不思議なカレラ

酸化酸素

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第一節 えっ?!アタシ異世界来ちゃったの?

第2話 始まりと戦闘とマナと研究者 後編

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「さてと、これからどうしようかなぁ?」
「さっきは思わず大声で「誰か教えてー」って叫んじゃったけど、今思うとこんなワケの分からない世界で助けに来る人って大抵ヤバいと思うのよね…」
「だから誰も来なくて正解っちゃあ正解なんだけど、アタシはこれからどうすればいいのかしら?」
「ってかそもそもの話しがなんでここにいるんだっけ?」

 少女は突然襲って来た危機的状況から一旦は回避出来たが不安でいっぱいだった。だからその不安からでも目を逸らす為に独り言を話している。
 それはごく自然な事なので怪しい人ではない。

 然しながら、かと言って今の状況が決して絶対安全と言えるワケではない。更に言えば疑問が多々積もっている状況に、正直なところ迷っていたし参っていた。

 そして結局のところ、どこにも行くアテが無いから一歩も動こうとしなかったとも言い換えられる。


 行くアテが無いだけならともかく目も当てられない。

 どっちに転んでも結局の所、何も出来ないのだ。結果として少女はうろちょろする事なく先程戦闘があった所に寝転がって呟くしかする事がなかったのだ。



 目は多少慣れたが遠くまで見る事はやはり叶わない。実際に手が届く距離くらいしかはっきりとした視界は無かった。

 先の戦いにおける傷(?)の痛みは少し緩和され引いてきている気がする。だが流石にここで装備を外し着ている服を脱ぎ傷の状態を確認する事ははばかられた。
 それに野外で露出するほど破廉恥ではないし羞恥心が無いワケではない。
 それは暗かろうと夜だろうとなんら変わらない。


「アタシ、これからどうなるんだろ?」

 解決策を見出す為の思考は止めずに続けているが先行きは全くって不透明かつ不明瞭。従って口から漏れたのはどうしようも無い不安だけだった。


 少女の口からどうしようも無い不安が漏れ出した丁度そんな時にデバイスは何かを察知し少女に告げていた。


「ちょっとどういう事?近くに何かが突然現れた?敵?!それとも、また誤作動?」
「まったくこんな時に。ゆっくりのんびりさせてくれないものかしら?」

 少女はデバイスの誤作動であって欲しいと思いながらもデバイスは壊れていない事を願っていた。しかし「のんびりさせてくれないものか?」と言いながらも状況を改善される事を祈っていた。
 自由気ままに気分屋な性格と言えばちゃんと伝わると思う。

 然しながら全く危機感がないワケではない。
 拠って突然現れた何かが敵である事も想定に入れると、身体のバネを使って素早く起き上がっていく。更には身を低くして、倒した状態で地面に置いてある大剣グレートソードの柄に手を当て不測の事態に備えていった。


ひゅうッ

 細い隙間を風が抜ける様な音がした後で少女から僅か数メートル先の位置に光る扉が現れていく。


「扉?何かが出て来るの?ワケの分からない所での戦闘はもう懲り懲りよ?」
「でも、扉ってコトは魔術よね?転移系の魔術かしら?それなら魔獣なんかよりはよっぽど話しが通じると思ってていいわよねッ!」

 少女は不測の事態に対応できる陽に身体を強張らせずに適度に緊張状態を作っていく。しかし、緊張感を身体にはしらせていた少女は、扉から蒼く輝く銀色のドレスを着た場違い感満載の女の子が出て来たのを見た。

 よって拍子抜けしたというのは言うまでも無い。


「あれ?おかしいですわ?先程の波動が起きていた位置に正確に転移したハズですのに、何も無いなんて…」
「あら?いいえ、違いますわね、隠れていらっしゃるのね?そこに1人いらっしゃいますものね」

 ルミネは身を低くして隠れている少女を正確に捉えた上で少女の方を見詰め、言の葉を紡いでいた。


「見られてる?どうやら、見付かってる…のね。それにしても、なんていう強力な魔力、身体から溢れ出す程のオドなんて見た事がない」
「貴女、何者なの?」

「わたくしの名前はルミナンテ・ウル・ルネサージュと申します。先程、この辺りでマナの強力な波動を感じ、調査の為、ここまでやって参りました」
「貴女様はここで何が起きたのかご存知ですか?ご存知でしたら、教えて頂けませんか?」

 ルミナンテと名乗った少女はおっとりとした口調で言の葉を紡いでいるがその瞳は真剣さをたたえている。
 少女から見た感じでは「自分よりは若そうに見える」と思った。だが、誰かが見比べてくれたなら正反対の意見が出るコトだろう。


 然しながら少女は正直なところ抜けた拍子が更に抜けた感じがした。

 今まで見た事もない転移の魔術で現れたかと思えば、自分と同じかちょっと下くらいの年齢っポイ女の子だった事。

 しかも膨大な魔力を持った女の子が丁寧な口調でさっきのマナの暴走を調べに来たなんて言われれば、もう1つ2つ拍子が抜けても

 そもそもの話、この世界が少女がの話ではあるが…。


「戦闘しに来たってワケじゃないのよね?飽くまでも調査なのよね?」

「えぇ、そうですわよ。それは先程申し上げた通りですわ」

 少女はルミナンテに対して念を押す事にした。とは言え、これだけ膨大な魔力を見せ付けられれば、言質げんちを取る事が本当に意味がある行為なのかは定かでは無いが…。

「ここがどこだってもう、どうでもいい。大体の見当はついてきているし、あそこまでの魔力を見せつけられれば…」
「抵抗するだけムダってモンだわ」

 少女は半ば諦めていた。
 もし仮にここで戦闘にでもなれば十中八九自分は負ける。それは少女の今までの経験則から求められた解答だった。
 だけどそんな言葉弱音は敵かもしれない相手には聞かせられない。
 だから心の中だけで呟いていた。


「まぁ!貴女様はこの世界の方では無いのですね?そうしたら人間界でしょうか?聞くところによる、ヒト種の方なのでしょうか?感じた事のない波長だから、全く分かりませんでしたわ」

 ルミナンテは心の中で呟いていた少女の「呟き」に対して合わせるように言の葉を紡いでいた。


「心を読んでる…の?」

「失礼かとは思ったのですが、異種族の方とお会いするのは初めてでしたし、何か起きてしまうと大変な事になりますので、ご容赦頂けませんか?」

「何かって、例えばこういう事ッ?」

 少女は挑発する様な言葉を投げると突如として愛剣でルミナンテに向かって斬り付けていく。だが本当に斬るつもりは一切無くて飽くまでもそれは「フリ」であり避けなくても寸止めにするつもりではあった。


「なんで?避けようとすらしないなんてッ!」

「貴女様から殺気を感じませんでしたわ。それにわたくしは戦闘に来たのではありません。先程申し上げました通り、ここには調査に来たのですわ」
「それでも、貴女様がどうしても闘いたいと仰るのでしたら、お相手になりますけど?どうなさいます?」
「まぁ、斬れない剣では闘いにすらなりませんけどね」

「えっ?!今、なんて…?」

 ルミナンテはその顔に微笑を浮かべながら、少女に対して言の葉を紡いでいた。

 純粋に微笑を浮かべている様にも見えるがルミナンテの口から紡がれている言の葉は非常に物騒であり得体の知れない恐怖を少女は感じ取っていたと言える。


「やめておくわ。それよりもルミナンテさんだっけ?貴女がアタシに聞きたい事があるように、アタシも貴女に聞きたい事があるんだけど、いいかしら?」

「ええ、構いませんわ。大体察しが付きますけど、異世界に突然召喚?それとも迷い込んだ?まぁ、どちらでも大差はありませんわね。とは言っても勝手の分からない世界にのでしょうから、当然と言えば当然の事ですものね」
「あと、わたくしの事は、ルミネと呼んで頂いて結構ですわ」

 ルミネはそう言うと杖を掲げ空中に陣形を描いていく。そして何も無かった虚空に扉が現れていったのを少女は見詰めていた。


「転移魔術?!しかも、詠唱もなしに?貴女、本当に一体何者なの?それと、その扉でどこに連れて行ってくれるのかしら?」

「こちらへどうぞ。中で話しを致しましょう。ここで話しをするのも何かと効率が悪いですし、貴女様の今の状況では視界がと悪いでしょうから」

 ルミネは少女に向かって言の葉を紡ぐと、少女の了解を得ないまま先に扉をくぐり中へと入っていった。

 少女は多少、否、かなり不本意な感じがしたのだけれどもそれ以外に選択肢は無かった。
 要するに有用な情報をくれるであろうルミネが先に行ってしまった事は、「後に付いていく一択」以外の選択肢を失くされたのも同然だった。



「何、ここ?」

「ここはわたくしの研究室ですわ」

 少女が扉に入ると見知らぬ部屋に出た。天井が高く丸い。
 部屋の中心には白く少し高めの台座があり、その上には人頭大よりも一回り大きいくらいの透明な石が浮かんでいる。

 そして、部屋は全面蒼い光沢を抱えたガラス張りだった。

 更に付け加えるならば先ほどとは打って変わって

 少女は視界が良好な事に驚き辺りを見回していると部屋の奥にある通路から足音が響いているのが聞こえた。それは奥から誰かがこちらに向かって来ているのを意味している。
 少女は警戒していたが部屋にやってきたその姿は少女を絶句させた。


「おかえりなさいませ、マイ・マスター」

「誰かが、ここに来ましたか?」-「いいえ」
「わたくしの事を呼ぶ者がいましたか?」-「いいえ」
「特に変わった事は何かありましたか?」-「いいえ」
「仕事は進みましたか?」-「研究に於いて、経過観察が必要な物はそのままにしております。後、蔵書から3冊、必要かと思い持って参りました」
「椅子を持ってきて頂けるかしら?」-「はい」

 2人のルミネの会話が終わると、もう1人のルミネが椅子を2脚持ってきて相対する形で置いた。そしてもう1人のルミネは再び部屋の奥に戻っていく。


「聞かれる前に話しておきますね。あの子はわたくしが外出する為に作った魔力製素体ホムンクルスですわ。わたくしはお父様の許可無しに外出する事が出来ませんので、何かあった時の為の布石ふせきとして今はあの子がいます」
「多少用事を申し付けましたので、その用事が終わり次第、あの子は消えますわ」
「あと今のは、貴女様の心を読んだワケではございませんので、お気を悪く為さらないで下さい。あの子が出てきた時の貴女様の表情から読み解いた結論ですわ」

 少女はルミネの話の切り出しに対して「また心を読まれたのか?」と思っていた。だが、それを口に出す前に否定された事で顔がむず痒くなり両手で顔を「ぱんッ」とはたいていた。

 ルミネはその光景を不思議そうに見ているだけだった。


 ルミネが再び杖を掲げ空中に陣形を描いていく。すると2つの椅子の間にテーブルが現れていった。
 テーブルが現れると奥に下がっていた魔力製素体ホムンクルスのルミネがカップとポットを持って歩いてくるのが少女の目に映った。

 魔力製素体ホムンクルスのルミネはポットから液体をカップへと注ぎ少女とルミネの前へそれぞれ置いていく。

 置かれた2つのカップは赤味がかった透明の液体で満たされていた。

 その後魔力製素体ホムンクルスのルミネは再び奥へと一旦下がったが、再び少女の前に現れた時には両手に本を3冊持って出て来た。


 少女がその本を受け取ると魔力製素体ホムンクルスのルミネは光の微粒子となって余韻を残しながら霧散して消えた。
 少女は目の前で起きた事の意味が分からず目を白黒させるだけだった。


「お座りになって下さいな。紅茶を飲みながらお話しを致しましょう」

「あ、あの、この本は?」

「その本は貴女様に必要な物ですわ。今ここで読んで頂いたいても構いませんし、今、読まないのでしたらお貸ししますので後で読んで頂いても構いません」

ぺらっ、ぺら…

「残念ながら、アタシには読めない文字ね」

「左様でしたか。それでしたら、その本に書いてある事を多少抜粋してお話し致しますわね。その後で、あの場所で何が起きたのかお聞きしても?」

「えぁ、分かったわ」

「それでは先ず、この世界についてお話し致しますわね」

 その言の葉を皮切りにルミネからの話が始まったのである。

・ここは、人間界では無い事。
・ここは、「魔界」と呼ばれる世界である事。
・ここに住まうモノは、アストラル体である事。
・召喚された時の少女は、マテリアル体である事。
この世界魔界から元の世界人間界に戻る方法は、事。


 少女は当惑した様子ではあったが、ルミネから聞いた話しで幾つか納得がいく解答を得られた気がしていた。

何故、向かってきた殺気を切れなかったのか?
何故、傷口のない怪我を負わされたのか?
何故、デバイスが明暗反転したのか?
などである。

 だが、何故気付いたら「魔界」にいたのかは皆目見当もつかなかった。


 話しの中でルミネは、ここに住まうモノはアストラル体だと言っていた。それが指し示している事は「物理が通用しない世界」と言う事を示している。


 少女が持っていた愛剣はその刃に魔力をまとわせなければだ。その為に精神体であるアストラル体を切る事は叶わなかった。

 然しながら、そのアストラル体からの攻撃はマテリアル体に対して傷を付ける事は出来ないが、少女は攻撃を受けた結果少女のアストラル体にという事を指し示していた。

 アストラル体の世界にマテリアル体で召喚された事から少女のマテリアル体の五感は正常にと言う事も明らかになった。

 更には元々マナが薄い人間界で科学技術と魔術から成立した魔導工学によって作られたデバイスは「マナの濃い「魔界」に於いて」と言うのが結論だったのである。

 そこで、少女はふと疑問に思う。「何故、この空間は視えるのだろうか?」と。

 それにそういえば和らいでいたとは言えここに来るまでは確かに痛かった


「疑問、気になる事、これからの事、少しは解決致しましたか?それと、先程の扉をくぐって頂いた際に、貴女様のマテリアルとアストラルの関係性を少し変えさせて頂きましたわ」
「その際に肩に怪我があるようでしたので、勝手かとは思いましたが、修復もさせて頂きましたの。お身体に違和感は御座いませんか?」

 少女は口に出そうとした矢先にルミネからその「疑問」に対する解答を告げられ、またもや心を読まれた気がして少し憂鬱な気分になっていた。


「さて、貴女様がお聞きしたい事は、一通り終わりましたか?それでしたら、わたくしから幾つかお聞きしても?」

「えぇ、何かしら?アタシに応えられる事なら」

「ありがとうございます。ですが、わたくしが貴女様に聞きたかった事は、大体のところ結論に達したようでございますわ」
「なので、わたくしの立てた仮説に対して、違っている事があれば、その都度訂正をして頂けますか?」
「貴女様は比較的、好戦的な方とお見受けしますが、良識はある方だと思いますわ。そして、肩口にあった傷の具合から察しますと、恐らく貴女様が何者かに狙われた…といった事による戦闘行為だと考えましたの」
「そして、その戦闘の結果、強力なマナの波動をもたらした。と、いったところでしょうか?」

 少女は「好戦的」と言われ多少ムッとした表情が顔に出ていたが最後まで聞くと渋々ながら黙って頷いていった。


「ルミネさん、貴女は研究者だと言っていた。アタシが起こしたマナの暴走を研究するつもりなの?アタシよりも強い魔力を持っている貴女達にとって、それは重要な事なの?」

「貴女様の疑問は分かりますわ。我々魔族デモニアは体内に膨大な魔力をたたえていて、それを使って魔術を行使致しますわ」
「そして、その膨大な魔力は短時間の戦闘ではほぼ使い切る事が出来ませんから、マナを取り込み力とする貴女様達の闘い方とは根本的に違いますの」

 ルミネはそこまで言うと言の葉を紡ぐのを1回止めた。
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