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31 再教育の舞台にて 2
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「ようこそお越しくださいました。本日は、特別なお客様だけにお見せする公開調教となっております。受け手はレイ。攻め手は弥生です」
ヤヒロが周りを見渡すように視線を巡らし、間をとった。今日は客に素顔を隠させているため、また、レイに選択肢を与えるために、会場内は明るくしてある。ここにいる客は十人ほど。もちろん、神崎もその中の一人だ。
「事前にお伝えしましたとおり、お客様の中からお一人、攻め手としてご参加いただけたらと思います」
にこ、と微笑んだヤヒロに、会場内がざわめく。
「お客様の中から、お手伝いいただくかたをレイが選ばせていただきます。また、他のお客様に見える形で性器を露出したり、性行為を行うことをご了承いただきます」
会場のざわめきが大きくなる。
神崎は知らなかったが、攻め手の弥生は、情け容赦ない責めをすることで知られていた。弥生は相手を責めながら、いつもどこか冷静に相手の限界を見る。どんなに受け手が悲鳴をあげていても、本当に限界を感じた時に発するためのセーフワードを一度も使わせたことがない。
そんな弥生が、どんな責め苦でも耐えるというレイと組む。それを間近で見るどころか、参加できるとあっては、客の期待は否が応でも高まっていく。
「ご希望のお客様は、壇上へお越しください」
ヤヒロが促すと、神崎を含めた全員が立ち上がる。
「お声は出されませんよう」
並んだ客たちに釘を刺し、ヤヒロが一度袖に下がる。やがて、目隠しをしたレイが乗った台車が、ヤヒロと弥生に押されて舞台に出てきた。
「……っ」
思わず出しかけた声を、慌てて止める。身体を巡る太い鎖は、身体にめり込むほどきつく巻かれている。口枷のように留められた南京錠。口の端から流れる唾液は首元の布を湿らせていて、どれだけそうして縛られているかを想像させた。
膝下だけはガウンがかけられておらず、薄衣と白い肌、足枷が見えている。
するり、と弥生が目隠しを外す。南京錠に鍵を差し込み、そのままレイの背中を軽く叩いた。
「一人選んで、鍵外してもらってねー」
レイが目を瞬かせ、舞台の明るさに目を慣らす。それから、ゆっくり視線をめぐらせた。
――違う。違う。この人も、違う……。
焦る気持ちを抑えながら、ゆっくり確認する。半分を過ぎた頃には、居ないのかと不安になる。
――っ、居た!ケンだ……。
最後から二人目。目が合った瞬間、神崎が切なげに目を細める。
――俺を、選んでくれたなら……。
レイが瞬きで強引に視線をそらし、最後の一人も他の人と同じように見る。
そして視線をヤヒロに向けて頷くと、ヤヒロが客とレイの間に立った。
「どうやら決まったようです。もしお客様の前にレイがたどり着きましたら、鍵を開けてやってください」
ヤヒロが視線で促すと、レイが台車から降ろされる。不安定な足取りで、まっすぐに神崎の元へ歩を進める。足枷の鎖を引きずりながら神崎の正面に立ち、雁字搦めのまま頭を下げる。ぽたたと、口元から零れた唾液が南京錠を伝って床に落ちた。
神崎は無言のまま、レイの頬をするりと撫でる。顎を取り、ついと力を込めてレイを上向きにさせた。
――好きだよ、レイ。俺を選んでくれてありがとう。
口付け、鍵を歯で噛んで回し開ける。口付けを解いて齧った鍵を手に出すと、レイが南京錠を舌で押し出した。
南京錠を外し、レイの身体から鎖を解いているうちに、選ばれなかった客たちが席へと戻っていく。ここでヤヒロに詰め寄ったなら、もう二度と来れないと分かっているためか、特に目立った反発がなかったことにヤヒロが密かに息を吐いた。
「これより舞台の設営を致します。今しばらくお待ちください」
客席に向けて言ったあと、一度緞帳を下ろす。
背後に鎖の音を聴きながら、ヤヒロが薬を水に溶く。レイには濃いめ。神崎には通常通り。弥生の分はかなり薄めにした。
薬の準備を済ませたあとは、舞台の設営だ。大きめの、手すりのないリクライニングソファとベッドを中心に置き、スポットライトを当てる。ぐるりと囲うようにカメラをしかけ、マイクを吊るす。超小型マイクも繋ぎ、サイドテーブルに置いた。
ディルドや鞭などの小道具を持ってきた弥生が、すっとヤヒロに近付いた。
「当たりを引いた感じだね?」
レイたちには聞こえない程度の声で弥生が問えば、ヤヒロが微笑んで頷いた。
「あーあ。せっかくレイをむちゃくちゃにできると思ったのになぁ」
口を尖らせる弥生は、しかし、嬉しそうに目を細める。
――あいつは、自分の身体や心にまで無頓着だったからなぁ。
弥生が目をやった先には、神崎に微笑むレイの姿。目の毒な衣装に、薄らと赤みを乗せた頬。柔らかく細められた瞳はまっすぐ神崎を見つめていて、全身で喜びを表現していた。
「結局、俺ではレイをあんな風に笑わせることはできなかったから」
ぽつりと呟くヤヒロの肩を、慰めるように弥生がぽんと叩く。
「それでも、……たとえどんな形でも、あいつを生かしたのはあんただよ」
誇れよ、と笑う弥生に、ヤヒロが曖昧に笑う。そして、何かを吹っ切るように弥生に頷く。
「ありがとう。さて、レイのラストショーっすよ。レイが本命に抱かれて蕩けるのを、皆に見せつけましょう」
その言葉に弥生が苦笑して、肩を竦める。
「しょうがない。馬に蹴られない程度に、煽ってくるよ」
ヤヒロが周りを見渡すように視線を巡らし、間をとった。今日は客に素顔を隠させているため、また、レイに選択肢を与えるために、会場内は明るくしてある。ここにいる客は十人ほど。もちろん、神崎もその中の一人だ。
「事前にお伝えしましたとおり、お客様の中からお一人、攻め手としてご参加いただけたらと思います」
にこ、と微笑んだヤヒロに、会場内がざわめく。
「お客様の中から、お手伝いいただくかたをレイが選ばせていただきます。また、他のお客様に見える形で性器を露出したり、性行為を行うことをご了承いただきます」
会場のざわめきが大きくなる。
神崎は知らなかったが、攻め手の弥生は、情け容赦ない責めをすることで知られていた。弥生は相手を責めながら、いつもどこか冷静に相手の限界を見る。どんなに受け手が悲鳴をあげていても、本当に限界を感じた時に発するためのセーフワードを一度も使わせたことがない。
そんな弥生が、どんな責め苦でも耐えるというレイと組む。それを間近で見るどころか、参加できるとあっては、客の期待は否が応でも高まっていく。
「ご希望のお客様は、壇上へお越しください」
ヤヒロが促すと、神崎を含めた全員が立ち上がる。
「お声は出されませんよう」
並んだ客たちに釘を刺し、ヤヒロが一度袖に下がる。やがて、目隠しをしたレイが乗った台車が、ヤヒロと弥生に押されて舞台に出てきた。
「……っ」
思わず出しかけた声を、慌てて止める。身体を巡る太い鎖は、身体にめり込むほどきつく巻かれている。口枷のように留められた南京錠。口の端から流れる唾液は首元の布を湿らせていて、どれだけそうして縛られているかを想像させた。
膝下だけはガウンがかけられておらず、薄衣と白い肌、足枷が見えている。
するり、と弥生が目隠しを外す。南京錠に鍵を差し込み、そのままレイの背中を軽く叩いた。
「一人選んで、鍵外してもらってねー」
レイが目を瞬かせ、舞台の明るさに目を慣らす。それから、ゆっくり視線をめぐらせた。
――違う。違う。この人も、違う……。
焦る気持ちを抑えながら、ゆっくり確認する。半分を過ぎた頃には、居ないのかと不安になる。
――っ、居た!ケンだ……。
最後から二人目。目が合った瞬間、神崎が切なげに目を細める。
――俺を、選んでくれたなら……。
レイが瞬きで強引に視線をそらし、最後の一人も他の人と同じように見る。
そして視線をヤヒロに向けて頷くと、ヤヒロが客とレイの間に立った。
「どうやら決まったようです。もしお客様の前にレイがたどり着きましたら、鍵を開けてやってください」
ヤヒロが視線で促すと、レイが台車から降ろされる。不安定な足取りで、まっすぐに神崎の元へ歩を進める。足枷の鎖を引きずりながら神崎の正面に立ち、雁字搦めのまま頭を下げる。ぽたたと、口元から零れた唾液が南京錠を伝って床に落ちた。
神崎は無言のまま、レイの頬をするりと撫でる。顎を取り、ついと力を込めてレイを上向きにさせた。
――好きだよ、レイ。俺を選んでくれてありがとう。
口付け、鍵を歯で噛んで回し開ける。口付けを解いて齧った鍵を手に出すと、レイが南京錠を舌で押し出した。
南京錠を外し、レイの身体から鎖を解いているうちに、選ばれなかった客たちが席へと戻っていく。ここでヤヒロに詰め寄ったなら、もう二度と来れないと分かっているためか、特に目立った反発がなかったことにヤヒロが密かに息を吐いた。
「これより舞台の設営を致します。今しばらくお待ちください」
客席に向けて言ったあと、一度緞帳を下ろす。
背後に鎖の音を聴きながら、ヤヒロが薬を水に溶く。レイには濃いめ。神崎には通常通り。弥生の分はかなり薄めにした。
薬の準備を済ませたあとは、舞台の設営だ。大きめの、手すりのないリクライニングソファとベッドを中心に置き、スポットライトを当てる。ぐるりと囲うようにカメラをしかけ、マイクを吊るす。超小型マイクも繋ぎ、サイドテーブルに置いた。
ディルドや鞭などの小道具を持ってきた弥生が、すっとヤヒロに近付いた。
「当たりを引いた感じだね?」
レイたちには聞こえない程度の声で弥生が問えば、ヤヒロが微笑んで頷いた。
「あーあ。せっかくレイをむちゃくちゃにできると思ったのになぁ」
口を尖らせる弥生は、しかし、嬉しそうに目を細める。
――あいつは、自分の身体や心にまで無頓着だったからなぁ。
弥生が目をやった先には、神崎に微笑むレイの姿。目の毒な衣装に、薄らと赤みを乗せた頬。柔らかく細められた瞳はまっすぐ神崎を見つめていて、全身で喜びを表現していた。
「結局、俺ではレイをあんな風に笑わせることはできなかったから」
ぽつりと呟くヤヒロの肩を、慰めるように弥生がぽんと叩く。
「それでも、……たとえどんな形でも、あいつを生かしたのはあんただよ」
誇れよ、と笑う弥生に、ヤヒロが曖昧に笑う。そして、何かを吹っ切るように弥生に頷く。
「ありがとう。さて、レイのラストショーっすよ。レイが本命に抱かれて蕩けるのを、皆に見せつけましょう」
その言葉に弥生が苦笑して、肩を竦める。
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