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第四節 The Finisher Take
第132話 Nostalgic Facer ⅠⅡ 挿絵付
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クリスが屋敷からいなくなった後、少女はギルドと公安両方のクエストを熟しつつ、月日は流れ季節は冬になった。そして少女は1つ歳を重ねた。
こうして瞬く間に新たな年を迎えていく。
ここで忘れない内に1つ明記しておく事にする。
本来であれば公安に所属しているハンターはギルドのクエストを受ける事は出来無い。
逆もまた、然りである。
然しながら世界中にいる若干名のハンターは特別にそれが認められている。それが所謂、「星持ち」と呼ばれるハンターである。
「星」はそのハンターの功績によって授けられる物であり、実力と名誉の象徴とも言える。
少女は数少ない1つ星のハンターであり、その為にある程度の自由裁量が認められていた。
そして、その「自由裁量」の中には「旅券無しでの越境の自由」というのがある。ただし、これは他国に於けるハンターとしての「活動の自由」ではない。飽くまでも「旅行」としての越境であるとされる。
だが、その「旅行先」が気に入り、その地に根を下ろすハンターがいるのもまた事実である。
新年を迎えたところで、ハンターの仕事に変化などは見られない。人々の日常も生活も、新年を迎えようと何1つ変わらないからである。
変わるのは心持ちくらいだろう。
新年を迎えても生きていかなければならないのだから当然の事だ。そして、それは魔獣も同じである。
更に言えば、人間達よりも魔獣の方こそ新年も何も、まったくへったくれも無い。
そんな新年の始まりだが、節目には変わらない。拠って少女は依頼を受けず、新年の挨拶がてら公安に行ってみる事にしたのだった。
「それじゃあ、行ってくるわね」
「いってらっしゃいませ、お嬢様」 / 「お気を付けて、マスター」 / 「あるじさま、いってらっしゃ~い」
少女は3人に見送られて玄関を出た。セブンティーンは少女のコトを玄関先でスタンバっており、低い唸り声にも思えるエグゾーストは等間隔でビートを刻んでいる。
セブンティーンが軽快に奏でるエグゾーストは、耳を澄ませば敷地内を出て行った後でもまだ響いていた。
こんこんッ
「入っておいで」
「あけましておめでとうございます」
「おぉ、アンタかい。おめでとうさん。今年も宜しく頼むよっ!」
「はいッ!」
さっ
「何だい、その手は?」
「お年玉ちょーだい」
「じゃあ、これをアンタにくれてやろう」
「いやいやいや、待って、それ違うわよね?新年なんだから可愛らしくおねだりしてみたのにッ。うふっ」
「ちっ。なんだいなんだい?「お年玉」が欲しいんじゃないのかい?せっかく、依頼っていう「お年玉」をあげようとしたのにねぇ」
「新年早々から依頼は受けたくないかなーッ、あはははは」
「じゃ、じゃあッ、今日は挨拶をしに来ただけだからーッ。またねッ!」
「そうだ!どうせ公安に来たなら、B2Fに行ってみるといいさね。面白いモノが見れるハズだよ」
ばたんッ
こうして少女の「可愛らしくお年玉おねだり作戦」は、敢え無く失敗に終わった。
そして少女が急いで部屋から逃げ出す直前に響いたマムの声は、少女の耳にちゃんと届いていた。
「ウィルの所に面白いモノ?まっ、時間があったらでいいや。どうせウィルのコトだから、新しいデータやら設定やらでしょ?それにアタシは今日のカッコじゃ戦闘なんて出来ないもの。えへへっ」
少女は新年早々の挨拶なので、デバイス以外の装備の一切を身に着けていない。いざという時の為にセブンティーンの中に入れて来てはいるが、こんな日くらいは身に着ける気が一切なかった。
それに今はおしとやかで可愛らしい女性をアピールする為に着物を着ている事から、荒事には完全に向いていない。
拠ってB2Fのコトは心の奥底にほんの少しだけ留めて置く事にして、先にB1Fへと歩を進める事にした。
B1Fのヌシであるドクにも挨拶を済ませ、最上階でのやり取りと同じような事をした。結局はマム同様にドクからも何も貰えなかったが、マムと違う点は着物を褒められたコトくらいだった。
「着ているモノにも着られている中身にも興味がない」ハズのドクが、着物を褒めたコトにちょっと意外だったが悪い気はしなかった。
だがドクも少女の去り際に「下で面白いモノが見られるぜ」と言っていたのである。
「ドクまで、ウィルの所に行けって、一体何なのかしら?マムが面白いって言ってたらなんかイヤな予感しかしないけど、ドクが面白いって言うとちょっと興味が湧くのよねぇ……」
「これって、マムの日頃の行いが悪いからよね?絶対そうよね?」
少女は心の奥底に少しだけ留める事にした案件を掘り起こされた事で、B2Fに足を踏み入れる決意をしたのだった。
多少は訝しみながらであって、更にはマムに対する日頃のグチを言いながらも渋々B2Fに降りて行ったのである。
「あれ?誰かがトレーニングルームを使ってる?新年早々にトレーニングなんて、奇特な人がいるのね?」
こんこん
「入ってまーす」
「あけおめ、ウィル」
「あっ!いいトコに来た!こっちこっち!!」
「ん?どうしたの?そんなに興奮して。それよりも、トレーニングルームを誰が使っているの?」
「いいからいいから、これ見てよッ!凄くない?」
「——えっ?!ちょ、何これ?アタシの記録が軒並み抜かれてるじゃないッ!」
少女はマムとドクに言われた結果やって来たB2Fで、驚きの光景を目の当たりにした。
モニタールームのコンソールには軒並み「New Record」の文字が並んでいる。それは少女が苦労して獲得してきた戦闘メニューの、攻略タイムが更新されたという事実だった。
トレーニングルーム内での戦闘メニューのその殆どは、ウィルが組んだものだ。そしてそれは、大体のハンターランクの目安になっていると言っても過言では無い。
ハンターランクは全部で7段階あり、D-C-B-A-S-SS-SSSとなる。Sランクからは「星持ち」と呼ばれ、星は最大で3個となる。
ランクは主に依頼完結実績と、修めているジョブから判断されているが、トレーニングルームはランクに応じた難易度調整がされているので、ランクアップの指標にもなっているのだ。
ちなみに、少女は現段階で上から3番目のSランクに位置している。そしてこのランクは神奈川国だけで採用されているワケではなく、他の国でも通用する共通認識となっていた。
更に付け加えると、神奈川国のトレーニングメニューに於いて、その殆どのメニューのレコードタイムは少女が保有している。——いや、していた。
それは即ち「レコードホルダーである事」が、少女の「誇り」だと言い換えられる。「誰にも抜かされたくない!」「オンリーワンでありたい!」と少女が頑張って攻略してきた「証」だったからだ。
「ちょ、一体誰が中にいるの?ウィル知ってるんでしょ?」
「へへへっ。さっぁねぇ~」
ばこんっ
「この国に、アタシを超えるハンターがいるって事?」
「痛ててて……。でもま、上には上がいるってコトさっ」
ぽんぽん
「きーーーーッ!ウィルのクセに生意気ッ!」
ばこんっ
びーッ
「あっ!どうやら今やってたメニューが終わったみたいだよ?次のが最後だねッ!どれどれ?」
こうして瞬く間に新たな年を迎えていく。
ここで忘れない内に1つ明記しておく事にする。
本来であれば公安に所属しているハンターはギルドのクエストを受ける事は出来無い。
逆もまた、然りである。
然しながら世界中にいる若干名のハンターは特別にそれが認められている。それが所謂、「星持ち」と呼ばれるハンターである。
「星」はそのハンターの功績によって授けられる物であり、実力と名誉の象徴とも言える。
少女は数少ない1つ星のハンターであり、その為にある程度の自由裁量が認められていた。
そして、その「自由裁量」の中には「旅券無しでの越境の自由」というのがある。ただし、これは他国に於けるハンターとしての「活動の自由」ではない。飽くまでも「旅行」としての越境であるとされる。
だが、その「旅行先」が気に入り、その地に根を下ろすハンターがいるのもまた事実である。
新年を迎えたところで、ハンターの仕事に変化などは見られない。人々の日常も生活も、新年を迎えようと何1つ変わらないからである。
変わるのは心持ちくらいだろう。
新年を迎えても生きていかなければならないのだから当然の事だ。そして、それは魔獣も同じである。
更に言えば、人間達よりも魔獣の方こそ新年も何も、まったくへったくれも無い。
そんな新年の始まりだが、節目には変わらない。拠って少女は依頼を受けず、新年の挨拶がてら公安に行ってみる事にしたのだった。
「それじゃあ、行ってくるわね」
「いってらっしゃいませ、お嬢様」 / 「お気を付けて、マスター」 / 「あるじさま、いってらっしゃ~い」
少女は3人に見送られて玄関を出た。セブンティーンは少女のコトを玄関先でスタンバっており、低い唸り声にも思えるエグゾーストは等間隔でビートを刻んでいる。
セブンティーンが軽快に奏でるエグゾーストは、耳を澄ませば敷地内を出て行った後でもまだ響いていた。
こんこんッ
「入っておいで」
「あけましておめでとうございます」
「おぉ、アンタかい。おめでとうさん。今年も宜しく頼むよっ!」
「はいッ!」
さっ
「何だい、その手は?」
「お年玉ちょーだい」
「じゃあ、これをアンタにくれてやろう」
「いやいやいや、待って、それ違うわよね?新年なんだから可愛らしくおねだりしてみたのにッ。うふっ」
「ちっ。なんだいなんだい?「お年玉」が欲しいんじゃないのかい?せっかく、依頼っていう「お年玉」をあげようとしたのにねぇ」
「新年早々から依頼は受けたくないかなーッ、あはははは」
「じゃ、じゃあッ、今日は挨拶をしに来ただけだからーッ。またねッ!」
「そうだ!どうせ公安に来たなら、B2Fに行ってみるといいさね。面白いモノが見れるハズだよ」
ばたんッ
こうして少女の「可愛らしくお年玉おねだり作戦」は、敢え無く失敗に終わった。
そして少女が急いで部屋から逃げ出す直前に響いたマムの声は、少女の耳にちゃんと届いていた。
「ウィルの所に面白いモノ?まっ、時間があったらでいいや。どうせウィルのコトだから、新しいデータやら設定やらでしょ?それにアタシは今日のカッコじゃ戦闘なんて出来ないもの。えへへっ」
少女は新年早々の挨拶なので、デバイス以外の装備の一切を身に着けていない。いざという時の為にセブンティーンの中に入れて来てはいるが、こんな日くらいは身に着ける気が一切なかった。
それに今はおしとやかで可愛らしい女性をアピールする為に着物を着ている事から、荒事には完全に向いていない。
拠ってB2Fのコトは心の奥底にほんの少しだけ留めて置く事にして、先にB1Fへと歩を進める事にした。
B1Fのヌシであるドクにも挨拶を済ませ、最上階でのやり取りと同じような事をした。結局はマム同様にドクからも何も貰えなかったが、マムと違う点は着物を褒められたコトくらいだった。
「着ているモノにも着られている中身にも興味がない」ハズのドクが、着物を褒めたコトにちょっと意外だったが悪い気はしなかった。
だがドクも少女の去り際に「下で面白いモノが見られるぜ」と言っていたのである。
「ドクまで、ウィルの所に行けって、一体何なのかしら?マムが面白いって言ってたらなんかイヤな予感しかしないけど、ドクが面白いって言うとちょっと興味が湧くのよねぇ……」
「これって、マムの日頃の行いが悪いからよね?絶対そうよね?」
少女は心の奥底に少しだけ留める事にした案件を掘り起こされた事で、B2Fに足を踏み入れる決意をしたのだった。
多少は訝しみながらであって、更にはマムに対する日頃のグチを言いながらも渋々B2Fに降りて行ったのである。
「あれ?誰かがトレーニングルームを使ってる?新年早々にトレーニングなんて、奇特な人がいるのね?」
こんこん
「入ってまーす」
「あけおめ、ウィル」
「あっ!いいトコに来た!こっちこっち!!」
「ん?どうしたの?そんなに興奮して。それよりも、トレーニングルームを誰が使っているの?」
「いいからいいから、これ見てよッ!凄くない?」
「——えっ?!ちょ、何これ?アタシの記録が軒並み抜かれてるじゃないッ!」
少女はマムとドクに言われた結果やって来たB2Fで、驚きの光景を目の当たりにした。
モニタールームのコンソールには軒並み「New Record」の文字が並んでいる。それは少女が苦労して獲得してきた戦闘メニューの、攻略タイムが更新されたという事実だった。
トレーニングルーム内での戦闘メニューのその殆どは、ウィルが組んだものだ。そしてそれは、大体のハンターランクの目安になっていると言っても過言では無い。
ハンターランクは全部で7段階あり、D-C-B-A-S-SS-SSSとなる。Sランクからは「星持ち」と呼ばれ、星は最大で3個となる。
ランクは主に依頼完結実績と、修めているジョブから判断されているが、トレーニングルームはランクに応じた難易度調整がされているので、ランクアップの指標にもなっているのだ。
ちなみに、少女は現段階で上から3番目のSランクに位置している。そしてこのランクは神奈川国だけで採用されているワケではなく、他の国でも通用する共通認識となっていた。
更に付け加えると、神奈川国のトレーニングメニューに於いて、その殆どのメニューのレコードタイムは少女が保有している。——いや、していた。
それは即ち「レコードホルダーである事」が、少女の「誇り」だと言い換えられる。「誰にも抜かされたくない!」「オンリーワンでありたい!」と少女が頑張って攻略してきた「証」だったからだ。
「ちょ、一体誰が中にいるの?ウィル知ってるんでしょ?」
「へへへっ。さっぁねぇ~」
ばこんっ
「この国に、アタシを超えるハンターがいるって事?」
「痛ててて……。でもま、上には上がいるってコトさっ」
ぽんぽん
「きーーーーッ!ウィルのクセに生意気ッ!」
ばこんっ
びーッ
「あっ!どうやら今やってたメニューが終わったみたいだよ?次のが最後だねッ!どれどれ?」
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