備後の神の縁結び

茜琉ぴーたん

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大学生編

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「なんか…あいつカッコつけてるけどドーテーだったみたいで、『ヤらせてあげてくれ』って先輩に頼まれてさ、酒も呑まされてたみたいで…まぁあたし渉のこと中学の時は好きだったからさ、良いよってOKしたの」

「………」

まさか、やめて、千鶴の胸がばくばくと内側から叩かれてそのペースが急速に上がる。

 聞きたい、あの日の裏側、でも聞きたくない。

 だって相手が『知らない女の人』だったから童貞を捨てたいあまり焦った少年の愚行としてあの事件を消化できたのだ。

 それが知っているどころか過去に自分に告白してきた女の子だとすれば、渉はしめしめと緊張もせず楽しんで抱いたのではないか。

 彼は酔って憶えていないと言ってはいたが。


「まぁホテルなんか入れないからこっちに帰って来てさ、渉が自分とこの会社の倉庫みたいな所に連れてってくれて…そこで先輩が買ってくれたお酒、もう1杯呑んでね、んで…」

「う、ん、」

どんどんどくどく耳の血管を走る脈がうるさくて気に障る。

 このゴシップの顛末てんまつは知っているのに聞けば傷付くのにでも詳細を知りたくて…千鶴は鼻息が荒くなりかけて、少しずつ口から息を吐いて追撃を前に落ち着こうと試みた。

「あいつ酒弱いのね、ベロンベロンになっちゃって。いざ、ってなったら寝ちゃってさぁ、呼んでも起きないの」

「……は、ぁ、」

「あたしも腹立ってあいつの服脱がしてやってね、起きたら…って思ったんだけど全然起きないの」

「へ、ぇ、」

「したらあたしも酒入ってたから寝ちゃってさぁ、朝になっちゃって。そこの作業員に見つかって、あたしだけ逃げちゃった、あれはハラハラしたぁ」

「……………は、ぁ、」

それは第一発見者のイトウのことだろう、彼は自分のテリトリーに不審者が居るとして見慣れぬ女性に対して大声で叫んだと言っていた気がする。

 からからと年表が回って書き替えられて塗り替えられていく、あの夏の大事件の根幹に関わる部分がどうやらガセだった?千鶴は動揺しつつ当時を思い出した。


 そう言えば引っかかってはいたのだ。

 この島に渡る手段は橋の他には渡船だけでタクシーも呼ばねば捕まらないし、朝早くから見知らぬ土地でどこへ向かったのか。

 無事に本土へ帰れたのだろうか、と。

 なるほどエリならば土地勘もあって、人気ひとけの無い場所で身なりと息を落ち着けて、そして徒歩で島内の自宅まで悠々と帰ったに違いない。


「その後渉、坊主になってたらしいからさ、相当叱られたんだろーね。あたしも恥かかされたからそれ以降会ってないけど…」

「うん…あの、じゃあ…渉くんと、え、エッチ、」

「シてない。寝ちゃったからねー…ごめんね、変な話して…ちーちゃんは渉と付き合うのかと思ってさ、ドーテー奪ったらあたしが勝ったような気分になれんのかなーって思って…話に乗ったんだよね、あたし1回フラれてるからさ。でもあぁいう遊びというか集まり…気持ち悪いね、今考えると…もし会うことあったらごめんねって…謝っといて、勘違いしてるかもしれないし」

「うん……うん…」


 その後エリは少し夫との惚気のろけ話を聞かせてくれて、挨拶をして別れ、夫のカスタムだという軽自動車に乗り込み坂を降りて行った。


「……渉くん…まだ童貞、なの…?」

 当事者が言うのだから間違い無いのだろう。

 なるほど酒に酔って腰を振れるほど渉は肝が据わってはなかったのか、残された千鶴はひとり岩を見上げて尋ねてみる。


『そうだよ、彼は清い身体だよ』


 なんて神様が答えてはくれまいか?それだともう少し信憑性しんぴょうせいも増すし本気でパワースポットだと信じてあげるのに。

 千鶴は岩に背を向けて、ゆっくり坂を降り始めた。

「(渉くん…エッチしてなかった…まだ…女の人を知らないんだ…)」

渉は童貞、その言葉を噛み締めるとあの日の彼の落胆ぶりや深いお辞儀や巻き込まれた大人たちの大騒ぎが実に滑稽こっけいで…そして状況証拠だけで彼を責めてしまった自分が悔やまれる。

 渉は「シてない」とは言っていない、「憶えていない」と主張を一貫していた。

 それが全てだったのだ。

 泥酔していては勃つモノも勃たないだろうから。

 しかしエリに関しても渉が「憶えてない」と証言しているは少々おかしいか。

 当時からギャルメイクをしていたとしても声などで幼馴染みだと分かるだろうしエリも何らかのリアクションをしたはずである。

 それともエリが「はじめまして」の態度を徹底したのか、もしくは渉が彼女をかばって名前を伏せたのか。

 ちりちりとモヤモヤした気持ちが腹の底をあぶり始める。


 千鶴は足早に実家を通り過ぎ、待ち合わせの予定より早く刈田家を訪ねた。
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