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第3章 青年期 変態紳士編

28「特別な造花」

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 純粋無垢な笑顔を浮かべながら駆け寄ってきたケモ耳の少女。彼女の名前はリベット。五番街のスラムに住んでいる健気な獣人族の少女だ。


 

「ねえアクセルくん! ちゃんと約束守ってくれたんだね!」
「こんにちは、リベットちゃん。約束って?」

「1週間前に約束したじゃん。仕事がお休みの時に遊びに来てくれるって」
「ああ、確かにそんな約束した気がするな……」



 そんな約束したっけな。義手の修理依頼やエイダさんの拘束器具、ロータスさんの愚痴に付き合ってあげたり、ソフィアさんの依頼もあったからな。忘れてもしょうがないか。
 

 等と考えていると、彼女は僕のお腹に顔を擦り付けてきて、腕を背中に回して抱きついてきた。




「アクセルくん。約束通り、ゴミ……じゃなくて、いっぱいお花を作ったよ!」
「ふーん。どれぐらい作ったの?」

「大きいのと小さいのを合わせると、百五十本は作った!」
「そ、そんなに作ったんだ。一本あたり小銅貨一枚だから……」




 百五十本か。随分と多く作ったようだな。まあ、全部買うって言っちゃったし、買うしかないか。

 
 スクラップ小屋から何かを取ってきたリベット。彼女は鉄屑や歯車、花の中心に青く輝く浄化石をあしらえたアートスティックな造花を持って来てくれた。




「綺麗な花だね」
「うん。アクセル君を思いながら作ったの。このお花だけはタダで良いよ」

「本当に良いの?」
「このお花だけはね。他のお話は一本小銅貨一枚だからね!」

「ありがとうリベットちゃん。でもね、今日は遊びでスラムに来たんじゃないんだ。魔物の討伐依頼の仕事でスラムに来たんだよ」
「魔物の討伐依頼? もしかして、下水道の入り口に居る人達と一緒の仕事?」




 リベットはそう言って遠くの方に指を差した。彼女が指を差した方向に目を凝らしてみると、そこには治安維持部隊や蒸気機甲骸スチームボット、偵察を目的とした獣型の機甲骸ボットたちの姿があった。


 僕はリベットから特別な造花を受け取り、近くに居たジャックオー師匠に視線を送る。




「ジャックオー師匠。あの方たちは?」
「私たちと同じ目的を持った兵士たちだ。他にも、私の様にダストから直々に依頼を頼まれた民間企業の武力組織も参加する」

「武力組織ですか。頭のネジがぶっ飛んだ方々が居るかもしれませんし、トラブルにならないといいですが」
「そうだな。私たちは三十分後に地下水道へ入る。エイダ、アクセル。武器や装備の点検を始めなさい」




 ジャックオー師匠はそう言い残して、治安維持部隊や同業者が集まるキャンプ地へと向かっていった。


 武器と装備の点検か。必要が無いとは思うが、念の為にチェックしておくか。


 僕はリベットの頭を撫でた後、小屋に戻っていくリベットに手を振り、イエローキャブのトランクを開ける。すると、エイダさんがそばに寄ってきた。




「エイダさん、どうしたの?」
「アクセルさんって、幼女や童女の知り合いも居るんですね」

「ああ、もしかしてリベットちゃんの事?」
「先程のケモ耳幼女は、『リベットさん』という方なんですね」

「うん。エイダさんにケーキを作って貰ったじゃん。あのケーキはリベットたちに渡す予定なんだ」
「なるほど。何か裏がありそうですね。もしかして、ケーキを餌にしてケモ耳幼女を釣り上げるつもりですか?」




 エイダさんはそう言って、車内でみせたゴミを見るような目付きで僕を見てくる。彼女の冷め切った視線が心地良く感じる。僕は本当にドMの変態紳士なのかもしれない。


 その後、僕は彼女に「僕は変態紳士だが、ロリコン変態紳士じゃあない」と言い、動揺を隠しながらトランクに視線を落とした。


 トランクに敷き詰められた一斗缶に視線を送り、その中から討伐依頼に見合った武器や装備、携帯食料や高純度の錬成鉱石を取り出す。




「エイダさん」
「どうしたんですか、ロリコンさん」

「リベットが誤解するから、その名前で呼ばないでくれ」
「仕方ないですね。どうしたんですか、変態さん」

「今回の依頼は、アンクルシティの地下都市に居る魔物を討伐しなきゃいけない。だから荷物持ちのキミには、このバッグパックを持って欲しい」
「荷物持ちって……まあそうですけど。重そうなバッグですね。中には何が入っているんですか?」




 僕はエイダさんの質問に、「無事に生き延びるのに必要な物だよ」と、端的に答える。

 
 地下水道都市での魔物の討伐任務は、数日間を通して行われる。イレギュラーが起こらなければ、丸一日掛けて地下水道都市に辿り着くことができる。


 だけど、そんなに魔物の討伐依頼は簡単なものではない。問題はそこからだ。


 魔物の巣窟と化した地下水道都市の安全な場所で野営をしながら、数日間を掛けて魔物と戦わなければならない。


 暖をとるのに必要な焦土石や汚水を飲むのに必要な浄化石、魔物の弱点である紫外線照射装置や、特殊な錬成水が必要だと説明した後、僕はそれらが詰まった三つのバックパックを地面に置いた。


 一つは僕の分。もう二つはエイダさんと師匠の分だ。




「エイダさんには、ジャックオー師匠の荷物を持ってもらう」
「先生の荷物ですね。分かりました」

「バックパックの中には、変形機構蒸気銃のカスタムパーツが入っている。絶対に失くさないでね」
「私を誰だと思っているんですか。伝説の少女型ホムンクルスですよ? 失くすなんてあり得ません」




 嫌な予感がする。エイダさんに盛大なフラグを立てられた気がするが、ここは突っ込まないでおこう。


 どうやら僕たちの順番が来たらしく、ジャックオー師匠は腰のホルダーに収められていた蒸気機関銃を引き抜き、僕たちの元へとやってきた。
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