キミイロモミジ

雨鬥露芽

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-Another Side-

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赤と黄色の中にいた、黒髪の君。
他の色に負けないほど、きらきらしてた。

「なーにやってんの?」

背中から声をかけると、のけぞる少女。
手元に紅葉。オレンジ色。
オレンジが好きなら、もっと俺に気付いてくれてもいいんじゃない?









≪キミイロモミジ≫
-Another Story-









「ねえ、君のそれは何色なの?」

俺の質問にも答えないで
飛んできたのは問いかけ。
記憶を漁って、言葉を探す。

「キャロットオレンジ、だったはず」
「この前は金髪だったよね」
「季節によって変えていくスタイルで」

俺の言葉に笑う。
紅葉なんかより、カラフルに見える。

本当は少しだけ違う意図。
気にしてくれてたのかなんて、少しだけ期待して。

「んで、お前は?何やってたの?」
「秋を満喫してるの」

変な奴。
そんな言葉を引っ込めて「俺もやる」ってぶつけた背中。
俺よりも小さくて、俺よりも少しだけ低い体温。

「制服汚れるよ」
「お前だって人のこと言えねえだろ」
「あはは、そうね」

制服なんかより、俺にとっては今の時間の方が優先だから。
なんて、そんなこと言えるわけもなく。
勇気のないへたれな自分。
変わっていく葉の色に、焦り出してる。

「髪痛んでそうだよね」
「うーわ、あんまり考えたくねえな」

お互いの笑い声。顔見えないけど。
きっといつもと同じように、色んな色を見せてる君の表情。

「それ、めちゃくちゃ怒られるでしょ」
「まあ。今日も呼び出されましたんで」

また笑う。
揺れる背中が心地よくて、くすぐったくて。

「もう何週間目だってのに、先生も諦めねえんだよ」
「当たり前でしょ。怒られるのわかってて何で続けるかな」
「学生の内にやっておきたいじゃん」
「わっかんないなー」

わかれよ。
もう、今しかないんだよ。

「あと少しで大学なんだぜ」
「……面接それでいくの?」
「んなわけあるかって」

冬は黒に戻すかね、って呟いたのは心の中。
どうしたら、気付いてくれんのかな。
きっかけ探しが忙しい。

「あぁ、秋だからセンチメンタルなの?」
「あっはは、そう見える?」
「なんとなく。そんな感じ」

ちらりと見れば、また紅葉。
そんなにそれが気になりますか。

「さーてどうだろうな」

言えなくて誤魔化して、最初の質問。

「なぁさっきからそれ何やってんの」
「んー、重ねてんの」
「何と」
「内緒」

隠された答え。
気になる答え。

いつも何考えてんだろう、こいつは。
頭の中埋め尽くしてんの何なんだろう。

どこか変な奴。
どこか目立つ奴。
とか言って。
自分が目で追ってるからいつも中心にいるだけなんだけど。

だからこそ、気付いてくんないかなって思うわけで。
だからこそ、何か変な事するしか思いつかなくて。

目立てば、俺を見つけてくれるんじゃないかなとか
考えるわけで。

「この髪色目立つ?」
「悪い意味でね」
「うわきっついこと言うな」

悪くても良くても何でもいいけど。
きっかけ作るのも、そろそろ限界なんだけど。

「その葉っぱどうすんの?」
「そうだなぁ……。栞にでもしようかな」

紅葉の栞?
押し花みたいなもんだろうか。
そういえば、よく本読んでるもんな。

「いいな。俺にも作ってよ」
「あんた本読むの?」
「……漫画なら」

変に思われただろうか。
いつもみたいな笑い声が聞こえない。
実際少し焦ってる。
何でもいい。もう少しだけ、近づきたい。
ただそれだけで。

「いいよ」

返ってきたのは、優しい声。
今、どんな顔してた?
何でそんな声してる?

背中に回るんじゃなかったとか結構後悔。

「ねえあのさ」
「あー?」

話しかけられた声に軽く返事すればまた少しの沈黙。
見れば視線の先には、あの紅葉。

「秋って、何で寂しくなるんだろうね」

手元の色に何を馳せる?
変わっていく色を閉じ込めて、落ちてしまった葉の色に。
ずっと見て、ずっと気にして。

今話してるの、俺なんだけどって
いつになったら気付くの本当。

「俺は、冬が近づくから寂しいけど」

体を向けて、伸ばした手。
好きにならなくていいから、せめて気付いて、少しだけでも見てほしい。
そんな我儘な感情。

「冬が来たらさ、学校、あんまり来なくなるし」

受験が始まって、どんどん会えなくなって
ただでさえ話せない距離が、もっと遠くなる。
きっとその先も交わらない。

だから、君の世界に少しでもいさせて。

「その後、卒業だし?」

掴んだ手。冷たい手。
自分の熱と合わさって、痺れる温度に変化する。

「七原……?」

俺を見上げる葉月の顔。
俺の名前を呼んだ声。
予想外に変化した色。

「葉月の顔、赤いな。紅葉みてえ」

赤くて、景色に溶け込むような。
なのに、すぐに気付ける特別な色。

「それはあんたの髪の色でしょ……」
「俺の色はもう少しオレンジだろ」
「そうね、この葉っぱと同じ色ね」

比べられたそれに、少しだけ嫉妬。
オレンジが好きなの?
モミジが好きなの?
わかんねえけどさ。

同じ色してるって、言うならさ。

「だったら俺の事も、もう少し見てくれてもいいんじゃないの?」

その視界の中に、もう少し。
思い出だけでも、もう少し。

そんな俺に、赤い色が揺れる。

「……もうとっくに見てたわよ」

何だそれ。
どういう意味だよ。
とか、聞かなくてもわかる。
その色に。

めっちゃ焦ってたのに。
口元緩むじゃん。

「もっと早く言えよ、ばか」

俺の言葉にまた笑う。
変わる色。
いつだって、景色よりも移り変わる葉月の色。

でも今は、紅葉みたいに真っ赤なまま。
熱が移った空の下。
俺は世界にいるらしい。

あれ、俺今秋満喫してるんじゃね?って
なんか幸せな感じ。

END
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