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飼い主と飼い猫のクリスマス

6(最終話)

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 ――颯真さん!!
 樹の目に涙が溜まり頬を伝って落ちる。颯真は鉄格子に腕をつき、楽しげに樹の嬌態を見つめていた。
「ね、樹。ディルド外して答えて。俺が、欲しい?」
 樹は震える身体を無理やり抑え、口からディルドを引き抜く。ゴリゴリと舌を擦る感触に喘ぎながら、颯真に近付こうと腕を伸ばす。
「欲しい、です。颯真さん、を……俺に、ください」
 鎖を鳴らしながら懇願する樹に、颯真は優しく微笑んだ。紙袋を手に下げながら鉄格子を潜り、鍵をかけて元の場所に戻す。サイドテーブルをベッドの横に付け、紙袋を置いた颯真は、樹の手に指を絡ませた。
「ちゃんとお留守番できたね。ご褒美は、それでいいのか?」
 ちゅ、と指先にキスが降る。重なる体温に、樹は安堵の涙を流す。
「颯真さんが、いいです。俺は……、もう」
 樹が颯真の手を引き寄せ左手の薬指にキスを落とすと、颯真はふっと笑った。
「もう……、何?」
 思わぬ優しい響きに、樹が嬉しそうに微笑む。ちゅ、ちゅと何度も愛しげに唇を落とし、こちらに来て、と手を引いた。
「俺はもう、颯真さんなしでは、生きられそうにありません」

 後孔の奥を抉るものは、玩具から颯真に変わった。ただそれだけで、樹の身体を溺れそうなほどの快感が襲う。
 ――溺れてもきっと、大丈夫。
 颯真の温もりを感じ、吐息を感じる。ずっと切なかつた最奥を抉られ、樹の目から涙が零れる。
「……どうした。何かつらいか?」
 覗き込む颯真の頬を動きのままならない両手で挟み、親指で撫でながら唇を重ねて。
「奥に颯真さんが来てくれたのが、嬉しいんです」
 快楽に弾む声で囁いた。

 それからは、樹が甘えるままに身体を繋いだ。食事も風呂の時も、樹の後孔には颯真のペニスが差し込まれたまま。喘ぐ樹が可愛くて、颯真は時折、胸の吸引器を指で弾いては睨まれていた。
 夕食もデリバリーにして、受け取りのために離れる時は、樹の口内を白濁で満たす。その状態のまま、中をディルドで掻き回すのが樹のお気に入りになった。
「颯真さんの匂いに包まれる気がして好きなんです」
 はにかむように告げる樹に、颯真も蕩けるように微笑んだ。

 腕の中で転寝をする樹を、颯真はじっと見ている。腕を繋がれ、鎖に自由を奪われて。呼吸さえ開け渡そうとする樹に、颯真は少しの不安を抱く。
 ――心配よりも嬉しさが勝つのが……問題だとは思うんだが。
 身を委ねられることの喜びに、颯真の無意識下の征服欲が満たされる。
 すり、と擦り寄る樹の髪を撫で梳き、引き寄せると、触れた颯真の素肌に紅い痕が咲く。多分寝ぼけているのだろう、いつ気付くかと楽しんでいると、不意に乳首を吸われた。
「……っ」
 は、と短く息を吐き、僅かな快楽を逃がす。そんな仮初の冷静さの裏で、樹の中に埋めたままのペニスが体積を増した。
「っん、……ぅ?」
 樹がちゅく、と舌を絡ませ吸い上げる。舌に伝わる、いつもと何か違う感触に、樹が訝しげに唸った。
 ――何だか……この小さい硬いので舌擦るの、気持ちいい……。
 乳首の感触が気に入った樹は、夢中になってそこを舐める。猫が毛づくろいをするような動きに、颯真の吐息が甘くなる。
 ――この、悪戯猫……っ。
 ずくりと熱が溜まるペニスをゆっくり抜き差しすると、樹が抗議するように、にゅと鳴く。
 颯真も、元より樹に明け渡した身体だ。抵抗する気はない。ただ少し、気に食わないぞという意思表示のつもりだった。
 それ以上与えられなくなった刺激に安心したのか、樹は再び颯真の胸に顔を埋める。肌も乳輪も、乳首も構わず舐め、腰を揺らして快楽だけを追いかける。
「んう、む、ちゅぱ……っん」
 熱心に舐める樹は可愛いが、さすがに颯真も反撃を考え始める。
 胸を舐める樹の口元に、右手を差し出す。
「ん……、にゃ……?」
 指先が樹の唇に触れる。慣れた感覚に、樹は目を閉じたまま微笑んで口に含む。
 ちゅぱ、ちゅ、と音を立てて指をしゃぶり始めた樹を撫で、颯真は樹の口内で指先を曲げた。舌を擦り、指で挟んで、濡れた感触を楽しむ。
「ん、はぁ……っんん……」
 色を増す樹の声。ゆっくり抜き差しし始めたのを見た颯真が、同じように腰を揺らす。
「可愛い俺の悪戯猫。どう犯されたい?」
 微睡みの中で届いた低く小さな声に、樹は何か考えるより先に身体が動いた。まだ差し込まれていない颯真の指を伸ばさせて、口内へ招き入れる。そのまま深く喉奥へ導くと、颯真が微笑んで腰を押し当てた。
 ぐいぐいと指の付け根よりも深く刺そうとする樹。颯真は樹の脚を片方掴んで開き、樹の耳を食む。
「もっと奥……ここ、突き破られたい?」
 最奥を隔てる膜をペニスの先端が撫でる。寝ぼけたままの目を薄く開き、颯真の目を見返した樹がふわりと微笑む。
「突き破って……颯真さんの、いっぱい塗り込んで欲しい……」
 樹はまた指を舐め始める。颯真は喉の奥で笑い、樹の口蓋を軽く引っ掻いた。
「俺の、何を塗り込む?」
 くすりと笑う颯真に、不意に覚醒した樹がぶわっと赤くなる。
 ――俺、何を言って……。
 うっすら記憶はある。あるだけに、ごまかせない。
「起きたな。おはよう、樹。さあ教えて?」
 低く掠れた声。ぼんやりと見返していた時には見過ごしていた、颯真の目に宿る欲の色。ギラギラと光る目に囚われて、樹の口が勝手に動いた。
「颯真さんの、精液で……俺を颯真さんのものにして……」

 樹の最奥に白濁を注ぎ込み、颯真はサイドテーブルに手を伸ばす。どうせ届いてすぐは食べないだろうからと、冷める前提で選んだ食事。繋がったまま、ふにゃふにゃになった樹に手ずから食べさせる。
 もぐ、もぐと口を動かす樹のすぐ近くで、颯真も食事を摂っている。颯真の顎が動くのを、飲み込んだ喉仏が動くのを、音さえ聞こえる場所で見つめる。
「っん……。どうした?」
 コーヒーを飲んだ颯真が樹を覗き込む。綺麗な顔に見下ろされ、樹の頬が真っ赤に染まる。颯真は笑って、樹の手を喉仏に触れさせた。そのまま颯真がコーヒーを一口飲むと、それが動くのが分かる。樹がうっとりと目を蕩けさせた。
 ――こんなに簡単に、急所を委ねてくれるなんて。
「本当に、そこ好きだな?」
 声と共に、そこが震える。樹はそこの形をなぞるように撫で、颯真を見上げる。
「好き、です。男らしくてかっこよくて……。ここにも、痕を付けていいですか?」
 樹の言葉に笑い、頷いた颯真は樹の頭を引き寄せる。
「吸うなり噛むなり……、いつでも好きにしていい」
 ちくりとそこに痛みが走る。甘く噛まれて思わず唾を飲むと、動いた喉仏がごり、と擦られた。
「っは……。元より俺は、樹には逆らえないんだ」
 ずくりとペニスに熱が籠る。樹の後孔を押し広げて軽く上下に揺らすと、樹が喉を反らして高く喘ぐ。
「首輪を外したら……俺も付けていいか?」
 ぐい、と奥を突きながら、颯真は首輪を咥えて揺らす。拓かれ慣れた最奥が颯真をその場所へ招き入れ、中が颯真を締め付ける。
「付けて、ください……颯真さんも、好きにしていいですから……っ」
 好きだと、言い合いながら抱き合ったまま夜が更ける。二人が揃って地下室から出たのは、クリスマスも過ぎた頃だった。

「あはは。腰がやばいです」
 ようやく鉄格子の扉を開けた後、楽しそうに笑う樹の首から首輪を外す。二人の身体中に散らばる紅い痕と噛み跡。樹は颯真の喉仏に触れ、そこに付けた痕をなぞる。
「俺にもください」
 喉を晒して颯真の頭を引き寄せると、颯真はふっと笑う。
「同じ痕を付けるぞ?」
 樹が頷くと同時に、颯真は喉仏の辺りをきつく吸い上げる。樹が喘ぐ振動を唇で感じながら、角度を変えて歯を立てる。
「っあ、ぁああぁあああ……!!」
 がぶり、とそこを噛まれた樹のペニスから、すっかり薄くなった白濁が吹き出した。

 いつもの格好に着替えた二人は、チョーカーとブレスレットを繋ぐ鎖を少し太いものにした。遠目にも分かる存在感に、樹が嬉しそうに笑う。颯真はそんな樹の腰を抱き支えながら、階段をゆっくり登っていく。
「なんだか久しぶりな気分です」
 玄関をくぐった先はもう、煌びやかな飾りはなかった。その代わり、年末の慌ただしさが街を染める。
 ホワイトクリスマスになったかどうか、二人は知らない。デリバリーを受け取るために玄関を開けた颯真は、外を見る余裕もなく樹の元に戻ったからだ。
「ね、颯真さん。……雪、積もってましたか?」
 そんな颯真の姿を知る由もない樹が、無邪気に尋ねてくる。颯真は苦笑を浮かべて樹を撫でる。
「実は俺も分からない」
 首を傾げる樹の耳元へと唇を寄せると、そこに飾られたイヤーカフにキスを落とす。
「樹の元に早く戻りたいと、……それしか思ってなかったから」
 目を見開いて顔を上げる樹にキスを落として笑う。樹は、行こうと差し出された手を握り、鎖を引かれて歩き出した。
「颯真さん」
 呼びかければちゃんと樹を見てくれる。地下室で見せるのとは全く違う、颯真の穏やかな笑み。どうした、と視線で問われ、樹は颯真の耳を飾るイヤーカフに手を触れた。
「凄く綺麗です。かっこよくて……」
 甘く微笑む颯真の唇に、樹がそっとキスを送る。外では滅多に積極的にならない樹の珍しい姿に、颯真は驚きつつも嬉しそうに微笑んだ。
「こんな素敵な人が、俺の飼い主ものだって、世界中に言いふらしたい気分です」
 ふふ、と照れたように笑いながら、颯真の手を胸元に引き寄せる。そこは、颯真の手で育てられ、すっかり大きくなった乳首の場所。
「だから、早く……ピアスをくださいね?」
 はぁ、と甘く息をつきながら、樹がはにかむ。今度は破顔した颯真が、樹の手を耳たぶに触れさせた。
「ああ。樹も、俺にピアスをくれよ?」
 はい、と花か開くように笑う樹を、颯真はぎゅっと抱き締めた。髪にキスを落とし、イヤーカフに口を寄せる。
「愛してるよ、樹」
 低く甘い掠れた声が、樹の身体から力を奪う。おれもです、と小さく返された颯真は樹を抱き上げ、鎖を鳴らしながら堂々と街を歩く。
 
 颯真の首に腕を回し、樹がどんなピアスがいいかと楽しそうに笑う。きっとそこには二人の色が入っているのだろう。颯真もまた、樹に贈るピアスを想像して、縛ったペニスが張り詰める。
「ピアスの話してたら勃った。樹は?」
 樹にそう囁けば、樹は真っ赤になって隠れる。答えを促され、樹は颯真の首筋に擦り寄った。
「俺も、です」

 二人は苦笑を浮かべながら、キスを交わす。その身に飾る互いの印が増えていくのが、とても幸せだと感じながら。
 微笑む二人の耳に光る二色の宝石が、朝日を浴びてきらりと光った。
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