47 / 79
大学生編
43
しおりを挟む「なんか…あいつカッコつけてるけどドーテーだったみたいで、『ヤらせてあげてくれ』って先輩に頼まれてさ、酒も呑まされてたみたいで…まぁあたし渉のこと中学の時は好きだったからさ、良いよってOKしたの」
「………」
まさか、やめて、千鶴の胸がばくばくと内側から叩かれてそのペースが急速に上がる。
聞きたい、あの日の裏側、でも聞きたくない。
だって相手が『知らない女の人』だったから童貞を捨てたいあまり焦った少年の愚行としてあの事件を消化できたのだ。
それが知っているどころか過去に自分に告白してきた女の子だとすれば、渉はしめしめと緊張もせず楽しんで抱いたのではないか。
彼は酔って憶えていないと言ってはいたが。
「まぁホテルなんか入れないからこっちに帰って来てさ、渉が自分とこの会社の倉庫みたいな所に連れてってくれて…そこで先輩が買ってくれたお酒、もう1杯呑んでね、んで…」
「う、ん、」
どんどんどくどく耳の血管を走る脈がうるさくて気に障る。
このゴシップの顛末は知っているのに聞けば傷付くのにでも詳細を知りたくて…千鶴は鼻息が荒くなりかけて、少しずつ口から息を吐いて追撃を前に落ち着こうと試みた。
「あいつ酒弱いのね、ベロンベロンになっちゃって。いざ、ってなったら寝ちゃってさぁ、呼んでも起きないの」
「……は、ぁ、」
「あたしも腹立ってあいつの服脱がしてやってね、起きたら…って思ったんだけど全然起きないの」
「へ、ぇ、」
「したらあたしも酒入ってたから寝ちゃってさぁ、朝になっちゃって。そこの作業員に見つかって、あたしだけ逃げちゃった、あれはハラハラしたぁ」
「……………は、ぁ、」
それは第一発見者のイトウのことだろう、彼は自分のテリトリーに不審者が居るとして見慣れぬ女性に対して大声で叫んだと言っていた気がする。
からからと年表が回って書き替えられて塗り替えられていく、あの夏の大事件の根幹に関わる部分がどうやらガセだった?千鶴は動揺しつつ当時を思い出した。
そう言えば引っかかってはいたのだ。
この島に渡る手段は橋の他には渡船だけでタクシーも呼ばねば捕まらないし、朝早くから見知らぬ土地でどこへ向かったのか。
無事に本土へ帰れたのだろうか、と。
なるほどエリならば土地勘もあって、人気の無い場所で身なりと息を落ち着けて、そして徒歩で島内の自宅まで悠々と帰ったに違いない。
「その後渉、坊主になってたらしいからさ、相当叱られたんだろーね。あたしも恥かかされたからそれ以降会ってないけど…」
「うん…あの、じゃあ…渉くんと、え、エッチ、」
「シてない。寝ちゃったからねー…ごめんね、変な話して…ちーちゃんは渉と付き合うのかと思ってさ、ドーテー奪ったらあたしが勝ったような気分になれんのかなーって思って…話に乗ったんだよね、あたし1回フラれてるからさ。でもあぁいう遊びというか集まり…気持ち悪いね、今考えると…もし会うことあったらごめんねって…謝っといて、勘違いしてるかもしれないし」
「うん……うん…」
その後エリは少し夫との惚気話を聞かせてくれて、挨拶をして別れ、夫のカスタムだという軽自動車に乗り込み坂を降りて行った。
「……渉くん…まだ童貞、なの…?」
当事者が言うのだから間違い無いのだろう。
なるほど酒に酔って腰を振れるほど渉は肝が据わってはなかったのか、残された千鶴はひとり岩を見上げて尋ねてみる。
『そうだよ、彼は清い身体だよ』
なんて神様が答えてはくれまいか?それだともう少し信憑性も増すし本気でパワースポットだと信じてあげるのに。
千鶴は岩に背を向けて、ゆっくり坂を降り始めた。
「(渉くん…エッチしてなかった…まだ…女の人を知らないんだ…)」
渉は童貞、その言葉を噛み締めるとあの日の彼の落胆ぶりや深いお辞儀や巻き込まれた大人たちの大騒ぎが実に滑稽で…そして状況証拠だけで彼を責めてしまった自分が悔やまれる。
渉は「シてない」とは言っていない、「憶えていない」と主張を一貫していた。
それが全てだったのだ。
泥酔していては勃つモノも勃たないだろうから。
しかしエリに関しても渉が「憶えてない」と証言しているは少々おかしいか。
当時からギャルメイクをしていたとしても声などで幼馴染みだと分かるだろうしエリも何らかのリアクションをしたはずである。
それともエリが「はじめまして」の態度を徹底したのか、もしくは渉が彼女を庇って名前を伏せたのか。
ちりちりとモヤモヤした気持ちが腹の底を炙り始める。
千鶴は足早に実家を通り過ぎ、待ち合わせの予定より早く刈田家を訪ねた。
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
W-score
フロイライン
恋愛
男に負けじと人生を仕事に捧げてきた山本 香菜子は、ゆとり世代の代表格のような新入社員である新開 優斗とペアを組まされる。
優斗のあまりのだらしなさと考えの甘さに、閉口する香菜子だったが…
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
副社長氏の一途な恋~執心が結んだ授かり婚~
真木
恋愛
相原麻衣子は、冷たく見えて情に厚い。彼女がいつも衝突ばかりしている、同期の「副社長氏」反田晃を想っているのは秘密だ。麻衣子はある日、晃と一夜を過ごした後、姿をくらます。数年後、晃はミス・アイハラという女性が小さな男の子の手を引いて暮らしているのを知って……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる