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第3章 青年期 変態紳士編
30「キャットファイト」
しおりを挟む中継基地局がある空間に留まってからニ時間ほど経った。どうやら無事に『一部のハンズマン』が地下水道都市にたどり着いたらしく、他のハンズマンを中継基地局として利用して、映像を送ってきてくれた。
僕が「地図が完成しました」と言うと、エイダさんや師匠、ジャガーノートさんは感心したように呆けた顔で僕を見てくる。
「流石だな、アクセル。キミの発明にはいつだって驚かされるよ」
「変態さんは、変態的な機械オタクでもあるんですね」
「地下水道都市に続く道はこんなにもあるのか……」
尊敬する師匠に誉められるのはメッチャ嬉しい。廃品義手を再利用して作った機甲骸だけど、役に立ってよかった。
僕を機械オタクと揶揄するエイダさん。ジャガーノートさんは、目を丸くして驚いていた。
師匠や爆乳ホムンクルス、年上の絶壁女性兵士と言えど、彼女たちは女性だ。何日も掛けて迷いながら、汗水流して地下都市へ行くのなんて嫌なはず。Z1400のような疲れない体を持つスチームボットならまだしも、僕たちは普通の人間だ。安全なルートで進むに限る。
それから僕は彼女達に、筒上の小型投影機を渡した。
「その投影機は、僕のアームウォーマーと連動して『ハンズマンの視覚』を映し出します。映像を切り替えると、地図が表示されるので迷わずに地下水道都市に行けますよ」
「ね、ねえ、アクセル。この重なり合っている赤い点が私たちなのか?」
「正解です、ジャガーノートさん。赤い点は僕たちを指していて、白い点は障害物を指しています」
「こんなに正確な地図なんて見たことがない。ダスト軍でもこんなに近未来な技術は扱っていないぞ!」
何がジャガーノートさんの琴線に触れたのかは分からない。だが、彼女は僕が開発した未来的な技術に嫉妬したらしく、腰にぶら下げていた蒸気機関銃に手を伸ばした。
すると、彼女が銃を引き抜こうとした瞬間、ジャックオー師匠が凄まじい早さで動いてそれを制止してくれた。
「落ち着きなさい、バイオレットさん。彼は私の大切な従業員だ。多額の借金を抱えるただの負債者だよ」
「流石は、最速の少年の師匠だけあるわね。でも、ここじゃあ多勢に無勢よ」
ジャガーノートさんが言っている事に間違いはない。
この中継基地局には、他の治安維持部隊やZ1400シリーズの蒸気機甲骸が有事の際に待機している。
迂闊に未来的な技術を見せてしまった僕が悪い。ここで目立つような行動をすれば、ダスト政権に歯向かう犯罪組織として扱われるだろうし、エイダさんの身元を調べられ兼ねない。ここは言葉を選んだ方が良いな。
「ジャガーノートさん。このマッピング技術は既にダストさんに申告しています。それに、この地図製作のアイデアをくれたのは、貴女の同僚である『ロータス・キャンベル』さんです。嘘だと思うなら、ロータスさんに連絡をとってみて下さい」
僕がそう言うと、ジャガーノートさんは携帯無線機を腰のベルトから取り出した。
その後、彼女は「分かったわ。うん、私にも生意気な口を利くショタよ。現在地は自分で確認しなさい」と言って、誰かと無線で連絡している。
どうやらジャガーノートさんは、本当にロータスさんの知り合いであるようだ。聞こえた無線の内容からすると、ロータスさんも別の番街から地下水道都市に向かっているらしい。
「確認が出来たわ」
「それは良かったです。ロータスさんも後から来るんですね?」
「地獄耳なのね。ロータスとは後で合流するわよ。マッピングが終わっているなら、早く行きましょう」
「ハイハイ……素直じゃあないですね」
危ない橋を渡ったな。このマッピング技術はロータスさんのアイデアじゃない。僕が前世の世界で魅力的に感じた映画から取り入れたアイデアだ。
多分、ロータスさんは僕が嘘を吐いているのを知った上で、僕に協力してくれたのだろう。
彼女とのデートは数週間後だ。その時にお礼を言っとかなきゃな。
等と考えながら、僕は帰ってきた数体の『機甲手首』を拾い上げ、バックパックにしまう。アームウォーマーを操作して他のハンズマンに、「合流せよ」と指示を送った後、僕は師匠に視線を送った。
「師匠。携帯投影機で地図を出してください」
「分かったわ、アクセル」
「僕たちは、他の同業者が通っていない『隠し通路』を通って地下水道都市に向かいます」
「それが最適解で最短なルートなのね。バイオレットさん、それで良いかしら?」
僕がそう言うと、師匠は腰にぶら下げた変形機構銃に手を添えて、ジャガーノートさんに訊ねた。
気が強い女性は魅力的で素敵だ。互いの信念をぶつけ合う姿をオカズにして何杯も白米が食える。
ジャックオー師匠はカボチャ型の防護マスクで顔を覆っているけど、彼女がジャガーノートさんを睨み付けているのは容易に分かった。
「じゃ、じゃあ出発しますか!」
このままキャットファイトまで見られれば良かったが、エイダさんがそれを邪魔してきた。残念だ。もう少しで女性同士が殴り合うのを見れたのに。
僕は中継基地局から歩きだしたエイダさんの後を追っていき、我の強い二人の女性に「遅れないで下さいね」と言って、ホログラフィックの地図を見ながら進んでいった。
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