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第8章 青年期 壊滅編

71「ビショップ搭載型パワードスーツ」

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 ダストのとっつぁんを店の外まで送った後、僕は店内に戻って出掛ける準備を始める。カウンターに置かれた麻袋を持ち上げた瞬間、僕の脳内に『アンクル青年団』の姿が過った。とっつぁんがカウンターに置いていった袋の中には、報酬に見合わない金貨が入っていた。


 もしかすると、とっつぁんは僕が『アンクル青年団』を前にして、尻込みするのを恐れていたのかもしれない。報酬に見合わない程の金貨を渡してきたという事は、とっつぁんも本気で反政府組織の壊滅を願っているのだろう。


 何にせよ、僕は報酬に見合った分の仕事を果たすだけだ。相手が誰であろうと、一度請け負った依頼を放棄するほど僕は馬鹿じゃあない。


 等と考えていると、左腕に装備したアームウォーマーに反応があった。どうやら『ロザリオ嬢の依頼』に進展があったらしく、無線機を介して連絡してきた女性は、「アクセル様。三番街で特徴と一致した人物を発見しました」と言っている。




「マーサさん、三番街の何処に居るの?」
機甲手首ハンズマンを通して位置情報を送りました。彼は過激派組織、『メビウスの輪』の隠れ家に出入りしています」

「分かった。すぐにそこから離れてくれ」
「了解しました。後はお願いします」




 マーサさんが見つけた男は『メビウスの輪』という、テロ組織に関与しているようだ。組織の隠れ家に出入りしているとなると、組織の構成員や関係者であるのは間違いない。


 彼女が発見した男性とロザリオ嬢との関係性を調査するべきだが、それを調べているうちに彼女の体に異変が起こるかもしれない。多少強引だが男の身柄を取り押さえた後、自白剤を飲ませて情報を吐き出させる必要がありそうだ。


 ウォーマーを介してジャックオー師匠に、「三番街にある『メビウスの輪の拠点』を潰してきます」と伝えると、彼女は「分かった。ロザリオお嬢様の事は任せなさい」と言って、一方的に連絡を切った。声の感じからすると、師匠はアンクル青年団が反政府組織の構成員と化したのをしらないようだ。


 その後、僕はメイド服を脱いでトランクス一枚になり、アームウォーマーを操作しながら車庫へ向かう。足元に居た『ビショップ』に指示を送ると、彼はパワードスーツと化したブロッサムによじ登り、プラグを脊椎に差し込んだ。




「こんにちは、アクセル様」
「ビショップ。搭載したシールドバッテリーの残量は?」

「95%です。アクセル様が開発した発電機のお陰で、十分な量の電気を補充する事に成功しました。パワードスーツの機能を発揮するには十分な量でしょう」
「分かった。背部の装甲を展開しろ、テロ組織を潰しにいく」




 ビショップはパワードスーツの背部を展開してくれた。彼のサポートを受けながら、僕はパワードスーツを身に纏う。背部の装甲が閉じた直後、僕の脛椎から腰椎にまで針が差し込まれた。


 パワードスーツを自由に動かすには、針を通して体から発せられる電気信号を送る必要がある。ジャックオー師匠が義手を操る際に神経を繋ぐように、僕もスーツを動かすには神経を繋げなければならなかった。




 ビショップは「パワードスーツの視界をスーツ内のディスプレイに共有します」と言い、僕の視界にスーツのメインカメラの映像を映し出した。
 

 スーツのメインカメラと僕の視界がリンクした。スーツの左腕に装備された、災厄の魔術師のブレードや蒸気機関銃、背部にある浮遊装置や油圧機といったモノが正常に動くのを確認する。その後、僕は車庫から外の景色を眺めた。


 視線を遠くに向けてみると、そこには黒い煤煙を吐き出す煙突や十六世紀を彷彿とさせる建物が存在している。上を見上げてみるが、そこには当たり前の様にあると思っていた空の代わりに、鉄板で作られた天井があった。


 それらの鉄板には、太陽光の代わりになっている巨大な照明が幾つも備えられている。アンクルシティの全ての番街には、朝日というものが一切訪れない。慣れ親しんだ光景の先には、空中を飛び交う浮遊型蒸気自動車の姿がある。


 ボンヤリとしたオレンジ色の照明が、僕たちにとっての太陽であった。




「多分、このアンクルシティでは、十年後も二十年後もこんな事が延々と繰り返される。地上に出れば何か変わるのかな」
「アクセル様、それは質問でしょうか?」




 ビショップの問い掛けに驚き、僕は「いいや、ただの独り言だよ」と言って、車庫から飛び降りる。彼に向けて、「スーツの飛行機能を起動しろ」と言ったが、ビショップは「アクセル様。スーツの飛行機能に不具合が発生しました」と言ってきた。


 このままだと十数階から飛び降り自殺した事になる。ノスタルジックな光景に浸らず、先にパワードスーツの飛行機能を確認すればよかった。


 等と考えていると、僕は足元から地面に着地した。高層ビルの上階層から飛び降りたのにも拘わらず、足には落下の衝撃というものが伝わらなかった。




「アクセル様。地面に着地した際、脚部に備えられた衝撃吸収油圧機の機能を起動しました」
「そっか。だから着地に成功したんだね。ありがとう、ビショップ」

「このままでは住民の注目を浴びる可能性があります。三番街までの最適解なルートを検索しますか?」
「分かった。ひとまず裏路地に隠れるよ。ビショップはルートの検索をしておいて」




 僕はビショップにそう言って、パワードスーツと化したブロッサムを操作する。パワードスーツの全長は三メートル程あるが、操作には問題が無かった。恐らく、怪物と化したブロッサムを操るのに慣れていたせいなのだろう。


 脚部に備えられた衝撃吸収油圧機が作動していなければ、僕は地面に着地した衝撃で足の骨を折っていたかもしれない。ビショップのサポートがなければ、僕は三番街に向かうことも出来ずに店に戻っていただろう。


 何にせよ、次からは飛行機能の確認をしてから飛び降りる必要がある。もしくは、階段を駆け下りてビルを出なければならない。


 等と考えながら路地裏で待機していると、ビショップが「街中の電波をルートの検索に成功しました。ブロッサムに備えられた電波の送受信機能を起動します。Z1400やED5000が受信する電波を遡ることで、ゲート付近に居るボット達の視界を共有する事が可能です。確認しますか?」と訊ねてきた。




「電波を遡るって……キミはそんな事も出来るんだな」
「私はパワードスーツに備わった機能を応用したまでです。アクセル様がブロッサムに改良を施さなければ、この機能は起動できませんでした」




 ビショップは優秀な機甲手首ハンズマンだ。これまでにも多くのハンズマンをパワードスーツ化したブロッサムに搭載してみたが、その多くはサポートをするどころか大事なパーツを壊した事もあった。ビショップは代替不可な人工知能に成長してくれた。


 他のハンズマンにも同じ事ができれば、僕が夢にまで描いたパワードスーツの軍団が出来上がるに違いない。映画ター○ネーターの様に『機械の反乱』が起きなければ良いが、今の段階のハンズマン達はそれほど賢くはない。指示を送らなければ、自分で動くこともできないポンコツばかりだ。
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