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届かない思い

強い味方

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 佐野は全てを伝え終わると俺が横になっているベッドを立ち上がった。そして外の景色を見て、先程俺が閉じ込められた小屋を目線で追った。

「今日のパープル様の様子は、まるで別人のように変わった。男口調で礼儀もなく、ガサツな態度は最早人間であったことすら疑ったよ」


 佐野のトゲトゲしい発言が俺の胸を突き刺していく。俺は佐野を睨みつけて叫んだ。

「悪かったなぁ!可愛いお嬢様と全く正反対で!!」

 佐野は俺の眉間に人差し指でぐりぐりと抑えた。

「まぁお前がパステリア嬢とパステリア大樹の森に行った時は、流石に嫌な予感がして着いて行ったよ……まさか小屋の中で話をしていたパステリア嬢が澤田で、君が佐藤誠くんだと知った時は驚いたけどね……」

 感心している様子の執事佐野に俺は呆れていた。しかしどことなくこの男が優しい男であることはわかった。転生後も俺を探して、保護しようとしてくれた……彼は根は優しい人柄なのだろう。そう思った俺は彼に近づいて問いかけた。

「あんたは澤田の陰謀を阻止して、嫁を見つけたい……それで間違いないか?」

 執事が縦に首を振った。

「だから協力してくれないか?その代わり君の安全は俺が保証する。だから俺の妻を探し、一緒にやつを倒そう」

 俺はこの目の前の執事を信じることにした。執事はとても真っ直ぐな目をしていて、とても嘘をついているようには見えなかったからだ。俺が執事の手を取って頷いた。


「必ずお前の嫁さんは俺が見つける。だから2人でやつの陰謀を阻止しよう……!」

 俺達は手を取り合い互いに頷きあった。2人以外誰もいない部屋でただ静かにその時が過ぎていった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 数時間もすると自分の体に回っていた煙の匂いが次第に楽になっていった。執事から渡された水を飲むと一気に体から毒素が消えたように楽になった。

「なぁ執事……」

 俺がそう呼ぶと執事は被さるように名前を言った。

「俺の今のなはカンフィルタ・ランスリーだ。執事って呼ぶのいい加減やめてくれ」

 名前が長い……なんだよランスリーって……ランスロットみたいな名前しやがって……とはいえ人から聞いた名を口にしないのは失礼だ……何か体のいい略称はないか……俺はそんなことを考えていると、庭に咲く花を見つけた。

「あれはなんの花だ?」

 俺は植木鉢にある白い花を指さすと、執事はじっとそれを見て答えた。

「あれは胡蝶蘭だな……」

 花なんて前世では全く興味もそそられなかったのに、今は何故か不思議とその白い花を見入ってしまった。俺は小さな声で「綺麗……」と呟くと、執事は部屋から姿を消した。かと思ったら、庭の畑に瞬時に飛んでいるではないか。俺が部屋を見渡すと、執事は俺の目の前に立っていた。

「ほら、これなら見やすいだろ?」

 そう言って執事は胡蝶蘭を1束渡した。俺は綺麗な花よりも、異常なまでの速さを持つ彼に身を乗り出し尋ねた。

「お前どーやって一瞬であそこに行ってもどってきたんだ!」

 執事は顔を点にしているかと思うと、こちらに向き直った。

「俺も分からないが、生まれつき瞬間移動を身につけていたんだ。おかげでパープル様の事も助けられたんだ」

「お前チートかよ!!」

 思わず心の声が出てきてしまった。乙女ゲームの、しかもモブであろう悪役令嬢の執事なはずなのに、何故かこいつには強い能力がそなっていた……この世界はなんでもありなのか……?そんなことを考えていた。

「まぁそー思うよな……モブごときにこんな高度な能力普通手に入らない……」

 自分で言うんかい。俺は内心そんなことを考えていた。しかし冷静に考えてみるとこれは俺にとって好都合だった。瞬間移動とは要するに"足が早い"という事。そして、この胡蝶蘭のランをかけることにした。

「良い略称を思いついた!」

 俺はベッドから起き上がり、執事に指さした。

「今日からお前は"ラン"だ!」

 ランは顔を引きつらせると、はぁっと大きくため息を着いた。そして、ランは俺の顔を見返して口を開けた。

「女みたいなあだ名をつけられるのはしゃくにさわるが、まぁいい。それでよろしく頼む」

 ランは水の入ったガラスのポットをカートの上に置くと、時計を確認した。

「そろそろ旦那様と奥様がおかえりです。パープル様、食事の用意はできておりますので、食卓へ向かいましょう」

 俺は頷くと、部屋の外からノックが聞こえてきた。中に通すと、木の下で本を読んで寝ていた俺を起こしてくれた、元豊臣秀吉のメイドが入ってきた。

「お嬢様、お召し物の用意がございます。ささ、カンフィルタ様。外でお待ちください」

 そう言ってランを部屋から出すと、俺にドレスを見せた。

「ささ、こちらにどうぞ」

 俺は顔を真っ青にし、部屋の端に逃げた。

「やめてくれ……そのフリフリピンクのドレスだけは……!恥ずかしい……!」

 メイドは俺の声を構うことなく身を乗り出した。

「そんな事をいわずに、ちゃんと懐で温めてあります」

 そう言ってメイドは自分の胸元をぽんと手で軽く叩いて鼻をのばした。


「いや、懐に入れたドレスを着せようとしないでくれー!!!」
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