囚われの踊り手は闇に舞う

徒然

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24 夢の終わり

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 神崎の目が探るようにレイを見る。レイは神崎を見つめ返しながら神崎に口付けた。
 手酷くされるのに慣れすぎた身体。レイは全てを差し出すことしか知らない。
 神崎は切なげに眉を寄せるレイに、ふっと息を吐いた。
「成程。……本当の願いを言えるようにしないと駄目そうだな」
 神崎の苦笑に、レイが目を見開く。神崎はレイの頬を撫で、抱き寄せる。
「さっきのもちゃんとお前の願いだとは分かってるよ」
 優しい声音は、子供をあやすような甘やかさで。
「ただ……もっと深い願いを、聞かせて欲しい」
 レイに乞うように髪に口付け、神崎が水の入ったボトルを手にする。
「そ、れは、……、ダメだ」
 蓋を開け、ニヤリと笑った神崎が、レイの制止を無視して中身を呷る。半分ほど飲んだあと、レイにも口移しでそれを飲ませる。
「お前の望みを聞くには、理性が邪魔みたいだから」
 何度も何度も、口付けと共に媚薬を与えられる。なぜそこまで、とレイが見つめていると、神崎が苦笑を浮かべて髪を乱した。
「いや、違うな。俺は……俺と同じ望みを、お前の口から聞きたいだけみたいだ」

 神崎は衣装を脱いだレイの両腕を、ベッドヘッドの鉄輪に繋ぐ。足枷を外して足首に口付けると、乳首を戒めるクリップを外した。
「踊りを見せてくれてありがとう。綺麗だった」
 螺子に責められていた乳首を労わるように舐め、吸い上げる。根元に付けられた輪にくびりだされたままのそれを甘噛みすれば、レイの身体がびくびく跳ねる。
「ケン……?」
 縫いとめられたレイを見下ろした神崎はふっと笑い、脈打つペニスを扱いて見せた。
「好きだよ。レイ」
 ――男娼としての立場を崩せないお前も。
「好きだ」
 同じ言葉がレイから返ってこないことは分かっている。それでも神崎は、レイに好きだと言い続ける。始めにレイに乞われたからではなく、それが神崎自身の望みだから。
「レイが素直になるまで、……愛し合おうぜ」
 にやりと笑う神崎が、ペニスの先端を後孔にひたりと当てる。
「ケン、素直も何も、私は…っ」
 レイの抗議を聞かず、神崎は腰を一気に突き出し、レイの後孔を深く刺す。それだけで身体を仰け反らせて精液を吐き出すレイを揺さぶりながら、神崎はレイの顔を見続ける。
「好きだ。レイ……」
 ――お前も、俺と居たいと思ってくれるなら。
 腰を突き上げ、口付けを交わしながら、神崎はレイを抱きしめた。
「俺と、一緒に」
 耳元で囁くと、レイの後孔がぎゅっと締まる。、抱きしめられない腕の代わりとばかりに、レイの足が神崎の腰に絡みつく。
「ケン、一緒に……イこう」
 レイが、溶けかけた理性で無理やり繋ぐ。離れたくないと身体で伝えながら、間もなく訪れる夢の終わりに涙を流した。

 ◇◆◇◆◇

 翌朝になっても、レイの部屋には神崎が居た。逞しい腕に抱かれ、肌を触れ合わせたままの目覚めに、レイが瞼を瞬いた。
「ん……、レイ?……おはよう」
 その気配に目を覚ました神崎が、ぼんやりとレイを見つめる。その寝起きの頼りない眼差しに、レイはなんとも気恥ずかしくなり、胸元に潜って隠れた。
「ふふ。あれだけ乱れておいて、今更照れるのか?」
 からかうように言いつつ、神崎の手は優しくレイの髪を梳く。
「からかわないで。こういうの、慣れてないから……」
 レイはこれまで、客と共に朝を迎えたことはない。プレイ部屋は深夜になればスタッフが退出するルールになっていて、ヤヒロも監視の目を光らせている。
 神崎の胸元から、レイがちらりと神崎を窺う。思わぬ穏やかな表情に、レイの顔が赤く染まった。
「レイ」
 神崎の指先が、レイの顎を取る。強引ではないのに逆らえない強さで上げられて、神崎とレイの視線が絡む。
「レイ。お前が好きだ」
 真っ直ぐに見つめられながら告げられた言葉に、レイが思わず頷きそうになる。その躊躇いも神崎の指先に伝わって、神崎がふわりと表情を緩めた。
「口付けても?」
 レイが答えるより早く、神崎の唇がレイに触れる。それは、この部屋で迎えるには甘やかすぎる朝だった。

「レイは明日まで休みだったか?」
 伸びをしつつレイに問うと、レイが曖昧に頷く。
 ――確か、そんなことを言ってた気が……?
 幕の裏でのやり取りを、媚薬に煽られたレイには朧気にしか覚えていない。そもそもいつが休みでも、レイの生活には関わりがなかったのもあって、しっかり聞いてはいなかった。
「多分?まあ、違ってたらヤヒロが呼びに来るかな」
 肩を竦めて笑うレイに、神崎がのしかかる。
「なら、今日も……抱いていいか?」
 ぐり、と押し付けられる、神崎のペニス。その熱と硬さに、犯され続けた後孔が疼く。
「離れ難いな……」
 ぽつりと零れた神崎の言葉に、レイの心が揺らぐ。
「その前に、水分と食事を摂らないと」
 神崎の頬を撫で、神崎の下から抜け出すと、全裸のまま入り口付近の電話を持ち上げる。
「もしもし……はい、レイです。すみませんが――」
 電話口で何やら話している、何の表情も浮かんでいないレイを、神崎は見つめていた。裸のまま片膝を立て、そこに肘をあずけて。
 ――昨夜のレイは、薬が抜けてからも表情豊かで、神崎の挙動に惑わされては拗ねたり怒ったりと忙しかったのにな。
 くるくると表情を変えるレイを思い出し、ふ、と笑った神崎を、電話を終えたレイが不思議そうに見ていた。
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