Kaleido sisters

兎城宮ゆの

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常夏の生放送

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梅雨明けの猛暑入りに入ったある日。

アルプロ内では空調機の不調により、仕事での集中が保てずにそれぞれが、あられもない姿でヘタれていた。

「兄ちゃ~ん。暑いからアイス買ってきてー?」

「俺も動くのしんどいから緋鞠と一緒に買ってきてくれ.......」

千円札を華月に手渡すと、緋鞠を横目に見つめようとしたが、しっかりとしている妹が暑さで変な笑い声を出していた。

まるで、この世の終わりのような地獄絵図の社内の雰囲気を壊すように社長が外回りから帰ってきた。

「華月君と緋鞠君は居るかい? ファーストライブ前に仕事が決まったよ。コンビでの初仕事だ。気合を入れていこう!」

社長の掛け声に『おーっ』とやる気の無さげな華月の応えが返ってきたのを高笑いで暑さに参った俺達に元気を見せ付けていた社長はお土産のように下にあったコンビニの袋を広げる。

「アイスあるけど食べるかい?」

「食べる!!!」

社員一斉に社長を神のように称える。平均金額200円にも満たない物で崇める事の出来る神は、すぐそこに存在していたのだ。



日を跨いで、次の日の昼。

急遽決まった仕事なだけに準備する時間は無かったが、それなりにスタイルの調整は俺の食事でしてきた事もあり、何の問題もなかった。

「緋鞠ちゃん見てみて! この現場って最近出来たアミューズメントパークなんだって! プールも開設してあるし、帰りに遊んでいこうよ?」

「で、でも私は金槌だし.......。それに本当は水着も着たくないからーーー」

確かに最初は仕事内容に緋鞠は出すべきではないと思っていた。

アルプロに所属したと噂の『弧鞠』としてネット界で有名な妹をイベントに出すという事は、アミューズメントパークという名目の他に追っかけが来てもおかしくはない。

評判だけなら華月も負けていないが、緋鞠はプロモーション的なものを気にしても仕方がない。

そもそも今日のイベントは、他の王手事務所から参加する予定だった売れっ子アーティストが担当する筈だったものを社長が推薦した『Kaleido sisters』が企業に目を付けられた事から得た結果でもある。

「緋鞠は分かっていると思うが、華月は案内役、リポーターという事を忘れるなよ?
元気でリポートするのは構わないが、変な言葉遣いが出ないようにな?」

「分かってるよぉ~。兄ちゃんは心配症だなぁ~」

そんな話をしている内に近い日にオープンされる予定のアミューズメントパークに辿りつく。

今日は施設に支障がないかのチェックを含めた抽選で選ばれた300人程度の客と共に仕事をする事になっていたので、この中で妹達の紹介の元でテレビ局が取材を行うのだ。

「到着ー! サンサンと照りつける日光がプールに入れと叫んでいるよ兄ちゃん!!!」

「叫んでないから行くぞ? 緋鞠は日傘いるか?」

車を出て、駐車場から歩いて三分程の距離を要する入り口まで、元気に走り回る華月とは対象的に緋鞠は既に暑さにやられて、俺に寄りかかりながらぐったりとしている。

アミューズメントパーク内に入ると受付で話をつけて、準備に取り掛かろうと裏手にある更衣室に姉妹を入れると、ドアの前で数十分の時間を潰す。

「兄ちゃんは水着、着ないの?」

「俺はお前達と違って、プールに入る予定がないし、仕事で来ているだからな」

更衣室越しから聞こえる華月の声にため息をつきながら、緋鞠の合図と共に未発達なりに脂肪分を忘れていない理想の身体をした妹達が現れる。

華月はいつも通りだが、緋鞠は見られる事にまだ慣れていないのか、肌を隠すように恥ずかしそうである。

水着に合わせるパーカーを緋鞠に着せて、テレビ局のスタッフとの打ち合わせに向かうと、既に場に打ち解けている華月を背にアミューズメントパークを見渡す緋鞠の目が輝いているように見えた。

巨大なウォーターパークの外側にはショッピングモールが広がり、快適な温度で南国の気分を楽しめるといった構造に新世界を感じたのだろう。

確かに開放感ある場所だが、プールとショッピングを合わせる必要はあったのだろうか。

取材の時間が近づくに連れて、姉妹共々に注意点を指摘しながら、ディレクターから送られた合図で二人を送り出す。

「本番入りまーす! 3、2、1---」

「突撃!こ↑こ↓に行ってみよ~う!!!」

華月の掛け声と共に緋鞠とカメラに向かって、ポーズを決める二人を目の当たりにしながら、カメラ慣れした姉の解説と相槌を打つ妹といった絶妙な組み合わせで番組が始まっていく。

基本的に指示された場所を隈なく紹介していくが、恥ずかしさの余りに縮こまっている緋鞠の声がちゃんと編集できるか心配になってくる。

「じゃあ次はアレに乗ってみよ~!!!」

指さした先にあったのは、緋鞠が苦手な高台から一気に急降下するウォータースライダー。二人で一緒に滑る事になっていた事もあり、緋鞠も了承したが実際の高台に向かった姿を見ると涙が溢れ返って今にも泣きそうになっていた。

「華月ちゃん。やっぱり私、無ーーー」

「行ってきま~す!」

華月が、カメラに向けて敬礼をすると同時に緋鞠を下にして、その上に乗るように一気に下まで急降下していく。

下に到達するまでに緋鞠の甲高い悲鳴が、スライダー内を通して伝わってきたのを感じた。

大きな音と共にプールに落下した二人をカメラに押えるが、高笑いをして面白さをアピールする華月に比べて、緋鞠はクラゲのようにプカプカと水面に浮かんでいるという相対した光景に視聴者は、どんなインパクトを受けるのだろうか。

番組も後半になり、予定通りに事が進み余った残りの時間に精一杯のアピールをするようにと二人にしていた事もあり、モデル経験のある華月は元より、緋鞠もそれなりの魅力を伝える事は出来ただろう。

「と、いうことで今日のリポートは、Kaleido sistersの立花華月と!?」

「ひ、緋鞠がお送りしました。来週は、廃墟となった老舗旅館に行ってみよ~」

「「またね~」」

無事に取材の仕事が一件落着といったように終わる。

「お疲れ様です。いやぁ~、元オファーしていた子達よりも君達を選んで良かったよ。またよろしくね?」

監督から直々に挨拶を貰い、深々と頭を下げて恐縮の気持ちを伝えると、撤収していくテレビ局の方々を見送る。

「にしし。兄ちゃん、お仕事終わったから遊んでもいいよね?」

「に、兄さんにもウォータースライダーの恐怖を味わってもらいますから.......」

姉妹に両腕を掴まれると、裏手にある更衣室に連れて行かれる。

借用の水着をいつの間にか準備していたようで、逃げないようにと扉の前で見張っている二人に微笑みながら、頷いてみせると社長に一本の連絡を入れてから水着に着替えると気が済むまで家族の団欒を過ごした。

仕事務めで、あまり遊んであげれなかった分も含め、目一杯遊び尽くした後で知った事実だったが、今回の番組はどうやら”生”放送だったらしい。

通りで編集をしないで事が進んだ筈だ。むしろ、生放送と伝えられたら緊張するだろうと思っての社長の配慮だったのだろうか。

その日の番組視聴率は30パーセントを取っていたらしい。
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