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前編
しおりを挟む「あ、ぁ♡ あ♡ ぁ♡ 」
激しい律動の最後により深く奥を抉られる。
熱く固い欲望で子宮をそろりと撫で上げられた瞬間、ローザリアは何度目かの絶頂を迎える。鮮烈な甘い刺激にきゅうぅうっ♡と中が締まり、遅れて男も欲望を解放した。
大量の精液が流れ込む感触に、ローザリアはブルリ、と体を震わせる。共鳴するように下腹部にある淫紋が妖しく光り続けていた。
まるで夢の中にいるようなふんわりとした意識の中で、自分を組み敷きながら、ふ、ふ、と浅く息を上げている男を見上げる。
引き締まった身体が薄く汗をかいていることも、
端正な顔が気怠い表情に変わることも、
鮮血を思わせる紅瞳が、捕食するように鋭く自分を射抜き続けていることも。
ゾッとするような色気を振り撒いている男の欲望が、自分に向いている。ぽわぽわとしあわせが全身を包んだ。
ーー これは、わたしの、だ。
自分の心の中でだけ、そっと呟いてみる。
彼に伝わったら、呆れられてしまうだろうから。
もしかしたら、気分を害して消されてしまうかもしれない。
だから、ローザリアは自分の心の中にそっと本心を隠すのだ。
今この瞬間が幸せならばそれで良い。
たとえ性欲処理として、世界を壊す前の暇つぶしの一環だとしても構わなかった。
ローザリアはただ、男の傍らにいることを望んだ。
細腕を男の掌に伸ばし、自らの頬に寄せる。普段の冷たい表情からは想像もできないほど、暖かく、大きな手。触れるだけで、ぎゅう、と胸の奥が熱くなった。どこか切なさを伴うそれに、たまらず頬を擦り付ける。
そんなローザリアを眺め、男は目を細めた。指先でそっと彼女の頬を辿ろうとして、
「…揺れてますね」
不意に男は視線をずらす。男の視線の先、ローザリアの尾・が気持ちよさそうに揺れていた。
ローザリアは、間違いなく人間である。否、人間だった。
ありふれた茶色い髪に栗色の瞳。痩せてちっぽけなローザリアはともすれば平穏な人生を歩んでいた。
一介の村娘であった彼女が生活関連の支援職スキルを覚醒したのは、魔物達に村を襲撃されてからすぐ後のことだった。一緒に逃げ延びた幼馴染も勇者のスキルを覚醒させ、二人して王都のお偉方に呼び立てられた。その気になった勇者に有無を言わさずパーティーに放り込まれ、旅をサポートする役目を押し付けられた。
幾日も続く旅の中で、スキルを高め、戦闘能力を上げていく仲間達が次第に魔物を侮りはじめる。
過去の記憶は簡単には消えない。魔物への危機感をもち続けていたローザリアは、ただ一人冷めた瞳で彼らを見つめていた。
真っ赤に染まった景色。
大切な人たちが次々と倒れていく恐怖。
物陰でひたすら息を顰め、時間が過ぎ去るのを待った無力な自分。
脳にこびりついた忌まわしい記憶がつきまとう。
ーーなにをしても、勝てっこない。
全てが、無駄なのだ。
ローザリアの予期した通り、魔王と対峙した仲間達はあっという間に倒れていった。
戦いの中で気分を害したらしい魔王が、邪気を強め、辺り一帯を破壊しようとする。
死が身近なものになる。
今更ながら信じれないほどの恐怖に襲われたローザリアは、我を忘れて声を上げていた。
情けないことに、自分が思う以上に彼女は生にしがみついていたようだった。
死を厭う強い思いは、拙い色仕掛けという、笑ってしまうほど安易な考えを生み出す。無謀にも思えたその行動は、驚くべきことに魔王の気を引くことに成功した。
ご丁寧に淫紋まで施され、ローザリアは魔王に思う存分甘やかされたのだった。
ローザリアの身体に異変が起きたのは、そのすぐ後のことだった。
意識を飛ばしたローザリアが目覚めると、ベットサイドに立つ魔王が様子を窺っていた。
端正な顔つきに腰まである黒髪を緩く編み、サイドに落とした男は一見すると貴族の男にしか見えない。しかし人間たり得ない紅瞳と、身体から漏れ出る禍々しい邪気が、畏怖の象徴であることを示していた。
そんな男はなぜか呆れた表情でローザリアを眺めている。
男との僅かな距離すら寂しくて、ローザリアは慌てて魔王に抱きつく。飛びかかったと言ってもいい。
以前の彼女からは想像もできない突飛な行動に、ある程度の予測がついていた魔王は驚きもせずされるがままだ。
ぎゅうぅうと幼子のように身体を押し付ける彼女を見下ろし。
男は非常に迷惑そうに、
「なぜ貴女は、眷属化、してるんでしょうね」
とぼやいた。
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