上 下
35 / 120
第3章 青年期 変態紳士編

30「キャットファイト」

しおりを挟む

 中継基地局がある空間に留まってからニ時間ほど経った。どうやら無事に『一部のハンズマン』が地下水道都市にたどり着いたらしく、他のハンズマンを中継基地局として利用して、映像を送ってきてくれた。


 僕が「地図が完成しました」と言うと、エイダさんや師匠、ジャガーノートさんは感心したように呆けた顔で僕を見てくる。




「流石だな、アクセル。キミの発明にはいつだって驚かされるよ」
「変態さんは、変態的な機械オタクでもあるんですね」
「地下水道都市に続く道はこんなにもあるのか……」




 尊敬する師匠に誉められるのはメッチャ嬉しい。廃品義手を再利用して作った機甲骸ボットだけど、役に立ってよかった。


 僕を機械オタクと揶揄するエイダさん。ジャガーノートさんは、目を丸くして驚いていた。


 師匠や爆乳ホムンクルス、年上の絶壁女性兵士と言えど、彼女たちは女性だ。何日も掛けて迷いながら、汗水流して地下都市へ行くのなんて嫌なはず。Z1400のような疲れない体を持つスチームボットならまだしも、僕たちは普通の人間だ。安全なルートで進むに限る。


 それから僕は彼女達に、筒上の小型投影機を渡した。




「その投影機は、僕のアームウォーマーと連動して『ハンズマンの視覚』を映し出します。映像を切り替えると、地図が表示されるので迷わずに地下水道都市に行けますよ」
「ね、ねえ、アクセル。この重なり合っている赤い点が私たちなのか?」

「正解です、ジャガーノートさん。赤い点は僕たちを指していて、白い点は障害物を指しています」
「こんなに正確な地図なんて見たことがない。ダスト軍でもこんなに近未来な技術は扱っていないぞ!」




 何がジャガーノートさんの琴線に触れたのかは分からない。だが、彼女は僕が開発した未来的な技術に嫉妬したらしく、腰にぶら下げていた蒸気機関銃に手を伸ばした。


 すると、彼女が銃を引き抜こうとした瞬間、ジャックオー師匠が凄まじい早さで動いてそれを制止してくれた。




「落ち着きなさい、バイオレットさん。彼は私の大切な従業員だ。多額の借金を抱えるただの負債者だよ」
「流石は、最速の少年の師匠だけあるわね。でも、ここじゃあ多勢に無勢よ」




 ジャガーノートさんが言っている事に間違いはない。


 この中継基地局には、他の治安維持部隊やZ1400シリーズの蒸気機甲骸スチームボットが有事の際に待機している。


 迂闊に未来的な技術を見せてしまった僕が悪い。ここで目立つような行動をすれば、ダスト政権に歯向かう犯罪組織として扱われるだろうし、エイダさんの身元を調べられ兼ねない。ここは言葉を選んだ方が良いな。




「ジャガーノートさん。このマッピング技術は既にダストさんに申告しています。それに、この地図製作のアイデアをくれたのは、貴女の同僚である『ロータス・キャンベル』さんです。嘘だと思うなら、ロータスさんに連絡をとってみて下さい」




 僕がそう言うと、ジャガーノートさんは携帯無線機を腰のベルトから取り出した。


 その後、彼女は「分かったわ。うん、私にも生意気な口を利くショタよ。現在地は自分で確認しなさい」と言って、誰かと無線で連絡している。


 どうやらジャガーノートさんは、本当にロータスさんの知り合いであるようだ。聞こえた無線の内容からすると、ロータスさんも別の番街から地下水道都市に向かっているらしい。





「確認が出来たわ」
「それは良かったです。ロータスさんも後から来るんですね?」

「地獄耳なのね。ロータスとは後で合流するわよ。マッピングが終わっているなら、早く行きましょう」
「ハイハイ……素直じゃあないですね」





 危ない橋を渡ったな。このマッピング技術はロータスさんのアイデアじゃない。僕が前世の世界で魅力的に感じた映画から取り入れたアイデアだ。


 多分、ロータスさんは僕が嘘を吐いているのを知った上で、僕に協力してくれたのだろう。


 彼女とのデートは数週間後だ。その時にお礼を言っとかなきゃな。



 等と考えながら、僕は帰ってきた数体の『機甲手首ハンズマン』を拾い上げ、バックパックにしまう。アームウォーマーを操作して他のハンズマンに、「合流せよ」と指示を送った後、僕は師匠に視線を送った。




「師匠。携帯投影機で地図を出してください」
「分かったわ、アクセル」

「僕たちは、他の同業者が通っていない『隠し通路』を通って地下水道都市に向かいます」
「それが最適解で最短なルートなのね。バイオレットさん、それで良いかしら?」




 僕がそう言うと、師匠は腰にぶら下げた変形機構銃に手を添えて、ジャガーノートさんに訊ねた。


 気が強い女性は魅力的で素敵だ。互いの信念をぶつけ合う姿をオカズにして何杯も白米が食える。


 ジャックオー師匠はカボチャ型の防護マスクで顔を覆っているけど、彼女がジャガーノートさんを睨み付けているのは容易に分かった。




「じゃ、じゃあ出発しますか!」




 このままキャットファイトまで見られれば良かったが、エイダさんがそれを邪魔してきた。残念だ。もう少しで女性同士が殴り合うのを見れたのに。


 僕は中継基地局から歩きだしたエイダさんの後を追っていき、我の強い二人の女性に「遅れないで下さいね」と言って、ホログラフィックの地図を見ながら進んでいった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

歌って踊れて可愛くて勝負に強いオタサーの姫(?)

キャラ文芸 / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:18

僕の彼女は小学生♡

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:39

婚約破棄?そもそも私は貴方と婚約してません!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:2,101

大国に売られた聖女

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:56pt お気に入り:4,397

疲れたお姉さんは異世界転生早々に幼女とスローライフする。

fem
ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:20

無敵チートな猫の魔法使いとシンデレラになれない私

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:17

処理中です...