囚われの踊り手は闇に舞う

徒然

文字の大きさ
上 下
32 / 58

31 再教育の舞台にて 2

しおりを挟む
「ようこそお越しくださいました。本日は、特別なお客様だけにお見せする公開調教となっております。受け手はレイ。攻め手は弥生です」
 ヤヒロが周りを見渡すように視線を巡らし、間をとった。今日は客に素顔を隠させているため、また、レイに選択肢を与えるために、会場内は明るくしてある。ここにいる客は十人ほど。もちろん、神崎もその中の一人だ。
「事前にお伝えしましたとおり、お客様の中からお一人、攻め手としてご参加いただけたらと思います」
 にこ、と微笑んだヤヒロに、会場内がざわめく。
「お客様の中から、お手伝いいただくかたをレイが選ばせていただきます。また、他のお客様に見える形で性器を露出したり、性行為を行うことをご了承いただきます」

 会場のざわめきが大きくなる。

 神崎は知らなかったが、攻め手の弥生は、情け容赦ない責めをすることで知られていた。弥生は相手を責めながら、いつもどこか冷静に相手の限界を見る。どんなに受け手が悲鳴をあげていても、本当に限界を感じた時に発するためのセーフワードを一度も使わせたことがない。
 そんな弥生が、どんな責め苦でも耐えるというレイと組む。それを間近で見るどころか、参加できるとあっては、客の期待は否が応でも高まっていく。
「ご希望のお客様は、壇上へお越しください」
 ヤヒロが促すと、神崎を含めた全員が立ち上がる。
「お声は出されませんよう」
 並んだ客たちに釘を刺し、ヤヒロが一度袖に下がる。やがて、目隠しをしたレイが乗った台車が、ヤヒロと弥生に押されて舞台に出てきた。
「……っ」
 思わず出しかけた声を、慌てて止める。身体を巡る太い鎖は、身体にめり込むほどきつく巻かれている。口枷のように留められた南京錠。口の端から流れる唾液は首元の布を湿らせていて、どれだけそうして縛られているかを想像させた。
 膝下だけはガウンがかけられておらず、薄衣と白い肌、足枷が見えている。
 するり、と弥生が目隠しを外す。南京錠に鍵を差し込み、そのままレイの背中を軽く叩いた。
「一人選んで、鍵外してもらってねー」
 レイが目を瞬かせ、舞台の明るさに目を慣らす。それから、ゆっくり視線をめぐらせた。
 ――違う。違う。この人も、違う……。
 焦る気持ちを抑えながら、ゆっくり確認する。半分を過ぎた頃には、居ないのかと不安になる。
 ――っ、居た!ケンだ……。
 最後から二人目。目が合った瞬間、神崎が切なげに目を細める。
 ――俺を、選んでくれたなら……。
 レイが瞬きで強引に視線をそらし、最後の一人も他の人と同じように見る。
 そして視線をヤヒロに向けて頷くと、ヤヒロが客とレイの間に立った。
「どうやら決まったようです。もしお客様の前にレイがたどり着きましたら、鍵を開けてやってください」
 ヤヒロが視線で促すと、レイが台車から降ろされる。不安定な足取りで、まっすぐに神崎の元へ歩を進める。足枷の鎖を引きずりながら神崎の正面に立ち、雁字搦めのまま頭を下げる。ぽたたと、口元から零れた唾液が南京錠を伝って床に落ちた。
 神崎は無言のまま、レイの頬をするりと撫でる。顎を取り、ついと力を込めてレイを上向きにさせた。
 ――好きだよ、レイ。俺を選んでくれてありがとう。
 口付け、鍵を歯で噛んで回し開ける。口付けを解いて齧った鍵を手に出すと、レイが南京錠を舌で押し出した。
 南京錠を外し、レイの身体から鎖を解いているうちに、選ばれなかった客たちが席へと戻っていく。ここでヤヒロに詰め寄ったなら、もう二度と来れないと分かっているためか、特に目立った反発がなかったことにヤヒロが密かに息を吐いた。

「これより舞台の設営を致します。今しばらくお待ちください」
 客席に向けて言ったあと、一度緞帳を下ろす。
 背後に鎖の音を聴きながら、ヤヒロが薬を水に溶く。レイには濃いめ。神崎には通常通り。弥生の分はかなり薄めにした。
 薬の準備を済ませたあとは、舞台の設営だ。大きめの、手すりのないリクライニングソファとベッドを中心に置き、スポットライトを当てる。ぐるりと囲うようにカメラをしかけ、マイクを吊るす。超小型マイクも繋ぎ、サイドテーブルに置いた。
 ディルドや鞭などの小道具を持ってきた弥生が、すっとヤヒロに近付いた。
を引いた感じだね?」
 レイたちには聞こえない程度の声で弥生が問えば、ヤヒロが微笑んで頷いた。
「あーあ。せっかくレイをむちゃくちゃにできると思ったのになぁ」
 口を尖らせる弥生は、しかし、嬉しそうに目を細める。
 ――あいつは、自分の身体や心にまで無頓着だったからなぁ。
 弥生が目をやった先には、神崎に微笑むレイの姿。目の毒な衣装に、薄らと赤みを乗せた頬。柔らかく細められた瞳はまっすぐ神崎を見つめていて、全身で喜びを表現していた。
「結局、俺ではレイをあんな風に笑わせることはできなかったから」
 ぽつりと呟くヤヒロの肩を、慰めるように弥生がぽんと叩く。
「それでも、……たとえどんな形でも、あいつを生かしたのはあんただよ」
 誇れよ、と笑う弥生に、ヤヒロが曖昧に笑う。そして、何かを吹っ切るように弥生に頷く。
「ありがとう。さて、レイのラストショーっすよ。レイがに抱かれて蕩けるのを、皆に見せつけましょう」
 その言葉に弥生が苦笑して、肩を竦める。
「しょうがない。馬に蹴られない程度に、煽ってくるよ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話

タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。 瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。 笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。

今夜のご飯も一緒に食べよう~ある日突然やってきたヒゲの熊男はまさかのスパダリでした~

松本尚生
BL
瞬は失恋して職と住み処を失い、小さなワンルームから弁当屋のバイトに通っている。 ある日瞬が帰ると、「誠~~~!」と背後からヒゲの熊男が襲いかかる。「誠って誰!?」上がりこんだ熊は大量の食材を持っていた。瞬は困り果てながら調理する。瞬が「『誠さん』って恋人?」と尋ねると、彼はふふっと笑って瞬を抱きしめ――。 恋なんてコリゴリの瞬と、正体不明のスパダリ熊男=伸幸のお部屋グルメの顛末。 伸幸の持ちこむ謎の食材と、それらをテキパキとさばいていく瞬のかけ合いもお楽しみください。

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…

まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。 5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。 相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。 一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。 唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。 それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。 そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。 そこへ社会人となっていた澄と再会する。 果たして5年越しの恋は、動き出すのか? 表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。

処理中です...