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6 部屋
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エレベーターから出た神崎は、レイの言う通りの道を辿る。廊下は広く取られていて、扉の間隔も広い。
――結構ゆったりとした造りっぽいな。
何となく観察してしまいながら、示されたひとつの、分厚い扉。
「ここです。……開けてくださいますか?」
レイに促され、鍵束にあるという鍵を探る。何種類かの鍵を試したあと、ガチャリ、と重い音が響き、錠が開いた。
レイは神崎に微笑み、礼を告げてドアノブに手をかける。
じゃらり、と擦れる鎖の音が、廊下に響いた。
重い音を立てて扉が開く。玄関に当たる場所で靴を脱ぎ、スリッパに履き替えて、促されるままに室内へ向かった。
「これ、は……」
正面のガラス張りの棚に飾られる、様々な淫具。右手のベッドには頑丈そうな鉄の輪が付けられていて、天井からは滑車が下がっていた。左手の空間には、何かで見た拷問部屋にも見える、様々な器具。そういえば椅子も何処か違和感がある。
「これが、私の部屋です。説明は必要ですか?」
立ち止まる神崎に、レイは後ろ手で鍵をかけた。神崎の背を軽く押しながら、部屋へ一歩、二歩と進む。ふとレイを振り返った神崎の眉間に、深い皺が刻まれている。
「レイ。言葉」
端的に指摘され、レイがあ、と声を洩らした。そしてふっと表情を緩め、目を閉じて深く息を吐いた。
――何よりも先に気にするのが、私の言葉とは。
レイはこれまで、数え切れないほどの男性に、その身体を差し出した。男性たちはレイに従順を求め、レイは道具として扱われることを承諾した。それがレイにとっての日常であり、それに疑問を抱くこともない。
少なくとも、そんな過去の男性たちは、レイの言葉遣いを気にする素振りはなかった。
「ケン、悪かった。これでいいかい?」
――本当に、何もかもが想定外だ。
レイは初めての経験に微笑みながら、素直に言葉を崩す。すると神崎も嬉しげに頷いて、レイを鎖ごと抱き寄せた。
「ああ、上出来だ。それで、ここは?」
レイはどう説明したものかと少し考え、神崎の腕の中で肩を竦める。
「見たまんま、だよ。ここでは睦み合うのも私を虐げるのも、ケンの自由だ。私はどんな仕打ちでも耐えるし……どんな行為でもイけるから、心配はしなくていい」
自嘲気味に笑うと、調教の日々を思い返す。ヤヒロにここで仕込まれたのは、痛みや苦しみすら快楽に置き換える術だ。血が滲むほど鞭打たれても、犯されながら首を絞められても……気絶する瞬間でさえも、レイのペニスは、嬉しそうに精液を吹き出すように仕込まれた。
唇を歪めるレイの、僅かな動きで薄衣がはだけ、色づく乳首や戒められたペニスが見え隠れする。不意に、神崎は自分以外のことを思い返すレイの目を、自分に向けたくて仕方なくなった。
「これはお前の趣味か?」
す、と貞操帯に触れられ、神崎を見たレイが甘く震える。その表情に満足した神崎の視線が、首輪も手足の枷も、重苦しい鎖も、貞操帯も、余すことなく辿っていく。
薄い衣装の上から背を撫で、腰を押し付けながら臀部を開く。示される神崎の熱をそこに求めてレイが甘く息を吐く。神崎の視線が、移り変わるレイの表情をじっと見つめる。快楽に蕩ける、レイの目を。
「虐げられ、非道な扱いをされ、ペット扱いさえされるのが望みなのか?」
強い視線で、しかし穏やかな声で問われ、レイは視線を下げる。答えて、と低い声が耳に吹き込まれ、顎を取られて上を向かされる。
「私、は……、」
レイは昔、ヤヒロによって見出され、踊り手になった。多くの踊り手がそうであるように、始めは前座の役回りばかりだった。男女問わず、客の興味を舞台に向けるために数人で淫らに踊る。後に出てくる主役を引き立てるために。
主役を張るようになるには、踊りの技術だけでなく、男娼としての教育を終える必要があった。
男娼や娼婦となり、主役を演じる者たちは、ある者は身体を革の衣装で覆い、ある者は貴族のドレスのような豪奢な衣装を纏っている。それは全てヤヒロが決めたものだった。
レイは自分の身体を見下ろす。無い方がましなくらい、何の役にも立たない薄衣。自由を奪う枷。始め、この衣装を与えられた時、反発をしたのは確かだ。それでも。
「お前がこの格好を受け入れたという事は……そうじゃないのか?何でもいい、思い浮かんだことを言ってみろ」
レイは神崎に、そっと抱き寄せられる。髪を撫でる手は優しく、額に温かな唇が触れる。
――ああ、そうだ。ヤヒロは嫌なら衣装を変えることもできるのだと、きちんと説明していたではないか。
レイが記憶を辿る。なぜこの衣装を与えられたのか。自分は何を、望んだのか。
ふと思い出したことを、レイはぶんぶんと首を振って追い払う。分かりたくないと否定する頭の片隅で、分かってしまったのだ。
衣装を着て淫らに踊り、媚薬漬けにされて初めて客に抱かれた日を。ペニスに貞操帯を付けることになったきっかけを。何日もかけて、幾人もの客に入れ代わり立ち代わり犯され、凌辱された日々を。
「っ、は……っ、私、は、……っ」
そして、それを甘受した時の、とてつもない悦びを。
――結構ゆったりとした造りっぽいな。
何となく観察してしまいながら、示されたひとつの、分厚い扉。
「ここです。……開けてくださいますか?」
レイに促され、鍵束にあるという鍵を探る。何種類かの鍵を試したあと、ガチャリ、と重い音が響き、錠が開いた。
レイは神崎に微笑み、礼を告げてドアノブに手をかける。
じゃらり、と擦れる鎖の音が、廊下に響いた。
重い音を立てて扉が開く。玄関に当たる場所で靴を脱ぎ、スリッパに履き替えて、促されるままに室内へ向かった。
「これ、は……」
正面のガラス張りの棚に飾られる、様々な淫具。右手のベッドには頑丈そうな鉄の輪が付けられていて、天井からは滑車が下がっていた。左手の空間には、何かで見た拷問部屋にも見える、様々な器具。そういえば椅子も何処か違和感がある。
「これが、私の部屋です。説明は必要ですか?」
立ち止まる神崎に、レイは後ろ手で鍵をかけた。神崎の背を軽く押しながら、部屋へ一歩、二歩と進む。ふとレイを振り返った神崎の眉間に、深い皺が刻まれている。
「レイ。言葉」
端的に指摘され、レイがあ、と声を洩らした。そしてふっと表情を緩め、目を閉じて深く息を吐いた。
――何よりも先に気にするのが、私の言葉とは。
レイはこれまで、数え切れないほどの男性に、その身体を差し出した。男性たちはレイに従順を求め、レイは道具として扱われることを承諾した。それがレイにとっての日常であり、それに疑問を抱くこともない。
少なくとも、そんな過去の男性たちは、レイの言葉遣いを気にする素振りはなかった。
「ケン、悪かった。これでいいかい?」
――本当に、何もかもが想定外だ。
レイは初めての経験に微笑みながら、素直に言葉を崩す。すると神崎も嬉しげに頷いて、レイを鎖ごと抱き寄せた。
「ああ、上出来だ。それで、ここは?」
レイはどう説明したものかと少し考え、神崎の腕の中で肩を竦める。
「見たまんま、だよ。ここでは睦み合うのも私を虐げるのも、ケンの自由だ。私はどんな仕打ちでも耐えるし……どんな行為でもイけるから、心配はしなくていい」
自嘲気味に笑うと、調教の日々を思い返す。ヤヒロにここで仕込まれたのは、痛みや苦しみすら快楽に置き換える術だ。血が滲むほど鞭打たれても、犯されながら首を絞められても……気絶する瞬間でさえも、レイのペニスは、嬉しそうに精液を吹き出すように仕込まれた。
唇を歪めるレイの、僅かな動きで薄衣がはだけ、色づく乳首や戒められたペニスが見え隠れする。不意に、神崎は自分以外のことを思い返すレイの目を、自分に向けたくて仕方なくなった。
「これはお前の趣味か?」
す、と貞操帯に触れられ、神崎を見たレイが甘く震える。その表情に満足した神崎の視線が、首輪も手足の枷も、重苦しい鎖も、貞操帯も、余すことなく辿っていく。
薄い衣装の上から背を撫で、腰を押し付けながら臀部を開く。示される神崎の熱をそこに求めてレイが甘く息を吐く。神崎の視線が、移り変わるレイの表情をじっと見つめる。快楽に蕩ける、レイの目を。
「虐げられ、非道な扱いをされ、ペット扱いさえされるのが望みなのか?」
強い視線で、しかし穏やかな声で問われ、レイは視線を下げる。答えて、と低い声が耳に吹き込まれ、顎を取られて上を向かされる。
「私、は……、」
レイは昔、ヤヒロによって見出され、踊り手になった。多くの踊り手がそうであるように、始めは前座の役回りばかりだった。男女問わず、客の興味を舞台に向けるために数人で淫らに踊る。後に出てくる主役を引き立てるために。
主役を張るようになるには、踊りの技術だけでなく、男娼としての教育を終える必要があった。
男娼や娼婦となり、主役を演じる者たちは、ある者は身体を革の衣装で覆い、ある者は貴族のドレスのような豪奢な衣装を纏っている。それは全てヤヒロが決めたものだった。
レイは自分の身体を見下ろす。無い方がましなくらい、何の役にも立たない薄衣。自由を奪う枷。始め、この衣装を与えられた時、反発をしたのは確かだ。それでも。
「お前がこの格好を受け入れたという事は……そうじゃないのか?何でもいい、思い浮かんだことを言ってみろ」
レイは神崎に、そっと抱き寄せられる。髪を撫でる手は優しく、額に温かな唇が触れる。
――ああ、そうだ。ヤヒロは嫌なら衣装を変えることもできるのだと、きちんと説明していたではないか。
レイが記憶を辿る。なぜこの衣装を与えられたのか。自分は何を、望んだのか。
ふと思い出したことを、レイはぶんぶんと首を振って追い払う。分かりたくないと否定する頭の片隅で、分かってしまったのだ。
衣装を着て淫らに踊り、媚薬漬けにされて初めて客に抱かれた日を。ペニスに貞操帯を付けることになったきっかけを。何日もかけて、幾人もの客に入れ代わり立ち代わり犯され、凌辱された日々を。
「っ、は……っ、私、は、……っ」
そして、それを甘受した時の、とてつもない悦びを。
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