見た。
「私を棄てたくなったら……貴方の手で、終わらせて」
 目を見開く神崎に、すまない、と心で謝りながら。
「そうしたら私は……健を愛したままで、貴方に愛されたままで終われるから」
 一生、が信じられないからこそ、関係が終わる時に、生を終えたい。そう訴えるレイに、神崎がガシガシと頭をかき、ふっと苦笑を浮かべた。
「分かった。その代わり……お前も、俺を棄てる時は、その手で俺を殺せよ?」
 虚をつかれたレイの髪を、神崎が撫でる。ふっと表情を弛め、そっと抱き寄せる。
「お前を殺めるときは、俺も一緒に逝ってやる」
 頭頂部に口付けを繰り返し、背を抱きながら。
「知っているか?俺はもう……玲が居なければ、生きていられないんだ」

 脱衣所で冷えた身体を、湯船で温める。暮らし始めたその日に、終わらせ方を約束することになるとは、と、神崎が腕に抱いたレイの顔を盗み見る。神崎は、それを怒る気にはなれなかった。幼い頃にはもうヤヒロの元に居たレイが、それだけ精神的にも傷付いてきたということだろう。
 ぱしゃり、と湯を揺らしながら、レイが居心地悪そうにもぞもぞしている。その様子がどこかいとけなく、多少なりとも、先程の話題を悔いていることが伝わった。
「玲」
 呼びかけるとびくっと肩を震わせるのがおかしくて、神崎は少し悪戯を思いつく。
「お前は、今だけ考えれていればいい。ただ俺に愛されていればいい」
 でも、と首を振るレイに、神崎がくっと笑う。
「好きだよ、玲。お前の身も心も、愛して、愛して、甘やかして……、ぐずぐずに溶けたお前を犯して、壊してしまいたい」
 レイがはっと顔を上げる。それは、初めての日に告げられた言葉にそっくりだったから。
 神崎はふっと笑い、戸惑うレイに口付ける。
「愛しているよ。……抱いていいか?玲」

 神崎はレイを寝室に連れていく。そこはキングサイズのベッドとクローゼット、サイドテーブルがある程度の、落ち着いた部屋だった。
「安心したか?」
 一般的な寝室にぽかんとしたレイの頬が、みるみる赤くなる。
「そういうわけじゃ、ない、けど」
 神崎はくくっと笑いながら、レイの肩からガウンを落とす。明かりを付けたままの部屋に晒される裸体に見蕩れていると、レイも神崎のガウンを脱がせる。
「薬のない玲を抱くのは、初めてだな」
 するりと頬を撫でると、掌にレイが擦り寄る。
「貴方は健?それとも、ケン……?」
 ぽつりと呟いた名前に、神崎がふっと笑う。
「今は、健として玲を抱きたい」
 レイを引き寄せると、素直に身を預けてくる。そのまま耳元に口をやり、口付ける。
では、ケンとしてレイを犯す」
 吹き込まれる声に、レイのペニスが反応した。
「玲もレイも、愛しているよ」
 その言葉にレイの顔が綻ぶ。
「私も。健もケンも、愛させて欲しい」

 明かりを消さず、互いの存在を確かめるように向かい合う。
「なんだか、凄く……恥ずかしい」
 媚薬も酒も飲まず。レイは、完全に素面のままで誰かと触れ合うのは、初めての事だった。
 ――いつもはもっと……、酔ったような状態でいたから。
「健。……上手くできなかったら、ごめんね」
 緊張で、心臓が飛び出そうなほどだと笑えば、神崎も苦笑を浮かべた。
「ああ。俺も……緊張してる」
 抱き締めれば、互いの鼓動の速さがばれる。それでも、愛しい人を目の前に、触れずには居られない。
「触れても、いいか?」
 そう言って、神崎が手をそっと動かせば、レイはその手を取って頬を寄せる。
 ――いつもより少し、冷たくて気持ちいい。
 ちゅ、と掌の窪みに口付けると、神崎がぴくりと跳ねる。レイがその手を軽く引くと、神崎は逆らわずにレイに一歩近付いた。
「触って。私も、健に触れたい」
 もう少し来て、と引っ張る。顔を上げ、目を閉じたレイの唇に、神崎が誘われるように口付けた。そのまま、互いの形をなぞるように手を這わせた。
 薄く目を開けると、細められた神崎の目と合う。ふ、と視線が緩み、口付けが深くなる。ちゅ、くちゅ、と音を立てながら抱き合う二人の、ペニスがずくりと疼き始めた。
「玲。お前を、愛させてくれ」
 口付けの合間に囁かれ、レイは頷いて広い背に腕を回す。そのまま横抱きに抱き上げられたレイは、ベッドに優しく降ろされた。
「好きだ」
 覆い被さる神崎の腕が、レイの横に置かれる。そのまま包むように頭を撫でられ、顔に口付けが降ってくる。
「好きだよ、玲」
 神崎は何度も囁きながら、レイに触れる。レイは神崎の首に腕を回し、甘えるように口付けをねだる。
「健。私も、好きだよ」
 一生、の約束はできない。永遠なんて尚更だ。
 ――でも、明日も好きだと信じられるから。
「多分、私は……貴方を好きでい続けられると思う」
 それがどのくらい先までかは分からないけど、と微笑むと、神崎が破顔する。
「お前が寿命で死ぬ間際に、一生好きだったって言わせてみせるよ」
 無理やり終わらせるつもりはないと神崎がほのめかせば、レイも嬉しそうに笑った。
「うん。ずっと、貴方を愛していたいな」
 どんなに後ろ向きな事を言っても、神崎はそれを受け止め、包み込んでしまう。だからこそ、レイは思ったことを話してしまうし、神崎のことも知りたいと思う。
「嫌なことも言ってしまうと思うけど……、これからもよろしくね?」
 レイが言えば、神崎も同じように返した。お互いにふっと笑い、素肌を重ねる。
「玲。愛させて」
 もう待てないとペニスをレイの太腿に擦り付けると、レイも腰を擦り付ける。
「健。愛してる」
 唇を重ね、身体を重ね。
 夜は穏やかに更けていった。
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