向こうの君と、ふたり星

雨鬥露芽

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後編

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「で、七夕やることになったわけ?」
「うん」

学校で湊にそう言うと、呆れた顔が返ってくる。

「ねえ、本当に好きじゃないの?」

それは、私だって知りたいことだった。
話せることが嬉しい。
会えばあんなにも楽しい。
そして、明日がこんなにも待ち遠しい。
また会いたいなんて思ってしまう。

この感情は、何なんだろう。

この青の短冊に、何を書いたら良いのだろうか。

私は、何を書きたいんだろう。

どうしたいんだろう。



《向こうの君と、ふたり星》
-後編-



「ちょっと出かけてくる」

七夕当日。お母さんに伝えた午後八時。
大きめの鞄の中には折り紙で作った笹飾り。
台所から聞こえた「どこ行くの?」に適当な言葉を返して
駆け足で向かった近所の川。

土手沿いの道で、笹を持った彩輝くんを見つけると同時に、彩輝くんがこちらに気付いて。

「こんばんは」

その笑顔にまた胸が鳴る。
ちゃんと会うのは二回目で、出会いを含めたら三回目。
あんなに毎日のように話してたのに、やっぱりドキドキする不思議な時間。

今日の彩輝くんは短パンにサンダルで、そんな姿もまた似合っていて。

「はい! お約束の笹!」

目の前に出されたのは、彩輝くんの身長の半分くらいの笹。
葉は上のほうだけについてるので、実際のサイズよりは小さく見える。

「飾りと短冊持ってきた?」
「うん。彩輝くんは?」
「俺も持ってきたよ」

さっそく結ぼうと、彩輝くんが持ってくれている笹に、飾りをつける。
待ち遠しくて、気づくと沢山できてた笹飾り。

小さな緑に色がつく。

「それ陽和ちゃんが一人で作ったの?」
「うん、そうだよ」
「器用なんだね。すげー綺麗」

褒め言葉がくすぐったい。
そんなこと、初めて言われた。

最後に短冊を結びつけると、それを見えないように手で隠したまま笹を受けとり、彩輝くんが結ぶのを待った。

「ちなみに陽和ちゃんは何て書いたの?」
「あはは、内緒」

どうせその内見えるかもしれないけど。
それはその時。
見えたら見えたで、何かが変わるかもしれないから。

まるでおまじないみたいだけど。

「彩輝くんは?」
「俺も内緒~」

二人でけらけらと笑う。
気が合うというのはこういうことなんだって実感する。

「晴れてよかったよね」
「うん、珍しいよね。何か毎年曇ってるーとか言ってるイメージ」
「あはは、何かわかる」

笹を後ろに立たせて、二人で並んで座る。

風がそよいで、笹を撫ぜる。
ゆっくりと時間が流れてる感じ。

笹の葉さらさら揺れながら
胸がとくとく鳴りながら

空を見上げて星を眺めて

電話と変わらないくらい他愛のない話をして

夜空の2人もこうして、話していたのだろうか

なんて。

「そろそろ帰ろうか」
「そうだね、もうこんな時間」

彩輝くんの言葉でスマホを見る。
高校生は、帰る時間。
何だか急に寂しくなる。

「笹、持って帰る?」
「うん、部屋に置く」
「そっか!」

彩輝君から笹を受け取り、抱きしめるように抱え持つ。
青色の短冊に書いた言葉。

――もっと隣にいられたら。

いつだって"向こう"にいる君と、さっきみたく、隣にいられたら。
そんなこと思うのに
どれだけ話しても、顔を合わせても
君の気持ちはわからないままで。

少しずつ近づいている気がするのに
また君が遠くなる。

「家まで送る?」
「ううん、見つかったら多分びっくりされちゃう」

私の発言に彩輝君が笑い出す。
その度に世界がキラキラする。
本当に華やかで、輝いているみたいで。
今いる場所が明るくなるみたいに。
色づいていく。

彩輝君がいるだけで。
それだけで。

本当はその方法なんて、とっくにわかっているかもしれないのに。
ただ、それを気付いてもらいたくて。
教えて欲しくて。

遠回しに書いて。


手を振ってから訪れる静寂。
さっきと同じ笹の音。
歩き出すことができなくて
もう一度空を見上げて"君"を想って

次はいつ会えるのかなんて、小さくため息をついて
揺れる飾りと、ふと目に入った黄色の短冊。

――もっと会いたい。

どきっとした。
まるでメッセージ。

私達は本当に似てるのかもしれないと思った。

どこかで気付いて欲しくて
だけど気付かれたくなくて。
迷った結果、星空に任せてしまって。

本当に、本当に似ているのであれば。

これが。
これが勘違いではないのなら。

「もしもし?」

取り出したスマホに、いつもの画面。
聞こえる声は、いつもとどこか違う感じ。

『どう、したの?』

私からかけるのはあの日以来だからかな。
少しだけ、ドキドキしてる。

あなたも同じでしょうか。

願いの叶う星空の下で
"ふたり"は"出会えた"のでしょうか。

「明日の放課後って、暇だったり、する?」
『夜なら、大丈夫』

これからもずっと
"会える"でしょうか。

「それでも、会いたいって、言ったら?」

きっとそれは、"会う"だけを求めているわけではない言葉。

時が止まる。
息が止まる。

答えはこない。
手が震える。

不安で思わず耳に押しつけたスマホ。

その向こうで弾んだ、嬉しそうな君の声。

『超ダッシュで会いに行く!』

胸の音がとくとくと。
明日の夜がまた待ち遠しい。

「うん、待ってるね!!」

この想いが答えなら

川の向こうに住む君に
この電話の向こうの君に
どうか届きますように。
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