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後編

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 気がついた時には、ぶっ倒されていた。もちろん背後はまんま床である。ラグすら引かれていないそこに腰と頭をしたたかに打ちつけたユールは視界に星を飛ばした。痛みよりも何が起きたか理解ができなかったため、ちょっとした天変地異でも起きたかな、と思ったほどだ。動揺する彼女をよそに、のそり、と腹の上に何かが乗り上げたのがわかった。

「くそ、おじ……え、ゆ…さな…い」

 不躾に乗り上げたそれは、何かを小さく口走ったが、動揺の渦にいるユールの耳はそれを受け流した。


 星が飛び散る視界の中でユールは相手を睨みつけることを優先する。無礼な行動を起こしたのはもちろん目の前の男だった。大きめのシャツは、首元から胸にかけてだらしなくボタンが外れており、布の隙間から美人の胸板が覗いていた。やっぱり男じゃん!とユールは再確認することになった。
……そして腹部に押し付けられている立派なこれは確かに男性器だろうな。そんなことも冷静に考える。

 もちろんそういった経験は一切ない。
 こうして男性と二人きりになることすら初めてだ。

 王弟殿下から命が降った時に、こうなる可能性も予測していなかったわけではない。だが初日に寝起きの男性からこんな形でとは流石に考えていなかった。完全に危機管理が後手に回ってしまっていたことを反省する。以前は男性の急所を蹴り上げてことなきを得たが、今回は残念ながら下腹部の上に乗り上げられており、蹴るのは難しいかと考えているうちに、……あぁほら、両腕も拘束されてしまった。

 なんてこと!妹の安全云々言ってる場合じゃないわ!
 自分の貞操だって守れない体たらく!

 青ざめながらも出来うる限り暴れようとしたが、この『女男』!細っこい体のどこにその力があるのか、ユールは全く動けなかった。加えてミントグリーンの瞳が、じい、とユールの顔を覗き込んでいる。完全に真顔だ。怖い。

 いくら行き遅れでも、ユールだって女だ。なんなら純潔だ。つまり、ウブなのである。そう、ウブウブなのだ!

「失礼ですが。その手を離して頂けませんこと?」

 退け!と怒鳴ってやりたいのを堪え、小さめのお願いから小出しにしてみる。

「ごめんなさい。どうやら無理そうです」

 おおっと、思ったよりも礼儀正しい返答が返ってきたことにユールは目を見張る。

「うーんと、上手く言えないんですけど、叔父にしてやられたようです」

ん?叔父?
「……」

 サァと、これ以上ないほどにユールの頭から血が下がっていく。叔父とは十中八九王弟のことだろう。ということはつまり彼は。……なんてこと!ユールは悲鳴をあげそうになるのを必死に堪える。式典などで遠目で見たことがある第一王子の存在。その時とは明らかに異なる容姿の彼。先の王弟と同じく保護のためか認識阻害魔法がかけられているようだった。

「えば、」
「うん、それは口にしないほうが良いかも」

ぬち、とユールの唇に細長い人差し指が乗せられる。

「あ、柔らかいですね。まずいな」

意味のわからない言葉が男の口から飛び出す。

「ひとまず、私のことはエヴァ、と呼んでもらえますか?」

穏やかな瞳で美人が告げた。

「では。エヴァ、様。大変申し訳ございませんが、少しばかりその不躾な御身を横にずらして頂けますか?」

少しばかり余裕がなくなったユールの言葉からメッキが剥がれ始める。

「うん、無理です。今は特に。こちらこそ申し訳ありません」

 エヴァは、その高貴なお生まれにも関わらず非常に物腰が低いようだ。しかしその行動自体は丁寧なお言葉に全く伴わないことをユールは理解した。

「本当に申し訳ありません。をしないと、終わらないようなので。……その、なるべく気にかけるようにしますので、何かありましたらお気軽におっしゃってくださいね」

「は?」

「じゃあ始めますね」

 会話にならないそれを終えたエヴァは、穏やかな笑みのまま、ユールの服を剥ぎ取った。





「あー柔らかい。ユールとても可愛いです」
「や、♡ ぬいへぇ♡♡♡」
「ぬいたらユールが辛いかも、です。そろそろ、子宮、おりてきはじめて、る、ので」
「トントン♡ しながぁ♡ おはな、し、しちゃぁ♡ っ…♡♡♡ ら、らめぇ♡♡」
「結構、マナーに厳しい方みたいですね、うるさいなぁ」
「年、ぅ上、にそういう、こと、いう、の無、れい、で、……ふぅ!♡♡♡」
「年下に、ちんこ突っ込まれて、あんあん言ってるのに?無礼も何もありませんよ、ね」
「っつ…………♡♡♡ ーーーーっ!!♡♡♡」
「はいまたイった。よしよし。気持ちいいでしゅねー。年下に甘やかされるご気分はどうです?」


――さて。何からお伝えすべきか。

 まず、処女であったユールイースがここまでドロドロに喘がされるまでの順序をお伝えしよう。

 初めに彼女は唇を奪われた。唇をぺろりと一舐めされ驚いた彼女は抗議の声を上げようとしてそのまま相手の舌の侵入を許す形になった。抗議の声は驚きの悲鳴にとって変わりそれもくぐもった情けのない音になって終わった。ペロペロと舌をなぞられ、口腔内を暴れ回る生暖かく柔らかい――彼女にとってはひどく不気味な――舌はゾワゾワとした感覚をユールに与えた。頭を捻り首を傾けどうにか逃れようとするが、腕を拘束していない方の片腕がぐいと顎を押さえたらもう抵抗の手段が失われてしまった。

 非常に無礼なことに片方の耳に指をわずかに突っ込まれる。誰にも触れられたことのない耳の入り口をコチュコチュとくすぐられ、穴の浅いところをこしゅ、こしゅ、と撫でられる。ぴく、となぜか腰が跳ねる。異常感覚でも発現したかしら!と彼女が大混乱している間に、ぐぽぉ、と喉の入り口近くまで男の舌が侵蝕した。男の舌は長いのか、自分の舌でも触れたことがないところまで撫で上げる。びくう、とまた腰が跳ねる。

「!?!?」

 さらに大混乱に陥った彼女に、唇を離した男がくすくすと笑う。いちいち美麗なのだ。同性相手に怪しい雰囲気になっていると錯覚しかねない。というか、相手が誰であろうが、自分の自由のない中でこういう行為はすごーーーーく嫌である。

 だって初めてなのに!!

酸欠も加わり、涙目になった目で男を睨みつける。

「あんまりそういう顔しない方がいいと思います。特に今は。誘ってると思われます」
「……っ!」

 いつも自分が指摘しているような言葉掛けをされ、内容もそうだが、なぜ自分が注意されねばならないのかとユールは固まった。何度目かの衝撃は乳房を揉まれるという新たな衝撃によって過ぎ去った。

「あー柔らかい。気持ちいい」

 男は目尻を赤く染め、感じ入っているようだった。ユールが何かを告げる前にお綺麗な顔がぐっと下げられたと思うと、胸の頂がゆるゆるとなめられる。舌先で愛でられる感覚も初めてのものだ。

 また腰が跳ねた。どうやら自分の身体には腰が跳ねるスイッチが至る所に隠されているようだということに彼女はやっと気がついた。恐ろしいのは初対面の男が初見でそれを解明していくことだ。

 なんなのこの男。恐ろしい!!

 頭では恐怖、そして珍妙さ、そして、腰より下では、なんだか妖しいおかしな感覚。

 腰をひよこひょこ跳ねさせながら、ユールは途方に暮れた。時折訪れる強すぎる刺激にまだ頭が快楽として理解しきれていないことが現状なのだが、もちろん初めての彼女はあまりピンときていないようだった。
 夜伽の知識はないわけではない。しかし、行為も何も、突っ込んで終わりだと思っていたのが彼女の脳の限界だった。こうして考えてみると自分の学費まで弟妹の養育費につぎ込んだことは後悔すべきだろうか。弟妹達でももっとマシな営み教育を受けていたに違いない。

「ユールの可愛らしい乳首がピンって立って私の舌を待ってるみたいですね」
「それはないと思います」

 つまり、そんな学のないユールが、ピシャンとムードのない答えを返すのも仕様のないことなのだ。しかしエヴァには全く響かないようだった。

 ひちう♡ れろれろ♡ ふちちち♡

「……っ!んン♡」
「ほら、気持ちいい気持ちいいってお胸が喜んでますね」

 無理やり喘がせたのち、微笑み混じりで彼はそんなことを伝えた。

「年下風情の舌でぴちゃぴちゃって乳首吸われて、ユールは喜んじゃう変態さんなんですね」
「……っそ、そんなことな、……っ!♡」

 れろれろれろ♡ ひちうぅう♡♡♡

「ほら、またお腰がゆれていますよ。僕にちんこ突っ込まれる準備を始めているのかも?」

 この男!こんな顔して何をほざくのか!

信じられないほどのはしたない言葉遣いにユールは絶句する。

「もしかしたらココに突っ込むんですよー、って教えてくれてるのかもしれないですね。もちろんわかってますから安心してくださいね」

 あまりの言葉に注意の言葉が漏れ出る前に、下生えに手を這わされる。無遠慮な指が入口周りを数回触れるか触れないでなんの声かけもなく、秘唇に指を押し当てられる。


 くちぃ♡ にゅちぃい♡

「……っひぁ♡♡♡」
「あ、濡れてる。なーんだ。準備万端じゃないですか」

 到底信じられないその事態をユールも自覚した。男性器を受け入れやすくするために、女性が準備を整えることはなんとか知っている。ねろねろの分泌液が出て挿入を助けやすくすることも知っていた。

 こんな礼儀もクソもない子供相手に!
 準備を整えるなんてありえない!

自分の身体に対して困惑しているユールは既に心のなかで淑女の仮面をベリっベリに剥がし捨て去っていた。

「はー早く挿れたい。ユールの大切なところぐっちゃぐっちゃにかき混ぜたい」

「ユールたくさん気持ち良くなっちゃいますね。年下ちんこにこれから喘がされちゃうんですよ?たくさんたくさーん」

「な、なにを」
「初めてだから優しくしたいなーと思うんですが、ユールはチンタラされるのと、一気にちんこずぶう、ってされるのどっちがいいのかな?」

「そ、んなの、」

 どっちもイヤに決まってる!

とは言葉にならない。
堪えたのではなく、つぷぅ♡と指を突き入れられたためだ。

「っーーーっひ、ぁ♡ あ、ァ……ッ」
「あー可愛い。処女喪失したみたいな声出してる。残念でした。指ですよ。しかもまだ一本」

 激しい異物感にユールは眉間に皺を寄せる。

 これでまだ指一本だなんて!信じられない!!!

 信じられないを連呼しまくっているのだが実際にそうなのだ。全部この男の手によるものだ。ぐ、と男を睨む目に力を入れようとしたユールは不意に自由を手に入れた。
不意に腕の拘束が解かれたためだ。ユールはきちんと錯覚する。

 やった!これで抵抗が!

「やっぱクリトリスいじらないと苦しいかな」

 きゅにゅう♡ にゅちい♡ にゅく♡ にゅく♡ にゅく♡
「ひゃああ♡♡♡」

 脳天まで突き刺さるほどの快楽に、思わずユーズは声を漏らした。自ら触れたこともないそこは、むしろ存在すらあんまり認知していなかった場所である。

「やっぱユールも気持ちいいんだね。よしよし?ここはクリトリスって言うんですよ。よしよしってされたり、こーやって、たまにつねってあげると、ユールが切なくなったり寂しくなったり、気持ち良くやってわけがわからなくなっちゃうところ」

 もっと気持ち良くなる場所はこれから教えてあげましょうね。

 そんなことを告げられながら、そっと手を頭に伸ばされヨシヨシ撫でられる。その指はどこを触ったところだよと思いながらも次にくる刺激が怖くてユールは動くことも拒否することも出来ずにいた。クリトリスをいじられながら指の本数を増やされる時間はユールにとって悪夢のような時間であった。

「も、もお、おわ、て、くだ♡♡ ひうぅ♡」

既にドロドロになったユールに男は一つ頷いた。

「だいぶゆるゆるになってきたから、そろそろ突っ込みますね」

 違う。そういう意味で終わって欲しいんじゃなく、今すぐこの行為を終えて欲しいんだけ、

 ぎきゅう♡♡♡ にゅぐちちぃ♡♡

「ふぁあぁあ♡♡♡ 」

「ちょっと痛いの緩めるために、クリちゃん強めに虐めときます」
「そういうのいら、な、」

 ぎゅちぃ♡♡♡ にゅろろろ♡ ぬぷうぅう♡

「ぁ、ぁ、あ ぁ♡ーーーーーっ!!!♡♡♡」
「え?ユール、処女なのに、挿入されてイくんです?
ちんこ突っ込まれて、クリぎゅうーって乱暴に摘まれていっちゃうの?えっろ。いいやもう。奥までついちゃいますね」

 ぐちいぃいい♡♡♡

「いっ……ゃぁぁあーーー♡♡♡」

「あー可愛い、またイっちゃったんだ。初めてで?こんなにカチカチの突っ込まれて?素質あるんですね。あ、目が濁ってきた。だめだなあ、ほんと。そんな顔されたらこっちもイライラして」

 ひくく♡♡

「ひゅ、は!」

「あーあ、またちんこ大きくなっちゃいました。ほんともうユールお馬鹿さんなんですね。自分で自分の首絞めてる。だめだ。こんなに煽られたらこっちもすぐ出ちゃうなあ」

「じゃあ、少しイきますね」

 まるでどこか散歩に行くかのような気軽さで男が告げる。何をと言う間も無くお腹の中に暖かな液体が吐き出された。ほかほかとするソレは確かに、

「や。ら、らめぇ♡ 精子、だしひゃ、ら、ぇえ!!」

もはや矜持など何もなくドロドロに溶けた顔で、ユールが喘ぐ。

「大丈夫大丈夫。私処置済みなので。安心してたくさんドピュドピュしてあげますからね」

「ほら、たくさーん精子出してあげたから、たくさんぬるぬるーってしていっぱいちんことまんこ、ごしごしって出来ますよ」

 長く太いそれでずろり♡と奥を撫で付けられユールは喘ぎ声を漏らす。圧迫感は確かにある。でもその先っぽがなんとも言えないところに当たるのだ。そこをかすめたり、問答無用で当てられるたびに、きゅうきゅうと切なくなって、男の欲望をお腹いっぱいに抱きしめてしまうのだ。

 ごちゅごちゅごちゅ♡ にゅちいぃいい♡
 ごちゅごちゅごちゅ♡ にゅろぉおおお♡

「やめ、ら、めえ、あ♡ っ……ぁ、は♡」
「お精子美味しいですね。あーまたそんな顔して。私そんな性格じゃなかったはずなのになあ。たくさんユールのこといじめて愛し尽くしたくなるなあ」

とろりと微笑んだ男は無理難題を課した。

「じゃユール、次は一緒にイきましょうね。長ーいちんこでユールの切ないところ、たくさんごしごししてあげますからね。がんばってまんこの奥までお迎えして、赤ちゃんできちゃうお部屋でムダ打ち精子たくさんごっくんしてくださいね」

「むりぃい♡……っ」

「聞こえなかったです」

 ごちぅううぅう♡

「ーーーーっぁ、ま、たぁ♡♡♡」

「ほら、ちゃんと」
「むりで、ぅ!!」
「わがまま言わない」
「ひど、ぃい♡♡♡」

「あ、やら、また♡ く、くる、きちゃ、うぅう♡♡」
「はい、イクイクしましょうね、たくさん出して、って言ったら終わりますよ?」
「ぁーーーーっ♡♡♡」
「終わりたい?」
「は、はい♡ はぃ♡」
「なんて言うの?」
「おわりたいれす♡ たくしゃん、だしてくだしゃ……っぁあぁ♡♡」
「はい、どうぞ。」

「♡♡♡ ぁ、ぁ♡♡ ーーーーーっ」



 一夜明けてである。顔を真っ赤にしたユールに向き合っているエバンズはひどく人間らしい笑みを浮かべていた。ちなみに絶賛説教中である。

 初対面の人にはきちんと挨拶するとか。初対面の人を押し倒さないとか。初対面のしかも年上の女性を喘がせないとか。
 耳の塞ぎたくなるような、破廉恥なお説教を受けている彼はなぜかとても嬉しげで、反対に向かいの女性は顔を真っ赤にして怒っていた。これではどちらの仕置きかわからないといった有り様だ。

 どちらの方かと言うと、恥ずかしいプレイを強要されているのはユールの方である。このエバンズ、いちいち確認などするのだ。それも、「じゃあ、僕のちんちん突っ込まれて、ユールがアンアン言ってても、だめだったってこと?」と信じられないほど下品な確認の仕方をする性質の悪さ付きである。
 しかし彼女の世話焼き根性は、しっかりと確認してから説教をして何が悪かったのかを伝える方針のもとに成り立っていた。……と言うわけで、彼女の可愛らしい唇から、男性器だの挿入だのそういうお綺麗に言い換えられた言葉が飛び出してくるのを彼は笑いを噛み殺して聞いていた。


 どうせ1日に一度そういう行為をしないといけない身体にのだ。北の塔でお行儀のよい生活を続けていたエバンズが最後に思い出せるのは、叔父の近衛が訪ねてきたことまでだった。

 目の前に無遠慮に手をかざされ、何だか眠くなって。そこから強制的にこの部屋に連れてこられたのだと思う。気がついた時には目の前に彼女がいて。下腹部が急激に熱くなって、何だかよくわからないまま、を口にさせられた。

 エバンズがよくわからなかったのだから、目の前の娘も何も把握できていないに違いない。現に今も、初対面の女性を押し倒すのがいかに悪いことかを訥々と語っている。

 多分。そんな単純な話ではないのだろうとエバンズは考える。

 不意にエバンズが立ち上がった。情事の名残を彷彿とさせたのか、ユールは小さく声を上げて後ろに下がった。

 怖がらせてしまった、先ほどの行為もやっぱり怖かっただろうな、申し訳ないなと思いながらも、『事実はしっかりと確認しなければならない』と先ほどユールが口にしていた言葉にのっとりエバンズはトラウザーズをくつろげた。

 下生えがわずかに見え隠れするくらいまでにくつろげられたそこを「見て」とエバンズが告げる。「僕が君にあんなことになっちゃう理由」と至極真面目にエバンズが伝えるものだから、顔を真っ赤にして抗議しようとしたユールも恐る恐るそこを眺めた。

 エバンズの腹筋がわずかに見える下腹部。その少し上につけられているのは薔薇のような刺青だった。

 エバンズは強制的に発情する身体にされている。俗世では淫紋と呼ばれているらしいそれは、きっと叔父の小細工に違いなかった。

「こ、これは」
「城下だと確か淫紋とか呼ばれてたかな。一番初めに名前聞いてよろしくって言ったでしょ?あれで多分契約完了しちゃってるんだと思う」

唖然とした顔のユールを眺め、エバンズは目を細めた。

「だから、ユールが僕のご主人様で、ユールにしか発情しないから、他の女性を襲う事はないよ」

 安心してね、と笑いかけられたユールは、自らの肩口に同じ形の契約印が浮かび上がっていることにだってきっと気がついていないのだろう。

「だから、僕は毎日発情しちゃうから、それを治めなきゃいけないわけで。……それを手伝ってくれる役割が、君じゃなきゃ、ダメなんだ」

 これ以上ないほど絶句したユールを楽しげに眺めたエバンズは、今日もどこかで発情するのだろうとそんなことを考えていた。そして目の前にいるのは彼女である。またこの絶句した顔が見られたらきっと楽しいだろうな、と男は含み笑う。

 他人に興味を抱かないはずの自分が、なぜかここまで骨抜きにされている。おかしくてたまらなかった。

 叔父のくれたプレゼントは彼の身体だけでなく、心の奥底までしっかりと刻みつけられる素敵なものだった。


 大丈夫。この人なら僕は愛せそうだ。
 淫紋の効力などなくても。きっと。

 隣で真っ赤に頬を染める世話人を見て、エバンズは朗らかに微笑んだ。

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