上 下
62 / 463
第一章

第六二話 超重量物移送作業中の事故

しおりを挟む
 メリッサが高速艇を準備し、マリーも上階に上がって床の穴で待機。もやい綱をカートリッジに括り付けて合図を送る。

「マリーさーん! オッケーでーす!」
「はーい! メリッサ! 牽引始め~!」
「了解! 引きまーす!」

 高速艇の推進魔堰が唸りを上げる。もやい綱に引っ張られてカートリッジがスルスルと天井の穴へと吊り上げられていく。

 床からり上がってきた重量物をマリーが巧みに取り回して床に安置。

「メリッサ~! ストーップ! 戻ってきてー!」
「はーい! 戻りまーす!」

 もやいを解いて綱を推進室へ降ろす。次のカートリッジの牽引へ。これを繰り返して三つの魔力カートリッジが推進室から上階に運び上げられた。

 続いて、人の移動にも綱を利用することにした。穂積を牽引して引き上げる。メリッサやマリーのように駆け上がるのは無理だ。ビクトリアを抱いて一緒に上がる。

(意外と軽いな~。ビクトリア。相変わらずの美人だ。涎垂らして寝てる……可愛いから揉んでおこう)

 ビクトリアの小ぶりな尻を撫で回して楽しんでいたら、あっという間に上階に到着した。名残惜しくも、美尻をマリーに預けて自分の身体を引き上げる。

 推進室に残るジョジョにもやい綱を放る。

「ジョジョさーん! 身体に綱もやって待機願いまーす!」
「おう!」

 ジョジョが極太の身体を綱で縛ったことを確認して、

「引き上げますよー!」
「いいぞぅ! 引けーぃ!」
「メリッサ! 引けー!」
「了解です! にいさん!」

(ん?)

 高速艇が船体から離れるにつれ、もやい綱が船外へ繰り出されていく。綱の弛みが無くなり、ジョジョの牽引が始まる――。

「うわっ!」

 高速艇を操縦するメリッサから狼狽えた声。外板の大穴越しに見やると、艇が激しく左右に振れてぎょし切れなくなっていた。

「どうしたぁー!」
「に、にいさん! 艇が! 暴れて! 舵がぁ~!」

(ん?)

「推力が足らないんだ! もっと吹かせ!」
「は、はい! にいさん!」

(んん?)

 推進魔堰が唸りを上げる。甲高い駆動音が響き、水流を吐き出して前への推力に変える。艇の横振れは収まったが、進まない。

「そんな! バ、バカな……!」
「にいさ~ん! だ、駄目ですっ! 引き切れませ~ん!」

(んんん?)

 人間の体重が魔力カートリッジ以上だというのか。もやい綱がギチギチと張り詰めて悲鳴を上げている。

「じ、自分はやります! やってみせます! にいさんの命令は絶対! 完遂! しなくては!」

(ん!?)

 推進魔堰が爆音を上げる。駆動音は高周波となり、騒音性難聴すら引き起こすほどのノイズ。魔堰の作動原理は不明だが機関士としての直感が判断する。これは明らかな過負荷運転にして、異音は機関故障の前触れだ。

「メリッサ! 止まれ! 機関停止!」
「にいさん! にいさん! にいさーん!」

(んん!?)

 聞こえていない。あの若さで難聴では無いだろうが、なぜか兄を叫び、推進魔堰を過負荷でぶん回すメリッサは頭のネジが飛んでいるとしか思えない。

「バカー! 止まれ~! もやいが切れる!」

 もやい綱はパンパンに張り詰めて、伸縮の音すら聞こえない。

「ホヅミさん! やばいよ!」

 マリーの待機していた床の穴。切断面の面取りはしたものの摩擦はある。綱の接触部分が床にめり込み、素線がピンッピンッと弾け始めていた。

「マリーさん! ビクトリアを連れて退避して!」

 即座にビクトリアを抱えて反対舷に飛び退くマリー。穂積も綱の周囲から更に距離を取ってメリッサに注意喚起する。

「メリッサ! 気をつけろ! 後方!」

 張力を持った係船索が突然切れたことによる人身事故は枚挙にいとまが無い。

 テンションを溜め込んだロープは切れた瞬間に蛇のようにのたくりながら高速で飛来し、周囲のものを跳ね飛ばし絡め取る。裂傷や骨折で済めばいいが、四肢切断や死亡に至るケースも少なくない。

「メリッサ!!」


『バン――ッ』


 もやい綱は呆気なく切れた。綱の大蛇が床を舐めながら目にも止まらぬ速さで疾駆した気配が通り過ぎる。

 高速艇が宙を飛んだ。ジョジョの超重量から解き放たれた艇は、もやい綱と高周波を引き連れて空中を駆ける。

 その姿はまるで巨大トビウオ。羽はなく、屋根があり、長大な蛇の尻尾が付いている。アヒルさんボートのように顔があったなら、きっとそれは泣いているだろう。あと、メリッサが乗っている。

 事故の瞬間はスローモーションのように目に写り、ゆっくりと流れていく。二十メートルほど跳んで、高速艇はメリッサを乗せたまま頭から海面に突っ込んだ。


「メリッサ――――!!!」


 海に飛び込み高速艇のちんした場所まで急いで泳ぐ。遂には故障したのか、推進魔堰が停止した艇はメリッサを引き連れて海中に沈んでいく。もやい綱を手繰って潜り、艇に取り付いた。

 メリッサは操縦席に居た。シートベルトを外し、背中から抱え込むように腰を座席から引き上げる。もやい綱に絡まれないように注意して艇から離れ浮上した。

「ぶはっ! はぁー! メリッサっ! おいっ!」
「…………」

 頬を叩いても反応が無い。気を失っているようだ。脈は振れたが呼吸は怪しい。背後から片腕をメリッサの脇の下に回し、曳船に向かって半身で泳ぐ。意識の無い人間を連れて泳ぐ際の基本泳法だ。

 船体の開口部に辿り着き、マリーの助けを借りてメリッサを引き上げ、床に横たえる。

「メリッサ! メリッサ!」

 水を飲んでいるのか、呼気が感じられない。気道を確保して鼻を摘み、人工呼吸を施す。

「ふう――――――――っ」
「……………………」

 五秒後、もう一回。

「ふう――――――――っ」
「……………………!」

 さらに、五秒を数え、もう一回。

「ふう――――――――っ」
「……………………――」

 起きない。繰り返す。

「ふう――――――――っ」
「………………――――」

「ふう――――――――っ」
「…………――――――」

「ふう――――――――っ」
「――――――――――」

「メリッサ。そこで舌を入れて舐め回すのよ」
「――!」
「…………おい」
「あ、あの……。にいさん……」
「いつから気付いてた?」
「二回目でもう気付いてたよね? それからは、じっくりと唇の感触を楽しんでたんでしょ?」
「そ、そんな……つもりは……。にいさんのが……柔らかくて……つい……。ははっ」
「気が付いてんならサッサと起きろ! このムッツリスケベが! 誰が『にいさん』だ!」

 メリッサは目を泳がせながら、

「ニ、ニイタカさんなので、『にいさん』でお願いします。今後はにいさんのご命令の下、働きたく存じますので、宜しくお頼み申し上げます……」
「要するに、メリッサは重度のブラコンなんでしょ? そんで、ホヅミ兄さんとヤりたいんだって」
「マ、マママ、マリーさん? じ、自分は……そんなつもりは……」

 ブラコンエセ軍人メリッサにマリーはニヤリと笑うと、

「でも、メリッサ? 気を付けた方がいいよ? デカいらしいから……」
「でかい? 何がです?」
「ナニがよ」
「ナ、ナニですか? に、にいさんの男性は……そんなに?」
「あの船長が怖気付おじけづくほどの逸物よ。メリッサ。せいぜい覚悟を決めておくことね~」
「えぇ~!? あの船長が怖気おじけるほどの…………――巨砲なのですね! すごい! それでこそ、にいさんです! 大きな男が、大きなモノを掲げる! 大艦巨砲が称賛されるは世の常! ああ! 自分も照準固定ロックオンされてしまいました! このメリッサとて軍属! 上官たるホヅミにいさんのご命令は絶対! 如何なるご命令だろうと粉骨砕身で勤め上げさせて戴きます!」
「わかった! メリッサ、お前はバカなんだな!? ブラコンエセ軍人馬鹿でムッツリどスケベなんだな!? エロッサと呼んでやろう!」
「ああ! そ、そんな!? 自分はそんなつもりはありません! ただ、にいさんに認めていただく為に!」
「エロッサ! デカいと大変だよ! 戻んなくなって、他のじゃ満足できなくなるかもよ!?」
「マリーさんも! 煽らないで! ていうか、俺のナニが何だって!?」
「も、ももも、戻らなくなる!? な、なにがですか!? ……まさか!?」
「ホヅミさ~ん。船内の女性陣はみ~んな知ってるから。船長がそれとなく探り入れてくるしぃ~。ていうかぁ、あれは多分、相談に乗って欲しいんだと思う。あの船長が、信じられないけどね……」
「ビクトリア――――――っ! 起きなさい! どういうことか! 釈明を求める!」
「…………戻らなくなっちゃう? ……そうなったら、どうなるの? ……満足できない? 他の砲では? ……じ、自分はどうすれば? もう、イクしかない? イッとく? どうせ、ロックオンされてるし。おそらく射程も長いに決まってる。回避運動に意味はある? 時間の問題じゃない? 命中するまで」


 曳船推進室――。

 上の状況が分からず、身体に切れたもやい綱を巻き付けたまま、ジョジョは微動だにせず立ち尽くしていた。

 当然、もやいが切れた時には綱蛇の片割れがジョジョの胸板を直撃していたが、怪我もしていなかった。

「上が騒がしい。何なんだぁ?」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

【R18】異世界なら彼女の母親とラブラブでもいいよね!

SoftCareer
ファンタジー
幼なじみの彼女の母親と二人っきりで、期せずして異世界に飛ばされてしまった主人公が、 帰還の方法を模索しながら、その母親や異世界の人達との絆を深めていくというストーリーです。 性的描写のガイドラインに抵触してカクヨムから、R-18のミッドナイトノベルズに引っ越して、 お陰様で好評をいただきましたので、こちらにもお世話になれればとやって参りました。 (こちらとミッドナイトノベルズでの同時掲載です)

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

異世界転生漫遊記

しょう
ファンタジー
ブラック企業で働いていた主人公は 体を壊し亡くなってしまった。 それを哀れんだ神の手によって 主人公は異世界に転生することに 前世の失敗を繰り返さないように 今度は自由に楽しく生きていこうと 決める 主人公が転生した世界は 魔物が闊歩する世界! それを知った主人公は幼い頃から 努力し続け、剣と魔法を習得する! 初めての作品です! よろしくお願いします! 感想よろしくお願いします!

性転換マッサージ2

廣瀬純一
ファンタジー
性転換マッサージに通う夫婦の話

処理中です...