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第一章
第二一話 星空
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クリスの寝ていたベッドはもぬけの殻だった。トイレにもいない。
「まったく。あの子は……」
穂積に焦りはなかった。クリスがどこに行ったのか大体予想はつく。問題はこれからどうするか。今後クリスとどう接していくべきなのか自らのスタンスを決めておかねばならない。
「とりあえず子供扱いはダメだな」
確かにクリスは穂積から見れば幼い子供だ。しかし現状、穂積にクリスを守ってやるような甲斐性はないし、どうやらこの世界でその考え方は通用しないらしい。
(とすれば同僚になるか……?)
精製魔法は本船に欠かすことのできない能力。クリスは本船にとって貴重な人材だ。しかし、クルス自身は負い目から自信が持てず、いつ船を下りることになるかわからない恐怖から無理をする。結果的に肉体的、精神的に追い詰められ、魔力が回復しない悪循環に陥っているのではないか。
今、必要なのはクリスという懸命だが働き慣れていない子供を、精製魔法という限られたリソースを、どうマネージメントするかである。とすれば穂積にもできることはある。
(主任者研修の成果が試されるということか)
「クリスは俺の部下だ」
おにぎりとリンゴを持って居住区から出る。起きたら食べろと書いたメモ帳の切れ端と一緒に枕元に置いておいたのだが、手を付けられていなかった。
腕時計を見ると時刻は午前二時過ぎ。舷外に広がるはずの海は真っ暗で見通せず、満月の明りだけが薄っすらと甲板を照らしている。
暗闇に目が慣れてくると、艫に向かって甲板を進む。食堂区画の屋上に登って水タンクを見上げると踊り場に真紅の光が見えた。
月明りに白く照らされる肌に真紅の聖痕が無数に駆け抜けては消える。暗闇の中で水桶から淡い紅の光が溢れて周囲を染めた。
満月の下で魔法を使うクリスの姿は少し大人びていて、とても美しかった。
穂積はゆっくりと階段を登る。
「クリス君」
精製が終わった頃を見計らって声を掛けた。
「あ……。ホヅミさん……」
「ダメじゃないか。誰にも言わずに夜中に一人で外に出たら。不意に転落することだってあるんだ」
叱るべき時には叱る。特に危険行為は即座に叱る。
「す、すみません……」
「もう二度とするな」
「はい……」
クリスが怒られてしょぼくれている。
「クリス君。ちょっとこっち来て座って」
「はい……」
踊り場で二人並んで船尾を向いて座る。
「まだご飯食べてないだろ? おにぎり持ってきた」
包みを解いて、丸と三角の肉入りおにぎりをクリスの前に広げた。
「グランマさんに頼んで作ってもらった。お腹すいてるだろう?」
「……」
「食べなさい」
「はい……」
おにぎりを手に取り、もそもそと食べ始めると、目からはポロポロ涙が零れ出す。クリスが泣きながら食べ続けているのを見て、何も言わずに食べ終わるまでじっと待つ。
食べ終わる頃にクリスはようやく泣き止んだ。
「ごちそうさまでした……」
「お粗末様でした。冷めちゃってたけど、どうだった?」
「すごく……美味しかった……です……」
「それはよかった」
穂積はクリスに微笑みかけると、頭を下げて続ける。
「昨日は申し訳なかった。クリス君に無理をさせてしまった」
「そ、そんな……。ボクがもっと……ちゃんと……」
「事前によく知っておくべきだった。機会を奪ったのは俺だ。俺のミスでもある」
「ホヅミさんのおかげで……すごく捗って……」
「そう。それでクリス君のペースが乱れた」
「ボクは……うれしくて……」
クリスが涙ぐんでいる。
「今まで、一日に何回くらい真水精製していたんだ?」
「今日使った水桶で……五〇回くらい……です……」
「……」
「昨日の分は……まだ全然……だから……」
「いつもは丸一日掛かりだった?」
「朝から……日暮れまで……」
「どういうペースでやってたの?」
「わかりません……魔力の限界を感じるまで……」
クリスは魔力に余裕ができたらその都度限界まで精製するということを繰り返していたようだ。最近はゼクシィを手伝っていたこともあって達成できていなかったのかもしれない。
「すまなかった。時間が足りないのに俺の看病まで……」
「いいえ……ほとんど先生がしていて……ボクは少し手伝っただけで……」
「ありがとう」
どうやらクリス自身もペースを正確に把握していたわけではなかったらしい。ギリギリのところまで魔力を消費し、回復を待つ時間はストレスを強く感じたことだろう。
「時間を気にしたことはあった?」
「回復するのが……待ちきれなくて……」
「……なるほど」
(そういう意味の質問じゃないんだが。こう答えるってことは……)
クリスの話を聞けば、日の出ているうちに五〇回を達成できる能力はあることと、正確な時間配分をしていなかったことがわかる。
「クリス君」
「はい……」
「心配いらない。夜が明けたら、また二人で始めよう」
「でも……」
昨日の遅れを取り戻そうと必死なクリス。タンクの水量は昨日より下がっている。二トン弱しか残っていない。あと二日分だ。
「クリス君。俺を信じて任せてみないか?」
「ホヅミさん……」
「昨日みたいには絶対しないと約束する」
「……」
「俺たち二人でこの仕事をやり遂げる。必ずだ。だから俺を信じてくれ」
頭を下げて頼み込む。実際に真水を精製するのはクリスだ。穂積にできることはクリスとともに達成への道を模索することだけだ。
袖でゴシゴシと涙を拭い、正面から穂積を見つめるクリス。真紅の瞳には力が宿っていた。
「ホヅミさん……。よろしくお願いします……」
「任せておけ。二人で達成しよう」
穂積が右手を差し出すとクリスは首を傾げる。
「握手しよう。俺の国の親愛の証だ。手を握り合って誓いを立てるんだ」
クリスが小さな手を差し出すと、穂積はしっかり、しかし優しく握る。
「クリス君。よろしく頼む」
「ホヅミさん。こちらこそ……」
握手した手を軽く上下に振って離すと、クリスにリンゴを渡した。
「デザートのリンゴだ。結構、甘くて旨いぞ」
「ありがとうございます……」
クリスは小っちゃな口でカリカリ齧ると「甘いです……」と言って微笑んだ。
踊り場に座ったままで穂積は夜空を見上げる。
「おお! すっげぇー」
「?」
クリスも釣られて見上げると、月とともに満天の星が煌めいていた。
「わあ……!」
「すごい星だな!」
「すごく綺麗……です……」
「……やっぱり違うな」
「なにがです……?」
「俺のいた世界と星の並びが違うんだ」
「星の並び……?」
「夜空の星の位置は変わらないんだよ。季節や時刻で水平線に対する角度は変わるけど星同士の位置関係は同じなんだ」
「そうなんですか……」
「昔は特徴的な星の位置を測って、本船の位置を知ったんだ。海の真ん中では他に目印になるものがないからな」
「こんな風に……星を眺めたのは……始めてです……」
穂積は踊り場で寝転がって星空を眺める。知っている星座が一つもないことに、改めてここが異世界であることを思い知らされた。
「…………」
少し感傷に浸っている穂積の隣にクリスがコロンと寝転んで同じように星を眺める。
「あっ。あの辺の星……水桶みたいに見えます……」
「お。星座を見つけたか。やるなぁ」
「せいざ?」
「昔の人も星を眺めてアレコレ考えたんだろうな。星々を線で結んで、適当に名前を付けたりしてたんだ」
「なんだか……素敵ですね……」
「……お。俺もそれっぽいの見つけた。あそこの明るい星の下だろ?」
クリスの顔の真横に移動し目線を合わせて夜空を指差す。
「ふぁ! ……あっ。そ、そうです……。その星の下の……明るい四つと少し暗めの二つが……水桶みたい……」
クリスが顔を赤くして少し照れながら見つけた星を指差した。
「あー。わかるわかる。なら、その上の連なってる五つは水桶のロープか」
「あー。そうですね……そんな風に見えます……」
「じゃあ、あの星座は水汲座だな」
「水汲座……」
「この世界にも星座があるのか知らないけどな。あれは俺たちの中で、それでいいんじゃないか?」
「はい……。水汲座がいいと思います……」
「決まりだな」
「えへ……」
クリスがくすくすと笑う。嬉しそうにいつまでも笑っていた。
(よかった。ちゃんと笑えるじゃないか……)
自分を追い詰め、ストレスを抱えて仕事をしても碌なことはない。堅実に、地道に、気楽に、真剣にやればいいのだ。結果は自ずと後から付いてくる。クリスには是非ともそれを知ってほしい。導くのは穂積の役目だ。
「それにしてもクリス君。何でおにぎり食べなかったの? 起きたら食べるようにメモと一緒に置いてあったでしょ?」
「読めませんでした……」
「字が読めないの?」
この世界の識字率は高くなさそうなので、奴隷のクリスに読めなくても仕方ないのかと思っていると、どうやらそうではないらしい。
「いえ。そのくらいなら……ただ、知らない文字で……」
「……もしかして、トティアスの文字じゃなかったとか?」
「はい……」
「……」
『概念魔法』(言語理解)の意外な弱点が発覚した。かなり重大な不具合である。
穂積はトティアスの文字を読める。言語理解が日本語に翻訳してくれるからだ。しかし穂積の書いた文字は現地の人には読めない。おそらく日本語のままなのだろう。
つまり、穂積はこちらの文字を学ぶことすらできないのである。これからの人生、代筆が必須の身体になってしまった。
(イソラぁ~。なんとかしてくれ~)
魔女に頼んで翻訳ソフトをアップデートしてもらうしかないだろう。
「クリス君。そろそろ戻ろうか」
先ほどクリスが精製した真水を水桶からタンクに移し、塩結晶を回収して医務室に帰ることにした。
「ホヅミさん。迷惑かけて……ごめんなさい……」
「気にしないで。今日から俺たちはバディーだ。迷惑なことなんかない」
「ばでー?」
「相棒ってこと」
「……はい!」
クリスが少し元気になった。夜明けとともに仕事が始まる。少しでも休んだほうがいいだろう。
簡易ベッドに横になろうとすると、なぜかクリスが一緒に寝たいと言い出した。子供らしいクリスに苦笑いしつつ、大きい方のベッドで二人並んで眠るのだった。
「まったく。あの子は……」
穂積に焦りはなかった。クリスがどこに行ったのか大体予想はつく。問題はこれからどうするか。今後クリスとどう接していくべきなのか自らのスタンスを決めておかねばならない。
「とりあえず子供扱いはダメだな」
確かにクリスは穂積から見れば幼い子供だ。しかし現状、穂積にクリスを守ってやるような甲斐性はないし、どうやらこの世界でその考え方は通用しないらしい。
(とすれば同僚になるか……?)
精製魔法は本船に欠かすことのできない能力。クリスは本船にとって貴重な人材だ。しかし、クルス自身は負い目から自信が持てず、いつ船を下りることになるかわからない恐怖から無理をする。結果的に肉体的、精神的に追い詰められ、魔力が回復しない悪循環に陥っているのではないか。
今、必要なのはクリスという懸命だが働き慣れていない子供を、精製魔法という限られたリソースを、どうマネージメントするかである。とすれば穂積にもできることはある。
(主任者研修の成果が試されるということか)
「クリスは俺の部下だ」
おにぎりとリンゴを持って居住区から出る。起きたら食べろと書いたメモ帳の切れ端と一緒に枕元に置いておいたのだが、手を付けられていなかった。
腕時計を見ると時刻は午前二時過ぎ。舷外に広がるはずの海は真っ暗で見通せず、満月の明りだけが薄っすらと甲板を照らしている。
暗闇に目が慣れてくると、艫に向かって甲板を進む。食堂区画の屋上に登って水タンクを見上げると踊り場に真紅の光が見えた。
月明りに白く照らされる肌に真紅の聖痕が無数に駆け抜けては消える。暗闇の中で水桶から淡い紅の光が溢れて周囲を染めた。
満月の下で魔法を使うクリスの姿は少し大人びていて、とても美しかった。
穂積はゆっくりと階段を登る。
「クリス君」
精製が終わった頃を見計らって声を掛けた。
「あ……。ホヅミさん……」
「ダメじゃないか。誰にも言わずに夜中に一人で外に出たら。不意に転落することだってあるんだ」
叱るべき時には叱る。特に危険行為は即座に叱る。
「す、すみません……」
「もう二度とするな」
「はい……」
クリスが怒られてしょぼくれている。
「クリス君。ちょっとこっち来て座って」
「はい……」
踊り場で二人並んで船尾を向いて座る。
「まだご飯食べてないだろ? おにぎり持ってきた」
包みを解いて、丸と三角の肉入りおにぎりをクリスの前に広げた。
「グランマさんに頼んで作ってもらった。お腹すいてるだろう?」
「……」
「食べなさい」
「はい……」
おにぎりを手に取り、もそもそと食べ始めると、目からはポロポロ涙が零れ出す。クリスが泣きながら食べ続けているのを見て、何も言わずに食べ終わるまでじっと待つ。
食べ終わる頃にクリスはようやく泣き止んだ。
「ごちそうさまでした……」
「お粗末様でした。冷めちゃってたけど、どうだった?」
「すごく……美味しかった……です……」
「それはよかった」
穂積はクリスに微笑みかけると、頭を下げて続ける。
「昨日は申し訳なかった。クリス君に無理をさせてしまった」
「そ、そんな……。ボクがもっと……ちゃんと……」
「事前によく知っておくべきだった。機会を奪ったのは俺だ。俺のミスでもある」
「ホヅミさんのおかげで……すごく捗って……」
「そう。それでクリス君のペースが乱れた」
「ボクは……うれしくて……」
クリスが涙ぐんでいる。
「今まで、一日に何回くらい真水精製していたんだ?」
「今日使った水桶で……五〇回くらい……です……」
「……」
「昨日の分は……まだ全然……だから……」
「いつもは丸一日掛かりだった?」
「朝から……日暮れまで……」
「どういうペースでやってたの?」
「わかりません……魔力の限界を感じるまで……」
クリスは魔力に余裕ができたらその都度限界まで精製するということを繰り返していたようだ。最近はゼクシィを手伝っていたこともあって達成できていなかったのかもしれない。
「すまなかった。時間が足りないのに俺の看病まで……」
「いいえ……ほとんど先生がしていて……ボクは少し手伝っただけで……」
「ありがとう」
どうやらクリス自身もペースを正確に把握していたわけではなかったらしい。ギリギリのところまで魔力を消費し、回復を待つ時間はストレスを強く感じたことだろう。
「時間を気にしたことはあった?」
「回復するのが……待ちきれなくて……」
「……なるほど」
(そういう意味の質問じゃないんだが。こう答えるってことは……)
クリスの話を聞けば、日の出ているうちに五〇回を達成できる能力はあることと、正確な時間配分をしていなかったことがわかる。
「クリス君」
「はい……」
「心配いらない。夜が明けたら、また二人で始めよう」
「でも……」
昨日の遅れを取り戻そうと必死なクリス。タンクの水量は昨日より下がっている。二トン弱しか残っていない。あと二日分だ。
「クリス君。俺を信じて任せてみないか?」
「ホヅミさん……」
「昨日みたいには絶対しないと約束する」
「……」
「俺たち二人でこの仕事をやり遂げる。必ずだ。だから俺を信じてくれ」
頭を下げて頼み込む。実際に真水を精製するのはクリスだ。穂積にできることはクリスとともに達成への道を模索することだけだ。
袖でゴシゴシと涙を拭い、正面から穂積を見つめるクリス。真紅の瞳には力が宿っていた。
「ホヅミさん……。よろしくお願いします……」
「任せておけ。二人で達成しよう」
穂積が右手を差し出すとクリスは首を傾げる。
「握手しよう。俺の国の親愛の証だ。手を握り合って誓いを立てるんだ」
クリスが小さな手を差し出すと、穂積はしっかり、しかし優しく握る。
「クリス君。よろしく頼む」
「ホヅミさん。こちらこそ……」
握手した手を軽く上下に振って離すと、クリスにリンゴを渡した。
「デザートのリンゴだ。結構、甘くて旨いぞ」
「ありがとうございます……」
クリスは小っちゃな口でカリカリ齧ると「甘いです……」と言って微笑んだ。
踊り場に座ったままで穂積は夜空を見上げる。
「おお! すっげぇー」
「?」
クリスも釣られて見上げると、月とともに満天の星が煌めいていた。
「わあ……!」
「すごい星だな!」
「すごく綺麗……です……」
「……やっぱり違うな」
「なにがです……?」
「俺のいた世界と星の並びが違うんだ」
「星の並び……?」
「夜空の星の位置は変わらないんだよ。季節や時刻で水平線に対する角度は変わるけど星同士の位置関係は同じなんだ」
「そうなんですか……」
「昔は特徴的な星の位置を測って、本船の位置を知ったんだ。海の真ん中では他に目印になるものがないからな」
「こんな風に……星を眺めたのは……始めてです……」
穂積は踊り場で寝転がって星空を眺める。知っている星座が一つもないことに、改めてここが異世界であることを思い知らされた。
「…………」
少し感傷に浸っている穂積の隣にクリスがコロンと寝転んで同じように星を眺める。
「あっ。あの辺の星……水桶みたいに見えます……」
「お。星座を見つけたか。やるなぁ」
「せいざ?」
「昔の人も星を眺めてアレコレ考えたんだろうな。星々を線で結んで、適当に名前を付けたりしてたんだ」
「なんだか……素敵ですね……」
「……お。俺もそれっぽいの見つけた。あそこの明るい星の下だろ?」
クリスの顔の真横に移動し目線を合わせて夜空を指差す。
「ふぁ! ……あっ。そ、そうです……。その星の下の……明るい四つと少し暗めの二つが……水桶みたい……」
クリスが顔を赤くして少し照れながら見つけた星を指差した。
「あー。わかるわかる。なら、その上の連なってる五つは水桶のロープか」
「あー。そうですね……そんな風に見えます……」
「じゃあ、あの星座は水汲座だな」
「水汲座……」
「この世界にも星座があるのか知らないけどな。あれは俺たちの中で、それでいいんじゃないか?」
「はい……。水汲座がいいと思います……」
「決まりだな」
「えへ……」
クリスがくすくすと笑う。嬉しそうにいつまでも笑っていた。
(よかった。ちゃんと笑えるじゃないか……)
自分を追い詰め、ストレスを抱えて仕事をしても碌なことはない。堅実に、地道に、気楽に、真剣にやればいいのだ。結果は自ずと後から付いてくる。クリスには是非ともそれを知ってほしい。導くのは穂積の役目だ。
「それにしてもクリス君。何でおにぎり食べなかったの? 起きたら食べるようにメモと一緒に置いてあったでしょ?」
「読めませんでした……」
「字が読めないの?」
この世界の識字率は高くなさそうなので、奴隷のクリスに読めなくても仕方ないのかと思っていると、どうやらそうではないらしい。
「いえ。そのくらいなら……ただ、知らない文字で……」
「……もしかして、トティアスの文字じゃなかったとか?」
「はい……」
「……」
『概念魔法』(言語理解)の意外な弱点が発覚した。かなり重大な不具合である。
穂積はトティアスの文字を読める。言語理解が日本語に翻訳してくれるからだ。しかし穂積の書いた文字は現地の人には読めない。おそらく日本語のままなのだろう。
つまり、穂積はこちらの文字を学ぶことすらできないのである。これからの人生、代筆が必須の身体になってしまった。
(イソラぁ~。なんとかしてくれ~)
魔女に頼んで翻訳ソフトをアップデートしてもらうしかないだろう。
「クリス君。そろそろ戻ろうか」
先ほどクリスが精製した真水を水桶からタンクに移し、塩結晶を回収して医務室に帰ることにした。
「ホヅミさん。迷惑かけて……ごめんなさい……」
「気にしないで。今日から俺たちはバディーだ。迷惑なことなんかない」
「ばでー?」
「相棒ってこと」
「……はい!」
クリスが少し元気になった。夜明けとともに仕事が始まる。少しでも休んだほうがいいだろう。
簡易ベッドに横になろうとすると、なぜかクリスが一緒に寝たいと言い出した。子供らしいクリスに苦笑いしつつ、大きい方のベッドで二人並んで眠るのだった。
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