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第8章 青年期 壊滅編

74「吐いた唾を舐めるタイプ」

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 大人数が乗れる程の広さのあるエレベーターに乗り込み、僕はエレベーターの中でパワードスーツから飛び降りる。その後、ハート模様のあるトランクスを履いた姿のまま、ブロッサムから機械鞄を奪った。


 左腕に装備されたアームウォーマーを操ると、ビショップの尻尾と化したハンズマンの内の二匹が、『フェイスガード』に変化して僕の口元に張り付いた。


 ビショップが「何をする御つもりですか?」と訊ねてきたので、僕は「嫌な予感がするだけだ。パワードスーツの操作はビショップに任せる。僕のサポートをしてくれ」と言う。彼から奪い取った変形機構式機械鞄に向けて電気を流すと、機械鞄は『バスターガン』に姿を変えた。




「ビショップ。ジャックオー師匠の居場所は?」
「ジャックオー様は現在、壱番街から五番街に向けて車を走らせています。三番街に到着するのは三十分ほど後でしょう」





 ビショップは錬金術が使えるポンコツホムンクルスとは違い、優秀な人工知能を搭載した機甲手首ハンズマンだ。照準の補正や生存者へのマークアップ等々、地下室まで見つけた彼という存在は、僕が想像していた未来予想図に一歩ずつ近づいていっている。


 僕が指示した『構成員を一人だけ生き残らせろ』という指示は守ってくれなかったが、それは致し方ないと割り切ろう。フロアの居た組織の構成員や一般人を巻き込んだのは失敗だったが、その失敗は今後も改良を重ねる事で修正されていくに違いない。


 等と考えていると、地下へと続くエレベーターが目的の階に到着したようだ。エレベーターの到着音と同時に扉が開いた直後、僕はパンツ一丁になりながらも、副腎と脳からアドレナリンを放出する。案の定、エレベーターの扉が開いた瞬間、銃弾の雨がパワードスーツに降り注がれた。




「ビショップ。敵の注意を引いてくれ。僕は片っ端から組織の構成員に、『ロザリオ嬢の呪いに関する情報』を知っているか確認してくる」
「了解しました、アクセル様。スモークグレネード弾を発射します」




 どうやら僕の嫌な予感は間違っていなかったようだ。エレベーターが到着した先には、薄暗い通路と防弾ガラスで守られた研究所のような場所があった。


 ビショップが組織の構成員にスモークグレネード弾を発射したのと同時に、僕は体内のアドレナリンを操って音速の早さで動き回る。銃弾の雨を横切りながら走り続けると、『アンクル青年団』に所属する女の子の背後に回ることが出来た。


 僕は少女に向けて、「ロザリオ嬢について知っている事を話せ」と言い、彼女の後頭部にバスターガンの銃口を押し当てる。女の子は、「ロザリオ嬢……誰の事なの?」と言って、困惑した表情を見せてきた。


 どうやらこの少女はロザリオ嬢についての情報を持っていないらしい。聞く相手を間違えたようだ。


 等と考えていると、青年団に所属していた別の女の子が、僕と女の子に自動小銃を向けてきた。彼女は少女が自分の味方だというのにも拘わらず、僕たちに向けて銃を乱射している。


 音速の早さで自動小銃の弾を避けきった後、僕は弾丸を放った少女に向けてバスターガンを放つ。すると、エネルギー弾が直撃した女の子の右腕は、錬成鉱石238に込められた『爆発の効果』により、腕の内側から弾け飛んだ。




「その声、貴方は……アクセルくんなの?」
「ごめんね、○○ちゃん。すぐに楽にしてあげるよ」



 僕の背後には、少女が放った自動小銃の弾丸を受けて死に絶えた女の子が倒れている。目の前に居た腕を吹き飛ばした女の子は、横たわりながらも僕が『アクセル・ダルク・ハンドマン』であると知ってしまったようだ。


 彼女が「お願いアクセルくん。死にたくない」と言っていたが、僕は躊躇う事なくバスターガンのトリガーに指を置いてエネルギー弾を発射した。


 その数秒後、横たわっていた彼女の体が内側から爆発して、僕の体に彼女の肉片や血飛沫といったものが飛んできた。




「ジャックオー師匠には任せられない依頼だ。彼女なら『アンクル青年団』に情けをかけてしまうだろうし、絶対に引き金を引けない」




 師匠と僕を裏切った二人の元従業員の内一人は、ジャックオー師匠の身内の一人だった。当時、師匠は僕に「私には義理の兄さんを殺す事ができない。どうにか制裁を加える以外で解決する方法は無いか?」と訊ねてきたが、僕は戸惑う事なく「それでは他の便利屋に示しが付きません」と答えてあげた。


 便利屋ハンドマンに保管されていた顧客情報は、彼女の義理の兄と別の従業員によって高値で売り捌かれた。他の便利屋が手に入れた顧客情報には、便利屋ハンドマンの経営を傾けるほど重要な顧客ばかりが記載されていた。


 太客と呼ばれる貴族の顧客や、パトロンといった支援者の名前も記載があった。それでも師匠は僕に「彼を許してやってくれ。責任は私がとる」と言ったのだが、僕は許せなかった。


 盗まれたのはジャックオー師匠の顧客情報だけではない。僕が汗水垂らして手に入れた顧客情報も盗まれた。その顧客の中には、五番街の華族である『ルミエル』や当時はただの議員であった『ダスト・アンクル』も居た。


 両者は「『便利屋ハンドマン』にしか依頼を任せません」「我輩はアクセルを気に入って奴の店に依頼をしているんだ」と言って依頼を頼まなかったそうだが、それが本当の事なのかは今では分からない。


 何にせよ、ジャックオー師匠を悲しませるという事は、僕にナイフを突き付けるのと同じ意味を持つ。




「ビショップ。この強化ガラスの向こう側にある工場は何だ?」
「パワードスーツに残された記録と機械の構造からすると、何らかの覚醒物質を精製する工場であるようです」

「分かった。通路に居る構成員に『呪いの魔術』の事を訊いたけど、何も収穫は無かった。次はあの工場を破壊するぞ」
「了解しました。息のある生存者はどうされますか?」




 ビショップに向けて、「用は無い。全員始末しろ」と言い、僕は再び音速の早さで通路を駆け抜ける。すると通ってきた通路の方から、構成員たちの悲鳴が聞こえてきた。


 どうやらビショップは、蒸気機関銃に装填されたテルミット焼夷弾を使用したらしい。通路の遠くに来たのに、ここからでも焼夷弾の熱を感じるし、肉の焼ける臭いが漂っている。


 その後、僕とビショップは構成員との戦闘を繰り返す。変形機構式機械鞄を操り、『バスターガン』から『ブレード』へ変化、『ブレード』を『バスターガン』に変化させて敵を薙ぎ倒した。その道中、『ロザリオ嬢の呪い』についての情報を知っている構成員と遭遇した。


 僕は彼の体にブレードの刃先を突き付けた後、「死にたくないのなら、情報を吐け」と呟く。彼は「情報を吐いたら助けてくれるのか?」と訊ねてきた。




「内容によるが、助けてやってもいい」
「分かった。ロザリオ・オリヴィア・テスラに呪いをかけたのは、『メビウスの輪』に所属する『ウィップ』という青年だ。彼は呪いの魔術に特化した才能を持つ子供だ」

「つまり、そのウィップという子供が、単独でロザリオ嬢に呪いをかけたってのか?」
「いいや違う。ウィップは五人の部下に呪いの魔術を教えて、六人で呪いをかけた」

「分かった。その六人はどこに居る?」
「その内の三人はナイトクラブのフロアに居たはずだ。ここまでお前が来たって事は、殺されたんだろうけどよ」




 男の話によると、ロザリオ嬢に呪いをかけた人物のうち三人は、僕がエレベーターに乗る前に居たナイトクラブに居たようだ。


 僕は男に向けて「あのフロアに居た人間は全員、僕が始末した。そのウィップを含めた三人は何処に居る?」と訊ねる。男は「いつもは他の拠点に居るが、今回の召集で、この拠点に集まっているはずだ。なあ、情報は全部吐いてやった。俺を助けてくれるんだろう?」と言ってきた。


 がたがたと震える男に「あれは全部嘘だ。僕は吐いた唾だって舐めるタイプなんでね」と言って、僕は特殊包丁と化したブレードで男の体を両断した。
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