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大人編
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しおりを挟む「…いいのかな」
「なにが、家族が増えるんはええことじゃ」
「ちゃんと…いいお母さんになれるかな…」
「大丈夫じゃ」
この頃長男は絶賛イヤイヤ期、短時間保育で預けて千鶴も会社に復帰したものの稼ぎと保育料が見合わず、妊娠中に退園させて家庭でみることにしている。
「チィ、ちゃんと食え」
「…うん、」
「虎は見とくけぇ、座って食え」
「うん…」
ちなみに虎とは長男・虎壱のこと、「男らしくあれ」という渉の願いを込めた名前である。
どうにもヤンチャな彼は由恵いわく幼い頃の渉そっくりだとのこと、千鶴は安定期に入り腹の子の性別を聞いて一瞬白目になった。
「チィ、今日検診じゃったろ、性別分かったか?」
「これ…エコー見て、ほら」
「……お、キンタマ写っとるの、また男ん子か、騒がしなるのぉ」
「…不安…」
「大丈夫じゃチィ、みんなで育てるんじゃ」
確かにみんな協力はしてくれるし人手はあって困ることは無い。
けれどもまた付きっきりで授乳にオムツにと手を焼く日々が来るのかと…そして獣の様に叫ぶお産をせねばならないかと思うと非常に気が重く、千鶴はずうんとマタニティーブルーにどっぷり浸かってしまう。
そして臨月に差し掛かったある朝のこと。
「ちーちゃん、ちーちゃん?」
「……」
「起きれる?調子悪い?」
「…お義母さん、」
男性陣は仕事へ出たのに起きても来ない千鶴を心配して由恵が寝室へ入ると、青白い顔をした彼女がベッドを背にもたれて床にへたりこんでいた。
「ちーちゃん⁉︎」
「お義母さん、う、生まれそう、破水してるの」
「ええ、あら、」
その後はパニック状態の由恵が会社へ駆け込んで車を手配させたり、虎壱が不安がって大泣きしたり、渉がパソコンのキーボードにコーヒーを溢したりとてんやわんやする。
しかし1番ハラハラしたのは千鶴で、「これしかない」と1トントラックの助手席に乗せられ産婦人科に乗り付けた時は顔から火が出る程に恥ずかしかったと言う。
「みんなさぁ、キチッとした旦那さんが付き添ってんのにさぁ、うちはトラックに作業着に頭にタオルだよぉ?もう嫌だったぁ~」
次男・竜牙の産後はバタバタしていたが喉元過ぎればなんとやらで、授乳期が終わり酒を解禁してからは千鶴は毎回の様に過去のエピソードを掘り起こして渉相手に管をまく。
「悪かったて」
「立ち会いも拒否されるしさぁ、散々」
「まぁ明らかに汚かったけぇな」
「ぽこぽこ子供作ってさぁ、命がけで産むのは私なのにさぁ、」
「ごめんごめん」
「心がこもってなぁい、」
「ん、ほんならあっち行くか?抱いたろ」
「…ウン」
この頃祖母は亡くなり祖父は島内の介護施設へ入ったために部屋が空き、剛・由恵はそちらへ部屋を移した。
そして元の親夫婦の部屋は将来の子供部屋として空いているのだが、渉たちは最近ではそこにマットを敷いてこっそり営むことにしているのだ。
「…っひ、あ、あ♡」
「チィ、感度がええの、エロい、」
「わた、る、ぐんッ…が、上手に、ナっ、ひィ♡」
以前より性欲は落ち着いて、また避妊にも注意しているので頻度は下がったものの、年の功なのか経験値が貯まったのか二人は昔よりも濃厚で深いセックスを楽しめるようになっている。
「ん、あ、まだ母乳が出とるわ、ん、チィ、吸わせて」
「あッ♡あフ…ん…」
「千鶴、ええ女じゃな」
「……」
「締まった、かわいいのぉ」
「ばかぁ」
体力を残しつつ効率よく頂点へ、男としての自信をつけた渉は仕事にも精を出し会社もまずまずの状態を保持できていた。
ところで渉の愛車だが、次男の出産の際に車高が低くて乗り降りが難しいということで足に使えなかった訳だが、赤ん坊が増えてチャイルドシートを2つ並べるとどうにも不便ということで…兵庫に進学した妹・美月へと譲渡された。
奇しくも美月が生まれた年の車だし、本人も実はカッコいいと思っていたようで、ちょっとした買い物や通学にも便利に使っているそうだ。
そしてファミリーカーに買い替えて、渉31歳の冬…千鶴は第3子の壮馬を出産した。
前回手こずらせた長男はもう5歳、弟の面倒も見ると意気込んでいる。
壮馬はその名のイメージ通り男の子なのだが千鶴はもう達観していて、ヤンチャも悪戯も慣れたしむしろ「服を買い足さなくて済むわー」と母親業が板についていた。
仕事も育児も夫婦関係も良好、渉はいまだに千鶴にデレデレでマッサージと称して公然と体を触ったり、出先でデザートを買って帰ったりと甲斐甲斐しい。
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