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第2章 青年期 見習い錬金術師編
間話「ジャックオー・ハンドマン」
しおりを挟む五番街に店を構える『ある紳士』の話をする。彼は便利屋に舞い込んだ依頼を遂行するために他の街へ向かうが、その依頼を果たすことが出来なかった。
その男に任された、『地下水道内の魔物の討伐依頼』は、彼にとっては赤子の手をひねるような仕事でしかなかった。そんな彼が依頼を失敗したのは、あるイレギュラーが起こったからだ。
そのイレギュラーは、魔獣の群れの中に『人の人格を残した魔獣』が居たこと。
本来、魔獣化してしまった純人族や亜人族といった生き物は、魔獣化する過程で人格を失う。人間だった頃の記憶を忘れ、肉や血を求める獣に成り果てるのが人々の常識だった。
カボチャ型の防護マスクを被った紳士は、そのことを常に頭の片隅に置いて行動していた。しかし、彼の前に、人格を保持しながら魔獣となった人狼が現れ、彼は油断して右腕を吹き飛ばされた。
「魔獣化した亜人の討伐か。あの人狼の邪魔が入らなければ、義手を壊されなくても済んだのにな」
カボチャ型の防護マスクを被った男。彼は体を配管に擦らせながらそう言って、入り組んだ下水道内を歩き続ける。
彼の名前は、ジャックオー・ハンドマン。五番街の雑居ビルで『便利屋ハンドマン』という店を営んでいる男だ。
彼の左手には、魔獣に破壊された機関義手の右腕が握られている。数体の魔獣を討伐したが、彼は油断したせいで右腕の義手を破壊されてしまった。
水道の壁面に腕を添えながら鼻歌を歌い、彼は四番街の中心に繋がる地下水道を歩き続ける。
「楽しみだなあ。早く彼女のダンスを見たいなあ」
ジャックオーが目指していたのは、知り合いが居る四番街にある、『バーレスク・ノヴァ劇場』だ。そこでは多くの女優が歌に身を任せて激しく踊り、時には観客の要望に応えて素肌を晒して、ゴージャスなショーを繰り広げている。
「地上に戻ったら、何処かで服を買わなきゃいけないな」
ジャックオーが着ていた衣服は、魔物との戦闘でボロボロになっている。破壊されたのは右腕の義手と防護マスクだけであって、体には怪我という物がない。
彼はそう言って地下水道を歩き続ける。しかし、彼が向かっている先には、唸り声を上げる『オオカミ型の魔獣の群れ』が待ち構えていた。
度重なる魔獣との戦闘で疲れ果てていたジャックオー・ハンドマン。カボチャ型の防護マスクも魔獣の攻撃で一部が破壊されており、防護マスクとしての機能はもはや機能していない。
「失せやがれ、化け物ども」
ジャックオー・ハンドマンは水道という暗闇の中、待ち構えていたオオカミの魔獣を睨みつける。その後、一呼吸置くこともなく彼は走り出した。
オオカミ型の魔獣たちは、カボチャ型の防護マスクから晒された彼の眼光を目にして萎縮する。
彼は魔獣の群れの背後に飛び込み、破壊された義手の手のひらを握り締める。すると、腕の形を成していた機関義手は、彼の操作で変形機構銃へと変化していった。
ショットガンと化した変形機構銃をスピンコックさせ、ジャックオー・ハンドマンは片腕で戦った。
満身創痍の中、彼は魔獣たちの脳天に向けてショットガン化した変形機構銃を撃つ。迫り来る魔獣には体術で応戦し、常に魔獣の背後へ移動しながら戦い続けた。
「ああ、疲れた。もう面倒臭いなあ」
悪態をつき、ジャックオー・ハンドマンは『ある装置』をポーチから取り出す。ポーチから取り出したのは、『紫外線』を放つボール型の照射装置だった。
魔獣に追われながらも水道管の中を駆け抜け、彼はポンプ室と呼ばれる広い空間に辿り着く。
彼が向けた視線の先には、地上に通じるエレベーターがある。しかし、その開けた空間にもオオカミ型の魔獣が待ち構えていた。
「追い込んだと思ってるだろ。残念だったな、追い込んだのは私の方だ」
壁面に貼り付けられた鉄パイプに手のひらを添えるジャックオー・ハンドマン。彼は鉄パイプに錬金術を施し、『再構築錬成』させた鉄パイプで、カボチャ型の防護マスクを元通りに直した。
その後、彼は一呼吸置くこともなく、ポーチから取り出した照射装置を壁に投げつける。壁に当たった衝撃で起動したボール型の装置は、青白い光を拡散させて地下水道内に紫外線を放出させた。
「イレギュラーが起きたな。一旦、地上に戻るか」
強力な紫外線を照射された事によって、肉体が塵や灰に変わっていく魔獣たち。彼らの弱点は、太陽光や強力な紫外線だった。
ジャックオー・ハンドマンは彼らを踏みつぶしながら、エレベーターに乗り四番街の地上へ向かった。
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