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恋愛もの
191101【こたつ】こたつの日
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「で、お前はいつになったら準備できるんだ?」
それは日曜の午後1時。
待ち合わせ場所に一向に来ない彼女を迎えに家に行くと
大きな大きなかたつむりに出迎えられた。
《こたつの日》
「早かったねえ」
栗色のふわふわした毛を跳ねさせて彼女が言う。
暖房の効いたワンルームの彼女の部屋。
こたつから出てる顔を見れば化粧すらしてない。
というか、準備しようとしていた形跡がない。
どっちかというと、帰って来てからそのまま、みたいな光景だ。
「準備がまだ終わってないって、言ってなかったか?」
終わらないどころか始めてもいない、と指摘すれば
やわらかな雰囲気の彼女は笑顔を向けて。
「あはは、呆れた顔してる」
そんな顔にもなるだろう、そりゃ。
高三から2年ほど付き合ってる同い年の彼女。
最近はお互い忙しくてほとんど時間が取れない中で
ようやく時間が合わせられたから久しぶりのデートができると大学の課題を頑張って終わらせたのにこの有り様。
楽しみにしてたのは俺だけかって。
「帰る」
「待って待って行かないで!!」
踵を返すも飛んでくるのは声だけ。
いつものんびり自由な彼女だけど、いくら何でもこれはないだろう。
せめて出てきて引き止めてほしい。
っていうか、何かこたつに負けてるみたいで悔しい。
「ね、もう少しだけここにいよ?」
「やだ」
「外寒いでしょ? あったまろ??」
「別にいらない」
正直拗ねている。
そんなにこたつが好きならこたつの中にずっといればいいんだ。
一人で使うには少しだけ大きいそのこたつに嫉妬して
もう本気で帰ってやろうと歩みを始めた瞬間だった。
「ケーキもあるよ!!」
ピタリ――
反射的に脚が止まった。
「食べたがってた駅前のあのケーキ!」
「本当か?」
「本当!! 冷蔵庫の中に!」
キッチンの隣にある小さな冷蔵庫を開けると確かに入っている。
薄いピンクのおしゃれな箱には『本日中にお召し上がりください』というシール。
販売日の欄には今日の日付が書いてある。
並ばなきゃ買えないはずのあのケーキを、今日買った?
今あそこにいるこたつの虫が?
……どういうことだ?
「ね? あとで食べていいから」
「今じゃなくて?」
「今は、一緒にこたつむりごっこをするんだよ」
少し端に寄ってほらほらと自身の隣を手で叩いて
まるで俺にそこに入れと言うように
爛漫な笑顔を向けてくる。
「ああはいはい、わかったよ。やればいいんだろやれば」
呆れながら荷物と上着を置いてそこに入る。
少し窮屈なその空間と、はみ出た足との気温の差。
そこでようやく、不可解だったこいつの行動の意味がわかった。
「えへへ、こんなに近くなったの久しぶりだね」
すぐそばにいる彼女が、少しだけ赤い顔でそんなことを言う。
こたつのスイッチなんか入ってないくせに。
何も考えてない顔して、用意周到で。
「お前、わかってるのかよ」
負けたような気持ちを隠してキスをすれば
彼女はいつもと変わらない調子で「大好き」なんて嬉しそうに笑う。
ああもう、勝てない。
「いつから計画してたんだ?」
「何のこと?」
とぼける彼女にため息をついて引き寄せて抱きしめる。
閉じ込めた彼女の体温。
こんなのいつぶりだっけなんて、今更すごく実感してきて。
「こんな日もいいでしょ?」
「そーだな。そういうことにしておいてやる」
「うん!」
えへへと笑う彼女にもう一度キスをして
長くなりそうなこたつの中の時間を満喫することにした。
END
それは日曜の午後1時。
待ち合わせ場所に一向に来ない彼女を迎えに家に行くと
大きな大きなかたつむりに出迎えられた。
《こたつの日》
「早かったねえ」
栗色のふわふわした毛を跳ねさせて彼女が言う。
暖房の効いたワンルームの彼女の部屋。
こたつから出てる顔を見れば化粧すらしてない。
というか、準備しようとしていた形跡がない。
どっちかというと、帰って来てからそのまま、みたいな光景だ。
「準備がまだ終わってないって、言ってなかったか?」
終わらないどころか始めてもいない、と指摘すれば
やわらかな雰囲気の彼女は笑顔を向けて。
「あはは、呆れた顔してる」
そんな顔にもなるだろう、そりゃ。
高三から2年ほど付き合ってる同い年の彼女。
最近はお互い忙しくてほとんど時間が取れない中で
ようやく時間が合わせられたから久しぶりのデートができると大学の課題を頑張って終わらせたのにこの有り様。
楽しみにしてたのは俺だけかって。
「帰る」
「待って待って行かないで!!」
踵を返すも飛んでくるのは声だけ。
いつものんびり自由な彼女だけど、いくら何でもこれはないだろう。
せめて出てきて引き止めてほしい。
っていうか、何かこたつに負けてるみたいで悔しい。
「ね、もう少しだけここにいよ?」
「やだ」
「外寒いでしょ? あったまろ??」
「別にいらない」
正直拗ねている。
そんなにこたつが好きならこたつの中にずっといればいいんだ。
一人で使うには少しだけ大きいそのこたつに嫉妬して
もう本気で帰ってやろうと歩みを始めた瞬間だった。
「ケーキもあるよ!!」
ピタリ――
反射的に脚が止まった。
「食べたがってた駅前のあのケーキ!」
「本当か?」
「本当!! 冷蔵庫の中に!」
キッチンの隣にある小さな冷蔵庫を開けると確かに入っている。
薄いピンクのおしゃれな箱には『本日中にお召し上がりください』というシール。
販売日の欄には今日の日付が書いてある。
並ばなきゃ買えないはずのあのケーキを、今日買った?
今あそこにいるこたつの虫が?
……どういうことだ?
「ね? あとで食べていいから」
「今じゃなくて?」
「今は、一緒にこたつむりごっこをするんだよ」
少し端に寄ってほらほらと自身の隣を手で叩いて
まるで俺にそこに入れと言うように
爛漫な笑顔を向けてくる。
「ああはいはい、わかったよ。やればいいんだろやれば」
呆れながら荷物と上着を置いてそこに入る。
少し窮屈なその空間と、はみ出た足との気温の差。
そこでようやく、不可解だったこいつの行動の意味がわかった。
「えへへ、こんなに近くなったの久しぶりだね」
すぐそばにいる彼女が、少しだけ赤い顔でそんなことを言う。
こたつのスイッチなんか入ってないくせに。
何も考えてない顔して、用意周到で。
「お前、わかってるのかよ」
負けたような気持ちを隠してキスをすれば
彼女はいつもと変わらない調子で「大好き」なんて嬉しそうに笑う。
ああもう、勝てない。
「いつから計画してたんだ?」
「何のこと?」
とぼける彼女にため息をついて引き寄せて抱きしめる。
閉じ込めた彼女の体温。
こんなのいつぶりだっけなんて、今更すごく実感してきて。
「こんな日もいいでしょ?」
「そーだな。そういうことにしておいてやる」
「うん!」
えへへと笑う彼女にもう一度キスをして
長くなりそうなこたつの中の時間を満喫することにした。
END
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