ローザリアの報復

いちのにか

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中編

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 魔王は眉間に皺を寄せながら、ぎゅうぎゅうと抱きつく女を見下ろした。

 女の身体には、しなやかでつるつるとした長い尾に、僅かに尖った耳があった。加えて、下腹部の淫紋はさらに複雑化しており、棘を模した印が複雑に絡み合っている。
 皮膜つきの翼こそなかったが、その姿は数多い配下の一部である淫魔を彷彿とさせた。

 眷属になったためか、男に対して恐怖や戸惑いなどのネガティブな感情は微塵も感じられない。一糸まとわぬ姿であるも気にした様子はなく、羞恥心すら持ち合わせていないようだった。
ぐりぐりと滑らかな素肌を押し付けてくる持ち主の意に従順な尾も、魔王の腕ににゅるり、と巻きついており、全身で甘えているのが丸わかりである。
 小ぶりな胸に、キュッとくびれたお腹。形の良い臀部。匂い立つような肢体からは、ご丁寧にも男の邪気が漏れ出ており、魔物達には誰の眷属であるか一発でわかる仕様付きである。

 その変化は男にとって、かなり、不本意な出来事だった。

 男は、原因の解明をしようと因果を考え、…すぐさま思考を放棄した。

 なぜなら、変化の理由など、判・る・は・ず・も・な・い・からだ。
今まで人間に印をいれたことも、中で精を放ったこともない。そんな無駄なことなど実行するわけがない。……この女が目の前に現れるまでは。裏を返せば思い当たる節は有り過ぎる程であった。


 いずれにせよ人間を眷属化させるなど前代未聞のことだ。
 淫魔や吸血種達が獲物となる人間の精や血を得るために洗脳を施すことは知っていたが、下等な人間の魂を己のそれと縛り付ける魔法を行使するものはいなかった。



ーー これでは、まるで。
自分がこの小娘に執着しているようなものではないか!


そんなことまで考えた魔王は端正な顔を盛大に歪めた。



「けんぞくか?」


当のローザリアは男の言葉をそのまま繰り返し、こてんと首を傾げた。あどけない幼女のような仕草に、今度こそ魔王は深いため息をついた。

 女の反応は明らかな知能退行を示していた。淫魔たちが用いる洗脳の手順として耳にしたことがある。主人の意志に反さぬ行動をとるよう、一番初めに施される術として、認知レベルを下げ、絶対服従を誓わせるのである。


 この私が。
 人間の小娘風情に。
 わざわざ洗脳してまで遵従を誓わせる、だと?


 制御できなくなった感情により、ぶわりと邪気が溢れ出す。
ビリビリと城内の空気が揺れはじめる中、ローザリアはぽやんと魔王を見つめていた。

ーー 兎にも角にも、状況の打破に努めなくては。

 男は渋々女の核を視認する。自らの邪気と、女の少ない魔力が絡まり合っていた。やや抉れているが、元の人間に戻せないほどではない。もちろん眷属化した人間を元に戻した経験などない。失敗しても少々壊れるだけだろう。

 初めての眷属。
 掛け値なしに甘えてくる存在。
大抵のことを予測する男にとって、この得体の知れない存在は一等不快感を煽るものであった。

 面倒なことはさっさと処理するに限る。

そう考えた男は、少々雑な動作で女の頭に掌を乗せ、契約破棄を行使しようとし、


ぐりぐりぐりぐり!


ローザリアが自らの頭を思いっきり魔王の手に押し付けたのは、その一瞬後だった。



「なでて、なでて!魔王に撫でられるのきもちいい」
「!」


 畏怖でも、諦観でも、蔑みでもない。
キラキラとはしゃいだ声で自ら生命の源である部位を預けてくる女。

 それは、…それは。

 男が、初めて他者から与えられた距離感だった。


 ぶったまげた魔王は思わず後ずさった。男の腰にはローザリアがぶら下がったままだったため、勢いづいた重心が後方に大きくぶれる。

 非常に情けないことに男はそのまま後ろにぶっ倒れた。
体勢が変わり、男の上に馬乗りになった女が、不思議そうに男の顔を覗き込んだ。
そんなことを気にする余裕もないまま、しばらくの時間、男は目を見開きピシリと固まっていた。







 あれから時が流れたが、相変わらずローザリアの耳は尖っていたし、臀部にはしなやかな尾がふよりと揺れながら存在を主張していた。


 どうにも調子が出ない。
自身の黒髪を好き勝手にいじるローザリアを放置したまま、男は鬱々としていた。

 あれから何度も核を修正しようとしたのだが、その度にローザリアは魔王に抱きつき、背にもたれ、挙句の果てに自ら軽いリップキスまでする。核の修正を避けていると言うより、構われることが嬉しいのであろう。純粋な好意が見てとれ、男からすれば非常に性質が悪かった。
 放置しようが、無視しようが、女は何が楽しいのか常に笑顔で、男につきまとって甘えた。

 幸か不幸か。城には強い結界が施されており、配下といえども入城を許していなかったため、誰もそれを止めるものはいなかった。





 「魔王、お腹すいた!」

 今日も一切の空気を読まず、ローザリアが弾丸のように男の胸に飛び込んで来たかと思うと、男の手を小さな両の手でそっと包んだ。眷属化したローザリアの食事は、魔王の邪気である。
 自らの手から勝手に邪気が奪われていく感覚に、男はため息しか出ない。もはや諦めの境地であった。

 邪気を取り込むたびに、ローザリアから放出される気は濃厚になり、眷属化は進む一方である。

 先日はついに骨盤近くから幼体の羽根が出現した。
拙くもパタパタと存在を主張するそれを目にした男は膝から崩れ落ちそうになった。
 当の本人はキョトンとしていたが、あまりお気に召さなかったのか、自分で羽根を消していた。どうやら着脱可能式らしい。


 眷属化が進む中で、ローザリアが性的なお誘いをすることは一切なかった。日々遊び回っている彼女にそんな感情があるのかも判断がつかない。当の魔王も、どうにも食指が働かず、手を出さずにいた。遠慮しているわけではなく、まるで子どもを相手にしているようで、その気にならないのだ。


 そんな生活に変化が訪れたのは、ローザリアが眷属化してから少し経ってからのことだった。








 ある日のこと、魔王は城の結界が揺れる気配を察知した。僅かな異変であったが、すぐに天眼魔法を使用し異変を確認する。

 それは配下からの救援要請だった。人間と魔物との諍いには基本的に不干渉を貫く魔王を頼るということは、つまり、そういうことなのだろう。
 男は柳眉を顰めながら、音もなく立ち上がる。


ーー次代の勇者がきたのだ。



 勇者脳とはよく言ったもので、スキルを得たものは、魔王と戦わないと気が済まなくなるらしい。さらに忌々しいことに、魔王が当代の勇者を倒すと、次代の勇者が目覚めるのだ。

 スキルの発生する間隔に決まりはないようで、数百年越しのこともあれば、今回のように間髪入れずに攻め立ててくることも珍しくなかった。


 配下の連絡によると、次代の勇者はかなり好戦的な部類らしい。厄介なことに、戦友である同志達を使い捨てするタイプのようで、戦中でもあっさりと切り捨てることから配下達の狡猾な戦法も意味を成さないとのことだった。

 魔王としては無駄のない戦法でむしろ好感が持てるが、自分の領地で好き勝手されるのはいい気分ではない。

ーー軽く捻って差し上げましょうかね。


 べたり、と張り付くローザリアを無言で引っぺがし、魔王は転移した。





 ローザリアにとっては庇護者である彼が、姿を消してから、どれだけの時間が経っただろうか。

 気がついた時には自らの全身が真っ赤に染まり、意識もぼーっとし始めていた。呼吸も荒くなり、心なしか手も震える。

 さむい…、でもアツい…?

 早く男に抱きついて安心したかった。
寂しい思いを誤魔化すように、ぎゅう、と自らの体を抱きしめる。

 こぷり、と何かが溢れる感覚。そっと下位をみると、淫紋が緩く光りはじめていた。





 足元に崩れた勇者を魔王はやや同情的に見つめた。
軽く捻るつもりが、実生活で抱えていた気疲れもしっかり発散してしまったためだ。
 いつもより攻撃的な魔王に配下達も恐れをなしたのか、あたりには誰もおらず、静けさだけが残っていた。


 残党の確認を済ませると、不意に城で待っているだろう存在がよぎる。城を出てから時間が経っていた。

 寂しい気持ちでいるだろうか。
 それとも機嫌を損ねているだろうか。

 無意識にそんなことを考えた自分に、舌打ちをして、魔王は身を翻した。





 ピチャピチャとなる水音。淫蕩な空気がその場を支配していた。


 私室に入った瞬間、いつもと異なる気配に気づく。
魔王の目の前には、享楽にふけるローザリアの姿があった。

「ん、♡ ん♡ ふぁ、♡ あ、ぁ♡」

 ベッドの上で横向きになった女は、とろとろと漏れ出る愛液を掬い上げては自らの肉芽にのせ、そっと擦ることを繰り返していた。あえて強い刺激を避けているのか、指の強弱は変わらないままだ。

 ゆらゆらと揺れる尾は、快楽に染まった彼女の胸中を表しているようだった。

 淫猥な光景に魔王はく、と喉を鳴らした。

 女は無意識に催淫スキルを発動しているのか、男の思考にモヤがかりはじめる。拙いスキルを跳ね除けることなど容易い。しかし戦闘後の昂りもあり、男は大人しく状況に甘んじることにした。


 ベッドが軋んだ音がして、ローザリアは顔を上げた。
そこには、待ち望んだ主人の姿があり、ふわりと笑みが漏れ出る。

「全く。本当に、貴女は掴めない」

「まおう、♡ おかえ、りなさい♡」

 男の声が聞こえているのかいないのか。
帰還を歓迎しながらもローザリアは指の動きを止めない。小さな指で自らの大切な場所をにゅるり、と撫で上げ慰めていた。

 その姿はまるで主人の存在よりも、拙い自慰に集中しているようで。

男のの空気が黒いものに変わる。


 女の上に乗り上げ、乱雑に仰向けに転がした。不埒なその手を引き上げのも忘れない。快楽が奪われたことに女は驚き、そっと男を見上げた。その瞳からは、純粋な疑問が伝わってくる。

戸惑うローザリアに男はにっこりと笑った。

「ご主人様のお出迎えも満足にできないとは、悪い子ですね」

 表情とは裏腹に冷たい主の声音は、確かに女を怯えさせる効果があったようだ。

「ぁ、…ぇ? まおう、怒って、る?」

 漸く主が不機嫌であることを察した哀れな眷属は身を竦める。小さく震えた女に男は嗤った。

「駄犬は、躾けて差し上げなくては」


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