「残念だけど、諦めて?」

いちのにか

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残念だけど、諦めて。 —かの魔法士の秘事—

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さて、……今話は完全なる余談で、その……、すいません……、セテンス君ったら、どうしてもパッパの血が流れているもので……メリバテイストに流れていきます。

ifストーリーとしてもお読み頂けるかと思いますが、苦手な方はご注意ください。

—————————————————————







 ——ええ、父様。

 貴方が私にくれたものといえば、その殆どが、私自身の無力感を煽るものと言っても過言ではなかった。お陰で捻くれた性根に育ってしまった私にとって、この現世の生きづらいことと言ったら!
 まあ、でも不思議とこうして命を繋ぐことができた、それもまた、貴方から頂いた意地汚さなどがあるのでしょう。

 父様。
 貴方の醜い執着心が嫌いでした。自身の子ども相手にも大人気なく立ち回るその狡猾さが嫌いでした。貴方の全てに恐怖を覚え、あなたの表情が微笑みをかたどるたびに、はは、お恥ずかしながら、それは酷い無力感に襲われていたんですよ。

 父様。
 貴方と分かり合えることはこの先一生無いでしょう。死が私たちを分かたれたとしても。現世とは違う他の場所で再会できたとしても。しかしながら、私はこうしてあなたに感謝を申し上げたい。

 貴方から貰ったこの、呪われた血。この存在に気がついた時、私がどれだけ絶望したか貴方には計り知れない事だと思います。この血を一滴残らず引き絞るために見窄らしくもかの偉人たちが残した書物に縋り、様々な方法を頼りました。でも叶わなかった。あなたの業はそれほどまでに深過ぎた。しかし、そんなこと、今となっては馬鹿げていますね、

 ねえ、父様?この血は、希望、なんですね?
 彼女をこの腕の中に留めておくためには、どんなことでも出来る。どんなことでも、是としてしまう。それはとても素晴らしいことですね。今となっては、これこそが捩じくれた私がこの世に生を繋ぐ唯一の意味にもなりました。
 
 父様。心の底からの感謝を捧げます。
 貴方が、私に分け与えて下さった、この酷く醜い血のおかげで、私は今日こんにちも私として存在出来るのです。












 セテンスが彼女と想いを確認しあってから数週間が経った。共寝の誘いを断り、雇用関係があるのだから、こういうことはしっかりしないと、と鼻息荒く使用人室に戻ろうとする彼女を押し倒し、その身体を充分に味わったセテンスは、くたりと力の抜けた娘の身体を抱え直して寝台に横になった。先程まで悩ましい声音でセテンスを翻弄した彼女はすでに夢の世界に誘われ、静かな寝息を立てている。

「すまない」

 そんな娘に、数度目の謝罪を落としたのち、上下する薄い胎を柔らかく撫でたセテンスも緩やかな睡魔に身を任せた。







——彼らの想いが通じ合った、あの晩。それは喜ばしい瞬間であると共に、酷く夜でもあった。
 今から語られる物語は、非常に身勝手な男が自らの唯一に対して、今もなお途切れることなく継続されている、の、一部始終である。



「セテンス様、好きです。心の底からお慕いしております」

 初めて身体を暴かれた娘は、余裕など欠片もないだろうに自らを害する男に穏やかな瞳を向けた。その瞳の奥には、疑うべくもない愛があった。彼だけに向けられた、彼のためだけの愛である。


「覚悟、してくださいね」

 くしゃりと泣き笑いのような顔を見せたアンリセラはまるで天使のように愛らしかった。健気な娘に、なけなしの理性は焼き切れた。娘からの愛を喰らい尽くそうとそれだけを考えていた。



 気がついた時には、甲高い声をあげて娘が達したところだった。深い快感に身を委ね、虚な眼差しを空に向ける娘はとても煽情的であった。そして、自らの欲は未だ、健在である。

「ふ、……、せて、す、さま」

 不意に意識が定まったのか、アンリセラがセテンスに向けてふにゃりと微笑む。その唇が小さく「だいすき」と告げた。


——しかない。

 ふと、頭の中にそんな邪悪な考えが浮かんだ。

 そうだ、今しかない。
 そこから先は、自覚などなかった。



「っ、頼むから……、そんなに煽ってくれるな」

「、?」


 にゅぢぢぢぢ♡
「ひ、っぁ、ぁああぁーー♡♡♡」


 なんの前置きもなく、勢いよく欲望を突き入れた。度を超えた興奮によりさらに質量が増したはずの剛直は柔らかな秘肉が難なく呑み込む様に更に欲望が滾った。既に主導権は奪い取っている。それなのにもっともっとと、快楽を求め深く深く彼女を貫いていく。

「そうやって、……!君は、私がいつも欲しい言葉をくれる……!」

 一言一言噛み締めるように吐き出される言葉に合わせ、セテンスはより深く腰を突き入れる。先程まで男を知らなかったはずの身体はどこもかしこも柔らかくセテンスを締め上げ、淫らに彼を求めているかのようだった。

「私がこんなにも、君に狂っていると言うのに……!これ以上、翻弄されたら、……!」
「ぁっ♡ あっ♡ あっ♡ それらめぇ♡♡♡」
君のことを、手放せなく、なる……!」

「ひぁあぁあぁ♡♡♡ ごちぅごちぅ、しないれぇぇ♡♡♡ こわ、れひゃっぁぁあぁ♡♡♡ っ!!!」

「リセ、愛している、もう絶対に、離さない」

「こんな私を、許して」
 否、許さないで。
「ずっとそばにいて」
 否、離れることすら、もう許さないのだけれど、


 綺麗な雫を落としながら、縋るような言葉を吐く男は、その醜い本心を胸の中に秘めたまま、最後のへと加速した。粗雑な動き全てが、彼女の快楽となるように、その一点だけを目掛けて腰を打ち据える。

「やぁっ、また、またぁっ!!イっひゃ、イっちゃうぅう♡♡♡」
「あぁ、私もそろそろ、だから」

「その小さな胎で、たくさん受け止めて」

ずんっっっ♡
「……ひゅ、は……っ!?」


 信じられないほど奥に熱量を突き入れられる。彼の欲が一直線に彼女の子宮の中に叩き込まれる。マグマのように燃え盛るような熱さを伴ったソレ、で彼の目論見は、『完成』するのだ。

 彼はたった一回だけ、した。

「ーーーっ!?ーーー!!ー!ーー♡♡♡」

「リセ。お行儀よく、こぼさないで」
「全部、ごっくんするんだ」

 彼女のその胎の奥、子宮のちょうど上に刻み込まれたのは小さな華型の刻印。決して肌の上から確認しようのないそれは、古代に廃止された、淫紋、だった。

 

 彼の精を持って既にその術は完了した。

 一度、刻印主との行為が始まれば、理性を失くすほどに強い快楽が彼女を襲う。彼以外は決して目に入ることなどない。少しでも距離が離れたら、不安感に襲われるそれは、定期的に行為に及ばないと、禁断症状に襲われる。まるで隷属紋とさして変わらないその術は人の尊厳をひどく傷つけるとしていつのまにか淘汰されていった歴史を持つ。



 再度、身体に青黒い霧が舞い戻る。身体の色が抜け落ち、見窄らしい"色無し"の姿へと変わる。この国の伝承の一つに、数千年に一度白を纏った子どもが生まれ、神子とされ崇め祀られるというものがある。しかし、彼のそれは似て非なるものである。古代魔法の過剰な使用による、それはもはや呪いと言っていい。この世に万能なものなどない。彼の用いる古代魔法すら、使い過ぎると精神を病むという副作用がある。色・が抜けるということはつまり、自らの感情、自らの精神を制御できていないことに他ならない。

 その副作用を知って尚、彼は縋らずにいられなかった。以前は忌避していた呪いの血も含め、たった今彼はそんな自分の在り方を受け止め、そして決意し、行動に移したのだ。


 これで、ようやっと彼女は自分のものだ。

 目の前の唯一に、決して外れない鎖を刻みつけた男は、その白い頬に一筋の涙を落とし。

 長い旅路を終えたような。
 長年の夢が叶ったかのような。

 そんな、満面の笑みを浮かべた。




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