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第三節 邂逅
第191話 愛嬌
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「やっほー、父様、久し振り~。きゅぴっ」
「あれ?それ新しい片手剣?流石魔王ともなると良い武器使ってるわね。あ、そうそう、前に父様から貰った「ハールーンノヴァ」は大事に使わせて貰ってるわ。本当にありがとねッ。てへっ」
魔王より魔王らしいその姿から放たれる声も、煩わしい後付けの語尾も、なんとも魔王らしからぬモノであって、マシンガンと名の付く一方的な口撃に因って魔王ディグラスの心は破壊されていく思いだった。
見た目ほどの威厳も迫力もそこら辺の一切合切全てが台無しだった。
魔王ロールプレイなどは無いが、本物の魔王からしたら拍子抜けした挙句に「あ」と書いた紙を滅多斬りにしたいくらいの感じだった。
しかし、少女はそんな事は、知ったこっちゃあない。
好きで魔王ごっこをしているワケじゃあない。
そもそも魔王に憧れる厨二患者ですらない。だから、魔王ロープレなんざ知る由もない。
この姿にならなければ「魔界」に来れないから、採用しただけであり繊細な乙女心を持っている少女からしたら、アクの強い悪の権化のようなカッコは好んでなりたい姿ではない。少女はこう見えて繊細なのだ。
本人からしてそう思ってるくらいに繊細だ。うん、絶対にそうだから、そこは深くツッコまないで頂けると助かる。
拠って、「魔界」へと無事に辿り着いた少女は早々に魔族化を解いていく。だが、マテリアル体100%の身体では変調を来す事は散々味わっていたから既に調整済だった。
「あれ?父様、どうしたの?頭なんて抱えてしまって悩み事?それとも頭痛?仕事のし過ぎじゃない?ブラックな環境はダメよ?魔王が過労死なんて笑えないわよ?」
「ところでどうだった?アタシの登場シーン、結構キマってたかしら?どうなのどうなの?」
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
少女は自分のせいで魔王ディグラスが頭を抱えているなどとは微塵にも思っていない。だから、その口から放たれる言の葉は非常に軽かった。
その軽さの分だけ、魔王ディグラスの頭は余計に重たくなる気がしていた。
「で、突然来たかと思えば、一体、何用だ?悪ふざけに来たのではあるまい?」
「えぇ、ちゃんと真面目な話しをしに来たの」
「先程までのは悪ふざけと認めるのだな?」
「そ、それは愛嬌よ、愛嬌!女は愛嬌って言うでしょ?父様の日頃の疲れを癒やしてもらうべく、アタシが振り撒く愛嬌よ!めったに見られるモンじゃないレアものよ?」
「まぁ、それはさておいて、アタシがしに来た話しはルミネの件よ」
そのセリフを皮切りに少女の口調からは先程までの「軽やかさ」は見られなくなっていった。それに釣られるかのように魔王ディグラスの瞳も眼光を鋭くしていく。
「お前がここに来たと言う事は、ハロルドは無事に人間界に行けたと言う事で間違いはないか?」
「えぇ、ちゃんと人間界には来れたわよ?に・ん・げ・ん・か・い・に・は・ね。まぁ、場所が悪くてハンターに襲われたり、迷子になって死に掛けてたりしたみたいだったけどね」
「はぁぁぁぁぁぁ」
「と・こ・ろ・で、父様はルミネが失踪した件については、どこまで知っているのかしら?」
「うむ、研究所の者達には聴取をしたが、ルミネは突如として会議を抜け出し、どこかへ行ってしまったそうなのだ。しかし、その表情は怒っていた…と」
「その会議に参加していた者達は、どこかでルミネの怒りに触れてしまったのではないかと危惧し、戦々恐々としていたそうだ。だがルミネはいつまで経っても帰って来なかったと言っていた」
「まぁ、それ以外に手掛かりはなく、それ以上の聴取をしても何の進展も無かったので解放したのだがな」
ディグラスは重たい口から言の葉を紡いでいた。
少女はその重たい口から紡がれる言の葉を聞いていただけだったが、ルミネが話してくれた内容と整合性が取れているコトだけは確認していた。
「だが後日、「魔界」から他の世界へ繋がる空間の「揺らぎ」を感知したのでな、ルミネが人間界に行った事を考慮した。だからハロルドに「遣い」を命じ、人間界に送ったと言う訳だ」
「じゃあ、何でルミネが失踪するに至ったか、アタシから話しをさせて貰うわね」
少女は魔王ディグラスにルミネから聞いた内容を、一から十まで一言一句間違えないようにルミネの口調を真似して告げた。
その内容にディグラスは更に頭を抱える事になってしまったのだった。
「アスモデウスめ。そんなんだから娘に嫌われるのだ。だが、そうなると状況は深刻やも知れんな」
「ねぇ、父様?その事でアタシに提案があるんだけど、聞いてみたくないかしら?」
頭の痛いディグラスに対して、少女は1つの策を講じる事にした。まぁそれは、ハロルドを連れて屋敷に戻る途中で考えていた内容であって、この内容ならば魔王ディグラスは納得してくれるだろうと考えていた。
だから、まんおおじして…じゃなくて、満を持して登場の策だった。
「うむ、分かった。それならば、ルミネの事はお前に任せるとしよう。あと、そっちに送ったハロルドの事も任せるから、自由に使うといい」
「父様、ありがとう」
「それじゃあね、父様。また遊びに来るねッ!」
こうして少女は嵐のようにやって来て、少しだけ騒がしく魔王ディグラスの自室からいなくなった。
取り敢えずルミネの件はカタがつきそうなので、ディグラスとしては台風一過のように晴れ晴れとした気持ちではあったが、娘とは数年ぶりの再会だった事から少しだけ、もの寂しい感じはしていた。
「あれ?それ新しい片手剣?流石魔王ともなると良い武器使ってるわね。あ、そうそう、前に父様から貰った「ハールーンノヴァ」は大事に使わせて貰ってるわ。本当にありがとねッ。てへっ」
魔王より魔王らしいその姿から放たれる声も、煩わしい後付けの語尾も、なんとも魔王らしからぬモノであって、マシンガンと名の付く一方的な口撃に因って魔王ディグラスの心は破壊されていく思いだった。
見た目ほどの威厳も迫力もそこら辺の一切合切全てが台無しだった。
魔王ロールプレイなどは無いが、本物の魔王からしたら拍子抜けした挙句に「あ」と書いた紙を滅多斬りにしたいくらいの感じだった。
しかし、少女はそんな事は、知ったこっちゃあない。
好きで魔王ごっこをしているワケじゃあない。
そもそも魔王に憧れる厨二患者ですらない。だから、魔王ロープレなんざ知る由もない。
この姿にならなければ「魔界」に来れないから、採用しただけであり繊細な乙女心を持っている少女からしたら、アクの強い悪の権化のようなカッコは好んでなりたい姿ではない。少女はこう見えて繊細なのだ。
本人からしてそう思ってるくらいに繊細だ。うん、絶対にそうだから、そこは深くツッコまないで頂けると助かる。
拠って、「魔界」へと無事に辿り着いた少女は早々に魔族化を解いていく。だが、マテリアル体100%の身体では変調を来す事は散々味わっていたから既に調整済だった。
「あれ?父様、どうしたの?頭なんて抱えてしまって悩み事?それとも頭痛?仕事のし過ぎじゃない?ブラックな環境はダメよ?魔王が過労死なんて笑えないわよ?」
「ところでどうだった?アタシの登場シーン、結構キマってたかしら?どうなのどうなの?」
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
少女は自分のせいで魔王ディグラスが頭を抱えているなどとは微塵にも思っていない。だから、その口から放たれる言の葉は非常に軽かった。
その軽さの分だけ、魔王ディグラスの頭は余計に重たくなる気がしていた。
「で、突然来たかと思えば、一体、何用だ?悪ふざけに来たのではあるまい?」
「えぇ、ちゃんと真面目な話しをしに来たの」
「先程までのは悪ふざけと認めるのだな?」
「そ、それは愛嬌よ、愛嬌!女は愛嬌って言うでしょ?父様の日頃の疲れを癒やしてもらうべく、アタシが振り撒く愛嬌よ!めったに見られるモンじゃないレアものよ?」
「まぁ、それはさておいて、アタシがしに来た話しはルミネの件よ」
そのセリフを皮切りに少女の口調からは先程までの「軽やかさ」は見られなくなっていった。それに釣られるかのように魔王ディグラスの瞳も眼光を鋭くしていく。
「お前がここに来たと言う事は、ハロルドは無事に人間界に行けたと言う事で間違いはないか?」
「えぇ、ちゃんと人間界には来れたわよ?に・ん・げ・ん・か・い・に・は・ね。まぁ、場所が悪くてハンターに襲われたり、迷子になって死に掛けてたりしたみたいだったけどね」
「はぁぁぁぁぁぁ」
「と・こ・ろ・で、父様はルミネが失踪した件については、どこまで知っているのかしら?」
「うむ、研究所の者達には聴取をしたが、ルミネは突如として会議を抜け出し、どこかへ行ってしまったそうなのだ。しかし、その表情は怒っていた…と」
「その会議に参加していた者達は、どこかでルミネの怒りに触れてしまったのではないかと危惧し、戦々恐々としていたそうだ。だがルミネはいつまで経っても帰って来なかったと言っていた」
「まぁ、それ以外に手掛かりはなく、それ以上の聴取をしても何の進展も無かったので解放したのだがな」
ディグラスは重たい口から言の葉を紡いでいた。
少女はその重たい口から紡がれる言の葉を聞いていただけだったが、ルミネが話してくれた内容と整合性が取れているコトだけは確認していた。
「だが後日、「魔界」から他の世界へ繋がる空間の「揺らぎ」を感知したのでな、ルミネが人間界に行った事を考慮した。だからハロルドに「遣い」を命じ、人間界に送ったと言う訳だ」
「じゃあ、何でルミネが失踪するに至ったか、アタシから話しをさせて貰うわね」
少女は魔王ディグラスにルミネから聞いた内容を、一から十まで一言一句間違えないようにルミネの口調を真似して告げた。
その内容にディグラスは更に頭を抱える事になってしまったのだった。
「アスモデウスめ。そんなんだから娘に嫌われるのだ。だが、そうなると状況は深刻やも知れんな」
「ねぇ、父様?その事でアタシに提案があるんだけど、聞いてみたくないかしら?」
頭の痛いディグラスに対して、少女は1つの策を講じる事にした。まぁそれは、ハロルドを連れて屋敷に戻る途中で考えていた内容であって、この内容ならば魔王ディグラスは納得してくれるだろうと考えていた。
だから、まんおおじして…じゃなくて、満を持して登場の策だった。
「うむ、分かった。それならば、ルミネの事はお前に任せるとしよう。あと、そっちに送ったハロルドの事も任せるから、自由に使うといい」
「父様、ありがとう」
「それじゃあね、父様。また遊びに来るねッ!」
こうして少女は嵐のようにやって来て、少しだけ騒がしく魔王ディグラスの自室からいなくなった。
取り敢えずルミネの件はカタがつきそうなので、ディグラスとしては台風一過のように晴れ晴れとした気持ちではあったが、娘とは数年ぶりの再会だった事から少しだけ、もの寂しい感じはしていた。
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