備後の神の縁結び

茜琉ぴーたん

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大人編

60

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 月日はさらに流れて、千鶴が大学4年生の夏休み。

「ただいまぁ、おばさん、美月ちゃん」

「おかえりぃ、あれ、スーツ?どしたん」

 渡船から刈田家へ直行した千鶴は入学式以来のリクルートスーツ姿でビシッと決めていた。

「合同説明会に顔出してから戻って来たの。一応キャリアセンターに就活した記録とか残さなきゃいけないみたいで」

「へぇ…あ、渉なら事務所におるよ」

「はーい、」

 3年生の終わりから周りは就職活動を始めていて、やれ面接だ内定だと騒ついている。

 千鶴は刈田組へ入社することを決めていたので当然どの会社も受けていないのだが、活動実績の報告などもあるので隣市の地元企業説明会に形式上の参加をしておいたのだ。

 なんせ刈田組は千鶴に面接も試験もしていない。

 しかし「コネで決まりました」などとは苦戦している学友の手前、口にすることもできない。

 そんな刈田組の事務所に向かって扉を開ければ空調の効いた風がそよと顔に当たって、ふんわりと芳香剤の匂いがした。


「渉くん、ただいま」

「おぅ、早かったの……待ってな、今ええところじゃけ…うん、」

 コンピュータの画面から目を離さず渉は見積書を仕上げ、印刷ボタンをクリックして顔を上げれば

「すまん、お待たせ……おい、どしたんな」

と初めて見るスーツ姿に目を丸くして驚く。

「就活スタイルだよ、説明会に出て来たの」

「おい、な、う、うちに就職してくれるんじゃろう⁉︎ワシ浮気とかしとらんぞ、こっち戻って来るんじゃろ⁉︎」

 身に覚えも無いのだが何か粗相があったかと渉は慌てるも、

「落ち着いて、活動実績を残しただけだよ、刈田組に入るってば」

千鶴の答えを聞き

「あー、そう、……ほうか……なんじゃ、スーツのチィはエロいのう♡」

と鼻の下を伸ばした。

「そう?えっち?」

 近くの椅子に腰掛けて脚を組み、組み替える、わざとらしい色仕掛けに渉は不満げな顔を隠せない。

「…照れてくれや」

「慣れちゃった」

「………ほーか……ドライブでもするか、もう閉めるわ」

「うん、」


 渉は事務所を施錠して駐車場へ周り、スーツ姿の千鶴を助手席に乗せて愛車を発進させた。

 製造系の工場は軒並み夏季休業中、無意味にふかしたエンジン音が近所の建物のトタン壁を揺らしていく。

「のぅ、スカート、短うないか?」

徐行しつつチラと盗み見てはそわそわする、渉はいつぞやと同じことを千鶴へ尋ねた。

「そうかな、みんなこんなだよ」

「エロいわ…秘書モノみたいじゃ」

「……分かんないけど、秘書検定は3級持ってるよ」

「え、チィは秘書なんか」

「基礎的なビジネスマナーとか勉強したらすぐ取れたよ」

「ワシが社長でチィが秘書な、うん…ええの♡」

 よく分からないが世間的には秘書は女性の職業というイメージが強いらしい。

 確かに今回彼女が受けた認定試験の会場でも受験者は女性ばかりだった気がする。

「実務でもいいよ、必要なら資格とか取るし」

「運転系は持っときゃええかもの、」

 そう言う渉はこの夏に大型免許を取得、事前から持っていた建設機械の運転資格やフォークリフトの免許も併せると動かせる車両の幅が広がって仕事がしやすくなった。

 事務所横で資材加工したりそれを現場へ持ち出したり、戦力として数えられるようになりモチベーションとやる気もぐんぐん上がってきているらしい。


「卒業したら就職か…ほんまにええか?」

「うん、今さらダメって言われても、私困るよ。まぁ他の仕事して結婚して…でも良いけどさ、世襲制なら先代と同じようにしてあげたいから」

「…今思やぁ…高校生の時点で就職とかな、よう覚悟してくれたな」

「んー…意地もあったし。まだ子供だったけどさ……親には言えなかったけどさ、おっぱいまで見せたんだよ?責任…取らせたいじゃん…」

 少し濃いめの口紅は艶っぽくてアダルトな雰囲気がする。

 その唇が「おっぱい」と動くものだから渉は作業着の股間をガシガシ擦り歯を食いしばった。

「あー、ムラムラしてきた」

「渉くんのえっち」

 うふん、とでも効果音が付きそうに小首を傾げる千鶴はいつの間にか胸を第2ボタンまで開いていて、

「チィ、誘っとるじゃろ」

と聞かれれば

「うん、どこまで我慢できるのか見もの」

と小悪魔的に微笑んで見せる。

「………街まで出んとホテルなんか無いど…くそ…」
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