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第8章 青年期 壊滅編

76「敵の敵は味方」

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 バスターガンと化した変形機構式機械鞄を握り締めながら、僕はアームウォーマーに浮かび上がったホログラムに視線を送る。ホログラムに映っていたのは、『災厄の魔術師とテロ組織の構成員』が戦う姿だった。


 テロ組織の構成員たちは、「連絡の内容と違うじゃあねえか」「何なんだあの化け物は」「デカい武器を持ってこい」「ミサイルじゃねえと歯が立たねえぞ」等と言って、災厄の魔術師に向けて自動小銃を乱射している。


 魔術師と戦う構成員たちの中には、僕の前にも現れたパワードスーツを着た人物も存在していた。彼はパワードスーツの操作に自信があるらしく、「このパワードスーツは次のテロまで取っておきたかったんだが、相手が化け物なら仕方ねえな」と言って、歩き続ける災厄の魔術師に飛び込んだ。


 彼の手には変形機構式機械鞄と似たようなガジェットが握られている。機械鞄にはパワードスーツに備わったケーブルが繋がっていた。動力源はスーツに備えられたシールドバッテリーであるようだ。


 パワードスーツを着た人物は、持っていた機械鞄を分厚いバスターソードに変化させた。


 その一方で災厄の魔術師は、地下水道内で出会った騎士の姿をしていた。あの戦いで奪い取ったはずの左腕には、形状は似ているが別のガントレットが装備されている。どうやら今回も本体は別の場所に居るようだ。


 奴は三メートルはあるだろう巨大な体を機敏に動かしながら、自動小銃から放たれた弾丸を避け切っている。災厄の魔術師は腕に装備されたガントレットからブレードを出現させ、迫り来る構成員たちを斬っていった。




「幸運だな、ビショップ」
「アクセル様、どうする御つもりですか?」

「奴に暴れてもらうとするよ。少しでも構成員の数が減れば、僕が苦労しなくても済むからね」
「了解しました。パワードスーツに搭乗しますか?」




 ビショップの問い掛けに対して首を横に振り、僕はバスターガンを構えながら、「魔術師の注意はキミが引け。僕は奴の様子を見てから突入する」と指示を送る。


 彼は小さく頷いた後、左腕に備わった蒸気機関銃にテルミット弾やスモークグレネード弾、徹甲榴弾といった弾丸の再装填を始めた。


 チャンスは一度切りしかない。どうして災厄の魔術師がテロ組織のアジトに踏み込んだのかは謎だが、奴が構成員との戦いに夢中になっているのは不幸中の幸いだった。この混乱に乗じて災厄の魔術師を拘束する事ができれば、奴が地下水道で言っていた『後天性個性』について何か分かるかもしれない。


 等と考えていると、ビショップが「戦闘の準備が完了しました。突入します」と言って、交戦中の両者に向けてスモークグレネード弾を放った。


 僕は『幸運を祈れグッドラック』と呟いてアドレナリンを操り、続けて『後悔しろバッドラック』と言って持っていた機械鞄に電気を注ぎ込む。その後、特殊包丁と化したブレードを引き摺りながら、僕はスモークの中に突っ込んだ。


 災厄の魔術師は「援軍を呼んだのですか?」と言って、パワードスーツを着た男から視線を逸らした。するとスーツを着た男は、「残念だが味方じゃあねえよ。だからといって奴もお前を敵だと思っているようだがな!」と声を荒げていた。




「三ヶ月振り……じゃあないな。リハビリの期間を含めると四ヶ月振りだ」
「お久し振りですね、アクセル様。お腹の刺し傷は完治したのですか?」

「キミのお陰で入院中、イカれた淫乱女医と可愛いケモ耳ナース嬢にチ○ポをオモチャにされたよ」
「尿道カテーテルの事を仰っているのですか? リベットさんも抜け目の無い女性に成長しましたね。次はどんな目に遭いたいですか?」

「つい数日前に褐色のケモ耳娘に殴ってもらった。だから、今度はキミに弄ばれたい」
「アクセル様は救いようのないマゾヒストですね。そんな事ばかりお願いしていると、本当に女性に嫌われますよ?」

「僕は究極の変態紳士だ。魔術師であろうとなかろうと、相手が女性であれば僕は一向に構わない」
「面白いですね。貴方の事が気に入りました。この組織を壊滅させた後、一緒に紅茶でも飲みませんか?」




 僕はブレードと化した特殊包丁を引き摺りながら、災厄の魔術師の真横を通り過ぎた。その後、僕は災厄の魔術師に向けて「紅茶よりもキミの黄金水が飲みたい」と言い、迫り来る銃弾を特殊包丁で弾き飛ばす。音速の速さで脳筋男の真横を横切った後、僕は通路の奥に居たテロ組織の構成員たちに斬りかかった。


 災厄の魔術師対テロ組織の構成員、テロ組織の構成員対僕とビショップ、僕とビショップ対災厄の魔術師という地獄のような三つ巴だったが、僕は災厄の魔術師側についた。


 テロ組織の構成員は次々と増えていくばかりだし、他の拠点から構成員の増援が来ることも分かっていた。圧倒的に不利な状況だと理解しておきながら魔術師側についたのは、『物量差を物ともしない魔術師の強さ』を知っていたからだ。


 災厄の魔術師は、地下水道内で出会った時の重力魔術を発動していない。奴が何処から組織の地下施設に侵入したのかは分からないが、僕が通ってきた通路や周囲の壁には、重力で押し潰された痕跡が何一つなかった。




「ビショップ。数十メートル先に鋼鉄の扉がある」
「はい、アクセル様」

「角度が悪いが、そこから扉に向けて徹甲榴弾は放てるか?」
「御推察の通り、組織の構成員や遮蔽物といった障害物があるので、徹甲榴弾によるダイレクトサポートは期待できません」




 アームウォーマーに備わった無線機に向けて、「大丈夫だ、ビショップ。扉に狙いを定めなくて良い。通路の間にいる『災厄の魔術師』に向けて撃て」と言い、僕は組織の構成員を斬りつけながら進み続ける。


 それからビショップは「災厄の魔術師は、重力魔術を使用して弾丸を防ぐでしょう」「奇跡的に榴弾が扉に当たったとしても、アクセル様に爆風が行き渡る可能性があります」等と言い、十字路の角に隠れたまま蒸気機関銃を放っていた。




「キミを作ったのは僕だ。僕の言葉を信用しろ」
「アクセル様。私は創造主を守る為に存在しています。災厄の魔術師を煽って、貴方を危険な目に遭わす事はできません」

「心配するな。敵の敵は味方だ。面白い光景が見えると思うよ」
「……了解しました。魔術師に向けて徹甲榴弾を発射します」




 それから数秒後、ビショップは災厄の魔術師の頭部に目掛けて徹甲榴弾を放った。彼が蒸気機関銃から放った徹甲榴弾は一直線に飛んで行き魔術師の頭部に着弾する、とビショップは思っていただろうが、結果は別のものになった。


 災厄の魔術師の頭部に当たる直前に、ビショップが放った徹甲榴弾は人の手が加えられたかのように、軌道を変えて通路の奥に向かって飛び始めた。


 どうやら災厄の魔術師が重力の魔術を発動して、榴弾の軌道を変化させてくれたようだ。僕の方へと向かってくる徹甲榴弾は、更に角度を変えて分厚い鉄の扉へと飛んでいった。


 僕は災厄の魔術師に向けて、「サンキュー魔術師さん。キミの重力魔術が無ければ扉はぶっ壊せなかったよ」と言う。すると魔術師は、「アクセル様の頭を狙ったつもりでしたが、避けられたようですね。貴方の後天性個性はやはり魅力的です」と言ってきた。


 その後、僕は穴の空いた扉に向けて特殊包丁を何度も振り下ろす。人が入れる程の穴が出来た後、僕は特殊包丁をバスターガンに変化させて武器庫に侵入する。


 武器庫の中には、『メビウスの輪』や『錆びた歯車スクラップギア』、『アンクル青年団』といった組織の構成員や、とっつぁんが依頼したターゲットである組織のトップたちが武器を構えて待っていた。
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